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大西良雄ニュースの背後を読む

2006年5月

2006年5月25日 00:00

「ハゲタカファンド」擁護論

 

「短期保有のアクティビスト」という矛盾

 村上ファンドの村上世彰代表が、インサイダー取引容疑で逮捕されました。これで、村上ファンドに対する「違和感」の正体がはっきりしたような気がします。

前回のブログの終わりに藤原正彦氏が『国家の品格』(新潮新書)に中で「ハゲタカファンド」をののしっていると書きましたが、勘違いでした。藤原氏が問題視しているのは「市場原理主義」や「株主主権」です。それはそれで私にも考えがあります。改めて議論してみたいと思います。

誰も買いたくなかった長銀

「ハゲタカファンド」批判は、一部の政治家の間から盛んに出ています。ハゲタカは、動物の死骸を食い尽くして生きている猛禽です。その「ハゲタカ」にたとえて、死に掛かった日本の会社をタダ同然で買い叩き、社員をリストラして利益を生み出す会社にして高値で売り飛ばす。そして法外の利益を懐に入れる外資系のファンドを「ハゲタカファンド」と呼んでいるようです。日本長期信用銀行(現・新生銀行)を国から買ったリップルウッド・ホールディングや東京相和銀行(現・東京スター銀行)から営業譲渡を受けたローンスターなどの外資系ファンドを指しているのでしょうか。

彼らが、死に掛かった会社を安く買ったの事実です。しかし、会社を安く買うか高く買うかは、競争入札によります。破綻して一時国有化された長銀を買って再生して見ようなどという奇特な日本の会社、ファンドなどなかったから、リップルウッドがただ同然で買えたのです。ファンドが会社を買う場合、その資産内容(銀行の場合は融資先の査定)を厳密に査定して企業価値をはじき出し、買収価額を決めます。長銀を例にとれば、リップルウッドが厳密に査定しても融資回収に自信が持てず、国からの買収にあたって瑕疵担保契約条項をさしはさまねばなかった。買収後、予想以上に融資債権が劣化していれば、その劣化分を国から補填してもらうというのが瑕疵担保条項の趣旨で、その契約どおりリップルウッドは補填を受けました。それほど長銀の資産内容が悪かったから、日本の会社やファンドがただ同然でも買わなかったのでしょう。

「ハゲタカ」に救われたニッポン

 リップルウッドが長銀を買わなかったら、国営のまま、融資債権の劣化分は国民の負担になったのです。経営能力に不安のある「官僚」とそれに依頼された日本人経営者が甘い経営をつづけていたら、長銀はさらに資産内容を悪化させていたかもしれません。リップルウッドが、優秀な経営者を社長に据え、リストラを含む厳しい経営を断行したからこそ、破綻するどころか早期に再上場を果たし、融資先の連鎖倒産を回避できたのです。さらにいえば、日本中の銀行が不良債権を抱えて経営不安が潜在していた状態で、国による長銀の再建が頓挫するようなことになあれば、金融不安はさらに長引いていたでしょう。

リップルウッドが、長銀を安く買って高く売ったのも事実です。しかし買って売るまでの間、経営を短期間に立て直し再上場を果たすという「ハゲタカ(?)ファンド」の銀行再生ノウハウが発揮されたのです。ですから、再生後、株式市場で高い値段がついて持ち株を売り飛ばして得た利益は、会社再生を果たしたリップルウッドへの成功報酬だといえます。あまりにも成功報酬が大きすぎるという批判があるのは承知していますが、株価をつけるのは市場です。リップルウッドではありません。市場の評価がそれだけ高かったというだけのことです。

リップルウッドなどに投資している世界の投資家は、ファンドが買収した会社が倒産すれば投資資金はゼロになるのです。リスクをとってリップルウッドに投資しているのです。リスクをとりたがらない日本人からすれば、成功報酬への違和感が大きいかもしれませんが、彼らは、長銀という日本人が誰も背負わなかった大きなリスクをとった結果、幸運にも大きなリターンを得ることができたと考えるべきでしょう。

ついでに言いますと、ローンスターの東京スター銀行も短時日に再上場を果たしました。上場後も大株主、経営者ともに外国人ですが、従業員は旧・東京相和の従業員を含め日本人です。その預金や融資の内容やサービス面には、顧客に配慮したユニークなものがあります。日本人の従業員が外国人の経営者にいじめられているという話も聞きません。ちなみに代表執行責任者のバッジ氏は神父さんだったと聞きます。外国人といえども郷に入っては郷に従え、日本人のメンタリティーを完全に否定するような扱いをするはずがありません。

2006年5月15日 00:00

村上ファンドの手口

東洋経済「東洋経済」が巻頭29ページを費やして「村上ファンド」を徹底解明しています。
村上ファンドはご存知のとおり、阪神電鉄の株式を50%近く買い占め、過半数の取締役阪神電鉄に送り込むという株主提案を掲げつつ、持株を阪急グループに高値での買い取りを迫るという強引な作戦を現在進めているところです。
この特集では、「村上ファンド」のシードマネー(38億円の種銭)こそオリックスの宮内義彦会長ら日本人でしたが、4000億円超にまで膨らんだ運用総額の大部分がいまや海外資金になっているとしています。最近、村上世彰氏率いるファンドは、本拠をあのホリエモンもいた六本木ヒルズからシンガポールへ移したようですが、運用資産の大部分が海外投資家の資金であれば、シンガポールはそれにふさわしい拠点というほかありません。
「村上ファンド」は、海外を中心に投資資金を集めて、これを日本株に運用して値上がり益を投資家に分配し、自らは運用報酬を頂戴するという性格のファンドです。村上世彰氏は、その筆頭ファンドマネージャーというところでしょうか。
こういう「純投資」型のファンドですから、阪神電鉄への過半数の取締役派遣提案は、阪急グループに高く売り付けるための陽動作戦であり、いずれ株主提案を取り下げて売り抜けることになると思われます。そうでなければ、経営権を支配したり会社を買収するための「買収ファンド」や「再生ファンド」(この外資系を「ハゲタカファンド」と呼んで批判する識者もいるようですので次回以降で取り上げます)と同じものになります。
これらは「政策投資」ファンドといわれますが、彼らは発行済み株式の5%以上を取得すれば(その後は1%増やすごとに)、5営業日以内に当局に報告して開示しなければならないという「大量保有報告」の5%ルールを負っています。村上ファンドが取締役会を支配すれば「政策投資ファンド」になり、「純投資」ファンドだから免れていた「大量保有報告」の5%ルール義務に反することになります。これでは、大量保有を知らされなかった阪神電鉄に投資している株主に対する背信行為になります。ですから、いずれ村上ファンドは、阪急グループかあるいは外国系買収ファンドに持ち株を売り付けることにならざるを得ないのです。

いちいちごもっともな「株主要求」ですが・・・
この特集では、過去に「村上ファンド」が取得した銘柄の取得手口、そして株価を吊り上げるも手口も詳しく紹介しています。
村上ファンドが目に付けるのは、PBR(株価純資産倍率)が1倍以下の会社か、不動産や現・預金などを多く持つ資産リッチな会社だといいます。
PBRは、1株当たり純資産(資本金や利益準備金など株主に帰属し、解散時には株主に分配される価値)で現在の株価を割って算出されます。それが1倍以下であるということは、解散時に株主が受けとる価値(解散価値)より株価のほうが低いことを意味します。投資家は現在の株価で買っておいても解散時にはそれより大きな分配を受けることになるわけですから、株式は取得しておくほうが良いということになります。
PBR1倍以下の会社は、その解散価値の割に株価が低いのですから、投資家が競って買って株価を上げてもおかしくないはずです。しかし、投資家から見放され振り向きもされず、株価が低いままにPBR1倍以下に放置されている銘柄もあります。村上ファンドはそんな銘柄を狙うのです。
阪神電鉄や住友倉庫のように取得原価の低い不動産を大量に保有していて、それをうまく活用していない会社、あるいは多額の現・預金を抱え込んでそれを事業拡大に使うでもなく株主に配当の形で還元するわけでもない東京スタイルや大阪証券取引所のようなキャッシュリッチな会社も、村上ファンドに買い占められました。
村上ファンドは、こうした銘柄を公開買付(TOB)などによって市場からオープンに買い入れることもありますが、最近は大口株主からに仕入れたり、大量に転換社債を買って株式に転換したり、第三者割り当て増資を引き受けたり、あらゆる手法を駆使して、ひそかに株式を取得するステルス作戦を採用することが多くなりました。その手法は、法の間隙を縫うことはありますが、違法といえるものではありません。
しかし、取得して大株主として浮上してからが、村上ファンドの本領というべきでしょう。マスコミを利用して資産価値が株価に反映していない割安銘柄だと騒ぎ立てる一方、買い占めた会社の経営陣に対して、「株価が低い状態に放置しているのは、経営者の責任である」、「経営者は株主価値を高める経営に転じるべきだ」、「低稼働の不動産を稼げる不動産に代えるべきだ」、「金利収入がわずかな現・預金を有効に使って利益を挙げ、配当を増やすべきだ」とつぎつぎに株主要求を突きつけるのです。
その株主要求は、いちいちごもっともです。投資家は、将来配当を大きく受け取れる可能性があるとか解散価値が高まると思う株式だから買うのです。財産をもっていても将来に楽しみがない、解散価値が高まる期待のない会社の株など買いたいと思いません。だから株価が上がらないのですから、株価が上がらない経営をしている経営者は、失格です。
しかし、このような村上ファンドのマスコミを巻き込んだ騒ぎ立て方は、なんか変なのです。このやり方に違和感をもたれる方も少なからず居られると思います。
次回は、その違和感の背景を考えてみたいと思います。

2006年5月 8日 00:00

積極財政が育てた「利権民主主義」

東洋経済「穴を掘ってそれを後で埋める」という無駄な公共事業でも、不況期には経済に需要を付け、有効需要の不足を補い景気刺激効果をもつとするのがケインズ主義です。一方で、ケインズ主義は、景気が良くなり過剰な需要が発生すれば、財政は緊縮に転じ、インフレを押さえる役割を公共部門に課していると考えられています。

しかし、現実はそうではありません。いったん膨らんだ財政支出は容易に縮まりません。予算が、官僚と議員、利益団体、その背後にいる「利権国民」によって既得権益化するからです。古くは昭和恐慌からの脱出をめぐる高橋是清蔵相の積極財政による「悲劇」です。
高橋是清は日本初のケインジアン政治家でした。正確にいうと、ケインズの「一般理論」が出る前にケインズ政策を実践していたという傑出した政治家でした。

リフレーション政策の成功
昭和恐慌(昭和4年)は、第1次大戦の特需バブルが崩壊して発生したデフレ不況が始点(大正9年)でした。その傷もいえないうちに関東大震災(大正12年)に見舞われ、銀行がそれまでの不良債権に加え震災手形という新たな不良債権を抱え込み、日本経済は取り付け騒ぎ、銀行倒産という金融恐慌(昭和2年)に陥ります。
しかも、世界大恐慌(昭和4年)が始まったその最悪の時点で、旧平価(今で言えば超円高状態)での金輸出解禁(金本位制への復帰)が実施されました。この金輸出解禁により、世界の物価下落が日本にもろに浸入し、輸出が激減して貿易収支が悪化、その結果金貨が流出して金融の超引き締め状態に陥ります。このようにして物価下落と企業倒産、大量の失業者という昭和恐慌の状態を現出したのです。こうしたデフレ下でもかかわらず、当時のマスコミは財界の腐敗をたたいて「財界整理」を叫び、「行財政整理」を主張していました。われわれも他山の石とすべきかもしれません。

余談ですが、城山三郎氏の『男子の本懐』は、旧平価金解禁に踏み切った浜口雄幸首相と井上準之助蔵相、その二人の勇気と清廉さ、使命感を描いた名作ですが、彼らの旧平価(円高)での金解禁は大失政でした。同じ清廉、潔白、勇気と孤高の民間エコノミスト・石橋湛山らは新平価(円安)での金解禁を主張しましたが、少数派で受け入れられず、その正しい考え方は「だるま宰相」高橋是清の蔵相としての再登場によって、陽の目を見ることになります。

井上蔵相は緊縮財政、円高政策という「縮小均衡―清算主義」政策を遂行して、デフレ経済下にデフレ政策を重ねて失敗しました。その後を襲った高橋是清蔵相は、積極財政、低金利政策(国債の日銀引き受けによる民間への資金散布――金融緩和)、そして円安政策(金輸出の再禁止――管理通貨体制への転換)を相次いで展開、「清算主義」とは正反対の「リフレーション(物価下落―デフレを解消する)」政策に転じました。

この是清政策を現在の平成デフレ不況からの脱出策と対比すれば、速水-福井日銀総裁の量的金融緩和政策(銀行の日銀にある当座預金残高の積み上げ――金融の量的緩和)、ゼロ金利政策(ひいては内外金利差の拡大による円安政策)は、是清の国債の日銀引き受けによる低金利、円安政策と同じ効果をもったものといえます。
高橋是清の積極財政の財源は、財政の大幅な赤字の中、増税によるのではではなく、国債を発行しこれを日銀に引き受けさせてまかなわれました。この財源によって、農産品価格の暴落に苦しむ農村を救済するために公共土木支出を行う一方、満州事変の後、軍部からの要請の強かった軍事予算の拡張にもゴーサインを出したのです。是清はこうした積極財政による有効需要の創出を3年間つづけ、恐慌脱出に成功するのです。

高橋是清の「悲劇」
是清の「悲劇」は、恐慌脱出後に起きました。是清蔵相は景気回復にともなって「ケインズ主義」のセオリーどおり国債の民間売却(資金吸収―金融引き締め)と財政の圧縮によってインフレ懸念をつぶそうとしました。とりわけ膨張した軍事予算の縮減に乗り出したのですが、軍部のはげしい抵抗にあいます。そして、昭和11年2月26日に青年将校たちによる政府要人の暗殺、いわゆる「2.26事件」が起こり、ケインジアン是清は銃弾を浴び、軍刀で切り刻まれてこの世を去ります。

是清の「悲劇」は、成功した積極財政―ケインズ主義に内包されていたというほかありません。是清の抵抗にもかかわらず、いったん膨張した軍事予算はさらに膨張を続けました。これを原資に、日本軍の中国侵略作戦は止まること知らず、日本は軍国主義の坂を転げ落ちていくのです。

今も昔も官僚は、一度獲得した予算は手放さない、それどころかそれを増やすこと(増分主義)が身内官僚の間の手柄になるという性癖をもっています。予算拡大は官僚の権限拡大になるからです。予算拡大の背後には、その配分にあずかる政府関連組織や特定の民間利益集団があります。戦前でいえば農村組織、軍需産業、財閥がそれです。戦後では、公社公団、そして田中直毅氏が『2005年体制の誕生』(日経新聞刊)で指摘した国会議員の「5族」(農水、郵政、道路、厚生、文教族)に連なる利害団体や民間企業です。官僚はこれらの団体、企業に天下ることで生涯所得の極大化を果たすという構図です。

戦前において陸軍・海軍という軍部は、もっとも成績優秀な人材を集めた強力な官僚組織でした。彼らは、膨張した軍事予算という権益を手放さないだけでなく、さらに増やしていくために、知恵を出し暴力・圧力を行使したといえます。戦後も、「5族」とそれに連なる利益集団――いわゆる「政官業トライアングル」の圧力が、積極財政によって膨らんだ予算を景気回復時も固定化する役割を果たしたのです。

財政出動による不況からの脱出というケインズ経済学の知恵は、官僚と政治家、特定の利益団体によって、もっと言えばその背後にいる特定の選挙民だけを代表する「利権民主主義」によって捻じ曲げられ、ケインジアンの意図を離れて、戦前では是清の「悲劇」と軍国主義を生み、戦後では「膨大な政府債務残高」をもたらしたといえなくもありません。

2006年5月 1日 00:00

小泉総理は「マンデル・フレミング」の学徒?

田中直毅氏は、経団連が抱える21世紀研究所の理事長ですが、それよりマスコミ筋では竹中平蔵氏と並ぶ小泉純一郎総理の知恵袋として知られています。彼は、『石橋湛山記念財団』が毎年選んでいる石橋湛山賞の第17回受賞者でもあります。受賞対象のひとつになった『アジアの時代』(東洋経済刊)は私が書籍編集者の時に手掛けたものですが、ここで田中氏は中国などアジア諸国が日本型発展モデルから自由経済型モデルに転じている姿を描き出されていました。アジアでは「日本に倣え」ブームは終わっていたのです。

その田中氏が、『週刊東洋経済』(2006年4月29日/5月6日合併号、写真)に、「小泉政権の評価とポスト――改革持続に注がれる厳しい視線」という論文を特別寄稿しています。論文の中で面白いのは、小泉総理が、勉強したかどうかは別にして、ノーベル経済学賞の対象となった「マンデル・フレミング・モデル」の学徒であったという指摘です。

「マンデル・フレミング・モデル」は、簡単に言うと、マネーが自由に移動する変動相場制のもとでは、不況対策には財政支出の拡大より金融の緩和のほうが有効であるという理論です。財政支出の拡大は金利の上昇をもたらし、その国の通貨に対する海外からの需要を増加させ為替相場を上昇させる。たとえば円高になり、輸出の減少、輸入の増加をもたらし、財政支出の景気刺激効果を減殺する。これに対して、金融の緩和は、金利の低下をもたらし、その国の通貨に対する需要を減少させ、為替相場が下落(たとえば円安)し、輸出の増加、輸入の減少をもたらし、景気を回復させるというものです。

実際、この戦後最大のデフレ不況下で、小泉政権が採った景気政策は「改革なくして成長なし」という掛け声のもと、従来の財政出動による総需要拡大政策ではなく、量的金融緩和とゼロ金利政策でした。ゼロ金利の日本から資金が高金利国に流出、それが円売り・ドル買いとなって円安をもたらし、中国などの勃興と重なって輸出を増加させ、これがリード役になって景気回復をもたらした、という説明が成り立ちます。開放経済の下では不況対策としては金融緩和のほうが有効であるとする「マンデル・フレミング・モデル」を学んだ(?)小泉総理の勝利ということになるわけです。

「小泉の消極財政」を湛山は叱ったか
湛山は、徹底した市場メカニズム重視の自由経済論者でした。同時にケインズ経済学を日本に導入したケインジアンでした。戦後の経済学、経済政策に巨大な影響力を与えたケインズの『一般理論』の邦訳書は石橋湛山の東洋経済での研究会から生まれたものです。ケインズは、不況の原因は総需要(有効需要)の不足にあるから、景気を回復させるためには公共事業などによる財政出動によって不足した需要を経済に付けてやるのが良い、と主張しました。湛山も、ケインズに劣らない積極財政論者でした。戦前の昭和デフレ恐慌、戦後のドッジ・デフレ政策に批判を通じて積極財政論を展開しています。

そこで、いつも迷うのは、この昭和恐慌と瓜二つの平成デフレ不況に対して積極財政政策を採らなかった小泉総理の評価です。湛山が生きていたら、彼は徹底した自由経済論者ですから、規制改革や「官から民へ」という小泉総理の構造改革には大賛成だったでしょう。返す刀で湛山は、需要の不足に手をこまねいて傍観していた小泉総理の消極財政論に筆誅を加えていたでしょうか。この点を、湛山先輩に直接お聞きしたいと思っても、先輩はこの世にはいらっしゃいません。自分の頭で、「いま湛山が生きていたらこう主張するだろう」と考えるしかありません。

湛山は、日本に置けるプラグマティズム(実用主義)の先駆者・田中王堂(早稲田大学哲学科教授)に私淑した哲学の徒でした。イデオロギーに固まった原理主義者ではありません。現実の変化に対応して柔軟に制度設計ができる現実主義者の側面も持っていました。経済与件の変化や経済の内部変化に科学的メスを当て、多くの人の経済生活が幸せであるための経済政策にイデオロギーは必要ないと考えていたと思います。

戦後の経済体制は、通貨制度がケインズの主張していた管理通貨制から変動相場制に変わったことを筆頭に、資本が自由に国境を超える国際的な自由経済体制に変化しています。一国経済だけが繁栄するための政策がとりにくい時代になりました。湛山は、軍事力ではなく、貿易や資本の自由な交流によって国々が相互に栄えることこそ、国際平和の基礎と考えていたと思います。望んでいた自由経済体制が訪れたのです。そのもとで成立する「マンデル・フレミング・モデル」を受け入れ、金融政策(金融の緩和と銀行不安対策)にウエイトを置いた不況対策の主張に転じていたと私は思います。

次はケインズ主義の日本における曲解と変質です。公共事業支出を中心とする財政出動は、真の民主主義とはまったく異なる巨大な「利権民主主義」を育て、それが途方もない借金残高を日本にもたらしました。この借金は私たちの子や孫-次世代が返すのです。ケインジアンであった湛山は、このケインズ主義の堕落をどう見たでしょうか。この応えは次回に回します。

プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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