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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年8月17日 18:17

危ない偏狭なナショナリズム

            (06年8月17日筆)

このブログは「経済寺小屋」ですから、「靖国問題」など政治問題には触れないでおこうと思っていました。しかし、加藤紘一議員の実家が、右翼団体に属すると思われる人物によって放火されたとされる事件が起こりました。先に似たような事件として、小林陽太郎前経済同友会会長の自宅への火炎瓶投入事件がありました。

加藤氏も小林氏も、小泉総理の靖国参拝には反対し、アジア外交の正常化をもとめていました。この靖国参拝問題について、いまや国論は二分しているように思います。賛成反対の議論を戦わせるのはたいへん結構なことですが、参拝反対論を暴力・テロで封じるような行為は断じて許すことは出来ません。このような実に忌まわしい戦前を想起させるような、言論封殺事件を前にして、ジャーナリストとしてこれに触れざるをえません。

気になりますのは、日本に復活しつつある偏狭なナショナリズムです。戦後60年以上にも立っているのに、謝っても謝っても、中国は日本軍による侵略と中国人虐殺の罪を蒸し返し、韓国が日本による「韓国併合」以来の植民地支配の罪を主張しつづけていることに、日本人が苛立ちを覚えるのは分からないではありません。

しかし、日本人が苛立つ以上に苛立っているのは中国や韓国の人々なのではないでしょうか。日本人が、戦後60年以上多民族と戦わず、兵器でひとりも殺したことのない平和主義者のあることを彼らは知らないはずはありません。しかし、どこの国にも「自分の国はいつも正しいし、正しかった」と言い募る偏狭なナショナリストはいるものです。彼らが日本人の少数派であったころは、彼らも苛立たなかったと思います。

しかし時が経つにつれ、平和主義者であったはずの日本人が少数派に転落し、偏狭なナショナリストが多数派になっていることに、彼らは不安と苛立ちを覚えるようになっているのではないでしょうか。

日本の偏狭なナショナリストたちは、最初は「日本人は自虐史観に囚われている」といって、日本人が自虐的にならざるをえない歴史的事実を否定してみせました。例えば南京大虐殺などはなかった、日本の植民地統治はすばらしいものだった(台湾人は感謝している)、日本の戦争犯罪を裁いた東京裁判は勝者が敗者を裁いた不当なものだ、などなど。

最近は、さらにすすんで彼らは、先のアジア・太平洋戦争を、「帝国はいまや自存自衛のため決然と起って一切の障害を破砕する(現代文に翻案)」という対米開戦の天皇詔書にならって「自存自衛の戦争だった」と言い及ぶに至っています。靖国神社にある戦争博物館「遊就館」でも「自存自衛の戦争だった」といっています。彼らはまた「大東亜戦争は、欧米からのアジア開放戦争だった」といって、領土拡張・侵略戦争としての本質を隠蔽しようともしています。

こうした考え方が、多数派を占めつつある日本人の現状を知るにおよんで、日本軍に虐殺され、日本人に蔑視された中国や韓国の人々の感情が高まらないはずがありません。あのすばらしい平和主義者だった日本人はどこに消えたのだろうかと思っているのかもしれません。

ただ、小泉総理は、合祀されている「A級戦犯は戦争犯罪人である」と言い切り、先の戦争をアジアに対する侵略戦争であるとも行っています。彼の歴史認識は、「自存自衛の戦争だった」などという偏狭なナショナリストとは異なり、まったく正常だといえます。

それでも、小泉純一郎総理は靖国参拝をつづけるのです。靖国神社が、「戦死すれば靖国の神として祭るから」といって兵士を対中国侵略戦争、対米英戦争に駆り立て、親たちを納得させる「精神慰撫装置」だったこと、参拝が中国や韓国の人々の神経を逆なですることが分かっていても、彼は、それをつづけているのです。

なぜか。そのわけは、小泉純一郎の個人的体験からきているといわれています。彼をかわいがってくれたおじさんだか、いとこだか、出征するに際して、当時3歳だった純一郎に「私に合いたければ靖国においで」といったそうです。彼は、それを忘れず、高校生のころから毎年靖国に参拝し、国会議員になっても敢えて一人で参拝を続けたそうです。あくまで、総理になってもその私的な参拝をつづけているということになります。総理を辞めても小泉氏は参拝を一人で続けるでしょう。

小泉氏の場合、それはそれで結構なことです。しかし、彼の靖国参拝が、中国や韓国の反発を生み、日本人の偏狭なナショナリズムを醸成することになっていることに気が付かねばなりません。このまま、偏狭なナショナリズムが拡大すれば、日本は足元のアジアで親しい友人を持てず、感情的に孤立することになります。次の総理は、このことを熟慮すべきです。

これほど経済援助をし、戦争もせず、アジア経済の発展に貢献してきた日本なのに、なぜアジアの国々は安保理常任理事国入りを支援してくれなかったのでしょうか。それは「自存自衛の戦争だった」というような多数の国民を抱えた日本にアジアの人々が本能的な警戒感を持っているからではないでしょうか。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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