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大西良雄ニュースの背後を読む

2018年8月20日 14:43

高齢所帯には日銀の2%物価目標など要らない


(2018年8月20日筆)

 日銀は「物価はすべて金融的現象だ」「マネーを増やせば物価は上がる」とするリフレ派の主張を元に異次元の量的・質的緩和を継続してきた。しかし、消費者物価上昇率は、5年以上にもなる異次元の金融緩和にもかかわらず、目標の2%に達しない。

 物価が上がらない理由を、時には消費税率引き上げの反動、時には原油価格の下落のためだと日銀はいってきた。直近では、省力化投資の拡大やインターネット通販の拡大、デジタル技術の進歩など新手の理由を挙げつらい、物価の下押し圧力になっているという。

 しかし、「物価はすべて金融的現象だ」というなら、他に物価が上がらない理由を挙げつらうのはおかしい。マネーを増やしても物価は上がらなかった、異次元の金融緩和という手段に狂いがあったと反省するのが日銀のとるべき態度だと思うが、口が裂けても「狂いがあった」などと黒田日銀総裁と安倍総理はいうまい。


国民の「デフレ慣れ」より家計の「値上げ許容度」の低下が原因

 それはさておき、気になるのは日銀が物価の上がらない理由の一つに、デフレの15年間(そのうち12年間は自民党政権)に国民に染み付いた「デフレマインド」を強調していることだ。

 日銀の「経済・物価情勢の展望(2018年7月)」にも「物価上昇率の高まりに時間を要している背景には、長期にわたる低成長やデフレの経験から、賃金・物価が上がりにくい考え方や慣行が根強く残っていることがある」と書かれている。国民が緩やかな継続的な物価下落(デフレ)に慣れて脱出できない、デフレ慣れ、デフレ好みの状態を続けているから賃金が上がらず、連れて物価も上がらないという意味だろう。

 しかし物価が上がらないのは国民の「デフレ慣れ」が原因ではなく、家計の「値上げ許容度」が低下しているためだ。

 勤労者所帯では、アベノミクス以降も賃上げが消費税上昇分を含む物価上昇に追い付かないうえ、社会保険料負担の増加などで可処分所得が増えてない。賃上げが見込めない高齢者所帯では、社会保障給付が大きく削減され実収入そのものが減少している。

 そのうえ原油価格や農畜産物価格などが上昇、生鮮食品や電力料金、ガソリン代など生活必需品の物価が上昇している。携帯、パソコンなど通信料金、医療費も下がらない。この状態では消費者は企業の値上げを受け入れることができない。家計の値上げ許容度は低下せざるを得ない状態にある。


消費の主役・高齢所帯の「値上げ許容度」は大きく低下している

 家計の値上げ許容度については、特に、その多くが年金生活となっている高齢所帯の現状に触れておかねばならない。下表は家計調査年報に基づく主として年金が収入源となっている、所帯主が65歳以上の無職所帯(二人所帯)の1か月平均の収入と支出だ。

所帯主が65歳以上の無職所帯―社会保障給付の減少が痛手(1か月当たり年平均、単位円)
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 アベノミクス以降、高齢所帯は年金など社会保障給付が年約14万円以上減ったことを主因として実収入が年17万円以上も減り消費縮小を余儀なくされている。高齢所帯は消費性向(可処分所得に占める消費支出の割合)もエンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)も上昇した。

 唐鎌直義・立命館大教授が「国民生活基礎調査」をもとに分析した結果によれば、65歳以上の高齢者がいる653万所帯の貧困率(生活保護水準以下)は2016年には27%に上昇、女性独居の高齢者250万所帯の貧困率は56%超にもなるという。こうした貧困高齢所帯の家計に「値上げの許容度」などあるはずがない。

 実は日銀の2%物価目標にとって見逃せない障壁のひとつはこの高齢所帯の増加にある。高齢所帯の増加に伴い2000年以降、総消費支出に占める60歳以上の高齢所帯の比率は30%台から50%台に上昇している(家計調査)。いまや消費支出の主力部隊となった高齢所帯の値上げ許容度が低下しているという現実を政府・日銀は直視すべきだろう。


賃金と物価好循環の外側にいる高齢所帯、年金目減りも進行

 第一生命経済研究所の星野卓也氏は「伸びない物価を年金制度から考える」とする18年7月のレポートで「現行の年金制度と消費市場における高齢者の増加が物価上昇の妨げになっていると疑っている」と書いている。

 年金生活者は、日銀が想定する「需給の引き締まり→それに伴う賃金の上昇=雇用者所得の増加→販売価格の引き上げ」という好循環メカニズムの輪の外側にいる。高齢者の消費に占めるシェアが上昇、現行の年金制度の枠組みは高齢者の物価上昇への耐性低下、ひいては企業の価格転嫁への躊躇につながっているのではないか、と星野氏はいうのだ。

 星野氏は高齢者の物価上昇への耐性低下の背後に「年金の実質目減り」があると指摘している。星野氏は、続く18年8月のレポート「なぜマクロスライド未発動でも年金は実質目減りしているのか」で、消費者物価(総合)上昇率でデフレ―トされた2018年度の実質年金給付額はアベノミクス前の2012年度に比べ6%程度低下したと分析している。

 賃金・物価が上昇しているのに年金給付額が増えないどころか減少する...。そうした結果をもたらす現行の複雑な年金計算ルールについては上掲の星野レポートを参照されたい。

 賃上げがない、年金が目減りする高齢所帯にとっての消費者物価とは、生鮮食品、エネルギーを含む総合指数であり、消費税率引き上げの影響を除外しない消費者物価指数である。賃金・物価の好循環の外側にある高齢所帯が消費の主役であり、高齢所帯には日銀が目標とする2%の消費者物価上昇率もまた許容の範囲を超えていることを知らねばなるまい。

2018年8月 6日 13:42

「引き締め」なのに「緩和継続の強化」という羊頭狗肉

(2018年8月6日筆)

 日銀は7月31日の金融政策決定会合で2016年9月の「長短金利操作(イールドカーブコントロール)の導入」以来の政策修正に踏み切った。

 その声明文のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっている。タイトルを素直に読めば「金融緩和を強化する」という解釈になる。だが声明文の先を読んでいくと緩和どころか引き締め方向に転ずると言っているように見える。こういうのを羊頭狗肉(羊の頭を掲げて犬の肉を売るという中国の故事)というのだろう。

2%物価目標にこだわるなら2021年度以降まで緩和継続?

 「強力な金融緩和継続」という表現に適合するのは、「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」と述べた、政策金利のフォワードガイダンス(先行きへの案内、指針)の部分だ。しかしこれも「当分の間」とはいつまでか判然としない。

 日銀はこれまで消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合、消費税引き上げの影響を除く)が2%を安定的に持続するまで緩和を継続するといってきた。しかし、同時に発表された「経済・物価情勢の展望」では政策目標である消費者物価の見通しを下方修正している。

 消費者物価上昇率の見通しは18年度1.1%、19年度1.5%、20年度1.6%に変更された。見通しどおりだと2%物価目標の実現は2021年度以降になる。黒田総裁を再任した安倍総理の3期目の任期満了は2021年度だが、2%物価目標にこだわる限り、安倍総理の任期中は「強力な金融緩和を継続する」ことになる。

 ただ声明文には「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえて」とあるから、「当分の間」とは2019年10月の消費税率引き上げ後とも読め、消費税引き上げ後には金融緩和の解除を検討するということになる。しかし、消費税引き上げ後は消費減少から物価の反動下落が予想され、2%物価目標の達成が危うい。そんな中、緩和を解除するとすれば「2%物価目標」とはなんだったのか、疑われても仕方がない。

ステルステーパリングの後、長期金利の変動幅を拡大、「ひそかに利上げ」か

 黒田・日銀執行部の本意は「ひそかな緩和政策の修正」にあると思われる。声明文では「10年物国債金利(長期金利)は上下にある程度変動しうるものとし、買い入れ額については弾力的な買い入れを実施する」と書かれている。

 長期国債の買い入れ額については16年9月の長短金利操作の導入以降、購入量をひそかに減少させて来た。年間80兆円の長期国債の購入目標だったが現在では40兆円へ半減した。これを、購入削減を明示しないステルス(ひそかな)テーパリングと呼ぶが、半減しても物価には影響はなかった。国債購入にこだわるリフレ派には皮肉な結果だった。

 さらに今回は金利の修正にも踏み込んだ。「金利は上下にある程度変動しうるもの」と書き加え、記者会見で黒田総裁は「変動幅はおおむねマイナス0.1%~プラス0.1%の幅から、その2倍程度に変動しうる」と述べた。市場では、日銀が長期金利の上限をプラス0.1%から0.2%へ引き上げると解釈、長期金利は0.04%程度から一時0.145%へ急騰した。この急騰は世界の金利上昇にも波及した。

 なお短期の政策金利に絡んで黒田総裁は、銀行の日銀当座預金残高のうちマイナス金利が適用される政策金利残高を現在の10兆円程度から5兆円程度に半減させると語った。


超低金利、マイナス金利長期化による副作用にもようやく配慮

 金融政策決定会合では、長引く超低金利あるいはマイナス金利による副作用に配慮せざるを得なくなっているようだ。副作用の第一は、金利が低いため新規国債の売買が不成立となるなど国債市場が機能不全に陥っていることだ。この副作用には日銀は金利の変動幅(つまり国債価格の上下変動幅)を広げることで対応することになった。

 副作用の第二は、地銀を筆頭に貸出金利が低下して預貸利ザヤが縮む一方、国債への運用利回りが極度に低下、経営が悪化している。金融機関経営の悪化で金融仲介機能が低下するという副作用だ。これに対し、国債利回りの上限引き上げ、マイナス金利適用の日銀当座預金残高の半減(金融機関の負担軽減になる)によって応えるということになった。

 以上、副作用に配慮したと思われる政策変更に対して、量的緩和が物価を引き上げると信じるリフレ派の原田、片岡の2人の審議委員が反対票を投じた。両氏は、今回の政策修正が「2%物価の安定的持続」という目標をあいまいにする、ひいては日銀による国債の大量購入を継続、時には拡大する量的緩和を否定するのではないかと感じたのだろう。


総理が送り込んだリフレ派が獅子身中の虫になる時

 リフレ派に配慮してか、黒田総裁は、2%という物価目標そのもの、これを実現するための質的・量的緩和という政策手段が間違っていたのではないかという疑問に対して「これまでの金融政策が間違っていたとは全く思っていない」と強気の姿勢を崩さなかった。

 さらに今回の政策修正が緩和の出口に向かう一歩になるとする見方に対して、「早期に金融緩和の出口に向かい金利を引き上げるという一部の観測はこれ(今回の修正)で完全に否定できた」(日経8月1日付)と語ったが、総裁の悩みは深いのではないか。

 黒田日銀は大胆な量的・質的緩和を開始してて5年経過しても2%物価目標の達成が見通せない。2022年4月という自らの総裁任期中に目標を実現できるかもわからない。

 さらに日銀は、国債購入の縮減、停止、政策金利の引き上げ(引き締め)に向かう米英、EUの中央銀行から大きく取り残された。

 そして40兆円に減額した国債購入額だが、購入額は新規国債発行額(財政赤字額に相当)をなお上回る。日銀の国債保有残高の累増は止まらず、緩和の出口での日銀損失の拡大が懸念される。さらに安倍政権の人気取りの財政拡大、放漫財政を低金利で支えているという日銀への批判も絶えない。

 日銀の政策決定は、総裁、副総裁2名、審議委員6名、合わせて9名の合議によって行われる。安倍総理は副総裁や審議委員の交代にあたって原田、片岡審議委員、若田部副総裁と次々にリフレ派を送り込んだ。リフレ派は物価目標達成のために財政拡大を主張、財政赤字拡大も辞さずという姿勢のようだ。

 5年前、日銀は2%物価目標を金融緩和によって早期に実現する、政府は持続可能な財政構造を確立するという日銀と政府の共同声明(アコード)が結ばれた。リフレ派の主張は「持続可能な財政構造の確立」を反故にするものだ。黒田日銀執行部は、政府に財政規律の回復を促す一方、緩和政策を徐々に修正、緩和の出口で発生するショックを和らげる方向にひそかに動きたいと考えているのではないか。

 しかし、安倍総理が送り込んだリフレ派の面々が日銀のこうしたステルス作戦に立ちはだかり、黒田日銀の「獅子身中の虫」になるのかどうか、注意を怠れない。

2018年7月23日 10:13

酷暑の中、ブルーベリーの摘果を楽しんでいます

(2018年7月23日筆)

 暑い、異常に暑い。高齢者は暑さを感じにくくクーラーをつけないので熱中症にかかりやすいといわれます。小生夫婦、高齢者ですが暑さを十分すぎるほど体感、日中は居間、夜は寝室と29度の温度設定でクーラーをかけっぱなし。今月の電力料金は6月の3倍以上にもなりそうで、心配です。


手入れ無し、「藪状態」に広がったブルーベリー

 猛暑の中、庭ではブルーベリーの実が黒ずみ、摘果を待っています。ブルーベリーは日当たりのよい道路沿いの表庭と隣家に接する裏庭に植わっています。

 表庭は築30年、いや植樹30年、家内が市内のDIYで買って植えた1000円のブルーベリーの苗木がもとです。手入れを全くしなかったせいで、それが何本にも膨らみ「藪状態」になってしまいました。

表庭のブルーベリーの木

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この日は1.3キロの収穫でした

 裏庭は植樹3年ほどです。小生夫婦がガーデニングを唯一の趣味とするのを知ったのでしょうか、知人がプレゼントしてくれた苗木がもとです。大きな実が付いていました。ブルーベリーは一本だけだと実を付けにくいと言いますから、家内が駅裏の花屋で苗木を一本買ってつがいとして植え込みました。他に表庭のブルーベリーを2本移植しましたので、ここも「藪状態」になりつつあります。

 表庭は数年前から無数とも思えるブルーベリーの実がなり、毎年、梅雨時から摘果作業を始めています。裏庭のブルーベリーもうれしいことに今年から本格的に実をつけ始めました。まだ数は少ないのですが実が大きく摘果を開始しました。


野鳥と闘い、蚊の攻撃を避け、首、腕の疲れ、酷暑に耐え

 摘果にあたって困ったことがあります。その一つは野鳥です。野鳥は花芽をつっつき熟れた実をついばみます。特につがいで訪れるヒヨドリ、ハクセキレイ、仲間を呼び集めるオナガがわれら夫婦の天敵です。熟したブルーベリーの実を天敵に奪われないよう全体に防鳥網をかぶせました。網の隙間からはみ出し実は彼らに捧げますが、残りはすべてわれらがいただきます。

 もう一つは、背の高さ以上に伸び「藪状態」になっている表庭のブルーベリーです。特に天井付近に大きな実がなっています。これを摘果するには小生の背は低すぎ腕も短かすぎます。手製の踏み台を作りに藪の真ん中に置きこれに乗って摘果するのですが、上を見過ぎて首も腕も疲れて困ります。

 作業場が「藪状態」ですので、蚊の攻撃を避けられません。虫よけのスキンガードを手足、首筋に噴霧した上に蚊取り線香を焚いて作業開始です。余計な費用が掛かり困惑しています。

 最後はこの暑さです。今年は特に梅雨明けが早く7月の第2週から始めた摘果は猛暑の中でした。パンツまで汗にまみれ作業が終わったらすぐお風呂に駆け込みます。最初は日中に作業していましたが暑さに耐えられず、早朝5時ごろの摘果に変えました。それでもすぐ30度以上になり作業後は風呂へ直行です。水道代がうなぎ上り、この暑さ何とかしてください。

 とか言いながら、夫婦で2日ないし3日おきに摘果しています。1回の収穫は1.3キロ前後です。これまで5回摘果しましたので収穫量は計6キロ前後ではないでしょうか。あと3回は収穫できそうです。ウフフ(笑い)。


大粒の実が少ない、思い切った剪定が必要なのだが...

 ブルーベリーの実は大粒ほど甘く小粒は幾分酸っぱい。小宅の多数派は小粒です。なぜ店で売っているように大粒が少ないのか、これが最大の疑問であり悩みでもありました。

 なぜか、いつものようにインターネットで調べてみました。問題はブルーベリーを手入れせず「藪状態」に育ててしまったことにありそうです。収穫を終えた夏場と花芽が付く2~3月に枝を剪定しないから、実が付きすぎ栄養が分散して小粒になると書いてありました。

 思い切ってひ弱な枝、上に伸びた枝、あちこちに生えたシュートを剪定すれば「藪状態」が解消、少なくなった実に栄養が集中し大きな実がなる。しかも風通しが良くなる。やぶ蚊は減り、踏み台もいらない、首も腕も疲れない、防鳥網を張る作業も簡単になる。剪定は一挙両得どころか、三得、四得にもなります。

 家内はいつも大胆です。今回もブルーベリーの木を徹底的に切り刻み現状の半分に縮めてくれと言います。小心者の小生はそんなに切り刻んだら来年は実がならなくなると怯えています。日に日に剪定の夏場が近づいてきます。さあ、私はどうすればよいのでしょうか。

2018年7月 9日 15:47

日本が米中貿易戦争で「漁夫の利」を得る?

(2018年7月9日筆)

 米トランプ政権とEU、カナダ、メキシコ、ロシアそして中国の間で制裁・報復の関税引き上げ戦争が始まった。日本も鉄鋼・アルミで制裁関税の適用を受けたが、米国に対して報復関税を実施していない数少ない国となった。

 日本が対米報復を実施しないのは、対米隷属と言われても核・ミサイル・拉致をめぐる北朝鮮との緊張関係を抱える現在、日米同盟の関係悪化を避けたいというのが第一の本音だろう。第二は対日制裁が鉄鋼・アルミにとどまっているかぎり日本経済への影響は軽微であるという判断もあるのだろう。


日本企業が中国の関税引き下げ、代替輸出などで漁夫の利?

 米国対中国の貿易戦争が最も深刻だ。トランプ政権は7月6日、中国に対してのみ米通商法301条(不公正な貿易慣行への制裁)を発動、340億ドル(約3.8兆円)相当の中国製品に対して25%の追加制裁関税に踏み切った。これに対し中国も同額の報復関税を実施、米中貿易戦争がついに現実のものとなった。

 世界第1位と第2位の経済大国による制裁・報復の間隙を縫って日本が「漁夫の利」を得るという見方もある。

 第一が日本の自動車と自動車部品めぐる漁夫の利だ。中国は対米貿易摩擦への対応策として7月1日から25%だった自動車関税を15%へ、8%~25%だった自動車部品の関税を一律6%へ引き下げた。この中国の輸入関税引き下げで日本車は競争優位にある自動車部品を含め最も恩恵を受けることになる。

 第二は、中国の対米輸出品に対する日本からの代替輸出の増加だ。制裁対象の自動車、機械・機械部品、半導体・電気機械、医療機器などの中には米国が輸入先を中国から日本へ切り替える製品・部品が出てくる可能性もある。中国進出企業が自社製品を日本や韓国など関税率の低い第3国を経由して迂回輸出する場合もあり得る。

 第三は、中国による知的財産侵害は米国企業だけではなく日本企業にも及んでいる。中国が米国の制裁に屈し、外資企業の知的財産保護や現地進出企業に対する出資比率の上限緩和・撤廃に踏み切れば、そのメリットは日本企業にも及ぶことになる。

 こうした日本企業の漁夫の利を評価してか、日経平均株価は米国の対中制裁発動の後、回復に転じている。鉄鋼・アルミの制裁、最終500億ドルの対中制裁の日本経済への影響は軽微だとする判断も背後にあるのだろう。


対中制裁の拡大、対日自動車関税の引き上げで漁夫の利は消滅

 ただし、以上の「漁夫の利」は、①米国による制裁関税の規模が対中輸入額340億ドル(2週間後、500億ドルに拡大)以上に大きく拡大しない、さらに②日本が米通商拡大法232条(輸入の安全保障上の脅威に対する制裁)の適用による自動車関税引き上げ(20%の追加関税)の対象にならないことが前提条件になる。

 トランプ大統領は対中制裁拡大の姿勢を強めている。中国が報復関税を課すなら、当初の500億ドルに加え2000億ドル、3000億ドルと追加関税対象を積み増すと脅しを賭けた。これが全部実施されれば合計5500億ドルに達し、2017年の対中輸入総額すべてに25%の追加関税を課すことになる。

 対中輸入品のすべてに追加関税を課すなど荒唐無稽な話だが、対中貿易戦争に関する限り民主・共和問わず議会の大統領への支持が厚いといわれる。米中対立が先鋭化すれば対中制裁が拡大する可能性もないとは言えない。

 しかし対中制裁の拡大は中国の経済と金融に強い打撃を与えるのみならず米国経済自身にも被害が及ぶ。中国製の半導体、電子部品、機械部品を輸入し組み立ている米国内製造者が打撃を受ける。日用雑貨・衣料品からスマホなどハイテク電子機器まで消費市場の隅々まで行き渡る中国製輸入品に追加関税の影響が及び米国人の消費生活を脅かすことになる。

 一方、中国が報復関税を拡大すれば、大豆を筆頭に米国産の農畜産物あるいはシェールオイルなどの対中輸出も大打撃を受ける。さらに二大経済大国の制裁・報復の応酬が貿易の縮小を招き世界景気の減速に拍車をかけかねない。トランプ政権が対中制裁を拡大すればするほど米国経済に負のブーメラン効果が発生することになる。


自動車関税引き上げなら日本経済への影響は深刻に

 日本車に対する自動車関税の引き上げ(20%の追加関税を予定)についても楽観は許されない。トランプ氏は米商務省に命じた「自動車輸入の安全保障上の脅威」についての調査前倒しを指示、今後3~4週間以内に制裁関税を課すかどうかの判断を下すという。

 日本の自動車対米輸出額(2017年実績)は、日本からの直接輸出4.5兆円、カナダ、メキシコなど第3国生産の輸出4.0兆円、合わせて8.5兆円に上る。これに自動車部品の対米輸出額約1兆円を加えれば、総額9.5兆円に達する。20%の追加関税を製品価格に転嫁できなければ日本の自動車メーカーは約2兆円弱の利益減に見舞われる。

 その影響は鉄鋼・アルミの制裁関税による直接被害や中国への500億ドルの制裁関税による間接被害を大きく上回る。そうなると「漁夫の利」どころではない。安倍総理の対トランプ交渉力が問われる。

2018年6月25日 14:28

老朽・水道管路の更新か、陸上イージスの配備か

(2018年6月25日筆)

 最大深度6弱の大阪北部地震で水道管が破裂した。破裂したのは高槻市内に埋設され55年経過した水道管と吹田市内の53年経過した水道管だった。この水道管を利用する高槻市、箕面市あわせて約2万8600戸が断水に見舞われ、ライフラインの危機が再現された。


耐用年数を超す老朽・水道管が破裂、高まる老朽化率

 水道管の法定耐用年数は40年だが、2つの水道管は耐用年数を10年以上超えた老朽水道管だった。中規模の水道管だったためか、これを管理する大阪広域水道企業集団の更新計画には含まれていなかった。もちろん耐震化工事も施されていないという。

 水道管の敷設は1970年代の高度成長期に急速に進み1978年には普及率が90%を超えた。以来すでに40年が経過、厚労省によると法定耐用年数を超えた老朽・水道管路の比率は全国平均で2015年度13.6%に達している。老朽化の比率は今後どんどん上昇、2045年度には59.5%にもなるという。

 高槻、吹田の破裂した水道管は1960年代に敷設されたものだ。両市が属する大阪府は耐用年数を超えた老朽・水道管路の比率は28.3%(15年度末)と全国で一番高く平均を大きく上回る。大阪府に続いて老朽化比率が高いのは神奈川県21.7%、山口県20.5%、宮城県18.8%だ。

 法定耐用年数を過ぎた水道管路は更新期を迎えるが、その更新率は年々低下、2015年度は全国平均でわずか0.74%にすぎない。厚労省では0.74%の更新率で単純に計算すると「すべての管路を更新するのに130年以上も要する」(厚労省・2017年8月「最近の水道行政の動向について」)と人ごとにように書いている。

 もう一つ、水道管の耐震性はどうか。厚労省によると耐震適合性のある水道基幹管路(家庭等への支管、給水管を除く)の割合は全国平均で37.2%にとどまっている。鹿児島、和歌山、愛媛、秋田、沖縄など過疎県の耐震適合率は全国平均を大きく下回り、25%以下だ。


人口減少で料金収入が漸減、水道管の更新どころではない

 なぜ、老朽・水道管の更新が進まないのか。2020年代には水道管路の更新に年間1兆円が必要となると予想されている。だが水道事業を運営する地方自治体やその傘下の広域企業集団は、更新するための財政資金が大いに不足している。カネがなければ更新が進むはずがない。

 水道事業は独立採算制だ。収入は水道料金がほとんどで地域人口の減少で給水量が減少、料金収入の減少が止まらない。一方、給水量の増減に関わらずほぼ固定されている。人口が減ったからといって水道管路設備を止めるわけにはいかず一定の維持・管理の費用が掛かるからだ。

 水道管路の維持運営費用は減らないのに料金収入がどんどん減って水道事業の収支が悪化、水道管路の更新費用を捻出できないのが現実だ。更新費用の捻出どころか、通常の維持管理すら賄えず水道料金の大幅な引き上げに追い込まれた地方自治体も少なくない。

 厚労省は「すべての水道管路を更新するのに130年以上も要する」というが、その130年間に何回激しい地震が日本列島を襲うのか。強い地震が発生するたびに老朽・水道管が破裂、長期間の断水が発生、生活に不可欠な水道というライフラインが途絶えることになりかねない。

 地方自治体傘下の事業体が水道管路の更新費用を捻出するには水道料金をさらに大幅に引き上げるしかない。しかし、円安などで原油や小麦など輸入財の価格が上昇、電気・ガスや食料品など生活必需財が値上がりする中、水道料金がさらに上がるのに国民は耐えられるだろうか。


バター(水道管の更新)か、大砲(軍備の拡充)か

 水道管路は電力、ガスと同様、国民生活に不可欠なライフラインだ。これを地震や台風など自然災害から守るのも立派な「安全保障」政策といえるのではないか。だが安倍政権では「安全保障」といえば第一に軍事力整備だ。水道管路などの「安全保障」には関心が薄いように見える。

 米朝首脳会談で北朝鮮が核ミサイルを封印する可能性が出てきた。安倍政権はそれでもなお、北朝鮮のミサイル攻撃に備えるとして陸上配備イージスシステムを配備する方針を変えない。陸上配備イージスシステムの導入費用は、装備する迎撃ミサイル分を含め2基で3000億円以上かかるといわれる。対北朝鮮という意味では無用の長物となるかもしれないのに...。

 昨秋の日米首脳会談ではトランプ大統領は「日本が膨大な米国の最新兵器を追加で買う」と述べた。わが国は対米貿易黒字解消のためにいかほどの米国製兵器を買わされるのだろうか、安倍総理は知っていても語らない。

 一方、安倍総理を支える自民党からは防衛費をGDP比2%に拡大せよという提言が出た。これに従えば年間5兆円超の防衛費は10兆円以上へ年5兆円の増加になる。これも米兵器購入の受け皿になるのだろう。

 今後、水道管路の更新に年間2兆円、防衛費の拡充に年間5兆円の予算が必要となると、古くて新しい「バター(民生)か大砲(軍備)か」という命題が頭に浮かぶ。膨大な債務(借金)を抱え予算制約がきついわが国では「バターも大砲も」の予算は財政破たんに近づく道だ。

 限られた予算だ。同じ「安全保障」に関わるのなら大砲(軍備)よりバター(水道管の更新、耐震化)のほうに国税を投じてもらいたいと思う。ミサイル死より震災関連死のほうが小生には現実味があるからだ。
プロフィール
ニックネームさん
大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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