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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

欧州事情

2018年4月14日 02:01

ハンガリーにおける「壁」と総選挙とナショナリズム

4月8日にハンガリーで総選挙がありました。

その結果、反移民、反EUを訴えてきたオルバーン・ヴィクトル首相率いる「フィデス=ハンガリー市民同盟」が49%の得票率で、199議席中、133議席を獲得して勝利しました。オルバン首相は、3期目に入ることになります(http://www.valasztas.hu/dyn/pv18/szavossz/hu/l50.html)。

この選挙で着目したいのは、反グローバル化、反ユダヤ主義、ロマ排斥などを主張する極右政党の「ヨッビク(より良いハンガリーのための運動)」が得票率19%、26議席獲得で第2党となったことです(同上)。

「フィデス=ハンガリー市民同盟」と「ヨッビク」を合わせた議席数は199議席数中、159議席となり、約80%がEUに懐疑的な反移民の右翼政党の議席となります(同上)。

私は1990年代、定期的にハンガリーを訪れていました。その頃のハンガリーは、親EU熱が沸騰しており、ハンガリーで会った人の多くが「私たちはヨーロッパ人であり、ハンガリーはEUに加盟すべきだ」と語っていたことを鮮明に覚えており、今日の激変に驚きます。

実際、2000年代に入ってからも、ハンガリーは親EU でした。

2004年5月にEUに加盟し、2004年12月20日に行われたEU憲章の議会承認では、賛成が322、反対は僅か12(棄権8)だったのです(吉武信彦「欧州憲法条約批准過程と国民投票(1)」『地域政策研究』第9巻、第2・3合併号、2007年2月)。

しかしながら、現在のハンガリーは違います。

2015年、ハンガリーは、シリアからの難民の流入を防ぐためセルビアとの間に延長175kmの柵(壁)を張り巡らしました。その後、クロアチアから難民が流入することを防ぐためにクロアチアとの国境にも「壁」を作りました。

かつて、1989年の「ベルリンの壁」の崩壊を促したのは、いち早く改革路線に舵を切っていたハンガリーでした。国外旅行の自由化を宣言し、1989年5月にはオーストリア国境に張られていた鉄条網が撤去します。ハンガリー経由で西側諸国に脱出しようとした東ドイツの人々が国境付近で「ピクニック」を開催したことが、東欧の共産主義政権崩壊のきっかけとなったのです。

そんなハンガリーが、なぜ「壁」を作り、移民排斥を高らかに謳うようになってしまったのでしょうか。

実は、オルバン政権は、主に地方の貧困層から支持されていると見なされています。ハンガリーばかりではないのですが、EUという巨大市場の中において「勝ち組」になれるのは(概して大都市の)少数派のエリートでしかないのです。

思ったより「美味しくなかった」EUに対して「幻想」が覚めたとすれば、そもそもハンガリーの「ヨーロッパ意識」とは何だったかを考えさせられます。

2018年3月 4日 04:40

1個400円のスイスのチョコを食べれば、スイスの何かが分かる

私は、縁があってよくスイスに行くのですが、このブログの私の担当をして下さっているSさん(QuonNet)が、「スイスと言えば、チョコですよね。スイスのチョコといえば、『レダラッハ』(Läderach)ですね」とメールで書かれてきました。

「レダラッハ」は、1962年、スイス東部のエネンダという村で生まれたチョコレートです。トリュフやバラエティに富んだフレッシュチョコレート(板チョコ)が有名で、今ではスイス国内のみならず、銀座三越にまで進出しています。

気になるお値段は、銀座三越ではフレッシュチョコレートが「100グラムあたり本体価格 1,800円(税込1,944円)」と表示されています(http://www.kataoka.com/laderach/lineup/)。

スイスでは、450グラムで33.75スイスフラン(約3,800円)ですので、日本では2倍以上に跳ね上がっていることになります。高いです。でも、そもそも高い「生もの」を空輸していますから、仕方がない値段かもしれません。

「レダラッハ」は、日本でいえば、地方の発祥の高級和菓子店の高級お煎餅という感じでしょうか。「レダラッハ」が、スイスを代表するチョコ店なのかを検証することができませんが、代表する一つであることに疑いはないように思えます。

当ブログ2016年2月14日付で言及しましたが、私はかつて、私が勤務する大学の職員から、スイスに行ったら「シュプリュングリ」(Sprüngli)のチョコを是非、買ってきて欲しいと言われました。

「シュプリュングリ」は1836年創業で、「ヨーロッパにおける最も著名なチョコ専門店のひとつ」(Cool Swissスイス観光情報)とされています。

代表的な24個(285 g)の缶入りの「Sprüngli House Tin」は43スイスフラン(約4900円)。1g=17.2円。1個=204円で、こちらも負けずに高級です。もし、空輸すれば、「レダラッハ」同様の値段設定になってしまうでしょう(以下、写真は、同社HPから)。

spruengli-haus-dose-gross_5.png

実のところ、私がかつて住んでいたところは、スイスのフランス語圏のジュネーブであり、上記の2社はドイツ語圏の高級チョコでして(ジュネーブでも購入できますが)、ジュネーブを代表するチョコとは言えません。

ジュネーブで(特に日本人の間で)有名なのは、「ステットラー」(Stettler)です。雅子様が皇太子殿下にプレゼントしたことで知られる同店は、「ジュネーブの石畳」と名付けられているチョコ(以下、写真は同社HPから)が代名詞となっています。こちらは日本では1粒400円程で空輸販売されています。


欧州でチョコといえば、ベルギーかスイスですが、ベルギーチョコといえば、「ゴディバ」(Godiva)という圧倒的なジャイアンツがいる一方、スイスのチョコ界は王様がいません。

雅子様チョコとして知られる「ステットラー」も、「ゴディバ」が大企業ならば、家内制手工業的な中小企業なのです。その小さな会社が、極めて付加価値の高く、競争力のある芸術品のようなチョコを世界に送り出しているのです。

1個400円。時計産業も同様ですが、スイスの中小企業の力強さを見せつけられます。

「スイス・チョコを食べれば、スイスの何かが分かる」と言えば、言い過ぎでしょうか。

2018年1月10日 02:30

スコットランドとバルセロナと「アヴェ・マリア」

音楽は、その曲を耳にした場所(空間)が記憶に焼き付くことがあります。

年末になりますと、フランツ・シューベルト作曲の「アヴェ・マリア」(エレンの歌第3番)が世界各地で流れますが、私は、この曲を聞くたびに約20年前に訪れたバルセロナを思い出します。

当時、英国・スコットランドのエジンバラ大学に留学していた私は、タブロイド新聞のクーポンを1週間集めると格安航空会社EasyJetのロンドン-バルセロナが「格安」で利用できるというプロモーションを用いて(参加して)、初めて年末のバルセロナ(カタルーニャの首都)を訪れました。クリスマス前のその街は、数々のイルミネーションでとても綺麗に飾られていました。

そして、なぜか数泊の短い滞在だったにもかかわらず、時節柄だったのでしょう、何度もストリート・パフォーマンスの「アヴェ・マリア」を見聞きすることになったのです。この透明感に満ちた曲は、不思議に、バルセロナを飾るガウディの建築物にもフィットし、心に沁み込んできました。

「アヴェ・マリア」は、もちろん、バルセロナともカタルーニャとも無関係です。そもそも、クリスマスにも縁のない曲なのです。。

同曲は、私が学んだスコットランドとは深い関係があり、18世紀から19世紀に活躍したスコットランドの詩人ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人』(『湖上の麗人』)のドイツ語訳にシューベルトが曲を付けたものです。

物語の舞台は16世紀のスコットランド王国。

狩りで道に迷った青年の国王は「湖上の麗人」と称された美しい娘エレンと出会います。身分を隠していた国王は、厚遇してくれたエレンにお礼として自分の指輪を渡して立ち去ります。しかし、その後、エレンの父は反国王派リーダーとして国王と戦うことになってしまい、エレンの恋人マルコムと共に国王軍に囚われてしまいます。その時、娘のエレンがマリア様に助けて欲しいと願い「アヴェ・マリア」を歌います。そして、(指輪を持っている)エレンと再会した国王は、政敵であるエレンの父と恋人マルコムを許すのです。

ご存知の通り、現在、バルセロナがあるカタルーニャは、スペインからの独立を訴える人々が約半数を占め、政治的な緊張関係が続いています。約半数はスペイン残留を望み、独立運動が高揚しながらカタルーニャ自体が分裂しているのです。

仮に独立しても、もしくは、スペインに留まっても、いずれのケースにおいても亀裂は残ります。私は、政治現象を文学的(ロマン主義的)感覚を持って語るのは適切ではないと考えますが、今のカタルーニャは、カタルーニャに住む全住民(家族、恋人、友人)を救うため、誰かが、この透明感に満ちた「アヴェ・マリア」を歌わなければいけないのではないでしょうか。

音楽には、スペイン、カタルーニャ間、そして、カタルーニャ国内を、大きく引き裂く溝を修復するような力はないかもしれません。それでも、同曲は、人々にちょっとした「休戦」ぐらいはもたらすような気がします。

2017年12月31日 14:40

2017年「分断される社会」の顕在化に直面して

私は、この数年、早稲田大学エクステンションセンターにて「国際時事問題入門」(ヨーロッパ)という講座を担当していますが、12月の最後の講義は、1年間の総括をしています。

政治、社会現象を(カレンダーイヤーで纏める)まるで年末特番のように語ることに抵抗はありますが、誕生日と同じように、事象を振り返るために何らかの「区切り」は必要ではあります。

2017年の欧米を中心とした国際情勢を一言で纏めると、「分断される社会」が世界的に顕在化した1年であったと考えます。

1月には、米国でドナルド・トランプ大統領の就任し、トランプ政権が発足しました。「米国社会の分断」を顕著に表すこの政権は、社会の亀裂を修復するかのように、北朝鮮や中東問題等、「外交」を重視したように感じます。しかしながら、山積する国内問題を、国際問題で解決できないことは歴史が証明しており、前途多難であることには変わりません。

今年のヨーロッパは、選挙の1年でした。

4月のフランス大統領選挙では、長らく政権を担ってきた二大政党(社会党、共和党)が敗北し、5月の決選投票では、エマニュエル・マクロン氏の新党と極右政党・国民戦線のマリーヌ・ル・ペン氏の一騎打ちとなり、マクロン氏が勝ちました。

9月のドイツの連邦議会選挙では、アンゲラ・メルケル首相のドイツキリスト教民主同盟が勝利し、メルケル首相は4選を果たしましたが、極右政党のドイツのための選択肢が得票率12.6%(94議席)を獲得し、大きな話題になりました。

6月に催された英国の総選挙では、政権与党の保守党が318議席、得票率42.4%、野党第一党の労働党が262議席、得票率 40.0%でした。両党で80%以上も得票したことは、フランスやドイツとは異なる現象ですが、2016年6月の国民投票によって、EUからの英国の離脱(ブレグジット)が決定しており、この総選挙の結果はその反動とも言えます。従って、総選挙で、二大政党が勢力を維持したことは、英国の社会的分断を露呈したブレグジット問題が解決に向かっていることを意味しないでしょう。

ヨーロッパにおいて極右政党の台頭は、2017年に始まったことではありませんが、この1年は、より可視化されてきたように思えます。

そして、秋以降のカタルーニャのスペインからの独立運動も、地域別の「格差化」と位置付けることできるかもしれません。同時に、「同国」において独立支持者が半数しか至らないことは、明らかにカタルーニャも社会的に分断されていることの証左となってしまうのです。

ホーム・グローン・テロリストによる、テロ行為も続いています。

各国・地域が社会的に一体感を失いつつある今日、私たちはどのように(複数の)集団的アイデンティティのバランスを保ち、平和な社会を再構築すべきなのでしょうか。

「個」に立ち戻って考えてみましょう、というもっともらしい提案を、講義中、述べることも躊躇するような1年でした。

それでも、社会も人生も続くとすれば、社会の「持続」を重視し、教育においては(他者を受け入れる)包摂的で重なり合う集団的アイデンティティを尊重し、その源となる「個」の重要性を、これからも語り続けるしかないのでしょう。

2017年11月29日 00:13

なぜ、つくばエクスプレスの「20秒早発」の謝罪が、国際ニュースになるのか?

面白い情報は、瞬時に国境を越えることを実感させる、大変興味深いニュースがありました。

10月14日、茨城県つくば市と東京・秋葉原を結ぶ「つくばエクスプレス(TX)」が、千葉県流山市の南流山駅において、普通列車(下り)が定刻より約20秒早発してしまいました。9時44分40秒発車予定だったものが、9時44分20秒になってしまったということです。

TXを運営する首都圏新都市鉄道は、乗務員の確認不足が原因として、同社のホームぺージにおいて「お客様には大変ご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます」と謝罪を掲示しました。

同社の謝罪文は、現在も以下において公開されています(首都圏新都市鉄道HP)(http://www.mir.co.jp/company/release/2017/post_109.html)。

この「20秒早発」謝罪は、、ソラニュース24(ロケットニュースの英語版)が報じたことを皮切りとなって、海外メディアでも続々と報じられます(The Huffington Post Japan, 11月17日)

2日後の11月16日にはBBCの記事「Apology after Japanese train departs 20 seconds earl」となります(BBC online, 16 November 2017)。

BBCの記事が面白いのは、英国人がTwitterで自分の通勤列車を運営する会社に対して、首都圏新都市鉄道のニュースを訴えていることです。

例えば、英国のAlastair Stewart‏氏は、11月16日の16時25分(現地時間)に、Twitter で以下のように書かれています。

"Apology after Japanese train departs 20 seconds early".Read; weep; read; laugh. そして、@networkrail @SW_Railway @SouthernRailUKと鉄道会社名を列記します。

英国人のWill Forster氏も11月16日の17時16分に以下のように記されています。

Don't think this will be an apology @SW_Railway or any other train company in the UK will ever have to make!

ここでも、イングランドのSouth Western (SW)Railway社等では、こんな謝罪はあり得ないと厳しいコメントです。

英国だけではなく米国でも報道され、そして、日本に跳ね返ってくるのです。10月17日には、世界各地で話題になっていることが、また記事になります(産経ニュース, 11月17日; The Huffington Post Japan, 11月17日; 朝日新聞デジタル,11月20日)。

10月14日の「20秒早発」から3日後、情報が地球を1週して戻ってきたような感覚です。

この記事が世界で耳目を集めた理由は、認識のズレなのです。

海外では、「20秒」の何が問題なのか分からないとしながら(やり過ぎというニュアンスも含みながら)、同時に、あまりにも時間にルーズな自国の鉄道会社を比較しているのです。

昔、英国留学中にみたBBCのドキュメンタリーで、BBCの特派員がJR山手線の運転手に「時間通りに運行するのはストレスではないですか?」と聞いていました。運転手は「時間が守れないことがストレスです」と答えていました。

その時、私は、二つの社会に救いようもないギャップが存在すると痛感しました。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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