
2011年6月20日 17:02
松下政経塾 研修塾 塾頭 古山和宏(執筆)
なぜ、松下政経塾では設立当初から常勤の先生を置かないのか。それは5つの研修方針の冒頭にある「自修自得」という基本的な考え方を持っているからです。松下幸之助塾長(当時)は、本当に大事なことは「教えて、教えられないものだ」と繰り返し塾生に話していました。知識とか情報というのは、教えられる。しかし、本当に大切なものは教えられん、自分でつかみとるしかないというのです。
仕事には「勘所」というものがあります。「経営のコツここにありと気づいた価値は百万両」という松下幸之助の言葉がありますが、大事なコツは教えられない、自らつかみ取るしかないのです。したがって、本当に達人と言われるような人を育てていくには、自らつかみ取っていくような研修(環境)をつくらなければなりません。
松下幸之助は刀鍛冶の例をあげて、刀鍛冶には二通りのお師匠さんがいるというのです。最初の師匠の例は、入門してくる弟子に、手取り足取り一生懸命に「刀というのはこうやって打って、鍛えて、こうして刀を作るんだ」ということを丁寧に親切に教えるタイプです。
かたや、もう一つの刀鍛冶のお師匠さんは、弟子が入ってきても、ほとんど仕事らしい仕事を教えない。下働きばかりやらされる。ぞうきん掛けやいろいろな仕込みの用意をさせるのみで、刀をどうやって作るのかなんていうことは教えてくれない。だから、前者の刀鍛冶の弟子たちは、みんなは喜んで修行をする一方で、後者の刀鍛冶に入門したお弟子さんは、どんどんやめていくというわけです。
しかし、松下幸之助は「名人といわれるような刀鍛冶はどちらから育つか。前者の刀鍛冶からは上手な刀鍛冶は生まれるかもしれないが、名人は生まれない。名人といわれるような刀鍛冶は後者の刀鍛冶の弟子から生まれるのではないか」と非常に示唆的な話をします。
剣道などの稽古でも、先生は先輩の稽古をよく見て、「技を盗め」と言います。技を体得していくには自分でつかみとるしかないというところに、やはり修行の要諦というものがある気がいたします。
一期生が松下政経塾に入塾して間もなく、いよいよこれから有意義な研修をさせてもらえるのだろうと希望に胸をふくらませていた時、当時の松下幸之助塾長から「さて、これから皆さんには塾のカリキュラムを作ってもらう」と言われ、一同おもわず顔を見合わせたという話が残っています。将に、この自修自得、自ら修めて、自ら会得するという研修方針こそが建塾以来の松下政経塾の基本的な研修の考え方になっているのです。