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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

国際事情(欧州を除く)

2017年8月17日 23:59

構造的暴力としての人種差別

前々回、ヨハン・ガルトゥング氏の平和の定義であります「消極的平和(Negative Peace)」と「積極的平和(Positive Peace)」について記しました。

戦争のない状態を「消極的平和」とし、貧困、抑圧、差別などの構造的暴力がない状態を「積極的平和」とするガルトゥング氏の概念は、今日の世界情勢を考えますと「消極的平和」から「積極的平和」に進んでいくのではなく、同時存在的です。

特に米国では、北朝鮮との関係において「消極的平和」も危うい中、8月12日バージニア州シャーロッツビルで発生した白人(国家)主義者とそれに反対派の衝突事件は、(差別という構造的暴力の存在を示し)「積極的平和」も米国内で問われていることを明らかにしています。

シャーロッツビル事件は、8月12日に白人至上主義者の20歳のジェームズ・アレックス・フィールズ容疑者が、白人至上主義者に反対する群衆の中に車で突っ込み、1人を殺害し、19人にけがを負わせた惨事です(The Huffington Post, 8月13日; APF, 8月13日)。

この事件に対し、米国ドナルド・トランプ大統領が8月15日、双方に暴力的な行為があったとし、責任は双方にあると述べたたことが、更に批判を招き、火に油を注ぐような結果となっています。

一方で、バラク・オバマ前大統領は、ツイッターで「肌の色や出自、信仰を理由に、生まれながらに他人を憎む人などいない」というネルソン・マンデラ氏の言葉の引用投稿し、300万を超え史上最多の「いいね」を集めています(CNN, August 16, 2017)。

現職のトランプ大統領が批判され、オバマ前大統領が絶賛されているかのように見えますが、CBSニュースの世論調査によると、55%がシャーロッツビルでの事件に対するトランプ大統領の反応は支持できないと答えながら、共和党支持者では67%が支持できると答えています("CBS poll: Most Americans disapprove of Trump's Charlottesville response", CNN, August 17, 2017)。

そもそも、この事件はシャーロッツビルにおいて南北戦争の将軍で白人主義者として知られたロバート・リー将軍の銅像撤去に反対するため、白人至上主義団体やネオナチ団体が8月12日にUnite The Rightという集会を組織したことから始まっています。

人種差別というまさに構造的暴力を否定するかどうかの問題が、米国を二分してしまっていることに驚かずにはいられません。

歴史では、国内になかなか解決できない深刻な問題が生じたとき、外国と戦争することでとりあえず人々の目を外に向けさせることが多々あります。差別という「積極的平和」の危機の問題を誤魔化すために、「消極的平和」を犠牲にしても意味がないことを強調しておきたいと思います。

2017年8月15日 23:49

終戦記念日に「消極的平和」のみならず、「積極的平和」を願う

ネパール、インド、バングラデシュの3カ国で、8月11日から豪雨が広い範囲で降り続き、洪水となっています。ネパールだけで111人が亡くなり、3か国合計では犠牲者は221人に至っていると報じられています(AFP, 15 August)。

私のゼミには、ネパールのチトワン出身の留学生が在籍しており、実家から彼に送られてきた洪水の写真を転送してくれました(以下)。

S_6541195088949.jpg

2015年4月25日のネパール地震から立ち上がり、復興中の同国にとって追い打ちをかけられたような感覚でしょう。

日本では、8月15日は終戦記念日です。

私も参加しております(各地の)ユネスコ協会では、終戦記念日を改めて平和を考える機会にしようと、「平和の鐘を鳴らそう」という活動をしています(当ブログ, 2014年8月17日, 2015年8月19日において紹介しています)。

日本の場合、第一に第二次世界大戦を念頭においています。もちろん、第二次世界大戦を振り返り、平和を願うことは素晴らしいことですが、今日は、それに加えてちょっと異なるアプローチもお考え願いたいです。

ノルウェーの平和学の第一人者ヨハン・ガルトゥング氏は、平和を「消極的平和(Negative Peace)」と「積極的平和(Positive Peace)」の二つに分けて考えました。まず、「消極的平和」とは戦争のない状態を指します。そして、貧困、抑圧、差別などの構造的暴力がない状態を「積極的平和」としたのです。

北朝鮮と米国の緊張関係が続く中、残念なことに「消極的平和」を維持することも難しくなってきていますが、同時に、洪水や地震等、自然災害がもたらす構造的な暴力がないように(軽減するように)対応しなければならないと痛感します。

自然災害は、不可避でもあります。私たちは、自然災害を完全に防ぐことはできませんが、予期し準備することで被害を最小限に留めるように努力することはできるでしょう。

何はともあれ、ネパールの洪水は、現在進行形の出来事です。今は情報をできるだけ集め、私のゼミ生のように家族がネパールにいるなら、外からの情報を現地に送りながら、被害が少しでも小さいことを願うしかありません。

終戦記念日、様々な平和を祈りました。

2017年8月11日 21:49

真夏の核の恐怖: 非核の規範が広がらない現実を直視すること

米国のワシントン・ポスト紙は、8月8日、北朝鮮が核弾頭をミサイル搭載可能な水準にまで小型化することに成功したと判断する米当局の分析を報じました。

その後、米国のドナルド・トランプ大統領が「炎と怒り、そして率直に言えば、世界がこれまでに目にしたことがないようなパワーに見舞われることになるだろう」と強く警告します(Bloomberg,  2017年8月9日)。

それに対し、北朝鮮の国営・朝鮮中央通信(KCNA)は8月10日、中距離弾道ミサイル「火星12」4基を米領グアム付近に発射する準備を今月半ばまでに完了すると報じて、北朝鮮と米国の関係が極度に悪化しています(BBC, 8月10日)。

北朝鮮は、核兵器での米国攻撃の可能性を明言し(CNN, 7月26日)、一方でトランプ大統領も休暇先のニュージャージーでツイッターに「私の大統領としての最初の命令は、核兵器のリノベーションと近代化であった」とし、米国の核兵器は「かつてないほど強力だ」と書き込んでいます(Donald J. Trump‏ Twitter, 2017年8月9日4:56 )。

ここでは核兵器が、相手を脅す実用可能な「武器」として用いられています。

北朝鮮の金正恩政権や米国のトランプ政権を批判するのは簡単ですが、広島と長崎に原子力爆弾が投下されてから72年を迎えた今週、改めて核爆弾を使ってはいけないという規範が、日本にとって最重要国である米国や隣国の北朝鮮に共有されていない事実を目の当たりにすると、虚しさを覚えます。

現象の普遍化は難しく、広島も長崎も時間(歴史)と場所に限定された固有名詞の状態であり、それが人類の今日の教訓としては活かされていないようです。母国に犠牲者を出すまで自覚できないとすれば、本当に残念なことです。

そのような意味では、昨年の5月27日に広島を、米国の大統領として初めて訪問したオバマ氏決断は、もっと評価されるべきであったのかもしれません。

私は、当ブログ(2016年6月 1日付)において、「『初めて』は、それに続く『結果』があってこそ評価される」と題しまして論じました際は、オバマ大統領の広島訪問に注文を付けた形になっていました。

「初めて」(オバマ大統領の広島訪問)の次の夏が、核戦争の恐怖だとは思いもしませんでしたが、これも現実として直視し、未来を考えていかなければいけないのでしょう。

2017年7月29日 20:20

北朝鮮の弾道ミサイル発射が照らし出したこと

7月28日の23時半頃過ぎ(韓国軍によると23:41)、北朝鮮がミサイルを日本海に向けて発射しました(NHK News web, 7月29日 2時46分)。

防衛省によればミサイルは1発で、ICBM級(大陸間弾道ミサイル級)であり、午前0時28分26秒に北海道積丹半島の西およそ200キロ、奥尻島の北西およそ150キロの日本海の日本の排他的経済水域内(Exclusive Economic Zone)に落下したと推定されています(NHK News web, 7月29日 5時03分; 7月29日 6時14分)。

28日は日中、破棄したとしていたPKO部隊の日報を陸上自衛隊が保管していた問題で、稲田朋美防衛大臣が辞任致しました。大臣のみならず、陸上自衛隊トップの岡部俊哉陸幕長、防衛省の黒江哲郎事務次官も引責辞任しました。北朝鮮は、結果的に日本の防衛トップ3人が交代するという「隙」を狙ってミサイルと発射したことになります(ミサイルを発射するプロセスを考えれば、全くの偶然かもしれませんが)。

菅義偉官房長官は29日未明の記者会見において、稲田氏の防衛相辞任直後のタイミングだったことに関しては「安倍晋三首相は安全保障に一刻の空白もあってはならないとの思いから、岸田文雄外相に防衛相を兼務してもらった」と答えています(日本経済新聞, 7月29日, 2:06)。

政府としてはそう答えるしかないでしょうし、実際、問題がなかったのかもしれません。しかしながら、やはり、現場の3人の責任者が辞めた直後にミサイルが飛んできた時事は、国民の不安を煽るのも事実です。

もし、ミサイル発射を予期していたら昨日の辞任はなかったでしょう。つまり、日本政府が北朝鮮動向について分析し切れてしないことも露呈してしまったように見えるのです。

アンフェアな表現になるかもしれませんが、失礼ながら野党党首が辞めることと、防衛大臣、陸上自衛隊陸幕長、防衛省事務次官が同時に辞めることは重さが違うのです。

もちろん、ことの発端でありますPKO部隊の日報事件も、重要な問題です。しかし、北朝鮮がミサイルと発射するという有事と比較すれば、今、どちらがより優先すべき事項かは明らかです。他国からのミサイルは、直接的に国民の安全に係わるのです。

政治は、常に優先順位に基づいて選択決定しなければなりません。

そのような意味で、日本のガバナンスの弱点を北朝鮮のミサイルが照らし出してしまったようにも思えます。

2017年7月14日 00:32

ISの弱体化は欧州のテロを止めるのか?

7月10日、イラクのハイダル・アル=アバディ首相は、イラクの第二の都市で、「イスラム国」(IS)のイラクにおける最大拠点であったモスルが陥落したと宣言しました(JIJI.com, 7月11日)。

モスルの奪回をもって、ISが完全降伏するとはみられておらず、ゲリラ戦が展開されるだろうと見られています(THE PAGE, 7月12日)。しかしながら、国家としてのISは、大きな敗北を喫したのは確かでしょう。

ISが国家としての弱体化しているにもかかわらず、英国ではテロが続いています。

2017年3月22日、ロンドン・シティのウェストミンスター橋でテロがあり、2人が死亡し、少なくとも20人以上が負傷したとされています(The Huffington Post, 3月23日)。

5月22日にはマンチェスターの「マンチェスター・アリーナ」で自爆テロが起こり、死者22人、負傷者116人を数えています("Manchester attack: National minute's silence held", BBC, 25 May 2017)。

6月3日には、ロンドンブリッジでテロ事件が発生し、8人が死亡し、少なくとも48人が負傷しています("London attack: Family pays tribute to 'beautiful daughter'" BBC, 8 June 2017)。


これらは全て、ISの政治思想や行動に共鳴した英国国籍の人物が容疑者として絡んでいます。そして、いずれのテロに対してISが犯行声明を出しています(The Huffington Post, 3月24日; Bloomberg, 5月23日; Newsweek, 6月5日)。

例えば、6月のロンドンブリッジ・テロでは、ISは、IS傘下のメディア「アマック」を通じ、「派遣されたイスラム国兵士らが昨日のロンドン襲撃事件を行った」との声明を流しているのです(Newsweek, 6月5日)。

しかしながら、拠点が次々に陥落しているISが、テロリストを英国に次々に派遣する余裕があるのでしょうか。

私は、やはり、英国政府は「ホーム・グローン・テロリスト」であることを直視し、テロの根源を英国社会の中に見出さない限り、ISがどれ程、弱体化しても、テロは終わらないと考えます。

2017年6月19日、フィンズベリー・パークで生じたテロ事件は、英国のテロが新たな展開に入ったことを知らしめました。断食月(ラマダン)の夜間礼拝のため、多くのイスラム教徒が集合している中を、48歳の白人男性が車で突っ込み、1名が死亡し、10名が負傷したのです(ロイター、6月19日)。

英国籍の白人男性によるイスラム教徒へのテロは全く、ISは関与していません。この容疑者は、直接的にISに対してテロを起こした訳でもないのです。

もっと日常的な、もっと身近なところでテロとテロの報復が行われているのです。足元から見直す必要があります。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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