QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

国際事情(欧州を除く)

2017年5月13日 23:10

北朝鮮問題において危機感がないのは誰なのか?

周知の通り、5月9日に韓国で大統領選挙が行われまして、大方の予想通り、共に民主党の文在寅氏が1342万3800票(得票率41.08%)を獲得し、韓国の第19代大統領に選ばれました。投票率は77.2%でした。

今回の大統領選は、米国と北朝鮮の関係が悪化しており緊迫する状況で展開されていたにもかかわらず、韓国の有権者は安全保障より国内問題により関心があったようです。

韓国の正論調査会社・リアルメーターの「選挙の争点は何か」という調査において、「根深い汚職問題の解決と改革に取り組む候補者の意思」と答えた人が27.5%で最も多く、次に「国民生活と経済を回復させる能力」が24.5%でした(CNN, 5月8日)。北朝鮮問題に関連する「国家の安全とリベラルな民主主義を守ること」との回答は18.5%であり、少なくはないのですが、最大関心事ではありません(同上)。

北朝鮮問題と軍事衝突になれば、「根深い汚職問題の解決と改革」どころではないのではないかと思うのですが、国内問題が争点だったのです。

そもそも、「韓国では北朝鮮に対する危機意識は感じられない」と指摘されています(「異例尽くしの韓国大統領選ソウルの街角は」『ホウドウキョク』フジテレビ)。

例えば、4月29日の早朝に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した直後、日本の各マスコミがその紛争の危機を報じたのに対し、韓国は、朝のテレビニュースの最後、天気予報の直前に20秒程度の原稿をキャスターが読んだだけだったとされています(同上)。

その理由を考えれば、北朝鮮の軍事問題は韓国の有権者がどうすることもできなく、選挙とは別物であるのかもしれません。もし、北朝鮮問題を国内問題よりも深刻に捉えていれば、この時期の大統領選挙は適切ではないと捉えていたでしょう。

もっとも、これは見方次第でもあります。ヨーロッパから見れば、日本も報道されているほど、人々に危機感があるとは見えません。

スイスに住む知人が、北朝鮮が在日米軍と軍事衝突することになれば、日本も危ないのではないかと言ってきました。私が、危機の最中、ゴールデンウィークに約10万人の日本人が韓国を訪れたと言うと、「日本人は危機感がない」という話になりました。

韓国に旅行に行くことは別にして、(韓国人よりは危機を認識しているとされる)日本人も日常生活を大きく変えてはいないでしょう。北朝鮮の出方を予想することも難しいこともあり、警戒はしたとしても、日常を過ごしていくしかないのです。

結局、「危機感があるとか、ないとか」の判断は、どこから見るか次第なのではないでしょうか。

2017年5月 3日 23:59

「親戚」だからライバルなのか?「親戚」なのにライバルなのか?

先日、恐竜の分類に関する大きなニュースがありました。

この130年間に渡って、恐竜は、鳥に似た骨盤を持つ「鳥盤類」とトカゲに似た骨盤を持つ「竜盤類」に二分され、それぞれ異なる道を歩んで、進化してきたと考えられてきました。

ところが、「Nature」 2017年3月23日号に掲載されたケンブリッジ大学の研究チームの新説によれば(Matthew G. Baron, David B. Norman & Paul M. Barrett, "A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution")、これまでの枠組みでは同じ「竜盤類」に分類されていた長い首と尾を持つ大型恐竜「竜脚類」とティラノサウルスなどの肉食恐竜である「獣脚類」との関係が遠くなり、反対に「獣脚類」は、トリケラトプスやステゴサウルスなどが代表する「鳥盤類」と近縁となるとされます(Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5)。

上記をマスコミ各社は、絵として最強の肉食恐竜であるティラノサウルスと、宿敵のライバルであった強い草食恐竜の代表トリケラトプスが、実は「親戚」というようなサプライズ型の報道をしていました(「ティラノサウルス「トリケラトプスに近い」 分類に新説」日本経済新聞, 4月19日;「ティラノの分類に新説 トリケラトプスと近縁か」産経ニュース, 4月19日;「ライバル恐竜が親戚? ティラノは「鳥型」」FNN, 4月21日)。

私は恐竜学の専門家ではありませんが、このニュースを聞いて、国際紛争の多くが(全てではありませんが)、隣国、もしくは近隣諸国(似た者同士)で争われてきた、そして、現在も行われていることを考えました。

ボスニア紛争を題材にした『ノー・マンズ・ランド』(2001年アカデミー賞外国語映画賞受賞)という作品がありますが、殺し合おうとする主人公のボスニア兵もセルビア兵も、第三者からみると違いが殆どないのです。

しかしながら、フロイト理論を援用する形でマイケル・イグナティエフが指摘するように、小さな差異(narcissism of minor differences)が存在すれば、共通項が多いばかりに、当事者には「大きな違い」に見えているのです(Michael Ignatieff , The Warrior's Honor: Ethnic War and the Modern Conscience,1998)。

肉食恐竜ティラノサウルスと草食恐竜トリケラトプスが、親戚であってもライバル関係であることは変わらないのでしょう。

そもそも、両者は見た目も「食生活」も違います。ただ、両者が親戚であるからこそ、ライバル関係なのかどうかは興味深いところです。

2017年4月30日 04:06

民主主義は、独裁を生み出すのか?

4月29日、トルコ当局が、オンライン百科事典「ウィキペディア」へのアクセスを遮断したと発表しました( "Turkey blocks Wikipedia over what it calls terror 'smear campaign", CNN, April 29, 2017)。

その理由としては「ウィキペディア」のトルコに関する記事が、トルコがテロ組織と連携しているかのような記事やコメントが掲載されているからと説明されています(Ibid)。

トルコは、4月16日に(大統領の権限を大幅に強化することも含む)憲法改正を問う国民投票が行われたばかりです。そして、51.41 %が改正賛成、48.59 %が反対という結果となりました(Anadolu Agency, "Turkey: Official referendum results announced")。

今後、トルコでは議院内閣制が廃止され、大統領に権限が集中されます。そして、予算案の起草や非常事態宣言の発出、議会の承認なしに閣僚などを任命する権限を、大統領が獲得します(「僅差で「独裁」を選択したトルコの過ち」Newsweek日本版, 2017年4月17日)。

ご本人は否定していますが、当事者であるレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の独裁化を懸念する声もあります("CNN Exclusive: Erdogan insists Turkey reforms don't make him a dictator", CNN, April 19, 2017)。

それでは、そもそもなぜトルコ国民はそのような選択をしたのでしょうか。

それには2つの要因があるとされます。

まず、2016年7月に発生した軍の一部によるクーデター未遂事件です。結果的には失敗となりましたが、国民が「強い指導者」を求める傾向が強まったとされています(「民主化の先、独裁リスク トルコ大統領に権力集中」朝日デジタル、4月18日)。

更に、クルド人問題があります。クルドの独立を求めるクルディスタン労働者党(PKK)とトルコ軍は武力衝突に発展しています。クルド人の武力組織や政党対して強硬な姿勢を取るエルドアン大統領の方針を、少なからずのトルコ系トルコ人が支持していることが挙げられるでしょう(「トルコは、なぜ選挙で「独裁」を選んだのか? 国民が払った「代償」」withnews, 4月23日)。

国民投票の後の勝利宣言において、エルドアン大統領が「トルコ史上初めて国民の意思で変革の決定が下された」と語っている通り(朝日デジタル、4月18日)、軍によるクーデター失敗と対少数民族問題(ナショナリズム)があったにせよ、今回の「変革」が民主主義のルールに則っていることは確かです。

独裁は民主主義が生み出すことは、政治学では日常的に語られることです。

トルコの民主主義が独裁へ移行するのか、それとも、公表されているように「変革」に留まるのか、注意深くフォローしていく必要があるのでしょう。

2017年4月23日 01:34

「すず」は世界中の「片隅」にいる: 漫画『この世界の片隅に』から今、読み取るべきこと

大ヒットしております『この世界の片隅に』(片渕須直監督、2016年)の原作(こうの史代氏作)の単行本版を読みました。

あらすじ
【1944年2月の広島県呉。広島市内に住んでいた(絵を描くことが大好きな)浦野すずは、呉の北條周作と結婚する。周作とは、子供の頃出会っており、周作の望んだ結婚であったが、同居する小姑の黒村径子は歓迎していなかった。戦時下で生活も苦しい中、すずは周作に支えられながら、楽しく過ごしているが、軍港の街である呉は頻繁に空襲を受けるようになり、1945年6月22日の空襲で、すずが右手を失い、その時、すずと一緒だった径子の娘・晴美が亡くなってしまう。すずは径子に恨まれ、自分でも絶望しながら過ごしている。そして、8月6日、広島市へ原子爆弾が投下され、すずの実家も被害を受ける。間もなく終戦を迎え、すずは広島の実家を訪れるが、廃墟となっており、両親もいない。途方に暮れていたところ、周作がすずを迎えにくる。すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、出会った戦災孤児の少女を連れて呉に戻る。】

この漫画は、すずの目を通じて、社会史のように淡々と戦時下の日常を描いています。すずには政治的な主張もなく、広島から呉に嫁入りした(絵を描くのが大好きな)「普通」の女性です。彼女は、色々と悩みながらも元気いっぱい生きていきます。

そのような人生であっても戦争に左右されてしまうのです。まるでNHKの朝ドラを漫画で読んでいるような感覚です(同じ広島を舞台とした『はだしのゲン』と比較すると綺麗過ぎるような観もありますが)。

日本人が被害者となっている戦争物語は、国際的には日本人の「加害者意識」がないと批判されるかもしれません。

しかしながら、すずが普通の女性のメタファーであるとすれば、今日の北朝鮮にも、シリアにも、どこの世界の片隅にも「すず」がいるかもしれないのです。

大国のパワーを根源とする国際関係学のリアリズム的な思考を否定するつもりはないです。もし本当にシリア軍が化学兵器を使用したら許すべきではなく、北朝鮮が日本列島を攻撃することも許すべきではないです。

ただ、同時、世界中の「片隅」には「すず」のような存在がいることも忘れてはいけないと思います。もし、彼女が「イスラム国」に住んでいても、北朝鮮に住んでいても、彼女には罪はないのです。もちろん、戦時中の日本でも。

この漫画と映画がヒットしたことに希望を感じます。できれば世界中に届けたい作品です。特に、北朝鮮やシリアに。

2017年4月22日 23:59

不確実性と瀬戸際外交

北朝鮮と米国の関係が悪化しています。

北朝鮮の新たな挑発への抑止を狙うとして、米国海軍の原子力空母「カール・ビンソン」を中心とする空母打撃群と海上自衛隊の護衛艦2隻が日本海に向かっているそうです。

米国のドナルド・トランプ大統領が昨年の大統領選挙中に北朝鮮の有事に対して、米国がもはや「世界の警察」でいることはできない、「日本には自分達の手で身を守ってもらうしかない」(ANN News 2016年3月30日)とまで述べてから約1年後、米国政府は、シリアに空爆し、北朝鮮への武力行使も選択肢の一つであると言います。

それを肯定するか、否定するかは別として、トランプ大統領の外交政策は非常に「不確実」です。

一方、北朝鮮の最高指導者である金正恩氏の外交も「不確実」です(「不確実性の王朝に対する術は」産経ニュース、2013年4月25日)。

不確実な2人が駆け引きをしているのですから、予想は困難です。結局のところ、どこまで両者が不確実なのかを「読む」しかない状態なのではないでしょうか(常識的に思考すれば、武力衝突は避けようととするでしょう)。

北朝鮮政府は米軍の動きに対して、「日本列島沈没しても後悔するな」と威嚇し、いつもながらの瀬戸際外交を展開しています(NHK New Web, 2017年4月22日)。

それに対して、トランプ大統領もツイッターで「北朝鮮はケンカを売っている」と批判し(2017年4月12日)、4月17日の記者会見にて金正恩氏に対して「行儀良く振る舞いなさい」と注文をつけ、米国政府はシリア同様、軍事行動の可能性にも言及しています。

以前の米国大統領は、良くも悪くも北朝鮮の瀬戸際外交をまともには相手にしていなかったように見えました。北朝鮮の朝鮮中央テレビの女性アナウンサーが声高らかに米国を批判しても、同じ波長では返していなかったのです。

しかしながら、トランプ政権の米国は違うのです。瀬戸際外交に対して、瀬戸際外交で返してきます(ジョージ・W・ブッシュ大統領も厳しい言葉を使いましたが頻度が異なりましたし、不確実性は低かったように感じます)。

これに対して、北朝鮮側が対応しなければならなくなっているのです。もし、対応を間違えれば、戦争になりかねません。

国際政治はいつの間にか不確実な瀬戸際外交ブームになっているかのようです。どうしてなのでしょうか。

米国と北朝鮮の政治体制は異なります。ですから、単純に比較して共通点を抽出することはできませんが、外交エリートの国際政治が終焉しようとしているのかもしれません。

この現象は、米国と北朝鮮の関係に留まるのでしょうか。今後、世界各地で同じような政治現象が生じてくるように見えてきます。

 1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10  |  11  |  12  |  13  |  14  |  15  |  16  |  17  |  18  |  19  |  20  |  21  |  22  |  23  |  24  |  25  |  26  |  27  |  28  |  29  |  30  |  31  |  32  |  33  |  34  |  35  |  36  |  37  |  38  |  39  |  40  |  41  |  42  |  43  |  44  | All 次へ >>

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (25)
スポーツと社会 (110)
ネパール (15)
国際事情(欧州を除く) (217)
大震災/原発事故と日本 (28)
御挨拶 (13)
日本政治 (115)
日本社会 (250)
映画で観る世界と社会 (259)
欧州事情 (89)
留学生日記 (59)
英国 (79)

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年05月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
最新記事
女優誕生の形式(パターン)と芸能界: 映画『イヴの総て』における「踏み台」の重層性
なぜ、マクロン大統領と大統領夫人の年齢差は許容されるのか?
北朝鮮問題において危機感がないのは誰なのか?
魔法界とスコットランド:映画 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のケルト性
フランス大統領選挙の結果を考える
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草