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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年8月25日

2006年8月25日 10:41

「自存自衛」の戦争などではなかった

          (06年8月24日筆)

前回のブログで、「偏狭なナショナリズム」という言葉を使いました。けさの朝日新聞によると、自民党総裁選挙に立候補している谷垣財務相が「健全な保守主義を育てることで、偏狭なナショナリズムを克服できる」と外国特派員協会で述べたそうです。「偏狭なナショナリズム」という言葉遣いは偶然の一致だと思いますが、「わが意をえたり」です。

谷垣氏は、ご存知のとおり、宮沢(喜一)派を次いだ旧・加藤(紘一)派の番頭格だった政治家です。宮沢派は、前尾(繁三郎)派、大平(正芳)派を引き継いだ派閥ですが、その源流は池田勇人(もと総理)氏を祖とする宏池会にさかのぼります。

宏池会は、経済政策では成長主義、産業主義、外交政策では国連重視の国際外交・平和外交主義を主張する日本の保守政党の中でも最も良識的な、ハト派の政治家集団でした。派の祖である池田勇人氏は、早稲田初の総理・石橋湛山が唱える経済政策や外交政策の共鳴者でもありました。

湛山は、「大日本主義(領土拡張・侵略主義)」に早くから警鐘を鳴らしつづけてきました。これが、その後、日米開戦―太平洋戦争の原因になると予見していました。

「吾輩はわが国政府当局ならびに国民の外交に処する態度行動を見て憂慮に堪えないものがある。その1は、露骨なる領土侵略政策の敢行、その2は、軽薄なる挙国一致論である。この二者は、世界を挙げてわが敵となすものであって、その結果、帝国百年の禍根をのこすものといわねばならぬ」(「東洋経済新報」大正4年5月5日号社説・禍根を残す外交政策―石橋湛山筆)

この文章が書かれたのは、太平洋戦争がはじまる25年も前です。当時、第1次世界大戦がはじまり、この機に乗じて日本は対独戦に参戦、ドイツが領有する青島(チンタオ)を奪い取ろうとしました。さらに、中国に権益を持つ英独仏露など欧州勢が対独戦に掛かり切りになっている間に、日本は悪名高い「対華21ヶ条要求」を中華民国政府に突きつけ、中国領土の権益を掠め取ろうとしていた時です。

ちなみに日本が中国に突きつけた「対華21ヶ条要求」の主たる中身は、以下のとおりです。
1. 日本が山東省(青島含む)の旧ドイツ権利の継承し、鉄道建設することを認める
2. 旅順・大連と南満州鉄道に関する租借期限を99ヵ年延長する
3. 中国沿岸の港湾と島嶼の他国への不割譲を約束する
4. 中国政府の軍事・政治・財政について日本人顧問を置く

湛山は、こうした露骨なわが国の領土侵略主義は、遠く日清、日露戦争の後からあらわ
れはじめ、「21ヶ条要求」はこれがさらに加速されていったと見ていました。この社説では、領土侵略主義は、その結果、侵略された中国人の反発を招くだけでなく、米英との間に重大な緊張関係に陥る、と警告し、「帝国百年の禍根を残す」と喝破したのです。

実際、湛山の警告どおりの歴史がその後展開されました。この21ヶ条要求に憤慨した中
国民衆は、各地で抗議行動を起こしや日貨排斥には走りました。こうした民衆の運動は、4年後にはその後の抗日運動の原点となった「5.4運動」につながっています。

さらに、日本は、領土侵略政策は、満州事変、日華事変を引き起こし、中国への派兵、
侵略をめぐって米英と間に緊張関係を生み出します。これが日米開戦につながるのですが、その前に展開された日米交渉は、アメリカが日本に対して、中国への侵略中止、日本軍の中国からの撤退を求めたものでした。しかし日本は、満州をはじめ中国に築いた領土や権益を放棄することが出来ませんでした。ために、日米交渉は決裂し、開戦となったのです。

太平洋戦争への突入について、日本に対しては米・英・蘭・中国がいわゆるABCD包囲網を築き通商関係が途絶され、石油の輸入を閉ざされてしまったことに対する「自存自衛の戦争だった」というナショナリストがいます。しかし、包囲網、いまでいう経済制裁を日本が受けたきっかけは、中国の背後に位置し、石油資源のある蘭印(現・インドネシア)につながる仏印(現ベトナム)への日本軍の進駐でした。太平洋戦争の原因は、ABCD包囲網を生み出した日本の領土侵略主義のほうにあったというほかありません。他国、他民族支配を維持するための戦争は「自存自衛」とはいえません。

湛山は、日米開戦の20年前、1921年、大正10年の夏、「大日本主義を捨てることこそ戦争を避け、日本が生き残る道だ」といっています。そのためには、日本が日清、日露戦争によって獲得した台湾、朝鮮、樺太を捨てる覚悟をする、あるいは中国(満州)、シベリアへの干渉を止めるべきだと主張しました。「東洋経済新報」での湛山筆の社説、「大日本主義の幻想」においてです。

宏池会の正統な後継ぎである加藤氏や谷垣氏が中国や韓国との友好関係をさらに強めるためにその障害になっている「総理の靖国参拝」に否定的であることと、湛山の「大日本主義の否定」は、その考えの基底でつながっているとおもいます。
次回、湛山のこの考え方を説明したいとおもいます。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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