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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

欧州事情

2017年8月14日 03:31

欧州における世間とは何か: 映画『マグダレンの祈り』が見せつける世間体の壁

世間とは何かを、改めて考えさせられる作品です。

『マグダレンの祈り』(原題 The Magdalene Sisters)
制作国  アイルランド, 英国
制作年  2017年
監督  ピーター・マラン
出演  アンヌ=マリー・ダフ, ドロシー・ダフィ, ノラ=ジェーン・ヌーン

あらすじ
【1964年、ダブリン。マグダレン修道院(洗濯所)に、親戚にレイプされたマーガレット、訳ありで未婚の母となったローズ、男を誘惑したと決めつけられ、孤児院から送られて来たバーナデットの3人の女性が入所してくる。そこは、過酷な生活のため、逃げ出そうとする少女は後を絶たない。しかし、逃げ出しても、ある入所者は父親によって戻されてしまう。親戚だけではなく、社会的にも差別されており、お祭りの日に、特別の許可によって集団で外出しても、街の人たちが冷たい目で彼女たちを見つめる。それでも、マーガレット、ローズ、バーナデットは何とかこの修道院を出て、自分自身を取り戻そうとする。】

社会学者の阿部謹也氏は、世間を「会則や定款はないにもかかわらず、人々を結びつけている強固な絆である」と定義し、世間では「個人は拘束され、人々は自分の振る舞いの結果、排除されることを最も恐れる」とします(阿部謹也『「世間」とは何か』講談社新書、16頁;『日本人の歴史意識』岩波新書、7頁、6頁)。

そして、阿部先生はヨーロッパと日本を対比し、世間を日本固有であり、日本人は現在も「世間」に生きていると表現します(阿部『世間とは何か』)。

しかしながら、この実話に基づいた本作は、ヨーロッパに住むアイルランド人がまさに「世間」に生きていることを描いたものです。

女性として少しでも貞操を疑うようなことがあった場合(それが事実であってもなくても、本人に非があってもなくても)、女性の家族が世間体のために、女性をマグダレン修道院に入れるのです。それ以外に、家族が世間から排除されることを免れる道がないからです。

そして、マグダレン修道院は世間の外に存在します。女性たちは、村の人々からはまさに村八分状態であり、冷たい視線が投げかけられます。

辛うじて彼女たちが社会と繋がっているのは、彼女たちが無償で洗濯労働をしているからであり、そこで貨幣経済の底辺に組み込まれているのです。更にマグダレンがカトリック教会の下部組織に入っていることで、宗教的にも最下層に置かれながら存在しています。

そんなマグダレンから主人公たちは抜け出そうとします。しかし、抜け出してからも、人の目を気にしながら生きていかなくてはいけないのです。

このマグダレン修道院のような「洗濯所」が1990年代までアイルランド各地に現存していたことに驚かずにはいられません。

そして、世間体が日本だけではなく、欧州(少なくてもアイルランド)でも強い規範であることを、本作で「これでもか」「これでもか」と見せつけられ、「世間」研究を国際的な広がりを持って展開しなければいけないことを痛感します。

2017年7月28日 11:34

様々な壁にぶつかり、「個」として自立する: 映画『インシャラー・ディマンシュ』が示唆する移民女性のマージナル性

フランスに移民したアルジェリア人は、フランスではアルジェリア人ですが、本国のアルジェリア人からみれば、もはやアルジェリア人ではないのです。この作品は、「マージナルマン」としてフランスのアルジェリア系・移民系女性の悲哀と希望を映し出しています。

『インシャラー・ディマンシュ』(原題: Inch'Allah Dimanche)
制作国 フランス
制作年  2002年
監督 ヤミナ・ベンギギ

あらすじ
【1970年代の北フランスの小さな町サン・カンタン。フランス政府は1976年、 「家族再会法」で一定要件の下、外国人移民労働者の家族を呼び寄せることを認める。アルジェリア人のズイナは、10年前にフランスに移民したアルジェリア人の夫に呼び寄せられ、3人の子供と義理の母と一緒にフランスにやってくる。しかし、夫は日常的に彼女に暴力を振るい、一緒に移民してきた義母は彼女を使用人のように扱う。近所の独り身のフェミニスト・ニコルは彼女に接近し、彼女を「解放」しようとするが、逆に夫や義母から罵倒されてしまう。孤独に苛まれ、ズイナはサン・カンタン内のアルジェリア系移民の女性を毎日曜日に探し始める。数週間後にやっと、その女性の自宅を見つけるが、夫に黙って来たと言うと、友情を拒否されてしまう。】

ベンギギ氏は、映画監督であり、フランスのフランソワ・オランド政権の外務大臣付在外フランス人・フランコフォニー担当大臣を務めた政治家でもあります。『インシャラー・ディマンシュ』は、ベンギギ監督の自伝的要素が強い作品であると言われています。

主人公のアルジェリア系移民女性のズイナは「マージナルマン」的存在です。

「マージナルマン」とは、二つ(以上)の社会集団に属し、一つのアイデンティティに固定されていない人間のことを指した米国の社会学者ロバート・パークが提唱した概念です。

ズイナは、アルジェリア人の義母程には保守的ではなく、ウーマンリブを地で行く近所のフランス人フェミニスト女性のニコル程、進歩的(革新的)でもないのです。

最終的に、ズイナは同じ町に住むアルジェリア人女性に「振られる」ことによって、自分1人で生きていくしかないと自覚します。

保守でも革新でもない自分自身の道を歩むことも、(個人主義の始まりであり)西欧化なのかもしれません。しかしそれでも、ズイナは、個として困難に立ち向かうことを覚え(本当の幸せを掴む希望を抱かせ)映画が幕を閉じるのです。

ちょっと、漫画チックな単純なストーリーですが、社会から冷ややかな目で見られる移民一家の中で、更に家庭内で差別を受けるズイナが「個」として自立していく姿は、見ごたえがあります。

いずれにしましても、移民問題を考える際、移民系住民を「マージナルマン」として捉え、彼らの居場所を考えることはとても重要であるように思えます。

2017年7月 4日 21:24

東京都議会選挙とフランスの国民議会選挙

東京都議会議員選挙が終わり、周知の通り、小池百合子知事が率いる「都民ファーストの会」が、55議席を獲得し圧勝しました。選挙前に小池支持を打ち出していました公明党が、23議席(第二党)、生活者ネットが1議席獲得しており、合計79議席で都議会の過半数を制しました。

森友学園、加計学園問題に、衆議院議員や大臣の失言、献金疑惑と自由民主党の「自爆的」な要素が強く、「都民ファーストの会」の勝利よりも自由民主党の敗北(57議席から23議席へ)が印象深い選挙となりました。

民進党も、自民党のマイナス議席を拾うどころか改選前の7議席から2議席減らして5議席に留まっており、共産党と公明党以外の既成政党は敗北したと言えます。

その理由は違うのですが、6月18日に行われたフランスの国民議会(下院)選挙の結果に似ています。

フランスの第二回投票では、エマニュエル・マクロン新大統領率いる「共和国前進」と協力政党が約6割に相当する350議席を獲得して圧勝しました。

政権を担ってきた二大政党の一つである社会党陣営は44議席(8割マイナス)、もう一つの共和党陣営137議席(半減)と惨敗でした。フランスの政治の主役であった既成政党にとっては大変厳しい結果です。

大統領選挙で話題となった極右の国民戦線は8議席に留まりました。日本の選挙でも右翼の台頭は現段階ではまだ見られません。

しかしながら、低い投票率は不気味な共通点です。

フランスの国民議会の第一回目の投票率は48.70%で、第二回目が42.64%でした。過去と比較し、高いとは言えない2017年5月の大統領選挙でさえ、第一回目が77.77%、第二回目が74.56%ですので、今回の国民議会選挙が、いかに国民にとって関心がなかったかが分かります。

マクロン大統領の「共和国前進」は、この低い投票率の中において得票率は半分以下(第2回目の得票率は43.06%)なのです。

さて、東京都議会選挙のほうも、投票率は51.28%でした。前回は、43.50%でしたので随分上昇したとはいえ、約半分です。その中で小池百合子知事の「都民ファーストの会」の得票率は33.68%だったのです。

もちろん、東京都議会選挙は国政選挙ではなく、総選挙になればどうなるかは分かりません。

ただ、フランスも日本も、選挙に行かなかった半数の人々の政治意識はどのようなものなのでしょうか。マクロン大統領の「共和国前進」や小池知事の「都民ファーストの会」を消極的であっても支持しているのでしょうか。

何かこれから大きな変化があるように思えてなりません。

2017年5月15日 23:59

なぜ、マクロン大統領と大統領夫人の年齢差は許容されるのか?

5月7日のフランス大統領選挙の結果を受けて、14日、エマニュエル・マクロン氏がフランス第25代大統領に就任しました。

当ブログ(5月8日)でも記しました通り、格差化し、社会が分断されているフランスの大統領として前途多難のマクロン氏ですが、その奥様の存在が注目されています。

1953年4月生まれのブリジット・マクロン夫人は、現在、64歳であり、1977年12月生まれのマクロン大統領とは24歳8カ月年上です。

米国のドナルド・トランプ大統領も、1946年6月生まれの70歳、1970年4月のメラニア・トランプ夫人との年齢差は24歳2カ月年下です。

男女の違いはあるとはいえ、24歳の格差婚が批判されるのでしたら(マクロン大統領は批判されていないのですが)、フランス大統領と米国大統領も同じであるでしょう。

更にマクロン夫妻の場合は、2人の出会いが、当時、39歳のブリジットさんが高校の演劇の教師、15歳のエマニュエル・マクロン氏がブリジットさんの学生という関係だったことが特異ではあります(BBC 5月9日)。

その時、ブリジットさんは既婚であり、3人のお子さんがおられ、当然、マクロン氏の両親から関係を大反対されます。

それでも、両者は愛を貫き、2006年にブリジットさんは離婚し、2007年にマクロン氏は29歳、ブリッジさんが54歳の時に結婚します(CNN 4月25日)。

そして、今日、大統領夫人となるブリジットさんの存在は批判されるどころか、好感を持って受け止められています。世論調査会社「YouGov」によると、49%が彼女に好印象を抱いていると回答したのに対し、悪いイメージを抱いていると答えたのは26%に留まっています(HuffPost France, 5月12日)。

このようなブリジットさん人気を、青山学院大学・羽場久美子教授は「フランスは自由恋愛の国。個人が好きな形で恋愛することに社会が何か言うことはない。むしろ一途さが評価され女性票が集まったことは事実ではないか」と分析していますが、マクロン大統領にとってもプラスになっているのは確かです(J-Cast 5月15日)。

しかしながら、もし、24歳下の女性と再婚した男性(前妻との間に3人の子供がいる)がフランスの大統領もしくは大統領候補となった場合、ファーストレディに対して、たとえそれが「一途な愛」であっても同じような結果がでるのでしょうか。

それでは、米国のトランプ大統領や英国のチャールズ皇太子は、なぜ批判されてきたのでしょうか。

それが、フランスと米国(英国)との恋愛観、家族観の違いなのでしょうか。

もちろん、ブリジットさんの場合、個性が人々を魅了している点もあると思われますが、もう少し考えていきたいテーマです。

2017年5月 8日 14:30

フランス大統領選挙の結果を考える

フランス大統領選の決選投票が5月7日にありました。大方の予想通り、エマニュエル・マクロン氏(無所属)が66.1%の票を集め、マリーヌ・ルペン氏(国民戦線)を破り、第25代フランス共和国大統領に選ばれました。

しかし、得票率を単純に捉えることはできません。

国民戦線のルペン氏は(得票率33.9%で敗北しながらも)第1回投票よりも10ポイント近く票を伸ばしました。

第1回投票では、極右のマリーヌ・ルペン氏は7,678,491票(21.30%)でしたが、対極でありながら政策が似ている、極左のジャン=リュック・メランション氏が4位ながらも、7,059,951票(19.58%)を得ていました。

当ブログ(2017年4月28日付)でも言及しましたが、私は、共産党を中心とするメランション氏の票が、極右のルペン氏へ流れることは難しいと感じていました。

実際、それは、12%という歴史的な白票の多さとなって顕在化しました(「フランス大統領選で無効票・白票が50年ぶりの多さ「どちらの候補も信条に合わなかった」の声」HuffPost France, 5月8日)。

投票者7,752人を対象にしたOpinion Wayの調査によると、第1回選挙でメランション氏に投票した25%、共和党のフランソワ・フィヨン氏に入れた21%が白紙投票あるいは無効投票を行ったとされています(同上)。つまり、マクロン氏にもルペン氏にも入れられない有権者が多く存在したということになります。

マクロン氏の得票率66.1%は、ルペン氏に対するアンチ票と考えられ、実際の支持率は15%程であり、マクロン氏の支持基盤は極めて脆弱であると報じられています(マクロン氏、フランス大統領選に勝利 しかし残る「敗北の後味」HuffPost France, 5月8日)。

一方、ルペン氏は、固い支持票の上に、決選投票ではプラス約300万票を獲得しました。

ルペン氏の300万票は、「排外主義を支持する右翼、既存システムを強く憎む中間層のほか、極左と呼ばれる人の一部までもが、ルペン氏を選んだことも示唆する」と分析されていますが(同上)、それでも、全体としてみれば、白票が多かったことからメランション支持者は今回の決選投票においてルペン支持にまでは至っていないと言えるでしょう。

マクロン氏は勝利宣言において「彼らも怒りや不安を表明しました。私はその声を尊重し、国民が今後、極右に投票しないで済むよう、できることはすべて実行します」(NHK, 5月8日)と述べています。

しかし、政策上の類似点を見ますと、今回の多くの白票を、近未来においてマクロン氏が集約すると考えるよりも、ルペン氏とメランション氏の「共闘」によって「動かされる」可能性のほうがより現実的なのではないでしょうか。

そうであったとしても、2017年のフランスの有権者が、第二の「トランプ」現象を阻止したことは事実です。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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