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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年8月 7日 13:43

王子製紙の不純な動機

                        (06年8月3日筆)

製紙業界トップの王子製紙が、5位の北越製紙に対して1株800円で9月4日を期限にTOB(株式の公開買付)に踏み切りました。王子製紙は株式の過半数を取得したあと、経営統合に踏み切るという。大が小を飲み込む構図ですが、飲み込まれる北越製紙は労使だけでなく地元の新潟県を含めて統合に反対しています。王子製紙のTOBは友好的ではない「敵対的TOB」ということになります。
今後、北越の買収防衛策などをめぐって法廷闘争が繰り広げられる一方、北越に対する第三者増資引き受けを表明している三菱商事がどう動くか、北越の株主が公開買付にどのぐらい応じるか、王子の「敵対的TOB」が成功するかどうかの関門は少なくありません。それについてはおいおい触れて行きたいと思います。

ユーザーも大切な利害関係者
実は、私の属する出版社は、王子からも北越からも印刷用紙を購入している大切な取引先なのです。新聞などではあまり触れられていませんが、今回の「経営統合」の利害関係者は、株主や従業員、地域だけではありません。われわれのような出版社、新聞社、印刷会社などユーザーも重要な利害関係者なのです。この立場から忘れられている重要な問題を指摘しておきたいと思います。

 王子製紙が、北越製紙をなぜ吸収しようとしているのか、その動機を探ってみると、われわれユーザーには恐怖と思える点が隠されています。北越製紙は、印刷用や宣伝チラシ用、プリンター用になど使われるコート紙ではシェ11%強を占めます。これをさらに強化するために3年前、世界でも最も効率のよい工場といわれる新潟工場に年産35万トンのコート紙新設備を導入しようとしました。当時コート紙は生産過剰の状態にあり市況は大きく低下していました。われわれユーザーはその恩恵を受け用紙代を節約できたものです。

見落とされた独禁法違反の視点
これに対して同紙で38%のトップシェアを持つ王子は、新潟工場の増設は、更なる市況悪化をもたらすという危機感をもち、北越に増設をやめるよう働きかけた(北越の三輪社長は「妨害した」といっています)といわれています。結局、北越は王子の「妨害」を撥ね退け、増設に踏み切り08年末には最新鋭のコート紙設備が稼動することになっています。われわれも安くて良質な印刷用紙が提供されるものと期待しています。

しかし、もし仮に王子の当時の「増設妨害」が功を奏し、北越が増設を中止していたら、カルテルによる生産・設備調整を禁じた独禁法違反になるところでした。

王子製紙は、北越の新潟増設が始まってから、北越製紙の吸収を考えてきたフシがあります。それが今回のTOBによる経営統合につながったのではないかと思われます。王子は、愛知の春日井工場、北海道の苫小牧工場、徳島の富岡工場など需要地の首都圏から遠く離れた土地に老朽化したコート紙工場を持っています。これらの一部をスクラップして北越・新潟の最新鋭工場に置き換えることを王子は表明しています。ですから、王子の今回の動機も、北越を統合することによって生産・設備調整を行い、市況引き締めを図ることにあるといわざるを得ません。統合後は、ユーザーに対するさらなる値上げ攻勢に拍車がかかることは必死です。だから、われわれ取引先には恐怖なのです。

ちなみに両者が統合すれば、コート紙のシェアは50%弱になります。独禁法が合併を禁じているシェアのガイドライン35%を大きく上回ります。TOBが成功しても、独禁法の施行者である公正取引委員会がどのような判断を下すか予断を許さないと思います。

大王製紙が反対の狼煙
このユーザーの視点から統合反対の狼煙を上げているのが、製紙業界の一匹狼といわれる大王製紙です。大王はティッシュペーパーなど家庭用紙が得意の業界第3位の製紙メーカーです。大王は、ティッシュペーパーの箱に使用する白板紙の大きなユーザーでもあります。その白板紙の生産は、王子製紙と北越製紙を合せると60%超になります。統合されれば、統合会社が価格支配権を握ることになるとして、公取委に独禁法違反を上申する意向だと発表しています。

王子は、競争相手は日本国内だけではなく、中国やインドネシア、フィンランドなどからの輸入紙との間でも熾烈になっており、独禁法上の市場シェアを日本一国内に限定すべきではないと主張すると思われます。しかし輸入紙は安定供給、品質、アフターケア面で問題があり、その面では国内製紙メーカーの優位は揺るいでいません。われわれユーザーを価格面からだけ輸入紙購入に追いやることは、国内勢にとっても得策ではないと思われます。
もともとカルテル体質のあった製紙業界に対して、公正取引委員会がわれわれユーザーに説得力のある公正な判断を下すことを期待してやみません。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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