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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年6月11日 10:53

スルガ銀行はマイナス金利が生んだ異形のあだ花

(2018年6月11日筆)

 地銀の中堅、沼津市に本店があるスルガ銀行は日銀の超低金利政策(今はマイナス金利)が響いて多くの地銀が利益低下に悩む中、6年連続で増益を記録、金融庁の覚えもめでたい銀行として知られていた。6年前まで600円台だった株価も2600円台に上昇した。


「優良株」の株価が半値以下に、投資用アパマン融資に多額の焦げ付き

 ところが一転、スルガ銀行の株価は急落、1月高値2569円から6月8日終値1085円まで58%も下落した。下落の始まりは女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社がオーナーに約束した賃借料の支払いができていないことが判明したことだった。スルガ銀行は「かぼちゃの馬車」のオーナーに建設資金を融資していた。

 オーナーの多くは副収入目当ての30~50歳のサラリーマンだったが、スルガ銀行は審査書類を改ざんして1億円~2億円もの建設資金を融資していたという。融資金の返済原資となる運営会社からの賃借料収入が途絶えてしまえばサラリーマン・オーナーは返済不能になる...。

 その後、「カボチャの馬車」の運営会社は破たん、シェアハウス・オーナーに返済不能者が続出した。スルガ銀行は融資焦げ付きに備え貸倒引当金を積み増さざるを得ず、前2018年3月期決算で異例の修正を行う結果となった。修正前210億円だった連結純利益を69億円に修正、84%もの大幅減益(17年3月期純利益426億円)となった。

 貸倒引当金はまず、シェアハウス・オーナー向け融資(総額2035億円)に対して420億円が計上された。さらにシェアハウス向け以外の投資用アパート・マンション融資にも問題融資があることが分かり、これに対しても155億円強の貸倒引当金が追加計上された。

 スルガ銀行の増益の牽引者となっていた融資案件に大きな疑念が生じ貸倒引当が急増したのだから、株価が半年で半値以下になって当然だった。


中堅のスルガが地銀最大・横浜銀行を上回って本業利益トップ、なぜ

 スルガ銀行のそれまでの業績は目を見張るものがあった。週刊東洋経済「銀行員の不安」特集(18年6月2日号)の「地銀105行本業利益ランキング」が興味深い。本業利益は預貸業務と手数料等役務業務の利益合計で示されるが、このランキングでスルガ銀行は16年度、17年度連続してトップだった。

 2017年度、スルガ銀行は643億円の本業利益を挙げた。2位は538億円の横浜銀行だが、横浜の17年度末貸出金残高は10.7兆円と地銀最大だ。これに対してスルガ銀行の貸出金残高は3.2兆円と横浜の3分の1程度に過ぎない。そのスルガ銀が規模で3倍の地銀の雄・浜銀の本業利益を100億円以上も上回ったのだ。

 本ランキングは地銀単体ベースの数値で持ち株会社ベースではわからない地銀105行の本業利益が示されている。ちなみに2017年度は105行のうち半分近い48行が本業赤字だ。経営に不安のない信用力が支えの地銀だが、その半数近くが赤字というのは由々しき事態だというほかない。

 スルガ銀行は東の地銀最大・横浜銀行、西の地銀最優良と称された静岡銀行(本業利益5位275億円、貸出金残高8.2兆円)に挟まれた、預金残高ランクで30位前後の中堅地銀に過ぎない。そのスルガ銀行がなぜ、浜銀、静銀という両隣の有力銀行を上回る本業利益を稼ぎ出すことができたのか。


貸出金利回りは地銀平均の3倍以上、高い貸出金利のアパマン融資で稼ぐ

 その秘密は、3.61%(18年3月末)にもなる高い貸出金回りにある。地銀平均の貸出金利回りは年々低下し現在は1%強に過ぎない。スルガ銀行は中小企業向けや自治体向けなど貸出金利引き下げ競争が激しい融資から撤退、高い貸出金利が期待できる個人向けローンに傾斜した。現在、個人ローン比率は90%超に達している。これが地銀平均の3倍以上の貸出金利回りを実現する原動力になった。

 スルガ銀行の個人ローンの主力は通常の住宅ローン(融資残高2兆円超)だが伸びが鈍化、それを補うため単身女性や転職者、非正規社員向け信用力は低いが高い貸出金利となる分野へも住宅ローンを拡充したという。その結果、通常の住宅ローンでも3.45%(17年9月末)の貸出金利回りを確保している。

 その一方、「パーソナルローン」と称する個人ローンを拡販、融資残高約9084億円(17年9月末)の規模に育て上げた。パーソナルローンの貸出金利回りは5.79%にもなる。その中核が「有担保パーソナルローン」と称する今回の問題となったシェアハウス向けを含む個人向け投資用アパート・マンション融資だった。この「有担保パーソンローン」は住宅ローンを上回る高い貸出金利となり、スルガ銀行の増益に貢献していた。


地銀の半数近くが本業赤字の中、スルガ銀行ひとりが儲けるなどあり得ない

 地銀の経営環境は厳しい。少子高齢化で地域人口が大きく減少、新規融資先が減っている。日銀の超低金利政策もあって地銀の平均貸出金利は直近0.95%と1%割れだ。国債への運用利回りもゼロ%近辺、前期は米国債の下落で国債等運用損益は大幅赤字となった地銀も少なくなかった。

 教科書には貸し倒れリスクの高い融資案件の貸出金利が高くなるのは理にかなっているとある。スルガ銀行がハイリスク融資先の審査・管理を徹底して貸倒れリスクを小さくして高収益を上げたのなら評価される。しかし実際、スルガ銀行は融資先の返済能力や担保を評価するための貸出審査書類を改ざんしてまで貸し込んできたのだ。高い貸出リスクを偽って高い貸出金利を設定してきたのだ。

 すべての地銀が苦しんでいる中、ひとりスルガ銀行だけが高利回りビジネスモデルで成功するなどあり得えるのか。都心部ですら空き家が問題になっている住宅の過剰供給時代に、高利回りアパート・マンション融資が持続できるか疑わしい。スルガ銀行のアパマン融資による高利回り経営は、日銀の量的金融緩和によるバブル融資の一角、マイナス金利がもたらした異形のあだ花だったようだ。

2018年5月28日 11:21

わが庭のアジサイがほぼ満開です

(2018年5月28日筆)

 「やるの止めるの」の米朝会談、責任をどうとる「モリカケ疑惑」の総理に財務相、それにアメフト・タックル反則事件です。これでテレビのワイドショーが大騒ぎしているうちに、わが庭のアジサイが一斉に咲き始めました。閑話休題、今回はわが庭のアジサイの話です。


40年以上前、亡き父が移植したガクアジサイが始まり

 さきほど家内と庭に植わっているアジサイの株数を数えました。垣根、玄関、庭先のアジサイが全部で18株(うち1株は小さなアマチャです)ありました。垣根のアジサイが最も多いのですが、咲き揃えば通りすがりの人が「きれいですね」と話しかけてくれます。

image1.png
 他に植木鉢に5株が植え付け予備軍として待機しています。その植木鉢の一株は母の日に長男夫婦が贈ってくれたピンクのガクアジサイです。カーネーションに代わってピンクのアジサイを母の日に贈るという新しい習慣ができているのでしょうか。咲き終わったら陽当たりの良い垣根沿いに植え込もうと思っています。

 いまさらながらですが、株を数えているうちにアジサイといってもいろんな種類があることが分かりました。ネットで調べると大きく分けて2つ、額縁のように花芯の周りに咲く「額咲きのアジサイ」(ガクアジサイ)、それと花(実は額の花)がたくさん集まって咲いている「手毬咲きのアジサイ」(本アジサイ)です。

 わが庭には最初、亡き父が40年以上前に自宅から持ってきて移植した水色のガクアジサイしかなかったのですが、家内が鉢植えで買ってきて観賞したあと植え込んだり、差し芽をして育て植え込んだりして徐々に増えていきました。

 額の花が一段と長いガクアジサイの「墨田の花火」、ちょっと珍しい八重咲きの「万華鏡」は、珍しいからといって鉢植えで買ったアジサイです。本アジサイでは、平凡ですが家内が好きな水色とピンクの「手毬咲き」があります。これも鉢植えで買って植え込みました。

 花の色は、オーソドックな藍色とピンク、白色に水色、深い紅に深い青とさまざまです。最近は深い紅のアジサイの妖艶な美しさが気に入っています。

 ネット情報の受け売りで申し訳ないのですが、アジサイには「額咲き」「手毬咲き」、「墨田の花火」「万華鏡」「アマチャ(甘茶)」など風物詩のような和語形容詞が付いていて楽しいですね。


花言葉は「移り気、変節」から「一家団欒、元気な女性」へ変化

 家内も小生も華やかで鮮やかなアジサイの花が大好きで見るだけで気持ちが明るくなります。これからも鉢植えの移植、差し芽を続け、垣根をアジサイで埋め尽くし、通りすがりの人にも楽しんでもらいたいと思っています。

 最後にひとつだけ、アジサイの花言葉がどうにも気に入りません。花の色が変化していくことから「移り気、浮気、変節」、青や藍色のイメージから「冷淡、冷酷、高慢、無情」という否定的な花言葉が付いているようです。

 しかし最近は、額の花が寄り添って咲いていることから「一家団欒、辛抱強い愛情」、赤やピンクの花イメージから「元気な女性」という好意的な花言葉も出てきているようです。母の日にピンクのアジサイを贈るという新しい習慣ができたのは、そうした好意的な花言葉のおかげなのでしょう。

2018年5月14日 13:59

誰が信じるのか、安倍政権の「2つの政策目標」

(2018年5月14日筆)

 安倍総理は「信なくば立たず」と繰り返している。しかし、国民の信頼はいまや地に堕ちている。読売新聞の4月世論調査でも内閣不支持率は53%に達し、不支持の理由の第一は「首相が信頼できない」で62%にもなる。安倍総理シンパのメディアといわれる読売ですらそうだから、他は推して知るべし、だ。

 「首相が信頼できない」と多くの国民が思う理由は、森友学園、加計学園など安倍総理のお友達を優遇する不公正な行政への疑惑にある。小生にも首相が信じられない理由は多々あるが、中でも重要なのはいよいよ信じられなくなってきた安倍内閣の金融・財政に関する「2つの政策目標」の行方だ。


7度目の達成時期先送りは回避、信じられない2%物価目標の実現

 そのひとつはアベノミクスの主柱である日銀による2%物価目標の達成だ。2%物価目標の達成は安倍政権発足直後の2013年1月に公表されたの政府・日銀の共同声明で両者の共通目標になっている。

 黒田総裁は2013年4月の就任後の大規模緩和の実施に当たって2%物価目標の達成時期を2年後の2015年度に置いた。だが2年後になっても目標を実現できなかった。その後も達成時期を明示してきたが実現できず、できないことの言い訳を幾度も変えながら6度も達成時期を先送りしてきた。

 6度の先送りで専門家の中にも量的緩和(日銀による長期国債の購入)という政策手段の即効性に疑いを持つ者も増えた。いつまでも実現できない2%物価目標自身にも疑いの目が向けられるようになっている。そうした中で達成時期の7度目の先送りが発表されれば、黒田日銀への信頼も地に堕ちることになる。

 しかし、今年4月の政策決定会合で示された日銀自身の消費者物価見通しは2018年度1.3%、19年度1.8%、20年度1.8%(消費税率引き上げの影響を除く)にとどまった。2020年度になっても2%物価目標は達成できない見通しになっている。

 「2019年度頃」としていた達成時期を先送りせざるを得ず7度目の先送りが必至となっていたが、7度目の先送りは日銀の金融政策の信用を大きく傷つける結果を招く。日銀が信じられなくなれば、大規模な量的緩和によって「人々のインフレ期待に働き掛け物価目標を達成する」という日銀の金融政策そのものが疑われ危うくなる。その結果、インフレ目標も実現できなくなる。


物価目標の達成時期を削除、だらだら続き長期化する量的緩和

 それを恐れてか、黒田日銀は4月公表の「展望レポート」から2%物価目標の達成時期そのものを削除した。達成時期は削除したが、「2%の物価目標が達成されたとしても、2%以上の物価上昇率が実績値で安定的に維持されるまで量的・質的緩和を続ける」とするコミットメント(約束)は継続するという。

 だが、消費税引き上げの影響を除いたベースで2%以上の物価上昇率を「実績値で安定的に維持する」という約束を満たすのは容易ではない。大幅な円安と資源高が併存し輸入物価が持続的に上昇する―、それ以外では実績値で安定的に2%以上の物価を実現するのは難しいだろう。

 となれば出口なき量的緩和が20年度を超えてだらだら続くのではないか。量的緩和がだらだら続けば、日銀のバランスシートに日本国債の保有残高がさらに積み上がる。その見返りに民間金融機関の日銀当座預金がさらに積み上げられる。日銀は緩和の出口に想定される当座預金への金利引き上げで多大な損失が生じるリスクがさらに強まり、自らの信用が棄損される......。


基礎的収支黒字化も5年先送りだが、実現の可能性は極めて低い

 誰も信じない目標のもう一つは、税収などの歳入で国債費を除く歳出を賄える収支を表す「基礎的財政収支の黒字化」という財政再建の目標だ。

 前回のブログにも書いたので詳しくは触れないが、安倍政権は今年6月にも新たな財政健全化計画を示し、基礎的財政収支を黒字化する目標年度を2020年度から2025年度へ5年先送りする方針だという。

 18年1月に内閣府から出された「中長期の経済財政に関する試算」によれば、名目3%前半、実質2%の成長実現ケースでも国と地方の基礎的財政収支が黒字化するのは2027年度だ。名目1%後半、実質1%強という現状に近いベースラインケースでは27年度に8.5兆円の赤字が残るという試算だ。

 いずれのケースでも2019年10月実施予定の消費税2%増税による税収増加分が見込まれている。それでも27年度の黒字化すら危ういという試算だ。にもかかわず安倍政権は黒字化試算から2年前倒しした25年度に黒字化を達成するという目標を立てるというのだ。そんな目標を誰が信じるのだろうか。


総理在職中だけ景気が良ければ...、19年10月消費増税も先送り?

 2025年度に黒字化を達成するには、歳入面では19年10月の消費増税を確実に実行したうえで他に新税あるいは社会保険料の引き上げが必要になる。歳出面では高齢者を対象とする社会保障費の大幅な削減が必要になる。

 いずれも国民・消費者に大きな負担を強いることになるが、「選挙が第一」の安倍政権がそれらを財政健全化計画の中に組み込むとはとうてい思えない。2019年10月の消費増税すら危うい。安倍政権になって2度消費増税を先送りしたが、3度目の増税先送りとなる可能性も大いにある。

 つい先日、自民党の若手議員39名が「消費増税の凍結と基礎的財政収支黒字化目標の撤廃」を求める提言を発表した。提言には「首相の意向が働いている」(朝日新聞5月12日朝刊)というのが本当なら、安倍政権が策定する財政健全化計画など信じるほうがおかしい。

 安倍総理は総裁3選に成功すれば2021年9月まで総理の職にある。それまでに東京五輪後の景気後退に耐えて2%物価目標を実現できるか、微妙なところだ。しかも基礎的財政収支の黒字化達成の2025年度には安倍総理も麻生財務大臣もその職にはいない。

 総理は日銀が量的緩和(国債購入)の長期化を利用して事実上の財政ファイナンスを継続、総理在職中、好景気が持続すればいいと思っているのかもしれない。

 2%物価目標の達成、基礎的財政収支黒字化の実現という2つの政策目標はいずれも国家運営の基本の属する目標だ。しかし安倍総理が率先してその目標実現に取り組むか疑わしい。実現を約束しても空手形、総理退任後のことなど知ったことではないということなのだろうか。

2018年4月23日 14:12

財務官僚の弱体化で財政再建が絶望的になる恐れ

(2018年4月23日筆)

 財務省では森友文書の改ざんで事務方ナンバー2の佐川国税庁長官、女性記者へのセクハラでナンバー1の福田事務次官の首が飛んだ。この後、文書改ざんをめぐる財務省の調査、森友学園への国有地払下げをめぐる大阪地検特捜部の捜査が終わり、新たな財務官僚の処分が発表されるに違いない。

 財務官僚の不始末を糾弾するのはたやすいが、財務官僚は官庁の中で唯一、世界最悪の日本の財政状態を心配している官僚だ。この財務官僚の力が弱体化すれば予算は政治家たちのつかみ取り、歳出膨張に歯止めがかからず財政再建は絶望的になる恐れがある。海外投資家も日本の金融機関も日本国債を敬遠、買い支えるのは日銀だけとなり、日本財政の信用は失墜することになる。


麻生財務相辞任より財務官僚の弱体化のほうが影響深刻

 佐川氏、福田氏の任命責任、財務官僚の監督責任を問われ、麻生財務大臣まで辞任すれば財務省は完全崩壊すると心配する向きもあるが、財政再建にとって麻生氏はさほど重要な存在ではない。

 麻生氏は一見、財政再建に強い使命感を持つ財務官僚の味方に見える。しかし実際は、歳入の足枷になる消費増税先送りや軽減減税率導入を最終的に容認、さらに補正予算を乱発するなど歳出抑制には腰が引けている。頼りにするは日銀の国債購入と国債のゼロ金利政策という財務大臣という風に見える。

 そして麻生氏は2020年度基礎的財政収支の黒字化という国際公約を反省もなく放擲した。基礎的収支黒字化は2025年度へ5年先送りする方針のようだ。だが2025年度でも黒字化が実現できると思っている識者は少ない。

 だいいち、2025年度には安倍総理も麻生財務相もその座にはない。麻生氏は財政再建などうでもよいと思っている安倍総理と同類なのだ。財務官僚たちは、部下に責任を取らせ自分は責任を逃れる麻生氏、財政再建は見せかけだけという財務大臣など辞めてもらって結構と内心思っているのではないか。


2019年度本予算は消費増税対応の景気対策込みで100兆円突破

 それはさておき、7月の定期人事が終われば財務官僚は2019年度予算の編成に取り組むことになる。この予算編成は2019年10月の消費税率の2%引き上げを控え、財政再建にとってことのほか重要な予算編成になる。

 安倍総理はこの2月、関係閣僚に消費増税に伴う景気後退に備えた景気対策の検討を指示した。安倍総理には14年4月の3%消費増税時の景気対策(2013年度補正予算5.5兆円)が小さ過ぎ消費の反動減を補えなかったという後悔から対策規模をこれよりさらに大きくしたい、という意向があるという。

 しかも、その景気対策を補正予算として打つのではなく、2019年度の本予算に組み込んで打つという。5.5兆円以上の景気対策を本予算に組み込めば、歳出削減がなければ、2019年度の本予算は103兆円を上回ることになる。(2018年度の本予算97.7兆円に景気対策を上乗せして計算。)

 本予算と補正予算合わせた決算ベースの歳出総額の最大はリーマンショック後の2009年度の101兆円だが、これを2019年度は軽く上回る。

 消費税2%引き上げによって財源が増えるというが、その増収効果は約5兆円強にすぎず5.5兆円以上の本予算上乗せ分を下回り、財源には足りない。しかも期待の消費増税による増収分は、その使途がすでに変更されている。


膨らんだ歳出は常態化、無責任な財政運営続けば市場の反乱も

 増収分5兆円強のうち1兆円は「税と社会保障の一体改革」当時からの約束で社会保障の充実に充てることが決まっている。財政赤字の削減に充てるはずだった残り4兆円のうち1.7兆円は新たに教育の無償化の財源となった。軽減税率導入による税収減1兆円の手当てもまだ完全についていない。

 社会保障の充実と教育の無償化を合わせ2.7兆円は恒常的な歳出になる。加えて景気対策としていったん本予算に計上された歳出は既得権益化するのが民主主義の悪弊だ。安倍総理がトランプ大統領の取引外交に屈し、防衛兵器の追加購入や農畜産物輸入の拡大に対応する予算計上を迫られる懸念も残る。

 安倍政権は2020年度も東京五輪後の景気後退に備えた景気対策込みの本予算を組むという。103兆円にも膨らんだ本予算が常態化する可能性が高く、その削減は容易ではない。

 安倍総理と麻生財務大臣は6月に作成される経済運営の「骨太方針」でどのような絵を描くのか。恒常的な歳出の膨張にどのように歯止めを掛けるのか、不確かな成長下、税収の安定的拡大ができるのか、基礎的財政収支の黒字化はいつになるのか、が問われる。

 9月の総裁選挙で3選を実現、安倍総理続投となっても任期は2021年9月までだ。在任中だけよければいいという無責任な財政運営になっては困る。財務官僚が弱体化した現在、安倍政権による財政再建軽視の姿勢がその「骨太方針」に現れれば、国内外の金融市場のプレーヤーたちが反乱を起こす可能性がある。

 そうなると市場では日本国債が売られ長期金利が急上昇、国債利払いの急増から財政破たんが現実のものとなる。これを防ぐには投資家に売られた国債を日銀が買い続けるほかない。そうなると量的緩和の出口がなくなってしまい、日銀はインフレ転換時の引き締め手段を失うことになる。

2018年4月 9日 13:36

安倍総理はトランプの「取引外交」に対峙できるか

(2018年4月9日筆)

 安倍総理は「日米はこれまでもこれからも100%共にある」「日米同盟はかつてないほど強固だ」と繰り返し述べてきた。米国民の半分以下の支持しかなく、何をしでかすか分からないトランプ大統領を相手にそんなことを言って「安倍総理、大丈夫ですか」と心配していた国民も少なくなかっただろう。


突然の米朝首脳会談、鉄鋼の対日制裁関税と2度の「裏切り」

 その国民の心配が現実のものとなった。3月9日、安倍総理と歩調を合わせ北朝鮮とは「対話のための対話はしない」と言っていたトランプ米大統領が突如、金正恩委員長と初の米朝首脳会談を5月に開催すると表明した。安倍総理がこれを知ったのは発表の直前だったようだ。

 さらに3月22日、米通商法301条(不公正な貿易慣行への制裁)に基づく中国への制裁関税を発表した日、トランプ大統領は日本にも言及した。「日本の安倍首相らは『こんな長い間、米国をうまく騙せたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」とツイッターに書いたのだ。

 同じ日、トランプ氏は米通商拡大法232条(米国の安全保障を脅かす恐れに対する制裁)による鉄鋼・アルミの関税引き上げを発動した。その対象国として残ったのは中国、ロシア、日本の3か国だった。明らかに米国の潜在敵国である中国、ロシアならわかるが、米国と「かつてないほど強固な同盟関係にある」はずの日本が制裁関税の対象国に残ったのだ。

 米朝首脳会談の発表直前まで安倍総理は「対話のための対話をしない」という盟約を違えることの説明を米国から受けられなかったという。鉄鋼・アルミ関税では中国、ロシアと同じ制裁扱いという仕打ちをトランプ氏から受けた。

 安倍総理は「100%共にある」と信頼したはずのトランプ大統領に2度にわたって裏切られた格好だ。


在韓米軍撤退、鉄鋼制裁関税で脅し通商で利をとったトランプ

 ただトランプ大統領は、安全保障と通商の二つの外交手段を絡めた二国間の取引(ディール)を重視、手段を選ばず自ら支持者のための「アメリカ第一」を貫く。知日派のジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授が「トランプ氏は同盟関係を重視する第2次大戦後の歴代大統領とは大きく異なる。明確な戦略より取引を重視する」(「朝日デジタル」2017年10月27日)と評した異形の大統領であることはよく知られている。

 トランプ氏は「取引」のためなら安全保障上の恐れがない同盟国でも容赦がない。韓国との米韓FTAの再交渉がその好例だ。トランプ氏は北朝鮮と緊張関係がある同盟国・韓国に対して、①在韓米軍の撤退をほのめかす、②鉄鋼、アルミ制裁関税の適用除外を餌にするなどして、韓国側から米国基準のまま米車の韓国内販売枠を倍増させるなどの譲歩を引き出した。再交渉の付随文書で韓国側に通貨安誘導を封じる「為替条項」も飲ませたという。

 しかもトランプ氏はFTA再交渉の最終合意を先送りした。合意先送りは、韓国の文在寅大統領が南北首脳会談で北朝鮮包囲網を崩す融和策に踏み切るのを牽制するためだという。トランプ氏には米韓同盟すら取引材料なのだ。


安倍総理もトランプ「取引外交」の餌食になるのか 

 4月17日、18日、マイアミのトランプ大統領の別荘で6度目となる日米首脳会談が開かれるが、ゴルフでのスキンシップを過信すると安倍総理は韓国の文大統領と同様、トランプ大統領の「取引外交」の餌食になる恐れがある。

 3月25日の「ワシントン共同」によると、河野外相が米朝首脳会談開催の前提条件として「日本が射程に入る中距離弾道ミサイルの放棄と日本人拉致問題の解決を北朝鮮に追加で約束させるよう要請した」と報じている。これに対して北朝鮮の実質交渉担当者と見られるポンペオCIA長官(次期国務長官)は「現実性が落ちる」と河野氏の要請を一蹴したという報道もある。

 首脳会談で安倍総理も中距離弾道ミサイルの廃棄や日本人拉致問題の解決をトランプ氏に持ち掛けるのだろう。しかし米国にとって米朝交渉の最優先は「北朝鮮の核と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の米国への脅威除去」だ。米国への脅威にならない中距離弾道ミサイルの廃棄や安倍総理自ら北朝鮮と交渉すべき問題である日本人拉致問題などお門違いだろう。

 それよりトランプ氏にとって重要なのは対日貿易赤字対策ではないか。韓国、中国に続いて日本との2国間通商交渉で成果を上げればトランプ氏は支持率を回復させることができる。苦戦が予想されている「中間選挙」にも勝つことができる。だからこそわざわざ「米国は長い間、安倍総理にうまく騙されてきた」とツイートした。


自動車、農畜産物の市場開放、最先端兵器購入を迫られる

 今回のトランプ・安倍首脳会談では取り上げられなくても、近い将来、中国に対するのと同様、不公正取引の是正を迫る通商法301条の適用をちらつかせ自動車や農畜産市場の開放に焦点を当てた日米の2か国間FTA(自由貿易協定)を迫られるに違いない。

 対日貿易赤字解消という名目で弾道ミサイル防衛システムやステルス戦闘機など米国製の最先端兵器の購入を迫ってくることもあるだろう。韓国に対するのと同様、日本の円安誘導を封じる「為替条項」の設定などが取り上げられる可能性もある。

 トランプ大統領のほうには対日取引材料は豊富にある。鉄鋼、アルミの制裁関税からの適用除外という餌だけでなく、中距離弾道ミサイルの放棄、日本人拉致問題など日本が要請する対北朝鮮対策すらトランプの取引材料になり得る。

 これに対し、安倍総理の側にトランプ氏が持つ取引材料に対抗できる取引材料がどれぐらいあるのか。制裁に対する対抗措置もとらず、スキンシップにだけ頼ってトランプ大統領からお目こぼしを頂戴するだけの安倍外交ではトランプの「ディール外交」に押しまくられるだけになる。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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