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大西良雄ニュースの背後を読む

2017年11月 6日 12:23

求人倍率、就職率の改善はアベノミクスだけの成果か

2017年11月6日筆)

 今回の衆議院選挙では18歳以上の国民に新しく選挙権を付与されたが、興味深いのは彼ら若年層の政党支持だ。朝日新聞の出口調査によると、比例区では10歳代の46%、20歳代の47%が自民党に投票したという(下表)。

若年層は自民支持(年代別の比例区投票先、17年衆院選・朝日新聞出口調査)
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 同じ出口調査で10歳代の60%、20歳代の62%が「アベノミクスを評価する」と答え、10歳代の58%、20歳代の61%が「安倍政権が続くのが良い」と答えた。若年層のアベノミクスの成果への評価がきわめて高いといえる。

 若年層が実感できる「アベノミクスの成果」は、安倍総理が国会でも選挙演説でも繰り返し強調してきた完全失業率の低下や有効求人倍率(求職に対する求人の倍率)、就職内定率の上昇だろう。細かい数字には触れないが、これら雇用指標はいずれも改善が著しい。

 しかし、これら雇用指標の改善が「アベノミクス(第2次安倍政権の経済政策)の成果」であると総理に自慢されると、ちょっと待ってほしいといいたくなる。


雇用改善はアベノミクスのずっと以前から続いている
「アベノミクスの成果だ」とは手前味噌が過ぎる

 有効求人倍率など雇用指数の改善は、労働力人口のもとになる生産年齢人口(15歳以上~64歳)の減少が加速した2000年前後からすでに始まっている。アベノミクスの4年間だけの傾向とは言えない。

 例えば有効求人倍率は1999年の0.48倍を底に上昇に転じ、07年には1.04倍まで回復していた。完全失業率は2002年の5.4%をピークに下降に転じ、07年には3.9%まで改善していた。大卒の就職内定率(各年3月卒、4月1日現在の数値、厚労省・文科省調べ)も2000年の91.1%を底に上昇、08年には96.9%まで上昇していた。

 これら雇用指標の改善トレンドはリーマンショック後の2009年にいったん途切れた。有効求人倍率はリーマンショック後の2009年には0.47倍まで急落した。完全失業率は09年には5.1%まで再上昇した。大卒の就職内定率は少し遅れて2011年に68.8%まで低下した。


2009年リーマン危機が雇用改善を一時的にかく乱
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 しかし、上図に見るようにリーマン危機後、有効求人倍率は09年からすぐに回復に転じ、完全失業率も10年から下落に転じている。図にはないが就職内定率も有効求人倍率の回復とは多少時間差はあるが2012年から回復している。

 要するに、完全失業率や有効求人倍率、就職内定率もリーマンショック後の景気急冷(麻生政権下の2009年実質GDP成長率は▲5.42%)が響き急悪化したが、これは一時的な悪化だった。リーマンショック以降、民主党政権下での景気反転上昇に伴ってこれらの雇用指数は再び回復に転じている。

 完全失業率や有効求人倍率、就職内定率は2000年前後から趨勢的な改善を見せており、リーマンショックによる一時的なかく乱(悪化)を経て、民主党政権下もアベノミクス以降も改善傾向を続けている。総理が雇用指標の改善は「アベノミクスの成果だ」とするのは手前味噌が過ぎるといえよう。


就職適齢の若年労働力の減少から就職内定率が改善
退職適齢労働力の非正規雇用拡大で失業率が改善

 特に2000年以降、なぜ失業率や有効求人倍率、就職内定率などの雇用指数が趨勢的な改善傾向を続けているのか。その最大の理由は、下表の5歳階級別労働力人口の推移(労働力調査)で明らかだろう。

 15歳~19歳(中卒・高卒)、20歳~24歳(短大卒・大卒)の就職適齢の若年労働力人口は2000年から2016年までの16年間で211万人減少している。一方、60歳から69歳までの退職適齢の高齢労働力人口は300万人増加している。若年、高齢労働力の増減は少子高齢化に伴うものだ。

就職適齢の若年労働力が減少、退職適齢の高年労働力が増加(単位万人)
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 労働市場に参入する就職適齢労働力が減り、労働市場から退出する退職適齢労働力が増えればダブルで労働力が減少する。2016年の参入減、退出増合計は511万人を数え、役員を除く雇用者数の5500万人の9.2%に達した。

 この労働市場への若年層の参入減が若年層の就職内定率や初任給水準の回復につながった。一方、若年労働力不足が顕在化する中、これを補う高齢者への非正規雇用が増加し、非正規を軸に有効求人倍率が上昇、完全失業率も低下した。以上は、2000年来の労働市場における雇用指標改善の趨勢でもある。

 総理は「政治は結果がすべて」といって雇用指標の改善という結果をすべて自分の手柄にして選挙民の支持を得ようとした。しかし、リーマン危機後の一時的かく乱を除けば、有効求人倍率など指標改善はアベノミクス以前からずっと継続しており、アベノミクスだけの成果ではない。

 選挙後の記者会見でも総理は、相変わらず有効求人倍率や就職内定率の上昇という「結果」を自分の手柄のように語った。その姿勢からは、選挙後、総理が繰り返す「謙虚」という言葉が空しく聞こえるのは小生だけだろうか。

2017年10月24日 12:34

圧勝自民の得票率は小選挙区48%、比例区33%に過ぎない

(2017年10月24日筆)

 今回の総選挙では定数が475議席から465議席(小選挙区289、比例区176)へ10議席削減された。選挙の結果、自民党は公示前勢力の284議席を維持、実質微増、総議席の61%を占有した。公明党は5議席減らし29議席となったが、自公では313議席となり3分の2の310議席を若干上回った。


小選挙区制の恩恵―自民党は得票率48%で75%もの議席を獲得

 野党勢力に大きな変化はあったが、結局、自民党の議席数はあまり変わらず、自公で3分の2議席を確保した。与党は解散前とほぼ同じ勢力だったわけで、600億円もかけて何のために解散総選挙を実施したのか、改めて問われる。

自民は公示前議席と同じ、立民が大躍進、公明、共産、維新は議席減退
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 自民党は小選挙区では289議席中218もの議席を獲得した。この勝利は1票でも多く得票すれば勝てるという小選挙区制の恩恵に浴したものだ。自民党の相対得票率は48%に過ぎないが75%もの議席を占有することになった。

小選挙区・自民党=48%の得票率で75%の議席を占有
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 野党が候補一本化に失敗、希望の党、立憲民主党(立民)・共産党、社民党、野党系無所属などが分立、自公共闘の候補に敗北した結果、野党への投票は死票となり死票率は48%に達した。今となっては空しく響くが「立民、希望、共産、社民、野党系無所属の共闘が成功していれば野党分裂型226選挙区のうち63選挙区で勝敗が入れ替わっていた」(朝日新聞10月24日)という。

 ちなみに投票に行かなかった人を含む全有権者に対する得票率は「絶対得票率」と呼ばれるが、自民党の絶対得票率は25%に過ぎず有権者4人に一人の得票で75%の議席を占有したことになる。自民党の圧倒的な小選挙区議席数は死票になった投票者、投票に行かなかった有権者などを含む多数の民意を反映するものではない。そのことを自民党、特に安倍総理は肝に銘じるべきだ。


3分裂・民進党出身の獲得議席は97、解散前87議席を上回った

 野党はどうか、「自民圧勝」の反語は「野党敗北」だが、最大野党だった民進党出身者の勢力(立民、希望、無所属)は敗北していない。

 枝野代表の立民は前職15名全員が当選、元職を含め40名の民進党出身者が当選した。岡田元代表や野田元総理など民進系無所属前職の当選19名は公示前にほぼ等しい。「野党敗北」最大の戦犯と言われる希望の党は小池代表系の候補者はほぼ全滅したが、民進党系前職は44候補中25名が当選した。

 前職・元職を含む民進党出身の当選者は希望の党38名、立憲民主党40名、無所属19名、合わせて97名だった。解散前の87議席を10議席上回っている。前回14年総選挙時の旧民主党当選者73名を大きく上回った。

 安倍一強に対抗する強力野党が求められる中、小池都知事と前原民進党代表の「排除の論理」によって引き裂かれた民進党出身者の再結集が期待される。


比例区の自民得票率は33%、立民・希望の得票率を下回る

 比例代表選挙では、得票率に応じて議席配分されるため投票者の意思(民意)をほぼ正確に反映される。今回の比例代表選の結果は下表のとおりだ。

比例区の得票率は自民33%台、立民・希望37%を下回る
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 比例区での自民党の得票率33.3%で、獲得議席は総議席数176のうち66議席にとどまる。得票率、当選者数いずれも前回14年総選挙と変わらない。比例代表選挙では自民党は3分の1の民意しか代表していないといってよい。

 一方、立民と希望を足した得票率は37.3%、獲得議席は69議席で自民党の議席を上回った。自公連立ベースの得票率は45.8%となるが、立民・希望・共産・社民の野党共闘ベースの得票率46.9%を下回っている。


死票となった48%の民意を軽視・蔑視してきた安倍総理

 「安倍1強」政治では、民意を正しく反映しない小選挙区で獲得した圧倒的な自民議席を背景に、小選挙区での死票48%、比例区の野党票約47%もの選挙民の政権への疑問、不満、反対意見を無視・軽視・蔑視してきた感が強い。

 安倍総理は衆院選の結果を受けた記者会見で「謙虚で真摯(しんし)な政権運営に努めなければならない。丁寧に説明もする」と神妙な面持ちで語った。死票となった48%の選挙民の意見を慮った故だろうか。しかし総理の口から過去にも何度か同じ言葉を聞かされたことがあるが、何度も裏切られてきた。総理は民意を正しく反映しない選挙制度でも、「選挙に勝てば我にすべて白紙委任」と考えている節があり、総理の「謙虚な政権運営」を信じる人は少ないだろう。

 共同通信社が行った衆院選の出口調査でも、安倍晋三首相を信頼しているかどうか尋ねたところ「信頼していない」が51%、「信頼している」の44.1%を上回った。「支持政党はない」とした無党派層の68.8%が安倍首相を信頼していないと回答、「信頼している」は25.9%のとどまったという。

 無党派層は安倍1強による政権運営上の傲慢、独善、慢心のリスクを強く懸念している。これを排し「下からの草の根民主主義」を訴えた立憲民主党の大躍進がその証拠でもある。選挙民の多くは弱体野党を避け安定政権の継続は望んだが、「安倍1強政治」の継続を望んでいるわけではない。

2017年10月10日 10:02

「排除」の物言い嫌われ小池人気は早や賞味期限切れ

(2017年10月10日筆)

 小池百合子・希望の党代表は民進党リベラル派を排除したが、南京事件はなかったなどという典型的な歴史修正主義の中山成彬氏らを抱き込み右翼へ大きくウイングを伸ばした。中山氏は教育勅語を暗唱させた籠池氏の幼稚園に推薦文を寄せた人物だ。中山氏は自ら合流を希望する民進党員の「思想チェック」を担ったといい、希望の党からは九州ブロック比例名簿トップになるといわれる。

この一事をとっても希望の党は小池氏がいう「寛容な改革保守」からは程遠い。小池氏は関東大震災当時の朝鮮人虐殺事件を都知事として無視する挙に出たが、彼女も安倍総理、中山氏など歴史修正主義者のお仲間なのかもしれない。


「さらさらない」「排除する」で墓穴を掘った小池氏

 それはさておき、中山氏が、小池氏に希望の党の選挙戦の進め方を問うと、彼女は「選挙はテレビがやってくれるのよ」と話したという(朝日デジタル10月5日)。テレビが小池氏の一挙手一投足を絶え間なく報じてさえいれば小池人気は高まるとうそぶいたに等しい。

 しかし、その肝心の「小池人気」も急速に衰えた。特に希望の党の公認候補を選ぶにあたって、小池氏が「民進出身全員を受け入れるつもりはさらさらない」「民進リベラル派は排除する」と言い放った後、小池人気は一気に冷え込んだ。

 小池氏と小池人気にあやかろうとした前原誠司氏(民進党代表)氏の師匠筋にあたる細川護熙元首相(元日本新党代表)は、こういった。(リベラル勢力や首相経験者を選別することに)「排除の論理を振り回し戸惑っている」、「公認するのに踏み絵を踏ませるというのはなんともこざかしいやり方で『寛容な保守』の看板が泣く」(毎日新聞10月3日付)と。「なんともこざかしいやり方」という細川氏の言い方には小池氏への嫌悪感が漂っている。小生も同感だ。

 民主党創設時、鳩山由紀夫(元首相)氏に排除された経験を持つ武村正義(元新党さきがけ代表、元蔵相)も「政党をつくるなら排除よりむしろ吸収力、求心力を高めないと与党に対抗するパワフルな党は生まれない。排除の一件は希望の勢いをそいでしまう」(毎日新聞10月4日付)と話した。一人しか選ばれない小選挙区制のもとでは排除の論理は野党を弱くする。

 「さらさらない」「排除する」という、一時の人気に胡坐をかいた、こざかしい、思い上がった小池氏の言葉遣いに反感、嫌悪感を覚えた選挙民は少なくない。人気の衰えた小池氏にどんな価値があるのか。このままでは小池人気を当て込み希望の党に合流した旧民進党候補者たちは、大いに当てが外れることになる。


「小池新党」の支持急落、排除された旧民進勢力は支持拡大

 武村氏の見る通り排除によって「希望の勢い」はそがれてしまった。読売新聞が10月7~8日に実施した世論調査では衆院比例選の投票先では希望の党は衆院解散直後(9月28~29日)の調査の19%から13%へ6%急落した。

 排除の論理に反発して枝野幸男元民進党代表代行ら民進党リベラル派によって創立された立憲民主党は投票先としていきなり7%の支持を集めた。この調査では比例投票先として解散直後34%を占めていた自民党も立憲民主党党創設後は32%へ2%低下している。希望の党が減らした6%、自民党が減らした2%のほとんどが、立憲民主党への支持に回ったことになる。

 この世論調査の後、野田・元総理や岡田・元民主党代表など民進党前職が20名で無所属ネットワークを立ち上げたという。希望の党への投票先は彼ら排除された「総理経験者ら民進前職無所属」にも食われるに違いない。

 武村氏と一緒に鳩山由紀夫氏の民主党から排除された田中秀征氏(元新党さきがけ代表代行、元経済企画庁長官)は、「岡田克也、江田憲司など自民党を源流とするメンバーが政党をつくってリベラル系を包含すれば国民の渇望に応えて大化けする可能性がある」(朝日新聞10月5日付)と話し民進党前職の無所属ネットワークに大きな期待を寄せている。


戦後保守党思想の核心から遠い安倍総理と小池「希望の党」

 田中秀征氏は新党さきがけの理論的支柱であり、さきがけ当時、今回袂を分けた前原誠司、枝野幸男両氏に影響を与えた政治家でもある。彼は戦後保守思想について以下のように語っている(以下も朝日新聞10月5日付)。

「戦後保守党思想の核心は、憲法尊重と、先の戦争は間違いだったといった歴史認識。安倍首相の路線とは大きく違います。そして希望の党は基本的に安倍路線と同じです。」

「保守党思想にはリベラルな考えを尊重する特徴もあります。吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山など戦後保守の先覚者はいずれも自身が第一級のリベラリストでした。リベラル系の民進党議員を排除する希望の党は、その点でも戦後保守の流れとは異質に見えます」

「国民の多くは、現在の自民党による政治に不安を抱き、もう一つの健全な保守の流れを渇望しています。言い換えると、大国主義に陥らず、言論の自由を守りリベラルな意見にも耳を傾ける、真の意味の寛容な保守の政治勢力が求められているのです。しかし、その渇望はどうやら今の希望の党では満たされそうにありません」

 戦後「保守リベラル」の源流の一つとなった石橋湛山(早稲田大学出身、元首相)は戦前、侵略に反対し植民地の放棄を訴える「小日本主義」を唱え、言論を武器に陸軍を筆頭とする国家権力に挑み、いち早く婦人参政権に賛成した人権重視の民主主義の政治家だった。田中氏は保守リベラルを継承した宮沢派に属し、「石橋湛山の孫弟子」と自ら言っていった。


国家主義か真の民主主義(民権主義)かの選択

 石橋湛山翁は小生の属した東洋経済新報社の先輩でもあり、小生もその政治思想に大きな影響を受けた。田中秀征氏は触れていないが、小生は「リベラル(自由主義)」の基本にはもう一つ、国家権力からの自由を訴え基本的人権を尊重するという「国民主権の思想」があると考えている。

 国民の内心の自由を取り締まる「共謀罪」を強行採決し、基本的人権を制限することを可能とする「緊急事態法」を準備している安倍総理が、民権より国権を重視する国家主義者であることは疑いない。小池氏の希望の党は国家主義なのか真の民主主義(国民主権)なのか、聞いてみたいところだ。

 安倍・自民党、小池・希望の党の間で、消費税や原発政策など政策に若干の差異が見受けられるが、公約は保守勢力内の権力争奪の道具に過ぎず、いつ変更されるかわからない。不確かな公約を信じて票を投じると後悔することになる。

 今回は、回り道だが、大国主義か小国主義か、国家主義か真の民主主義か、候補者の基本的な政治姿勢や政治思想を見極めて投票先を選ぶ時かもしれない。

2017年9月19日 12:24

今なぜ衆院解散、10月総選挙に大義はあるのか

(2017年9月19日筆)

 ようやく9月28日から臨時国会が始まると思っていたら、安倍総理は議論もせず冒頭解散、10月22日あるいは29日投票の総選挙に踏み切る意向だと報道された。解散風が一気に吹き抜け代議士たちは選挙準備に入ったという。

 この報道を受け9月17日、萩生田・自民党幹事長代理は「政権をしっかり維持するために解散は一つの選択肢ではあるが、大義なき党利党略になってはならない。もしこの時期に解散するのであれば北朝鮮の脅威とどう向き合うかも含めて国民に説明する必要がある」と述べたという。

 総理の最側近である萩生田氏ですら、総理の突然の総選挙意向に対して「この解散に大義はあるのか」「党利党略になってはいないか」「北朝鮮の脅威が叫ばれている時期に政治空白をつくっていいのか」と疑問を呈している。発言は後で修正されるだろうが、萩生田氏のこの時点の発言は国民の多くが抱える疑問を代弁するまっとうなものだろう。


民進党は離党騒ぎ、新党は準備不足、北朝鮮のミサイル発射も味方?

 解散は総理の専権事項とされるが、総選挙には数百億円の公費が投じられる。総理が総選挙で国民に選択を迫る大義は何なのか。我々の貴重な税金を使ってなぜ今、臨時国会の開催直後に解散する必要があるのか、総理に問いたくもなる。

 ワケ知りの政治評論家などは、総選挙には勝たねばならない、総理が勝つために最も有利な時期を選ぶのが政治のリアリズムだ、解散の大義など後からこじつければいいといっている。安倍総理は勝つための時期を選んだのだと。

 実際、選挙のライバルとなる最大野党・民進党は、幹事長人事の失敗と細野豪志前幹事長など離党者続出で支持率が低迷している。都議選で大勝した小池都知事一派の国政新党は綱領も選挙準備もまだ整わない。

 幸い、森友学園、加計学園をめぐる不公正行政の疑惑などで警戒ラインの30%台前半まで急落した内閣支持率も40%台まで回復、支持が不支持をわずかだが上回ってきた。支持率は北朝鮮がミサイルを一発発射するごとに1%回復するといわれている。安倍総理は北朝鮮による核実験・ミサイル発射による国民の不安に付け込んで支持率を回復させていると解説する向きもあるが...。

 私利私欲といわれようとかまわない。総理は今こそ、選挙に打って出て勝ち、自らの政権を延命させる千載一遇の好機だと考えているのが本音だろう。

 安倍総理はそれでよいかもしれない。しかし、一般の国民には何のために投票場に向かうのか、その理由が見当たらない。何を判断基準に候補者を選ぶのか、その選択基準が分からない。政権は北朝鮮からミサイルが襲いかかってくるとJアラートを広範囲に鳴らし国民の恐怖をあおっている。その北朝鮮の脅威の最中に総選挙という政治的空白をつくる総理の神経を疑う国民もいるだろう。


総理の急造「解散の大義」は野党民進党・前原代表案のパクリ

 安倍総理といえども、さすがにそんな国民の疑問を無視して選挙に勝てると思っていないだろう。なぜ解散総選挙を行うのか、何らかの「理屈付け」を行うに違いない。その一端が安倍シンパのマスコミとされる読売新聞に載った。

 読売新聞9月18日朝刊は、「消費税率10%への引き上げ時の増収財源の使い道について、国の借金返済から幼児教育無償化など子育て支援の充実に変更することを争点に掲げる」「自衛隊の根拠規定を明記する憲法改正も訴える」といち早く書いた。翌19日までに同じ内容の争点(解散の大義=理屈付け)を毎日、朝日、日経各紙も相次いで報じている。

 急造りであれ、ないよりましだが、「消費増税の使途変更」という公約は前原誠司代表が今回の民進党代表選挙で掲げた公約のパクリ(盗むの隠語)だ。安倍総理は男・女、正規・非正規の雇用格差是正、同一労働同一賃金、子育て支援、教育の無償化など旧民主党以来の野党公約を平然とパクリ、権力保持の道具にしてきた。今回も同じパクリを繰り返して恥じることがない。

 ついでに民進党に一言いっておきたい。国民が支持しない最大の理由は、党が決めた方針に逆らい党内抗争の果てに離党、脱党を繰り返す体質にある。民主党政権時代の小沢一郎しかり、今回の細野豪志しかりだ。自民党には保守からリベラルまで様々な議員を抱えるが、その差異をうまく丸め込む技術がある。

 民進党は何を血迷ったのか、鳩山政権以来3年間の「失政」の反省を繰り返し語り、失敗が「政策」にあったかのような印象を国民に与えてしまった。政策が間違っているのなら安倍総理が旧・民主党公約のパクリを繰り返すはずがない。   

 民進党は安倍総理の「パクリ常習」に対し一言も抗議せず、政権担当時の「失敗」を詫びるだけの政党に堕してしまった。いくら失敗しても国民を偽っても、本心から詫びることのない安倍総理の爪の垢でも煎じて飲んだらどうか。


一石三鳥の「消費増税の使途変更」公約、民・共選挙共闘も崩壊

 「消費増税の使途変更」とは、5%から10%への消費増税に伴う税収増加約14兆円のうち国の借金返済など財政健全化に11.3兆円、社会保障の充実に2.8兆円振り向けるとした自民・旧民主・公明の3党合意の変更を意味する。

 2019年10月実施の2%増税の増収分5兆円の使途ついては、従来の3党合意から離れ教育の無償化など社会保障の充実に重点を置くというのが安倍総理の公約になる。

 しかしこの公約はアベノミクスの行き詰まりの結果でしかない。税収増加の半分以上を占める3%消費増税の効果はすでに一巡した。4年半も日銀に膨大な国債を買い込ませても成長率は高まらず自然増収は止まりつつある。このままではアベノミクスの目玉政策となった教育の無償化の財源が出てこない。こども保険案も教育国債発行案も批判が多く財源にはなれない。穴埋め財源には前原民進党代表案を盗むに然りというわけだ。

 さらに安倍総理は、消費増税分の使途変更を口実にして国際公約である2020年基礎的財政収支の黒字化目標を平然と放棄、先延ばしするに違いない。2%消費増税分を借金返済に回しても8.2兆円の基礎的財政赤字がある計算だったから、総理はどうあがいても実現できない赤字解消の国際公約を変更する絶好の機会を手にすることになる。

 それだけではない。「消費税の使途変更」の新公約は、総理が最も恐れる民進党・共産党の選挙共闘にくさびを打ち込む副次効果がある。民進党の前原代表は使途変更付きだが消費税引き上げに賛成、共産党は消費税引き上げに絶対反対だ。安保外交の基本政策だけでなく内政の基本政策でも民進・共産は選挙協力できなくなる。民進党と共産党が統一候補を立てれば60議席前後の小選挙区で自民から議席を奪えるという調査があったが、水泡に帰すだろう。

 安倍総理は、前回の総選挙では「消費増税の先送り」を公約して選挙に勝って新安保法制、共謀罪を強引に成立させた。今回は「消費増税の使途変更」を公約して選挙に勝ち国民の主権を制限する「非常事態条項」、憲法9条の改正(自衛隊の追認)に走ることになる。

 「野党なき総選挙」の結果、自公は再び圧勝、えこひいき行政を含む何でもあり、少数意見無視の「安倍一強」政治が復活する...。気が滅入るのは小生だけだろうか。

2017年9月 5日 10:02

北朝鮮はどのような外交的解決を求めているのか

(2017年9月5日筆)

 北朝鮮による6回目核実験をめぐって、より威力が強まった水爆型だとか、核弾頭のICBM搭載も可能になったとか、それがワシントンにも1年後には届くようになるとか、軍事上の報道ばかりが目立ち、恐怖があおられている。テレビでは軍事評論家が大活躍だ。


北朝鮮もアメリカも戦争より外交的解決を望んでいるはずだ

 しかし戦争は外交の延長、外交的解決の最後の手段と言われる。北朝鮮による核・ミサイルという軍事的手段は、外交的解決を求めるための手段であり戦争を自己目的化したものではないはずだ。

 北朝鮮はアメリカ本土に届く核弾頭搭載ICBMを完成させていたずらにアメリカを核攻撃したいと思っているわけではないだろう。金正恩の北朝鮮は核弾頭搭載ICBMを保有することで対米交渉力を高め、来るべき米朝交渉でアメリカから金体制に有利となる条件を引き出したいと思っているに違いない。

 一方、アメリカが米韓合同軍事演習を繰り返し、日本海に原子力空母を派遣、演習と称してB1戦略爆撃機を飛ばすのも、石油禁輸に至る経済制裁、経済封鎖という圧力を加えるのも、北朝鮮を外交交渉の場に引き出し日米韓に対する核・ミサイルの脅威を取り除くためのものだろう。北朝鮮への圧力強化は戦争を避けるための懸命な外交手段だと理解したい。

 安倍総理は「対話のための対話に意味はない」と繰り返し、対北朝鮮への圧力強化に奔走しているが、最後は対話(外交)へ向かうための奔走なのだろう。


北朝鮮が求めるのは「金体制の存続保証」だけか

 しかし、肝心の、対話(外交)すべき内容が各種報道を見ても皆目わからない。水面下で米朝交渉は行われているのだろうが、金正恩委員長からも、トランプ大統領からも安倍総理からも交渉内容は明らかにされていない。

 これまで交渉内容をうかがわせる動きはあった。この春先、トランプ政権は北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すればアメリカは「4つの約束」を実行する用意があるといったと報道されたことがある。

 その内容は北朝鮮が核・ミサイル開発を放棄すれば、(1)北朝鮮の体制転換は求めない、(2)金正恩政権の崩壊を目指さない、(3)北緯38度線を越えて侵攻することはない、(4)朝鮮半島の再統一を急がない、というものだった。

 この「4つの約束」から推察すると、北朝鮮は「現体制(金正恩体制)の存続保証」を求めているということになる。

 しかし、トランプ政権が「4つの約束」を提示しても北朝鮮は交渉に乗ってこなかった。なぜだろうか。金正恩の北朝鮮には、核・ミサイル保有こそ「現体制存続」の最大の保証であり、これを放棄すればその後、米韓は金体制の転覆を狙うに違いないという疑心暗鬼があるのだろう。

 この金委員長の疑心暗鬼も推測でしかない。報道陣はだれも、金正恩氏の本心を聞いたことがないし極秘裏の米朝交渉内容を十分取材しているわけでもない。すべてはマスコミや専門家の推測の範囲を出ないが、金委員長はトランプ政権に北朝鮮が核保有国であることを認めさせ、同じ核保有国として米国と対等の交渉を進めようとしているという報道もある。

 北朝鮮は対等の米朝交渉によって、米朝平和条約を結んで朝鮮戦争以来の戦争状態に終止符を打つ一方、(1)アメリカに対し在韓米軍の撤退ないし縮小を求める、(2)経済封鎖を解かせるだけでなく多額の経済援助を引き出す、という交渉を望んでいるといわれている。

 トランプ氏の外交指南役と言われるヘンリー・キッシンジャー氏(ニクソン、フォード政権の大統領補佐官・国務長官)からは「北朝鮮の核放棄と在韓米軍の撤退を結び付けた交渉の提案も出ている」と韓国外国語大学ユン・ドクミン教授が指摘している(読売新聞9月4日朝刊)


アメリカに核保有容認論。だが北朝鮮の核保有は日韓、中ロへの脅威

 しかし北朝鮮が最大の交渉材料であり金体制存続の保証でもある「核保有国の地位」を放棄することはあり得ないという観測のほうが強い。これを受けてか、アメリカの中からはスーザン・ライス氏(オバマ政権の安全保障担当補佐官)のように「北朝鮮の核保有を容認すべきだ」という意見も出始めた(朝日新聞9月4日朝刊)。

 ユン教授も「正恩氏が賢明であるなら、ICBMの開発を放棄する代わりに核武装についての黙認を米国から得るため、平和協定を結ぼうとするだろう」と述べている。アメリカ本土に届くICBM開発さえ放棄すれば北朝鮮の核はアメリカの直接の脅威にはならない。北朝鮮はICBM放棄を対米交渉の切り札にするのではないかという観測だ。

 しかしアメリカによる北朝鮮の核武装容認論は、日本・韓国ひいては中国・ロシアを含む北朝鮮の近隣諸国には大きな脅威となる。脅威を受ける日韓は対北朝鮮の核抑止力を名目とする核武装を急ぐことになりかねない。しかし日韓の核武装は、その一方で中ロに対する脅威になるだけで世界の核拡散に結び付くことになりかねない...。

 北朝鮮の核武装を容認せず、日本と日本人も巻き込まれる米朝戦争を避けるための方策はないものか。北朝鮮問題の交渉による解決を主張している中国とロシアにその方策がないものか。

 世界のリーダーを自負する安倍総理には米韓の尻を叩いて北朝鮮への圧力強化を主張するだけでなく、トランプ氏にも中ロにも強く働きかけ「交渉による解決」の方策を引き出す最大限の努力をしてほしい。それに成功すれば安倍総理はノーベル平和賞の受賞者になれるかもしれない。
プロフィール
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大西良雄(経済ジャーナリスト)
上智大学卒業後、東洋経済新報社に入社。記者を経て「月刊金融ビジネス」、「週刊東洋経済」編集長を歴任。出版局長、営業局長の後、常務第1編集局長を最後に独立。早稲田大学オープンカレッジ講師のほか講演・執筆活動。
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