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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年9月19日 12:24

今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか

(2017年9月19日筆)

 ようやく9月28日から臨時国会が始まると思っていたら、安倍総理は議論もせず冒頭解散、10月22日あるいは29日投票の総選挙に踏み切る意向だと報道された。解散風が一気に吹き抜け代議士たちは選挙準備に入ったという。

 この報道を受け9月17日、萩生田・自民党幹事長代理は「政権をしっかり維持するために解散は一つの選択肢ではあるが、大義なき党利党略になってはならない。もしこの時期に解散するのであれば北朝鮮の脅威とどう向き合うかも含めて国民に説明する必要がある」と述べたという。

 総理の最側近である萩生田氏ですら、総理の突然の総選挙意向に対して「この解散に大義はあるのか」「党利党略になってはいないか」「北朝鮮の脅威が叫ばれている時期に政治空白をつくっていいのか」と疑問を呈している。発言は後で修正されるだろうが、萩生田氏のこの時点の発言は国民の多くが抱える疑問を代弁するまっとうなものだろう。


民進党は離党騒ぎ、新党は準備不足、北朝鮮のミサイル発射も味方?

 解散は総理の専権事項とされるが、総選挙には数百億円の公費が投じられる。総理が総選挙で国民に選択を迫る大義は何なのか。我々の貴重な税金を使ってなぜ今、臨時国会の開催直後に解散する必要があるのか、総理に問いたくもなる。

 ワケ知りの政治評論家などは、総選挙には勝たねばならない、総理が勝つために最も有利な時期を選ぶのが政治のリアリズムだ、解散の大義など後からこじつければいいといっている。安倍総理は勝つための時期を選んだのだと。

 実際、選挙のライバルとなる最大野党・民進党は、幹事長人事の失敗と細野豪志前幹事長など離党者続出で支持率が低迷している。都議選で大勝した小池都知事一派の国政新党は綱領も選挙準備もまだ整わない。

 幸い、森友学園、加計学園をめぐる不公正行政の疑惑などで警戒ラインの30%台前半まで急落した内閣支持率も40%台まで回復、支持が不支持をわずかだが上回ってきた。支持率は北朝鮮がミサイルを一発発射するごとに1%回復するといわれている。安倍総理は北朝鮮による核実験・ミサイル発射による国民の不安に付け込んで支持率を回復させていると解説する向きもあるが...。

 私利私欲といわれようとかまわない。総理は今こそ、選挙に打って出て勝ち、自らの政権を延命させる千載一遇の好機だと考えているのが本音だろう。

 安倍総理はそれでよいかもしれない。しかし、一般の国民には何のために投票場に向かうのか、その理由が見当たらない。何を判断基準に候補者を選ぶのか、その選択基準が分からない。政権は北朝鮮からミサイルが襲いかかってくるとJアラートを広範囲に鳴らし国民の恐怖をあおっている。その北朝鮮の脅威の最中に総選挙という政治的空白をつくる総理の神経を疑う国民もいるだろう。


総理の急造「解散の大義」は野党民進党・前原代表案のパクリ

 安倍総理といえども、さすがにそんな国民の疑問を無視して選挙に勝てると思っていないだろう。なぜ解散総選挙を行うのか、何らかの「理屈付け」を行うに違いない。その一端が安倍シンパのマスコミとされる読売新聞に載った。

 読売新聞9月18日朝刊は、「消費税率10%への引き上げ時の増収財源の使い道について、国の借金返済から幼児教育無償化など子育て支援の充実に変更することを争点に掲げる」「自衛隊の根拠規定を明記する憲法改正も訴える」といち早く書いた。翌19日までに同じ内容の争点(解散の大義=理屈付け)を毎日、朝日、日経各紙も相次いで報じている。

 急造りであれ、ないよりましだが、「消費増税の使途変更」という公約は前原誠司代表が今回の民進党代表選挙で掲げた公約のパクリ(盗むの隠語)だ。安倍総理は男・女、正規・非正規の雇用格差是正、同一労働同一賃金、子育て支援、教育の無償化など旧民主党以来の野党公約を平然とパクリ、権力保持の道具にしてきた。今回も同じパクリを繰り返して恥じることがない。

 ついでに民進党に一言いっておきたい。国民が支持しない最大の理由は、党が決めた方針に逆らい党内抗争の果てに離党、脱党を繰り返す体質にある。民主党政権時代の小沢一郎しかり、今回の細野豪志しかりだ。自民党には保守からリベラルまで様々な議員を抱えるが、その差異をうまく丸め込む技術がある。

 民進党は何を血迷ったのか、鳩山政権以来3年間の「失政」の反省を繰り返し語り、失敗が「政策」にあったかのような印象を国民に与えてしまった。政策が間違っているのなら安倍総理が旧・民主党公約のパクリを繰り返すはずがない。   

 民進党は安倍総理の「パクリ常習」に対し一言も抗議せず、政権担当時の「失敗」を詫びるだけの政党に堕してしまった。いくら失敗しても国民を偽っても、本心から詫びることのない安倍総理の爪の垢でも煎じて飲んだらどうか。


一石三鳥の「消費増税の使途変更」公約、民・共選挙共闘も崩壊

 「消費増税の使途変更」とは、5%から10%への消費増税に伴う税収増加約14兆円のうち国の借金返済など財政健全化に11.3兆円、社会保障の充実に2.8兆円振り向けるとした自民・旧民主・公明の3党合意の変更を意味する。

 2019年10月実施の2%増税の増収分5兆円の使途ついては、従来の3党合意から離れ教育の無償化など社会保障の充実に重点を置くというのが安倍総理の公約になる。

 しかしこの公約はアベノミクスの行き詰まりの結果でしかない。税収増加の半分以上を占める3%消費増税の効果はすでに一巡した。4年半も日銀に膨大な国債を買い込ませても成長率は高まらず自然増収は止まりつつある。このままではアベノミクスの目玉政策となった教育の無償化の財源が出てこない。こども保険案も教育国債発行案も批判が多く財源にはなれない。穴埋め財源には前原民進党代表案を盗むに然りというわけだ。

 さらに安倍総理は、消費増税分の使途変更を口実にして国際公約である2020年基礎的財政収支の黒字化目標を平然と放棄、先延ばしするに違いない。2%消費増税分を借金返済に回しても8.2兆円の基礎的財政赤字がある計算だったから、総理はどうあがいても実現できない赤字解消の国際公約を変更する絶好の機会を手にすることになる。

 それだけではない。「消費税の使途変更」の新公約は、総理が最も恐れる民進党・共産党の選挙共闘にくさびを打ち込む副次効果がある。民進党の前原代表は使途変更付きだが消費税引き上げに賛成、共産党は消費税引き上げに絶対反対だ。安保外交の基本政策だけでなく内政の基本政策でも民進・共産は選挙協力できなくなる。民進党と共産党が統一候補を立てれば60議席前後の小選挙区で自民から議席を奪えるという調査があったが、水泡に帰すだろう。

 安倍総理は、前回の総選挙では「消費増税の先送り」を公約して選挙に勝って新安保法制、共謀罪を強引に成立させた。今回は「消費増税の使途変更」を公約して選挙に勝ち国民の主権を制限する「非常事態条項」、憲法9条の改正(自衛隊の追認)に走ることになる。

 「野党なき総選挙」の結果、自公は再び圧勝、えこひいき行政を含む何でもあり、少数意見無視の「安倍一強」政治が復活する...。気が滅入るのは小生だけだろうか。

2017年9月 5日 10:02

北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか

(2017年9月5日筆)

 北朝鮮による6回目核実験をめぐって、より威力が強まった水爆型だとか、核弾頭のICBM搭載も可能になったとか、それがワシントンにも1年後には届くようになるとか、軍事上の報道ばかりが目立ち、恐怖があおられている。テレビでは軍事評論家が大活躍だ。


北朝鮮もアメリカも戦争より外交的解決を望んでいるはずだ

 しかし戦争は外交の延長、外交的解決の最後の手段と言われる。北朝鮮による核・ミサイルという軍事的手段は、外交的解決を求めるための手段であり戦争を自己目的化したものではないはずだ。

 北朝鮮はアメリカ本土に届く核弾頭搭載ICBMを完成させていたずらにアメリカを核攻撃したいと思っているわけではないだろう。金正恩の北朝鮮は核弾頭搭載ICBMを保有することで対米交渉力を高め、来るべき米朝交渉でアメリカから金体制に有利となる条件を引き出したいと思っているに違いない。

 一方、アメリカが米韓合同軍事演習を繰り返し、日本海に原子力空母を派遣、演習と称してB1戦略爆撃機を飛ばすのも、石油禁輸に至る経済制裁、経済封鎖という圧力を加えるのも、北朝鮮を外交交渉の場に引き出し日米韓に対する核・ミサイルの脅威を取り除くためのものだろう。北朝鮮への圧力強化は戦争を避けるための懸命な外交手段だと理解したい。

 安倍総理は「対話のための対話に意味はない」と繰り返し、対北朝鮮への圧力強化に奔走しているが、最後は対話(外交)へ向かうための奔走なのだろう。


北朝鮮が求めるのは「金体制の存続保証」だけか

 しかし、肝心の、対話(外交)すべき内容が各種報道を見ても皆目わからない。水面下で米朝交渉は行われているのだろうが、金正恩委員長からも、トランプ大統領からも安倍総理からも交渉内容は明らかにされていない。

 これまで交渉内容をうかがわせる動きはあった。この春先、トランプ政権は北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すればアメリカは「4つの約束」を実行する用意があるといったと報道されたことがある。

 その内容は北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すれば、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)北緯38度線を越えて侵攻することはない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、というものだった。

 この「4つの約束」から推察すると、北朝鮮は「現体制(金正恩体制)の存続保証」を求めているということになる。

 しかし、トランプ政権が「4つの約束」を提示しても北朝鮮は交渉に乗ってこなかった。なぜだろうか。金正恩の北朝鮮には、核・ミサイル保有こそ「現体制存続」の最大の保証であり、これを放棄すればその後、米韓は金体制の転覆を狙うに違いないという疑心暗鬼があるのだろう。

 この金委員長の疑心暗鬼も推測でしかない。報道陣はだれも、金正恩氏の本心を聞いたことがないし極秘裏の米朝交渉内容を十分取材しているわけでもない。すべてはマスコミや専門家の推測の範囲を出ないが、金委員長はトランプ政権に北朝鮮が核保有国であることを認めさせ、同じ核保有国として米国と対等の交渉を進めようとしているという報道もある。

 北朝鮮は対等の米朝交渉によって、米朝平和条約を結んで朝鮮戦争以来の戦争状態に終止符を打つ一方、(1)アメリカに対し在韓米軍の撤退ないし縮小を求める、(2)経済封鎖を解かせるだけでなく多額の経済援助を引き出す、という交渉を望んでいるといわれている。

 トランプ氏の外交指南役と言われるヘンリー・キッシンジャー氏(ニクソン、フォード政権の大統領補佐官・国務長官)からは「北朝鮮の核放棄と在韓米軍の撤退を結び付けた交渉の提案も出ている」と韓国外国語大学ユン・ドクミン教授が指摘している(読売新聞9月4日朝刊)


アメリカに核保有容認論。だが北朝鮮の核保有は日韓、中ロへの脅威

 しかし北朝鮮が最大の交渉材料であり金体制存続の保証でもある「核保有国の地位」を放棄することはあり得ないという観測のほうが強い。これを受けてか、アメリカの中からはスーザン・ライス氏(オバマ政権の安全保障担当補佐官)のように「北朝鮮の核保有を容認すべきだ」という意見も出始めた(朝日新聞9月4日朝刊)。

 ユン教授も「正恩氏が賢明であるなら、ICBMの開発を放棄する代わりに核武装についての黙認を米国から得るため、平和協定を結ぼうとするだろう」と述べている。アメリカ本土に届くICBM開発さえ放棄すれば北朝鮮の核はアメリカの直接の脅威にはならない。北朝鮮はICBM放棄を対米交渉の切り札にするのではないかという観測だ。

 しかしアメリカによる北朝鮮の核武装容認論は、日本・韓国ひいては中国・ロシアを含む北朝鮮の近隣諸国には大きな脅威となる。脅威を受ける日韓は対北朝鮮の核抑止力を名目とする核武装を急ぐことになりかねない。しかし日韓の核武装は、その一方で中ロに対する脅威になるだけで世界の核拡散に結び付くことになりかねない...。

 北朝鮮の核武装を容認せず、日本と日本人も巻き込まれる米朝戦争を避けるための方策はないものか。北朝鮮問題の交渉による解決を主張している中国とロシアにその方策がないものか。

 世界のリーダーを自負する安倍総理には米韓の尻を叩いて北朝鮮への圧力強化を主張するだけでなく、トランプ氏にも中ロにも強く働きかけ「交渉による解決」の方策を引き出す最大限の努力をしてほしい。それに成功すれば安倍総理はノーベル平和賞の受賞者になれるかもしれない。

2017年8月21日 13:47

キム(金正恩)リスクよりトランプリスクが怖い

(2017年8月21日筆)

 株式市場にとって最も現実的な地政学的リスクは北朝鮮の金正恩か、それとも米国のトランプか。統治能力を欠くトランプ米大統領のほうが危うい。

 株価に聞いてみよう。NYダウは8月10日、米国・北朝鮮の軍事緊張に反応、204ドル下落(▲0.92%)したが4日後には下落前にほぼ戻した。8月17日はトランプ氏の白人至上主義者擁護発言に反応、274ドル下落、下落率は▲1.24%に達し米朝の軍事緊張時を上回った。その後の反発も鈍い。

 北朝鮮によるグアム島沖(米国の領海外)へのミサイル発射予告が再び米朝の軍事緊張を高めたが、米国による北朝鮮への先制攻撃、戦争突入は当面、あり得ないと市場は読み、株価は戻したことになる。


戦争に反対する韓国の文大統領、在韓中国人95万人も心配

 米国の先制攻撃による開戦はあり得ないとする理由はいくつかある。ひとつは文在寅韓国大統領の光復節記念式典(8月15日)での演説だ。文大統領は「朝鮮半島での軍事行動は大韓民国だけが決定できる。誰も大韓民国の同意なしに軍事行動を決定できない」と改めてトランプのアメリカを強くけん制した。

 文大統領のけん制は至極当然だ。「北朝鮮は軍事境界線周辺に地上軍100万人の3分の2を配置、1時間に50万発を撃てる野砲を韓国首都圏に向けている」(日経8月16日)とされる。米国が先制攻撃すれば北朝鮮軍の野砲が火を噴き、ソウルは火の海、100万人以上が死ぬと予想される。米国の安全保障を確保するために韓国の承認なしに朝鮮半島が戦場になることは許されない。

 もう一つは、韓国に在住する14万人弱の在韓米人の存在だ。旅行者を含めると20万人以上の米国人が韓国に滞在する。米国の先制攻撃に対する北朝鮮の反撃はこれら韓国滞在米国人の生命を危機にさらす。20万人以上の在韓米人の事前退避は容易ではなく、無分別なトランプ大統領といえどもさすがに自国民の生命を犠牲にする先制攻撃はできないだろう。

 付け加えておきたい。韓国法務部によると2015年現在、在韓外国人の第一位は中国人の95万5871人(全体の50.3%)だ。中国人の訪韓旅行客も年間615万人強で断トツだ。在韓米人の比ではない。米朝開戦で最も打撃を受けるのは在韓中国人であり、先制攻撃は中国の強烈な反発を呼び起こす。

 3か月以上在住の在韓日本人は3万8000人、日本の年間訪韓旅行者186万人弱は中国に次いで第2位だ。在韓日本人の生命も危機にさらされる。グアム島へのミサイル発射に過剰反応し集団的自衛権を行使、自衛隊が迎撃ミサイルを発射すれば日本列島も戦場になる。安倍総理は自国民の犠牲に構わず「交渉のための交渉はしない。北朝鮮への圧力を強める」といい続けるのだろうか。

 第3に、戦争の現実と悲惨をよく知る軍人、ケリー首席補佐官(退役海兵隊大将)、マクマスター安全保障担当補佐官(現役海軍中将)、マティス国防長官(退役海兵隊大将)が安全保障戦略の主導権を握ったことだ。彼らは米朝開戦に極めて慎重だという。バノン首席戦略官の事実上の解任で、極右依存から軍人依存へ舵を切り替えたばかりのトランプ大統領には開戦に慎重な彼らを無視できまい。


バノンはトカゲのしっぽ、本体のトランプこそ最大のリスク

 次はトランプ大統領をめぐるリスクだ。アメリカファースト(アメリカ第一の国家主義)、白人至上主義を否定しない極右のバノン首席戦略官を事実上解任したことでトランプ大統領のリスクが後退したと見るのは早計だろう。

 背景にバノン氏の存在があったとはいえ、イスラム諸国からの入国禁止、メキシコ国境の壁建設、TPP協定、パリ協定からの離脱などアメリカファースト、人種差別政策を主導したのはトランプ氏自身だ。バノン氏はトカゲのしっぽ、トランプ氏がトカゲの本体、異常なのは本体のトランプ大統領のほうだ。

 トランプ氏が、白人至上主義団体とこれに反対するグループのバージニア州での衝突事件で白人至上主義団体をかばう発言をしたことへの反発は大きかった。この発言に反発、トランプ政権の2つの助言機関のメンバーである財界トップが相次いで辞任、トランプ氏は助言機関の解散に追い込まれた。

 大統領はトランプノミクスの推進役を失った。それだけではなく、大統領与党の共和党のコントロールがままならず、トランプラリー(上げ相場)を牽引した10年間5.5兆ドルの大幅減税、1.0兆ドルのインフラ投資プランの実施可能性が大きく後退したことも政権運営に深刻な影響を与えるだろう。

 これらの大型景気対策の財源は、経済成長による税収増(10年間約1.8兆ドル)、オバマケア(医療保険制度改革法)の修正(同約1.8兆ドル)、国境調整税の創出(同約1.2兆ドル)などによって賄われる予定だった。だが、政権内部の混乱もあって与党共和党との関係が乱れ、議会調整がうまくいかずオバマケアの修正、国境調整税の創出は挫折、景気対策の財源は「とらぬ狸」の経済成長による税収増だけになった。


9月中に新年度予算、連邦債務上限引き上げをめぐる危機も

 米国の会計年度は10月~翌年9月までだ。9月中にトランプ氏初の2018会計年度予算の議会成立を図らねばならない。また同じ9月中に連邦債務上限(19.8兆ドル)の引き上げを決めねばならない。上限が引き上げられなければ国庫が底をつき、政府機関は閉鎖、デフォルトに追い込まれる。

 経済政策を担うコーン国家経済会議委員長の辞任も囁かれる中、軍人出身のケリー首席補佐官ら大統領側近が与党共和党との関係修復を果たし新年度予算を成立させることができるか、債務上限の引き上げを実現できるか。財政規律に厳しい共和党議員を多数抱えるトランプ氏の議会運営は厳しさを増している。

 歳出、歳入という国家運営の基本をめぐって、トランプ大統領の統治能力に大きな疑問符がついたままだ。加えて米FRBのイエレン議長はFRB保有債券の縮小(緩和規模の縮小)を年内に開始する姿勢を崩していない。

 ニューヨークの株価は、過去10年間平均の実質純利益で計測した「シラーPER(株価収益率)」、世界の時価総額と名目GDPを比較する「バフェット指標」いずれもすでにかなりの割高水準に達している。米国の景気拡張も戦後3番目の長さとなりいつ後退に転じても不思議はない。

 統治能力を失ったまま回復できないトランプのリスクと金融引き締めに走るイエレンが重なれば、NYダウは大きく下げることになる。

2017年8月 7日 17:03

もう誰も信じない? 安倍総理の「経済最優先」

(2017年8月7日筆)

 内閣改造後の記者会見(8月3日)で安倍総理は、「最優先すべきは経済の再生、安倍内閣はこれからも経済最優先だ」と述べた。


「経済最優先」は支持率回復のための目くらまし?

 国会手続きを無視した共謀罪の強行採決、森友、加計疑惑隠しなどで内閣支持率が危機レベルに急落したあと、総理は支持率回復のための眼くらまし、「経済最優先」を再び持ち出した。懲りない総理というほかない。

 これまでも総理は選挙のたびに「経済最優先」を繰り返してきた。だが、選挙に勝つと特定秘密保護法、集団的自衛権を容認する新安保法制、共謀罪の新設など安倍総理ご執心の国家主義的な政治案件を強行採決する...。総理にとって「経済最優先」という言葉は支持率回復の魔法の杖に過ぎなかったのだろうか。

 今回も「経済最優先」を謳って支持率が回復すれば、総理は回復した支持率をバネに最終最後の悲願である「憲法改正」を実現するという魂胆だ...。国民はそういう総理の魂胆を見抜き始めたのではないか。改造後も内閣の不支持率が支持率を上回っている。支持しない最大の理由は依然として「総理の人柄が信頼できない」だ。総理の眼くらましはもう食わないと考えているのだろう。


求人倍率上昇、税収増加の大半はアベノミクスの成果ではない

 その安倍総理の「経済最優先」の成果誇張にも疑問符が付く。いわゆるアベノミクス(安倍内閣の経済政策)による景気回復の成果として、総理は(1)失業率の低下と有効求人倍率の上昇、(2)税収の回復に伴う基礎的財政収支赤字の縮小の2つを声高に挙げる。これらは本当にアベノミクスの成果なのだろうか。

 失業率の低下、有効求人倍率の上昇はその成果の半分以上が少子化に伴う労働力人口の減少、とりわけ若年労働力の大幅減少の結果ではないのか。若年労働力の大幅な不足が新卒就職率の急上昇、若年層不足を補う女性・高齢者の非正規雇用の拡大、失業率の低下などにつながった。

 もう一つ、税収の大幅回復はその半分以上が消費税の3%引き上げの成果と言ってよいだろう。消費税率の引き上げは民主党の野田総理(当時)が政権を賭けて実施した政策だ。その恩恵を税収増という形で安倍総理が受けたといってよい。その税収も2016年度から減少に転じている。

 ちなみに、景気回復の実態を表す実質経済成長率はアベノミクス下の4年間(2013年~2016年)の暦年平均で1.25%に過ぎない。民主党政権下では3年間平均1.86%にも達しない。他の先進国の同期間の平均成長率はドイツ1.36%、アメリカ2.06%、イギリス2.24%だ。アベノミクス下の成長率は民主党政権、米英独より低いのだ。

 失業率の上昇も税収の増加も総理が軽蔑して止まない民主党政権発足の時からすでに始まっていた。景気回復は、アベノミクスが成功したからというよりリーマンショックからの世界景気の回復が大きい。それでも日本の実質成長率は低率に止まる。半分以上は他律要因ともいえる景気回復をアベノミクスの成果として誇張するのもほどほどにしてほしい。総理は謙虚になれるのだろうか。


「3本の矢」は行き詰まり、「新3本の矢」は成長効果薄

 アベノミクスは実際うまくいっているのだろうか。初期の「3本の矢」(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略)は円安株高をもたらし企業収益などに効果を表したが、最近はいずれも行き詰まっている。

 円安株高を牽引した「大胆な金融緩和」は賞味期限が過ぎたようだ。日銀の黒田総裁は「2年で2%物価目標を達成する」と言ったが、5年たっても物価目標は達成されず達成時期は6回目の先送りとなった。今度は「2019年度ごろ」という。専門家の多くは量的・質的緩和の効果に疑いを持ち、この達成時期すらほとんど信じていない。

 機動的な財政出動も大きな限界に逢着している。借金依存財政の持続可能性に大きな不安が生じているためだ。基礎的財政収支の2020年度の黒字化達成という目標についても2%物価目標と同様、その達成を信じる専門家は全くいないといってよい。いたずらな財政出動は黒字化達成を遅らせるだけだ。

 成長戦略の代表は法人税率引き下げだった。だが、これによって企業の内部留保は増えたが成長率が高まったという証拠はない。通信や運輸、建築、不動産など成長効果のある規制緩和が一巡、残る医療、労働、教育分野などは規制緩和に適さないし、緩和しても成長に貢献するかよくわからない。

 安倍政権は15年9月から成長戦略を意識した「新3本の矢」を打ち出した。その具体策として、地方創生、女性活躍、子育て支援、一億総活躍、働き方改革、人づくり革命などが日替わりメニューのように提示されている。しかし、これらは財政出動を伴う社会政策というべきもので、成長に直接貢献するものではない。国民の多くは「新3本の矢」とは何か、ほとんど知らないのではないか。


日銀支援なければ財政破たん? 異常な金融財政の膨張も将来不安の原因

 教育の無償化を含む社会政策を実施するには膨大な財政資金が必要になる。しかし我が国の財政事情はそれを許さない。最新の内閣府試算(7月18日)によると、実質2%以上、名目3%以上という高い成長率、さらに2019年10月の消費税率2%引き上げという前提を加えても、基礎的財政収支の赤字は2020年度8.2兆円も残る。

 2020年度赤字解消は国際公約だが公約実現はほとんど不可能だ。内閣府試算の▲8.2兆円の実現すら危うい。アベノミクスの過去実績から言って成長率の前提は非現実的だ。詳しくは書かないが、国債利払いの前提になる名目金利(国債利回り)想定も低すぎ、2020年まで日銀が量的緩和を続け国債を買い支え長期金利の上昇を抑え込むことを前提にしているとしか思えない。

 しかし日銀が国債の大量買い上げ(年間80兆円)を2020年まで続ければ、日銀は900兆円近い国債発行残高のほぼすべてを抱え込むことになる。長期金利の抑圧という財政要請に応え続けるかぎり、量的緩和に出口はなく、日銀は信じられないほどの国債を抱え込み、国際的信用は大きく失墜することになる。

 国民はこの異常な財政金融政策はどこかで破たんすると恐れ、その結果、高金利・高インフレ、社会保障の大幅な削減、税と社会保険料負担の急拡大という時代が到来すると予感しているのではないか。その恐れと予感が、「将来不安」を生み出し、アベノミクスのアキレス腱でもある消費停滞の原因になっている。

 現役世代は「隠れた増税」と言われる社会保険料の増徴が大きな負担で可処分所得が増えない。育児や教育費の負担も重い。ガソリン代や電力・ガス代、通信料金負担もきつい。ベースアップも期待できない。将来の年金不安に備えるなら貯蓄を増やさざるを得ない。現役世代の消費が委縮するのは当然だ。

 一方、高齢者世代は年金給付が削られたほか、介護保険料、医療保険負担の増加で可処分所得そのものが減少している。さらなる給付削減、インフレ進行も恐怖だ。こうした「将来不安」を受け高齢者も消費を圧縮して貯蓄を温存するということになる。

 安倍総理は、アベノミクスがもたらした財政金融膨張の帰結、国民の将来不安の本質、消費停滞の現実を「謙虚に」受け止め、その実態を国民に正しく伝える必要があるのではないか。

2017年7月18日 10:23

「支持なし(無党派)層」が65%強 ――安倍一強の受け皿を築く時

(2017年7月18日筆)

 安倍内閣の支持率低下が止まらない。都議会選後の7月9日までに実施された世論調査では安倍内閣の支持率は読売新聞36%、NHK35%、朝日新聞33%,NNN(日本テレビ)31.9%と政権維持の危機ラインとされる30%に急接近した。不支持率も軒並み50%前後に急上昇した。


ついに危機ラインの30%を割り込んだ内閣支持率

 7月7日~10日に実施された時事通信による最新の世論調査では内閣支持率は29.9%とついに危機ラインの30%を割り込んだ。その後、15日~16日の実施されたANN調査でも内閣支持率29.2%と割り込んでいる(下表)。安倍内閣の支持率は戦後最低となったトランプ大統領の直近の支持率(36%)をも下回った。この調査結果に安倍内閣は震撼したに違いない。

2017年7月世論調査で安倍内閣の支持率が大幅低下、30%割れも
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 このうち時事通信の世論調査は個別面接方式で読売、朝日などの電話調査とは違い精度が高いといわれている。その時事調査の7月世論調査によると、2か月前の5月調査に比べ「支持なし(無党派)層」がさらに増加、実に65.3%に達している。「支持なし層」は歴史的な高率、大勢力となった。

 この2カ月で、通常国会で繰り返された森友学園、加計学園、共謀罪をめぐる安倍総理と自民党による反対論敵視、異論無視の強引な国会運営に嫌悪感が高まり自民支持層ですら安倍政権に愛想を尽かしたようだ。自民党のコア支持層の20%~30%が「支持なし層」に転じたとみられる(下表)。

自民支持が急落、支持なし(無党派)層が急増―時事調査では支持なしが65%超
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「とりあえずの受け皿」を得て「支持なし層」の山が動いた

 7月2日の東京都議選では「都民ファースト」という安倍一強に対する「とりあえずの受け皿」を得てこの巨大化した「支持なし層」の山が動いた。その結果、自民党は歴史的惨敗を喫した。

 今回の都議選は国政の代理選挙として戦われた感がある。その党派別投票数(下表)をつぶさに見ると、今後の国政選挙をめぐる自民党に対抗する「受け皿」勢力への期待が浮かび上がる。

都議選・得票大幅減の自民・維新と民進―受け皿は都民ファと無所属、共産
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 今回の都議選では自民党とその補完勢力の維新が約69万票減らすと同時にかつての受け皿政党・民進党が30万票減らした。国会の与党の主軸と野党の主軸がともに得票数を減らした。その一方で「とりあえずの受け皿」となった「都民ファースト」とそれに近い「無所属」が214万票も得票を増やした。

 都民ファーストなど「とりあえずの受け皿」勢力は、投票率上昇に伴う得票総数の増加分(106万票)と自民・維新、民進の既成与野党の得票減約100万票のすべてを吸収し大勝利したことになる。ちなみに投票率は13年6月選挙の43.50%から51.28%へ上昇した。


「受け皿」は安倍総理の国権優先、分配軽視に対抗する旗を

 与野党の既成政党が大敗、できたばかりの新党が地滑り的勝利を収める構図は、6月に行われたフランスの国民議会選挙に酷似している。選挙直前に創立されたマクロン新大統領の新党「共和国前進!」は既成政党である共和党、社会党を打ち負かし、577議席中308議席を獲得、過半数を大きく上回った。対して与党・社会党系は283議席から30議席へ泡沫政党並みに転げ落ちた。

 「共和国前進!」の候補者は既成政党からの鞍替え組も少なくなかったが中心は政治経験の少ない新人たちだった。小池百合子新都知事の「都民ファースト」にも民進党、自民党からの鞍替え候補者が含まれていたが多くは選挙経験のない新人だった。マクロンは社会党、小池氏は自民党、いずれも与党を飛び出し新党をつくった。国政と地方の違いはあれ、既成政党を忌避した点はよく似ている。

 日本の最大勢力である「支持なし層」は、国政レベルでも手垢がついていない清新な政治家、政党を求めている。都議選の投票結果はそれを明らかにした。こうした清新な「受け皿」を求める「支持なし層」の期待を取り込む与野党再編が始まると予想される。

 その「受け皿」の旗は、安倍総理とその周辺による歴史修正主義、国権・軍事優先、成長至上・分配軽視、金融放漫・財政均衡無視に厳しく対抗する旗になるはずだ。それを新保守リベラルと呼ぶか、中道リベラルと呼ぶか。いずれにせよ、遅くとも来年12月には衆院選挙が実施される。それに向け、かつての日本新党や新党さきがけのような清新な「受け皿」が誕生することを「支持なし層」の一員として小生は大いに期待する。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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