
2010年3月10日 10:04
2010年3月10日筆
「乗数効果と消費性向の違い」も知らない副総理が「新成長戦略」を策定したのですから、空恐ろしくなります。政治主導はいいのですが経済政策の基礎知識のない政治家が経済政策を操るのは困りものです。よほど恥ずかしかったのか当の菅直人副総理はサミエルソンの「経済学」上下2巻を買い求めたそうですが、10ページほど読んだだけで本を閉じたといいます。
民主党にはマクロ経済をきちんと議論できる議員はいないのかと小生嘆息していたのですが、民主党にもいるではありませんか。テレビ中継された3月3日の参院予算委員会で質問に立った岩手県選出の平野達男・民主党議員です。彼は、白川方明日銀総裁と国家財政の持続可能性や債務不履行のリスク、長期金利などの問題について、まともな議論を展開していました。平野議員のことを調べてみたらやはり、大学で講師経験もある農水省出身の「過去官僚」でした。
平野議員は、白川総裁が「財政運営に対する市場の信認を維持することが大切だ」と述べたのに対して、バーナンキFRB議長の言葉を紹介しながら「財政均衡は政治家の仕事だ」と応じていました。政治家は選挙に勝つため財政規律など無視して予算をばら撒くのは何も日本に限ったことではありません。アメリカの下院議員も同じです。だからバーナンキは、「財政均衡は政治家の仕事だ(中央銀行にはどうすることもできない)」と言ったのでしょう。
さらに平野議員は、膨大な政府債務を抱えているにもかかわらず「なぜ日本の長期金利が低いのか」と白川総裁に問い、白川総裁から「理論的には長期金利は、将来の成長率、物価上昇率、それに国債を保有することに伴うリスクを加えて形成される」という見解を引き出しています。
ここでいう長期金利とは10年物指標国債の流通利回りを指します。国債が売られれば国債の流通利回り(長期金利)は上昇します。国債が買われれば流通利回り(長期金利)は下落します。ですから、「なぜ日本の長期金利は低いのか」という問いは、世界最悪の政府債務残高を抱えるのに「なぜ日本国債は売られないのか、価格が下落しないのか」という問いと同じです。
この問いに白川総裁が答えるわけがありません。下手に答弁すれば国債の投売り(長期金利の急騰)を招くからです。白川総裁に代わって平野議員は、以下のような見事な答えを出していました。(平野議員のホームページより引用。一部意訳、編集している)。
「日本は景気が悪いために金利が抑えられている。菅大臣は新成長戦略で年平均3%の名目成長率を設定したが、それは結果として名目金利(長期金利)も相当上がることを意味し、現在の国債残高からすると国債の利払い費が急激に増加することになる。今年度の国債発行53.5兆円が国内で賄えたのは、企業の設備投資が20%も減少し、個人消費も落ちて、貯蓄過剰を生み出したからだ。不景気によって財政が支えられていることを国民に説明する必要がある」
平野議員は「日本の長期金利(国債利回り)が低いのは景気が悪いから」で、デフレが克服され景気がよくなると(菅大臣が作成した新成長戦略が目標とする今後10年間平均3%という名目成長率が実現すると)、国債の利払い費が急増すると言っているのです。以下で、平野議員が展開したこの議論を白川総裁が述べた長期金利の決定式に当てはめて説明します。
白川総裁が国会で述べた決定式を方程式にしますと、
長期金利=予想実質成長率+予想インフレ率+リスクプレミアム
となります。予想実質成長率+予想インフレ率は名目成長率を意味します。したがって、方程式は最終的には以下のようになります。
長期金利(国債利回り)=予想名目成長率+リスクプレミアム
いまリスクプレミアムが変わらないとすれば、名目成長率の高い国は長期金利(国債利回り)が高くなり、名目成長率の低い国は長期金利が低くなるということをこの方程式は示しています。
上表は予想名目成長率が低い順に主要国を並べてみたものです。これを見ると確かに名目成長率が高い豪州や韓国の長期金利は高く、名目成長率が低い日本の長期金利がもっとも低くなっています。名目成長率が高かったバブル崩壊以前は日本でも現在の豪州や韓国と同じように4%以上の長期金利でした。つまり、名目成長率が高くなると長期金利も高くなるという方程式は実証されていることになります。
とすれば、日本の名目成長率が新成長戦略で目標とする3%に引き上げられると、長期金利は現在のアメリカ並みの3%以上になっても不思議ではないということになります。景気がよくなり名目成長率が上昇すれば、税収も増加するから財政赤字の縮小につながると考える人も少なくないでしょう。しかしそうはいきません。
IMFの予測(上表)では、2010年の日本の政府債務残高(借金)は名目GDP(課税対象になる名目所得総額)の2倍近くに達しています。名目成長率上昇と同じテンポで長期金利が上昇するのですから、残高2倍の政府債務の利払いの増加のほうが税収の増加よりが格段に大きくなる計算です。だから平野議員は「名目成長率を高めれば国債の利払いが急増する」と言っているのです。税収増より利払い増のほうが多くなれば財政赤字はさらに拡大します。利払いのための国債発行を余儀なくされます。残念ながら名目成長率3%を主張した菅副総理こそ、財政赤字の累増(発散)の元凶となるのです。
今回は白川総裁の言う「国債を保有することのリスク」について触れる紙幅がありません。上表では、長期金利と予想名目成長率の差をリスクプレミアムとして各国のそれを計算しています。日本は長期金利のほうが予想名目成長率より高いので、その差であるリスクプレミアムがすでに高くなっています。日本のリスクプレミアムはすでに「国債を保有することのリスク」を反映して財政危機が進行しているイギリス並みに高まっているということになります。
しかし政府債務残高がその消化能力を示す純個人金融資産(個人の総金融資産から住宅ローンなど債務を差し引いた純額)をもうすぐ上回る日本において、リスクプレミアムが現状の水準でとどまるという保証はまったくありません。ある日突然、ギリシャのようにリスクプレミアムが急騰し、長期金利が跳ね上がる(国債が急落する)かもしれません。「日本国債の暴落など、来る来ると言って来ない狼少年のようなもの」(菅副総理)などと言ってられないのです。
2010年3月 3日 09:56
2010年3月3日筆
国民が政権交代を選択して1年も経たないのに、長崎県知事選挙、町田市長選挙、石垣市長選挙と相次いで政権与党の民主党候補が大敗しました。総理と幹事長という二人の民主党リーダーが巨額の資金を使って権力を手中にしたという古い金権政治の疑惑が選挙民の頭脳に深くインプットされたためでしょう。
それだけではありません。民主党は政権与党になって予算の配分権を握った途端に露骨な利益誘導政治を始めたのです。それへの失望もあったと思います。
小泉純一郎元総理は「自民党をぶっ壊す」と主張して政権を掌握しました。小生の理解では小泉氏が「ぶっ壊す」という「自民党」とは、自民党の族議員(郵政、道路、農水、文教、厚生の5族)とそれに結びついた圧力団体や業界、この両者の利権構図に協力することで天下り利権を保持してきた官僚機構、この3者の利権トライアングル(小生の言葉では利権民主主義)を意味します。
国民は、民主党が小泉政権でもなし得なかったこの利権トライアングルを小泉氏に代わって破壊してくれることを願って政権交代を選択したのです。仙石由人行政刷新担当相(当時)と枝野幸男議員(現・行政刷新担当相)が行った事業仕分けに対して国民が喝采を与えたのがその証拠です。
しかし、本当に利権トライアングルを破壊してくれるのか、という民主党への疑念が、「郵政族」(全国郵便局長会の利益を代弁して票をもらう議員)そのものの国民新党と連立を組んだ時点から生じ始めていました。その疑念は、斉藤次郎という元大蔵次官を日本郵政の社長に登用してさらに大きくなりました。官僚の天下り(斉藤氏の場合は「渡り」です)を認め利権トライアングルの一角を承認してしまったからです。そのうえ郵貯の預入限度額引き上げ案や郵便局長の定年を改革前の65歳に戻す案が出るに至って、民主党は「利権トライアングルの破壊」など考えてもいないのではないかという国民の疑惑が生じ始めています。
その後、国民の疑惑がどんどん深まり、国民には「騙された」という思いが強くなる事件が相次いで起こってきます。10年度予算編成では、民主党に擦り寄ってきた日本歯科医師会には診療報酬で優遇する一方、自民党出身者が支配する土地改良組合の予算をばっさり切り捨てました。戸別所得保障金を農協経由ではなく農家直接にばら撒き、民主党に従わない農協組織を締め上げるという策にも出たと報じられています。他に多くの所得を持つ兼業農家がほとんどの10アールという小規模米作農家にも所得保障は与えられます。これは数の多い兼業農家票を釣り上げるという自民党より悪質な仕掛けです。こんな農家への戸別所得保障は、自給率の引き上げにも農業の競争力引き上げにも、肝心な後継者の育成にもまったく役に立たないことを付言しておきます。
民主党は、予算配分権を使って自民党を支持する利益団体や支持業界に踏み絵を踏ませ、彼らの民主党支持への「転び(転向)」を勝ち取ろうとしているに過ぎません。民主党は、民主党支持に転じた利益団体、地域や業界、それに従来からの民主党支持の利益団体である労働組合、官僚組織(自治労など)という「新たな利権トライアングル」を築こうとしているのではないかと国民は考え始めています。
この民主党の「新たな利権トライアングル」の構築は、自民党時代の「古い利権トライアングル」に熟知している小沢幹事長が主導していると思われます。小沢幹事長は、全国から出てくる陳情を幹事長室で一手に取り仕切るという新しい仕組みを作ることで、予算配分への介入権を手に入れ、この予算配分権を梃子に地域や業界や利益団体の首根っこを押さえ込むことに成功したのです。
その一端は、民主党議員の石井一選挙対策委員長の「暴言」事件で明らかになりました。石井議員は選挙を取り仕切る小沢一郎幹事長の代貸しのような存在です。石井選挙対策委員長は、1月29日に開かれた民主党推薦知事候補の総決起集会で以下のように演説しました。
(今回の長崎県知事選挙挙で)「時代に逆行するような選択を長崎の方がされるのであれば、民主党政権は長崎に対しそれなりの姿勢を示すべきだろうと私は思います。それが政治というものです」
石井議員は、知事選挙で民主党候補が落選するようなことがあれば「民主党政権は長崎に対しそれなりの姿勢を示す」と脅しているのです。「それなりの姿勢」の中身は何か、それは石井議員より前に長崎入りした小沢一郎幹事長が行った民主党長崎県連のパーティー(1月17日)での演説で明らかです。小沢幹事長は「橋本君を知事に選んでいただければ自主財源となる交付金も皆さんの要望通りできます。高速道路をほしいなら造ることもできます」と演説しました。つまり小沢幹事長は、「交付金の配分を長崎県に不利に運び、高速道路を作れなくするぞ」という形で「それなりの姿勢」を示すと言っているのです。
この「選挙に勝つために予算配分権を行使する」とする小沢・石井の露骨な選挙戦略に長崎県民は怒り沸騰でした。その県民の気持ちを2月25日付けの「長崎新聞」の論説欄が代弁しています。
この論説は「石井一議員の選挙演説 有権者への恫喝を許さない」と題した、怒りに満ちた、そして誇り高い主張です。この論説を引用します。
(石井発言は)、「本県有権者が民主党候補を知事に当選させなければ、政権党の力を使って県民全体に不利益を与えると脅した、紛れもない恫喝(どうかつ)発言である。われわれは、断じてこれを許さない。
有権者は憲法で保障された投票の自由がある。政党が有権者に対して、特定候補に投票しなかった場合には報復措置を取ると示唆し脅すのは、この権利を踏みにじる行為だ。民主主義を否定する暴言を吐いた石井氏の政治家としての資質を問わねばならない」
さらに長崎新聞は、(民主党は)「大臣(注・たぶん島原での前原国交相演説)、党幹部(注・石井、小沢発言)が露骨な利益誘導発言を連発した。それはかつての自民党の利益誘導政治となんら代わらないという点で、国民の政権交代への期待を裏切るものだった」とも断じています。
長崎新聞のジャーナリスト魂に敬服します。今回は触れられませんでしたが、公共事業の「箇所付け」疑惑(民主党が地方自治体に情報を漏洩した法令違反だけでなく、陳情を元に行われた公共事業費の上乗せについての疑惑もある)も小沢民主党の利益誘導体質を示す証拠です。国民は、政権交代に托した「利権トライアングルの破壊」という期待をことごとく打ち砕かれ、民主党に深く失望していることを、鳩山さん、菅さん、そして前原さん、ご存知でしょうか。
2010年2月24日 09:30
2010年2月24日筆
2月19日の衆議院総務委員会で自民党の石田真敏議員が5年前の民主党の郵政改革案と2月8日に提出した郵政改革の素案が真逆になっている矛盾を付いたと報じられています((朝日新聞)2月20日付け)。2月16日にアップした小生のブログ『「民主党らしさを取り戻す」ことの意味』で前原誠司代表当時の郵政改革案と今回の郵政改革素案との間にある民主党の大きな矛盾を指摘しましたが、石田議員の質問はそれと同じ論旨でした。オリンピック放映に押しのけられNHKの国会中継がなく、石田議員の議論が聞けなかったのが残念です。
繰り返しますが、前原民主党当時の郵政改革案は、「郵貯への預入限度額を1000万円から500万円へ引き下げる」、「簡保は将来廃止する」、つまり郵貯も簡保も縮小し民業の補完に徹する(官から民へ)というものでした。
今回の「郵政改革素案」は、郵政改革担当副大臣の署名があるから大塚耕平副大臣がまとめたのでしょう。素案では、「政府から親会社への出資比率、親会社から子会社への出資比率、金融サービスの内容と利用限度額については、今後与党プロセスの議論を踏まえて決定する」としています。しかし、その「与党プロセスの議論」は、郵政公社への逆戻りに近い考えの国民新党の亀井静香郵政改革大臣や社民党などの少数政党がリードしているようです。
検討されている内容は、郵貯会社や簡保会社に政府出資を残したまま(暗黙の政府保証を残したまま)、郵貯の預入限度額も簡保の加入限度額も大幅に引き上げるというものだと報じられています。その通り実施されると郵貯・簡保が再び肥大化し、資金は「民」から「官」へ吸い上げられることになります。その結果、地銀、第3地銀、信金、信組、農協など地域金融機関の経営が大きく圧迫され経営危機すら起こしかねません。「民業の補完に徹する」という前原代表当時の改革案とはまさに正反対の案になりそうです。
5年前との矛盾を石田議員に突かれて大塚耕平副大臣は、「05年の総選挙でわれわれの案は否決された。歴史は戻せないので、現在の体制を前提に議論している」(朝日新聞2月20日付け)と釈明したそうです。郵政選挙で負けたからといって、小泉郵政改革案より過激な郵貯・簡保の縮小案(官から民への移行案)だった民主党案がそれと真逆の郵政膨張案に代わるのはあまりにも節操がないのではないですか。当時民主党に投票した選挙民は裏切られたことになりませんか。
大塚副大臣は、上司の亀井静香郵政改革担当大臣に逆らうこともできず「腹にない」ことを言わざるを得ないのでしょう。「腹にない」という理由は彼自身、郵貯・簡保の膨張案には基本的には反対なはずだからです。野党の論客であった大塚議員は、民主党郵政改革案が発表された直後、2005年10月13日の参議院郵政特別委員会で当時の小泉総理に「郵政民営化で果たして国債発行は減るのか」と噛み付いています。当時の民主党改革案では「民主党は、郵便貯金の資金が国債引き受けや特殊法人に流れ、無駄遣いされている現在の仕組みを変え、民間資金を官から民へと流します」と言っています。大塚議員は、民営化後も郵貯資金が国債を購入し続ければ財政規律が緩むと言っているのです。
大塚副大臣は、早稲田大学を出て日本銀行に20年近く勤務し、政策委員会調査役(国会担当)を最後に参議院議員になった俊才です。小生は、日銀は、規制権力を振り回す大蔵省(当時)に比べ、規制を少なくして価格機構の働きを大切にする市場主義的色彩が強い役所であると認識しています。大塚議員はその日銀に20年近くもいたのですから、官営郵貯の膨張によって市場への「官」の支配が増大することを忌避していたはずです。さらに郵貯が国債を買い続けることによって政治家が予算を際限なくばら撒き、その結果、財政規律が大きく失われることになります。その尻を、日銀が国債引き受けという形で拭うことを国会担当の日銀調査役として大塚さんはもっとも危惧していたはずです。
それが、もといた職場である日銀の考え方から最も遠い亀井静香郵政改革担当兼金融担当大臣の副大臣になったのですからお気の毒とご同情申し上げるほかありません。亀井大臣が、放漫財政も厭わない時代遅れのケインジアンであり、金利機能(価格機構)の大切さなどまったく無視する金融社会主義者であることは副大臣が最もよくご存知だと思います。それでも大塚副大臣は、例の金融株の急落をもたらした「亀井モラトリアム」の際には、銀行を破綻に追いやる「返済猶予法」をソフトな「金融円滑化法」に衣替えをして亀井大臣の尻拭いを見事にされました。
ただ、「円滑化法」を円滑に施行するために不良債権の認定基準を大幅に緩和したのは、いただけません。副大臣は日銀の営業局にいた頃、銀行考査を担当したことはないのですか。返済猶予や貸出条件の緩和を行った融資が不良債権の塊になって金融危機・金融梗塞をもたらし、日本経済の「失われた10年(15年?)」の原因のひとつになったことを、よもやお忘れではないでしょうね。日本では不良債権に積み上がりによる信用リスクの増大が銀行破綻の原因になっていることを、日銀出身の副大臣もよくご存知のはずです。
この点で亀井大臣は、国民新党のサポーターである郵貯(全国郵便局長会)かわいさの余り、本末転倒、非常識極まりない提案をしています。まず、郵便局に対する金融検査を緩めるために、競合する第2地銀、信金、信組に対する検査も緩めるというのです。「円滑化法」で不良債権の認定基準をすでに緩和しています。そのうえ金融検査を緩めるのですから金融機関の融資規律はさらに緩み、不良債権が累積する危険が高まります。「円滑化法」が期限切れになる3年後、金融機関に隠された不良債権が一気に表に出ることがないよう祈るのみです。
さらに亀井大臣は、郵貯残高の減少を食い止め郵便局のジリ貧を避けるために、郵貯の預入限度額を引き上げ、業容拡大を図ると主張しているようです。その見返りに郵貯と競合する信金、信組に限って金融機関が破綻した際に支払われる「ペイオフ額(払い戻し保証額)」を引き上げるというのです。信金、信組の払い戻し保証額を引き上げれば預金者は郵貯に預け替えるインセンティブが小さくなり、地域金融を担う信金、信組の支援も得られると亀井大臣は考えたのでしょう。しかしこれも浅はかな悪知恵です。
払い戻し保証額が少ないときは、危ない金融機関から預金が逃げるという形の預金者による経営チェックが働きます。しかしペイオフ額が引き上げられ預金者への払い戻し保証額が大きくなると、金融機関は預金者のチェックを受けないで済むことになります。その結果、金融機関は利益を膨らませるために焦げ付きを恐れない危ない融資を膨らませることになります。つまり金融機関側のモラルハザード(道徳の欠如)が深化し、不良債権の増加につながるのです。
それだけではありません。ペイオフの原資は金融機関が預金保険機構に積み立てた預金保険料です。ですからペイオフ額を引き上げれば預金保険料も引き上げざるを得ません。これが儲けの少ない中小金融機関には大きな経営負担になります。信金や信組だけペイオフ額を引き上げれば、預金者には危ない金融機関とみなされ、逆に信金、信組から預金が流出する。そのうえに預金保険料の負担が重なり経営の重荷になります。郵貯のためのペイオフ引き上げは大迷惑だとする信金、信組の猛反対にあって、亀井大臣はペイオフ額引き上げを断念したようですが、当然です。
亀井大臣のような、金融に対する基礎素養がまったくない、思い付きだけで金融行政を動かす「乱暴な上司」の下で働かざるを得ない大塚副大臣は重ね重ねお気の毒だと思います。しかし大塚副大臣には、今度も「亀井モラトリアム」の時のように、なんとかこの「乱暴な上司」をうまくごまかしていただけないでしょうか。
大塚副大臣自身が「素案」でお書きになった表現を借りれば、(1)民間金融機関との全体的な競争条件の公平性の確保及び金融システムの安定性維持の観点に十分配慮しながら、(2)郵政グループの経営者及び利用者の「モラルハザード(道徳の欠如)」につながらないような「まともな郵政改革案」をつくっていただければ幸いです。その案を論理的に詰めれば、完全民営化によって郵貯・簡保を民間金融機関並みの競争条件下に置くというものになるはずですが、どうでしょうか。
2010年2月17日 10:13
2010年2月17日筆
鳩山総理は、落ち込んだ支持率を回復する策として、事業仕分けで活躍した枝野幸男議員を行政刷新担当相に加え、「民主党らしさ」を取り戻すと言いました。鳩山総理は「民主党らしさを取り戻すとは、民主党が小沢一郎自由党と合併する以前に戻るということか」と聞かれ、小沢氏に遠慮してか「必ずしもそうではない」と口を濁しています。
しかし、小生などは「民主党らしさ」は「新党さきがけ」当時のメンバーに遡るのが適当だと思うのです。今も民主党議員として生き残っている「新党さきがけ以来の「旧民主党結党時」メンバーは以下の面々です。
鳩山由紀夫、簗瀬進(新党さきがけ結党メンバー)、
玄葉光一郎(無所属から新党さきがけに参加)、
枝野幸男、前原誠司、小沢鋭仁(日本新党から新党さきがけに合流)
菅直人(社民連から新党さきがけに合流)
小生は、「週刊東洋経済」の編集長当時、細川護熙(当時、日本新党代表)と田中秀征(新党さきがけ副代表)の初対談を仕組んだこともあって、その後の細川政権を支えたこれらの民自合併前の「旧民主党結党時」の新党さきがけ出身メンバーに強いシンパシーを持っています。政策思想には、政治・行政改革、規制改革を積極的に進めるという自由主義思想が色濃い一方、弱者に優しいというリベラルな面も持ち合わせていました。
小沢に意見して遠ざけられた渡部恒三(前民主党最高顧問)さんは、早稲田の雄弁会当時、石橋湛山の選挙運動を手伝ったと聞いて、小生、東洋経済新報社出版局編集委員当時、長時間にわたって聞き書きを行ったことがあります。この聞き書きは1995年に『政治家につける薬』(東洋経済刊)に上梓されました。渡部さんは石橋湛山譲りの自由主義とリベラリズム(弱者保護)を持っておられることから、彼にも小生は深いシンパシーを感じています。
その渡部さんが、民主党の次世代を担う「七奉行」として将来を期待しているメンバーのうち、前原誠司、枝野幸男、玄葉光一郎の3名が「旧民主党結党時」の新党さきがけ出身メンバーです。残りの岡田克也氏は無派閥、仙石由人氏は凌雲会(前原グループ)、野田佳彦氏は凌雲会に近い花斉会(野田グループ)に属しています。日本新党出身の樽床伸二氏は鳩山グループです。
さてその民主党ですが、小沢自由党と合併した後も、自由主義とリベラリズムの経済思想は残っていたようです。小生の記憶では、民主党は「郵政」に関する入り口(郵便貯金)と出口(財政投融資、特殊法人)の改革に積極的だったとずっと思っていました。この自由主義的な民主党という小生の記憶が間違っていなかった証拠の文書をネットから拾い出すことができました。
2005年9月30日の日付ですから前原誠司(現国交大臣)氏が民主党代表に就任して間もない頃です。民主党「郵政改革法案」の概要と題した文書(マニフェスト)が発表され、そこには以下のように記されていました。
「2006年度中に郵便貯金の預入限度額を700万円に引き下げる。07年10月1日以降、郵便貯金については、定額貯金は廃止し、預入限度額を500万円に引き下げる。」
「07年10月1日以降、簡易生命保険は廃止する。旧契約については2つ以上の郵政保険会社を設立し、これらの会社に分割譲渡する。郵政保険会社の株式は、12年9月30日までにすべて売却し、完全民営化する。」
「郵政改革とあわせ、特殊法人・独立行政法人等の抜本改革を進める。後者及び郵便貯金会社、完全民営化までの郵便保険会社による財投債・政府保証債・格付けのない財投機関債の購入を禁止する。」
この文書の極めつけは、「郵便貯金からあふれ出た資金は地域経済を活性化します」と題した以下の文章です。
「預入限度額の引き下げによって郵便貯金からあふれ出た資金は、地域の民間金融機関や証券会社に分散し、最終的には中小企業などにも貸し出されます。この結果、地域経済は活性化します。民間部門からの税収も増えるので、財政再建にも寄与します。
民主党は、郵便貯金の資金が国債引き受けや特殊法人に流れ、無駄遣いされている現在の仕組みを変え、民間資金を官から民へと流します。」
この民主党の郵政改革案は、郵便貯金の預入限度額を1000万円から500万円に引き下げ縮小を図るだけでなく、簡保を廃止するとまで言い切っています。その上で、郵貯資金が国債購入にまわされ予算の無駄遣いが進むことや、財投債や財投機関債購入によって特殊法人や公益法人の既得権益存続を助けることは許さないという毅然とした姿勢がうかがわれます。この郵政改革案は小泉総理の郵政改革に比べても過激なもので、小生は、前原代表当時の政治姿勢に大賛成です。
ところがわずか5年前に書かれたこの郵政改革案は跡形もなく葬りされました。郵政民営化に反対して小泉首相から自民党を追い出された怨念に凝り固まった亀井静香国民新党代表と参院選挙に勝つためであれば医師会、特定郵便局町長会、労働組合、地方自治体首長(公共事業誘導族)、農民、なんでもいいから無節操に囲い込む小沢幹事長が合体したため、前原代表当時の「民主党らしさ」は雲散霧消してしまいました。
それどころか、「郵便貯金も簡易保険も銀行法や保険業法の対象からはずし」、準国営のまま、「郵貯は3年後に現在1000万円の預入限度額を撤廃し無制限にする」、「現在1300万円の簡保加入限度額も3年後に撤廃し青天井にする」と亀井郵政担当大臣と原口一博総務大臣(前原、野田と松下政経塾の同窓だがなぜか小沢氏の心酔)という郵政改革素案が合意されたと報じられています(「読売オンライン」2月13日配信)。信じられません、誤報であればいいのですが。

上表で見るように郵貯の貯金残高は中小企業や地域の金融に欠かせない第2地銀と信用金庫合わせた規模です。国営で全額保護されたうえ、預入限度額が撤廃されれば郵貯は膨張必至です。地銀、第2地銀、信金、農協(預金残高75兆円前後)、信用組合は資金を郵貯に奪われ、経営危機に見舞われる可能性があります。さらに「ゆうちょ銀行」は、国債を貯金総額177兆円の90%近くになる158兆円保有しています。郵便貯金の国債購入による予算の無駄遣い(ばら撒き)はさらに進みそうです。
鳩山民主党は、亀井・小沢(原口)の郵政「改悪」案を排し、「旧民主党結党時」とは言いませんが、せめて5年前の前原民主党代表当時まで「民主党らしさ」を取り戻してほしいものです。
2010年2月10日 10:39
2010年2月10日筆
花粉症は体内に花粉が徐々に蓄積されて、その蓄積量がある限界を超えると一気に発症するといいます。財政赤字の累積である政府債務残高も、その残高が限界を超えると一気に金利急騰という「財政破綻に至る病(やまい)」を発症することになります。日本の政府債務残高はすでにその限界を超えており、金利急騰によって利払いのための国債発行が累積するという「財政の発散」過程に入りつつあるといってよいと思います。
「PIGS」の一角、ギリシャでは、財政の「発散過程」をたどる日本の明日を予見させるようなことが発生しています。「PIGS」とは財政危機に見舞われ債務不履行すら噂されているポルトガル(P)、イタリア(I)、ギリシャ(G)、スペイン(S)の南欧4カ国の頭文字をつなげた合成語です。昨年、名目GDPに占める財政赤字比率が-12.2%に達し財政危機に直面したアイルランドのIを加えて「PIIGS」と称することもあります。
ギリシャは上表に見るようにPIGSの中でも名目GDPに占める財政赤字の比率、政府債務の比率が最も高い国です。財政赤字の虚偽報告なども発覚してギリシャ政府への不信感が一気に高まり、昨年11月ごろからギリシャ国債の利回りはじりじり上昇(価格は上昇)を始めました。
年が明けて1月、格付機関のS&Pはギリシャ国債を格下げする方向で検討に入ったほか、フィッチ(格付機関)は実際にギリシャ国債をジャンク債(くず債)並みの「BBBプラス」に格下げしました。この結果、ギリシャ国債は、77%を保有する外国人投資家から売り浴びせられ、利回りが急上昇することになりました。
このギリシャ国債の価格急落はギリシャに次いで財政が脆弱とされているポルトガルに飛び火しました。S&Pが、現在「Aプラス」のポルトガル国債の格付を格下げの方向で見直すと発表したことも重なりました。さらにポルトガル短期国債の入札が落札予定額を大きく下回る事態も発生しています。80%以上保有する外国人投資家の警戒心が一気に高まり、ポルトガル長期国債も大きく売られ利回りは急騰しています。
こうした国債売りは資産バブル崩壊の影響が大きいスペインにも波及しています。スペインの財政赤字問題はギリシャ、ポルトガルより軽いのですが、投資家の動揺がスペインに及んだ点が注目されます。スペイン国債の信用力の下落は、ギリシャ、ポルトガルよりはるかに大きいスペイン経済のさらなる悪化を予想させました。ギリシャからポルトガル、スペインへ連鎖した国債価格の下落は欧州全域の株価急落をもたらし、ユーロの急落につながりました。
ユーロが売られた結果、めぐりめぐって円が「安全資産」として消去法で買われ急騰、円高に弱い日本株も大幅に下落してしまいました。欧米の金融が動揺するたびに円が消去法で買われるのですが、円は本当に「安全資産」なのでしょうか。もう一度、上表をご覧ください。わが日本は、国債を売り浴びせられたギリシャに比べGDPに占める財政赤字比率は小さいが、総債務比率ははるかに大きい規模です。鳩山民主党政権の財政規律に疑問が生じており、S&Pは、日本の長期国債格付けを「AAプラス」から引き下げる検討に入りました。
ちなみに国債の増発による財政出動を主張する論者が必ず引き合いに出す純債務比率も日本はいまや世界最高水準です。純債務とは、総債務(グロス)から政府保有の金融資産、たとえば社会保障基金や政府出資金・貸付金や保有有価証券を差し引いたネットの政府債務をいいます。財政出動論者は、この社会保障基金などを担保にすればまだ国債が発行できるというのですが、担保の社会保障基金は年金、医療保険などの支払準備金であり国債が不履行になったからといって取り崩すわけにいかない資金です。担保にはふさわしくありません。
政府出資金は東京大学など大学や研究機関など独立行政法人への出資金が中心です。この出資金を引き揚げて国債の返済に充てるのでしょうか。政府貸付金は、JALに融資する日本政策投資銀行、中小企業・零細企業に融資する日本政策金融公庫のほか学生の奨学金を融資する日本学生支援機構が大部分を占めます。これらを潰して貸付金を引き揚げるのでしょうか。日本郵政などの政府持ち株を売却して国債残高を圧縮するなど民主党にはできないでしょうね。純資産比率が低いことが国債増発の言い訳になる時期はとっくに去っているのです。
それでも日本国債は売り浴びせられないのは、その保有者の95%が銀行、郵貯、簡保、生保、年金基金など日本の金融機関や機関投資家だからです。日本の場合、ギリシャやポルトガルなどとは違って国債の償還能力や信用リスクに敏感な外国人の保有比率が5%前後ですから、売りが極めて少ないのです。一方、日本国債に対する買いは、大不況で安全な貸し先がない金融機関、株式などリスク資産のリスク度が高くなりすぎ安全一辺倒に陥っている機関投資家によるものなのです。リスクを取らない金融機関はあまり褒められたものではありません。
日本国債の現在の利回りは1.3%と世界最低水準です。この国債利回りは、日本経済への投資利回りが1.3%以下であることを意味します。残念ながら日本は投下資本に対して1.3%も儲からない経済になってしまったのです。儲からない日本経済では国債を償還するための税収アップが見込めるはずがありません。しかも、民主党は、税金を支払う能力がある大企業を叩く一方の社民党、国民新党、共産党にひたすら相槌を打つ政党になっています。これではますます税収は上がらなくなります。そのうえ税金を払えない人を支援するために財政赤字を垂れ流して続けているのですから、国債発行残高は累増する一方です。
あと10年以内に日本国債などの政府債務残高は日本国民の国債消化能力(個人金融資産残高)を上回ると予想されています。償還能力や信用リスクに厳しい外国人に日本国債を買ってもらわねばならない時期が迫ってきているのです。PIGSの危機騒動は、近い将来の日本の姿です。花粉症が一気に発症する時期が近づいているといってよいでしょう。