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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

国際事情(欧州を除く)

2018年6月20日 23:59

「譲歩」「敗北」であったとしても問題視しない2人とは?

2018年6月12日、シンガポールでドナルド・トランプ米国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長によって行われた米朝首脳会談の評価が分かれています。

会議自体の演出という観点からは、シンガポールという第三国が舞台であったにもかかわらず、トランプ大統領が主導権を終始握り、「強いリーダー」を世界に見せつけたと評価されています(明治大学海野素央教授の分析, ANN News, 6月12日)。

しかしながら、朝鮮半島の非核化という観点からは、共同声明に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を盛り込めなかったことが、米国の「譲歩」であると考える見方は少なくありません(朝日デジタル, 2018年6月13 ; BUSINESS INSIDER JAPAN, 6月14日)。

もし、この会談を「譲歩」と見なすならば、近年の米国大統領で最も「譲歩」したのがトランプ大統領であったと言えます。過去の大統領は、「譲歩」できなかったために、首脳会談に辿り着かなかったのでしょう。

それでは、トランプ氏はなぜ「譲歩」したのでしょうか。多くのメディアにおいて米国の秋の中間選挙を前にトランプ大統領が、とりあえずの外交で何らかの「政治的成果」を求めたと報じられています。

確かにそういう側面は否定できないでしょう。

しかし、米国マンマス大学が実施した米国の世論調査(18年6月12-13日)によれば、「米朝首脳会談でどちらの国がより多くの利益を得たと思うか」という質問に対して、38%が、北朝鮮が手に入れたものがより多かったとし、米国の利益がより多かったとしたのは9%に過ぎなかったのです(CNN, 2018年6月17 日)。

同様に、北朝鮮の人々も米朝会談に不満を感じているという意見があります。

ニュースアナリストのフィヨドール・テルティツキー氏は、核を放棄し、核保有国の地位を明け渡すことを決めた米朝共同宣言に対して国民から不満の兆候が出始めていると分析します(東洋経済online, 6月2日)。

同氏は、首脳会談は北朝鮮のメディアでは伏せられており、会談の勝利が何かをまったく知らされていなかった北朝鮮国民は、実際のところ米朝首脳会談は「敗北」だった、と受け止めている可能性があるとしているのです(同上)。

北朝鮮の国民が、それ程、自己主張することが許されているのかどうかわかりません。

ただ、米国の有権者も、北朝鮮の国民も今回の首脳会談を「敗北」「譲歩」と捉えているとすれば、非常に興味深いのですが、「独裁的」である両氏は、おそらく、たとえ、「敗北」「譲歩」と言われても気にもしないでしょう。

やはり、この会談は、ドナルド・トランプ米国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長の間でしか行われなかったのかもしれません。

しかし、それでも、アクター論的な観点だけでは十分ではないようにも思えます。両者を(意識的に、無意識的に)動かした社会構造の変化は何だったのでしょうか。この首脳会談の背景を、もう少し、考察する必要があると感じます。

2018年3月23日 23:54

プーチン大統領が選挙で圧勝してスターリンに次ぐ長期政権となる事実が意味することは何か?

3月18日、ロシアで大統領選挙が行われ、ウラジーミル・プーチン氏が勝利し、4選目となりました。

今回、プーチン氏の得票率は76.69%ですが、第2位の共産党の候補であるパーベル・グルジーニン氏は11.77%に過ぎなく、プーチン氏の圧勝であると言えます(Sputnik International, 23 March 2017)。

プーチン氏は2000年3月に初めて大統領に当選したのですが、ロシア大統領の任期は憲法で「連続2期」に制限されているため、2008年から2012年までメドヴェージェフ氏が大統領となり、プーチン氏は首相となります。2012年に大統領に復帰し、今回、トータルで4選目となりました。

現在、ロシアの大統領の任期は6年となっており、今回の勝利でプーチン政権は2024年まで続きます。2000年から事実上の権力者と見なせば、20世紀以降において、旧ソ連のスターリン共産党書記長以来の長期政権となるとされています(朝日Digital, 3月19日)。

ヨシフ・スターリン氏は1922年から死去する1953年までソ連共産党の書記長として長らく最高権力者の座にあり(ただし、レーニンが1924年1月に死去するまでは、最高権力者ではなかったのですが)、約30年間、ソ連を動かしていたのですが、スターリンに次ぐと言われると、いかにプーチン時代が長いことが分かります。

しかしながら、2000年(得票率53.44%)から、2004年(71.9%)、2012年(63.6%)、2018年(76.69%)とプーチン氏が大統領選挙で4回も勝ち抜いてきた点は、「王様」のように共産党書記長が「終身」の権力者であったソ連とは大きくことなります。

ロシアでは、選挙の不正が指摘もされていますが、選挙によっては約25%から過半数近い反対票がプーチン氏に向けられているのも事実です。にもかかわらず、プーチン氏は「民主的」かつ「合法的」に政権の座にいるのです。そして、選挙不正の報道が出ること自体が、ロシアがソ連時代とは異なることを顕著に示しているように思えます。

ただ、今回の大統領選挙が、英国国内でロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のセルゲイ・スクリパリ元大佐と娘が何者かによって殺害された件によって、ロシアと欧州諸国との関係が悪化している中で行われたことも興味深いところがあります。

ロシアの有権者が、「強い」大統領、「強い」ロシアを求めているのかもしれません。

こうなりますと、2024年に72歳になるプーチン大統領が、どのように権力を維持しようとするのか、2024年以降も、ロシアの有権者がプーチン氏を支持し続けるのかを注目しなければなりません。

2018年2月 1日 23:08

いつも世界のどこかでお正月!

昨日、教壇に立つ大学の定期試験が終わりました。

最終日、ある試験において、私が試験監督をしていたところ、1年生のベトナムからの(男子)留学生が答案を提出すると同時に「これで1年生終わり、これから2年生だ!」と言い放ちました。

まだ、採点していないので、彼が無事、単位を取得して2年生になれるかどうかは未定であり、「君、まだ、分からないよ!」と突っ込もうとしたところ、「来週、ベトナム帰ります」、「先生、良いお年を!」と先に言われてしまい完全に敗北しました。

ベトナムの今年のお正月(旧正月)の元日は、2月16日であり、彼らにとっては暮れも押し迫っているのです。
 
もちろん、日本で生活していますから、彼らが日本の時間を知らないわけではないです。日本のお正月が1月1日だったことも理解しているでしょう(留学生の多くは、時給が高い年末年始はアルバイトをしますが)。でも、彼らは同時にベトナム時間でも生きているのです。

私が教える社会学では、「マージナルマン」という概念があります。このブログでも、何度も言及していますが、「マージナルマン」とは、米国の社会学者ロバート・パークが提唱した二つ(以上)の社会集団に属し、一つのアイデンティティに固定されていない人間のことを指しています。

そして、「マージナルマン」としての留学生は日本と母国の「2つの時間」に生きることになります。

グローバル化というと価値の一元化(フラット化)のように見なされることもありますが、(マスレベルの国境を越えた移動によって)多くの人々のアイデンティティが、マージナル化していくのも事実であるでしょう。

それは多元的な現象でもあります。

私は好きなイラン映画『白い風船』は、イラン暦1373年の大晦日(西暦1995年5月)のテヘランが舞台です。映画は、「現在、5時7分です。新年まで後1時間28分30秒です」というラジオ放送から始まります。

昨年、9月に私が訪れたネパールは、日本と時差が3時間15分あるのですが(日本のほうが進んでいる)、そもそも、ネパールはビクラム暦を採用しており、2018年1月1日は、ビクラム歴2074年9月17日です。そして、ネパールにおいて新年は日本の「4月」に迎えることになります。

つまり、ネパール人の留学生からは、3月に「良いお年を!」と言われることになります。

そう考えると、いつも世界のどこかでお正月なのかもしれません。

それは世界がバラバラなのではなく、グローバル化していることによって、(留)学生が世界に学び、お正月の「違い」が見えてきたのです。

毎月、お正月、悪くはないです。

皆さん、今月も良いお年をお迎えください。

2017年12月31日 14:40

2017年「分断される社会」の顕在化に直面して

私は、この数年、早稲田大学エクステンションセンターにて「国際時事問題入門」(ヨーロッパ)という講座を担当していますが、12月の最後の講義は、1年間の総括をしています。

政治、社会現象を(カレンダーイヤーで纏める)まるで年末特番のように語ることに抵抗はありますが、誕生日と同じように、事象を振り返るために何らかの「区切り」は必要ではあります。

2017年の欧米を中心とした国際情勢を一言で纏めると、「分断される社会」が世界的に顕在化した1年であったと考えます。

1月には、米国でドナルド・トランプ大統領の就任し、トランプ政権が発足しました。「米国社会の分断」を顕著に表すこの政権は、社会の亀裂を修復するかのように、北朝鮮や中東問題等、「外交」を重視したように感じます。しかしながら、山積する国内問題を、国際問題で解決できないことは歴史が証明しており、前途多難であることには変わりません。

今年のヨーロッパは、選挙の1年でした。

4月のフランス大統領選挙では、長らく政権を担ってきた二大政党(社会党、共和党)が敗北し、5月の決選投票では、エマニュエル・マクロン氏の新党と極右政党・国民戦線のマリーヌ・ル・ペン氏の一騎打ちとなり、マクロン氏が勝ちました。

9月のドイツの連邦議会選挙では、アンゲラ・メルケル首相のドイツキリスト教民主同盟が勝利し、メルケル首相は4選を果たしましたが、極右政党のドイツのための選択肢が得票率12.6%(94議席)を獲得し、大きな話題になりました。

6月に催された英国の総選挙では、政権与党の保守党が318議席、得票率42.4%、野党第一党の労働党が262議席、得票率 40.0%でした。両党で80%以上も得票したことは、フランスやドイツとは異なる現象ですが、2016年6月の国民投票によって、EUからの英国の離脱(ブレグジット)が決定しており、この総選挙の結果はその反動とも言えます。従って、総選挙で、二大政党が勢力を維持したことは、英国の社会的分断を露呈したブレグジット問題が解決に向かっていることを意味しないでしょう。

ヨーロッパにおいて極右政党の台頭は、2017年に始まったことではありませんが、この1年は、より可視化されてきたように思えます。

そして、秋以降のカタルーニャのスペインからの独立運動も、地域別の「格差化」と位置付けることできるかもしれません。同時に、「同国」において独立支持者が半数しか至らないことは、明らかにカタルーニャも社会的に分断されていることの証左となってしまうのです。

ホーム・グローン・テロリストによる、テロ行為も続いています。

各国・地域が社会的に一体感を失いつつある今日、私たちはどのように(複数の)集団的アイデンティティのバランスを保ち、平和な社会を再構築すべきなのでしょうか。

「個」に立ち戻って考えてみましょう、というもっともらしい提案を、講義中、述べることも躊躇するような1年でした。

それでも、社会も人生も続くとすれば、社会の「持続」を重視し、教育においては(他者を受け入れる)包摂的で重なり合う集団的アイデンティティを尊重し、その源となる「個」の重要性を、これからも語り続けるしかないのでしょう。

2017年12月26日 14:41

そして、米国と日本は「クリスマス離れ」?

昨日、近年、盛り上がりを見せる中国のクリスマスについて言及しました。しかし、同時に、中国では地方を中心に「上」から「西側的」なクリスマスを批判するような声があがってもいます(共同通信, 12月18日)。

それは、中国人全体の意見を代表しているとは考えられませんが、「一部の若者がクリスマスなどの西側宗教の記念日に夢中になっている」(毎日新聞, 12月24日)という指摘は非常に興味深いものがあります。

しかしながら、面白いことに「西側」の代表格であるだろう米国では、「クリスマス離れ」が進んでいます。

調査機関「Public Religion Research Institute(PRRI)」が昨年行った世論調査によれば、「店や企業は顧客に対して(宗教色の強い)『メリークリスマス』の代わりに(宗教色の希薄な)『ハッピーホリデー』」と言うべきかという問いに対して、『ハッピーホリディ』派は回答者の47%で、『メリークリスマス』派の46%を上回っています(Newsweek, 2016年12月24日)。

その背景には、2001年の同時テロ以降の文化や宗教の多様性を認め合おうという米国の社会のポリティカルコレクトネスがあり、2001年以降に育った若者になる程、クリスマス離れが鮮明になっているとされています(猪瀬聖「「メリークリスマス」忌避なぜ」2017年12月24日)。

もう少し、グローバル化との関連など調査すべき点はありますが、米国のクリスマスが宗教色を薄めているのは確かでしょう。

それに対して、大ドナルド・トランプ大統領は、昨年の大統領選挙において当選したら「メリークリスマス」というと公約しており、大統領として初めて迎える今年のクリスマスでは、公約を実行し、「メリークリスマス」を連呼しています。結果として、米国のクリスマスの政治化に拍車が掛かっているのです。

もちろん、米国人の90%がクリスマスを祝い、46%がこの日を宗教的な祝日と、33%が文化的な祝い事と認識しており、クリスマスというイベントが米国から消えた訳ではないです(ワシントンタイムズ, 12月25日)。

それでも、多民族国家である米国のクリスマスは、政治化されながらも徐々に形を変えようとしているのです。

さて、日本です。

1980年代に恋人と過ごすイベントとして定着した日本のクリスマスも変容を遂げようとしています(堀井憲一郎「実録!日本のクリスマスが「女と男のイベント」に変わっていくまで」2017年12月1日)。

レオパレス21社が、クリスマスシーズンを目前に、全国のひとり暮らしをしている20~30代の社会人男女計600名を対象に調査したところ、今年のクリスマスをひとりで過ごす予定であった人は65.0%であり(昨年度の同調査結果は、52.2%)であり、更にそのうちの69.5%が、1人でいることを「寂しいと思わない」(69.5%)と回答しています(PR TIMES, 2017年12月11日)。
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米国と日本は、それぞれ別の理由でクリスマスを「卒業」するかのようです(前述の通り、その理由に関しては、より深い考察が必要ですが)。

良し悪しの問題ではないでしょう。ただ、私は中国で観たクリスマスを「昭和」ぽくて、懐かしいと感じたのも事実です。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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