QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




大西良雄ニュースの背後を読む

2006年8月11日 16:33

小には小の生きる道

王子製紙による北越製紙に対するTOB(株式の公開買付)は、王子のライバル日本製紙グループ本社の参戦などによって、失敗する公算が高まっています。

王子のTOBは不成立か
日本製紙グループ本社は北越株を市場で買い集め8.85%の株主になり、第三者増資を引き受けた三菱商事の24.44%に次ぐ第2の大株主に踊り出ました。三菱商事も日本製紙グループ本社も、北越製紙の王子による経営統合案に反対していますから王子のTOBに応じることはありません。
他の大株主では取引先の日本興亜損害保険(持ち株比率2.84%)、北越の地元・新潟県の旧第一地銀・第四銀行(同2.00%)、旧第二地銀・北越銀行(同2.00%)、もTOBに応じることはあり得ません。提携先の三菱製紙(同0.52%)も王子には持ち株を売らないことを表明しています。

これら北越側についた株主の持ち株比率は、合わせると40.65%になります。この他、紙の卸し業者など潜在する統合反対派の持ち株分を含めると50%近くに達すると思われます。したがって、王子製紙がTOB価格を引き上げても完全子会社化に必要な持ち株比率50%超の取得はむずかしい情勢になってきました。

北越が買収防衛策として準備していた新株予約権の発行を行わずとも、王子のTOBは、目標の買付株数に達することができず不成立に終わる可能性が濃厚です。

利害関係者に、今後をどう説明するのか
今回のTOB劇では、ライブドアや村上ファンドが犯したような証券取引法上の違法行為は今のところ見られず、買収する側も買収される側もルールに従った行動をとっているように思えます。
仮にTOBが不成立になったとすれば、ルール違反もなかったことでもあるので「はい、この話はこれでおしまい」となると思っていても、そういうわけにはいきません。

買収に失敗した王子製紙も、北越に出資した三菱商事も日本製紙グループ本社も、買収を拒否した北越製紙の経営陣も、株主や利害関係者(ステークホルダー)に対して、今後それぞれの企業価値をどのように高めるのかが問われます。

王子製紙は、中国に2500億円を投じて建設する最新鋭製紙工場を絡めながら、国内の非効率な老朽製紙工場をどのように再編成するのか、他の買収を考えるのか、悲願の経常利益1000億円をどのような経営によって達成するのかが問われます。

三菱商事は、多額の出資をして筆頭株主になったのですから、その出資のメリットを自らの企業価値引き上げどのように具体化するのか、株主などへの説明が必要です。王子による北越買収阻止の出資を断行した日本製紙グループ本社は、これによって自らの企業価値を引き上げる結果をもたらすことができるか、なかなか説明しにくいところです。日本製紙がこれに合理的な説明を下せるかどうか見ものです。

北越は「小」を貫けるか
最後は、買収を拒否した北越製紙・経営陣です。三輪社長は、どこにも属さず今後も自主独立路線を貫くと宣言しています。実は、製品の差別化がむずかしく、薄利多売の、競争が激しい製紙業界においてこの自主独立路線は最も厳しい選択です。そのことは、当の北越の経営陣が最もよく知っていることでしょう。

王子、日本2大グループのどれにも属さず、「小」の北越製紙が生き延びる道を切り開いてほしい、小には小の生きる道がどこかに見出せるはずだと思います。思い出すのは鉄鋼業界における東京製鐵の存在です。東京製鉄は池谷一族の経営下、新日鉄傘下にもJFEの傘下にも属さず、業界非協調、カルテル拒否の独立路線を歩み、好況時には鉄鋼業界随一の利益率を実現してきました。

北越製紙は、東京製鐵のような強烈な独立、非カルテル路線を歩むことは出来ないかもしれません。しかし、企業価値を構成するのは株主価値(株価)だけではなく、従業員や地元民、あるいはユーザーなど他のステークホルダーに与える価値も企業価値の大切な一部であると考えることが出来る会社ではあります。このことを生かせる道もあるのではないでしょうか。

海外のビッグビジネスに飲み込まれないためには、嫌がっても相手を飲み込み自らが大きくなって時価総額を膨らませ、カルテルで儲けてさらにでかくなれば良いという考え方には、「市場原理主義者」の筆者といえども簡単には、同調しかねるものがあります。

市場には、「大・中・小」のさまざまな会社があって、良いのです。「小」は「小」の知恵をかけて「大」に立ち向かえる環境とルールを与えるのが政府の役割になります。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
月別アーカイブ
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
2011年2月
2011年1月
2010年12月
2010年11月
2010年10月
2010年9月
2010年8月
2010年7月
2010年6月
2010年5月
2010年4月
2010年3月
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
2009年8月
2009年7月
2009年6月
2009年5月
2009年4月
2009年3月
2009年2月
2009年1月
2008年12月
2008年11月
2008年10月
2008年9月
2008年8月
2008年7月
2008年6月
2008年5月
2008年4月
2008年3月
2008年2月
2008年1月
2007年12月
2007年11月
2007年10月
2007年9月
2007年8月
2007年7月
2007年6月
2007年5月
2007年4月
2007年3月
2007年2月
2007年1月
2006年12月
2006年11月
2006年10月
2006年9月
2006年8月
2006年7月
2006年6月
2006年5月
2006年4月

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年05月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
最新記事
トランプ大統領就任1年、大型減税スタートの功罪
上放れた日経平均、日銀はETF買いを続けてよいのか
「免疫力を高める散歩」考
中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
「参院の合区解消」のための改憲など必要ない
最新コメント
大西先生世の中の表象...
Posted by Anonymous
ありがとうございます...
Posted by Anonymous
経済政策・少子化政策...
Posted by Anonymous
大西先生にお願い:弱...
Posted by Anonymous
北は朝鮮半島統一を目...
Posted by kodera etuko
最新トラックバック
【記事】トランプ大統領就任1年、大型減税スタートの功罪
from QuonNetコミュニティ
【記事】上放れた日経平均、日銀はETF買いを続けてよいのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】上放れた日経平均、日銀はETF買いを続けてよいのか
from QuonNetコミュニティ
【記事】「免疫力を高める散歩」考
from QuonNetコミュニティ
【記事】中国はAIなど先端技術産業で日本をすでに凌駕
from QuonNetコミュニティ