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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

日本社会

2017年5月 5日 10:19

なぜ、GWに約10万人の観光客が韓国に向かったのか?

JTBの調査によれば、このゴールデンウィークに日本から韓国を訪れている(訪れる予定の)観光客は9万6千人となっています(Travelvision, 2017年4月6日)。昨年よりも微減ながら、海外旅行者の総数が59万人であることから、相当数の日本人が韓国に足を運んでいることになります。

国会では朝鮮半島の有事の際、韓国に滞在する約3万8千人の在留邦人(「海外在留邦人数調査統計平成28年要約版」外務省領事局政策課)をいかに救い出すかが議論されてきたのですが、その最中に、更に10万人近い日本人観光客が現地に向かっているのです。

北朝鮮と韓国の間に軍事衝突があった場合、(最終的には在留邦人は米軍に救われるにせよ、数が少ない方がよく)「こんなときに観光に行くべきでない」という批判の声もあります(『アゴラ』2017年04月14日)。

それでは、なぜ、人々は韓国に行くのでしょうか。

まず、計画していたからというのが第一の理由かもしれません。長年、韓国は、日本人にとって時間的にも料金的にも手軽に行ける人気の観光地であり、国内観光地とほぼ同様に特別の理由はいらないとも言えます。

どちらかといえば、なぜキャンセルしなかったのかということを考えるべきなのでしょう。

そして、キャンセルしなかった理由は、「行けたから」なのでしょう。

外務省は日本人にとっての当該国の安全性を4つのカテゴリー(レベル)で表し、HPで公開しています。
【レベル4は最も強く「退避勧告」、レベル3は「渡航中止勧告」、レベル2は「要不急の渡航は止めてください」という段階であり、レベル1は「十分注意してください」です。】

現在の韓国は、レベル1でさえもなく、「現在,危険情報は出ておりませんが,北朝鮮との関係において,朝鮮半島情勢は,引き続き予断を許さない状況にあります。最新スポット情報,安全対策基礎データ,在韓国日本国大使館/総領事館のホームページや報道等から常に最新の情報を入手し,安全対策に心がけてください」と追記されているだけです。

少なくても外務省は、朝鮮半島情勢をそれ程の有事であると捉えていないことになります。

安全ならば、安全で良いのですが、それならば、なぜ国会で有事の際について議論してきたのでしょうか。もちろん、万が一について考えておくことは悪いことではないですが、「万が一」であることを強調する必要があります。

もしくは、外務省の分析のほうが間違っているのでしょうか。

もっとも、観光客も国際政治のアクターと捉えれば、10万人の観光客そのものが抑止力になるのかもしれません。抑止力として機能することを、ご認識されての御渡航ではないと考えますが、「国際政治における観光の影響力」は、もう少し考察しても良い視点かもしれません。

2017年5月 1日 02:48

「てるみくらぶ」倒産が突き付ける「格安航空券」はもはや存在しないという現実

ゴールデンウィークに海外に出られる方も多いことでしょう。チケットはどのようにお求めになられたのでしょうか。

格安旅行会社「てるみくらぶ」の倒産は、負債総額約151億円、関連負債は214億円、被害者総数は8万人から9万人と報じられています(朝日デジタル, 3月27日; 産経ニュース, 3月27日; 東洋経済online, 4月11日)。

これは、旅行業界では史上4番目に大きな倒産で、リーマンショック後では最大規模となり(トラベルビジョン, 3月28日)、あるビジネス形態の終焉を知らしめたと言えるのかもしれません。

1998年に創業した同社は、オンライン予約を駆使し、ハワイやグアムのほか、韓国や台湾などを中心に破格の値段で航空券やツアーを売り捌いていました。

しかし、3年前から赤字を黒字とみせかけ、経営状態を偽装しており、実際は、債務不履行、いわゆるデフォルトに近い状態だったことが明るみに出ています(日テレNEWS24, 4月27日)。

このように「てるみくらぶ」の経営が悪化したのは経営環境が変化したと論じられています。

従来、格安旅行会社は、航空会社から余剰座席を安く買い取り、安価なツアーを組むことをビジネスモデルとしていましたが、航空業界では数年前から航空機の小型化が進み、IT化もあり、余剰座席は減少していたとされます(「てるみくらぶ倒産でわかった『格安航空券ビジネス』の限界」AERA, 4月4日)。

同時に航空会社が直接販売するケースも増え、そもそも、以前のように、大量の余剰座席が生じることはなくなっているそうです(同上)。

それではなぜ同社は、利益に反して、格安販売を止められなかったのでしょうか。その理由としては、複数の旅行会社のツアーを一括検索し、代金順に並べて比較するサイトの利用が一般化され、同社にとって「安売りだけが差別化だった」からだと指摘されています(AERA, 4月4日;東洋経済online, 4月11日)。

つまり、「てるみくらぶ」の倒産が示したことは、旅行会社が売る「格安航空券」がもはや無くなっていたという現実です。にもかかわらず、同社が旧来のビジネスを展開していたことが被害を大きくしてしまったということになります。

この動きが、業界全体の変化であるとすれば、「てるみくらぶ」と同じような会社が少なからず存在する可能性があり、早急な対応が求められるでしょう。

そういえば、最近は、街中で旅行代理店の立て看板をあまり見なくなりました。

二十数年前、私が大学生となり上京しました時、東京の大きな通りにはあちこちに「ロサンゼルス往復99,000円」、「ロンドン往復125,000円」等という旅行会社の立て看板が置かれており、胸躍られたことを記憶しています。

「格安航空券」の終焉を、格安旅行会社のオンライン販売化、そして、その延長上の航空業界のIT化が格安旅行会社の役割を終えよう(変えよう)としていると理解すべきなのでしょう。

そう考えると、学生時代、ふと立ち寄った街角の小さな旅行会社の社長さんが、何時間も若者(私)の旅の計画に真剣に付き合ってくれたことを思い出しました。

また、欧州を貧乏旅行していると、ギリシャのアテネでは超格安航空券が手に入るという噂を耳にしました。当時、アテネの格安航空券は「ギリシャ神話」と呼ばれていました。

昔には戻れないし、時の流れを受け止めるだけではありますが、貧乏学生の我儘な計画に寄り添ってくれる相談役も、空の「神話」も無くなってしまうのは寂しい限りです。

2017年4月23日 01:34

「すず」は世界中の「片隅」にいる: 漫画『この世界の片隅に』から今、読み取るべきこと

大ヒットしております『この世界の片隅に』(片渕須直監督、2016年)の原作(こうの史代氏作)の単行本版を読みました。

あらすじ
【1944年2月の広島県呉。広島市内に住んでいた(絵を描くことが大好きな)浦野すずは、呉の北條周作と結婚する。周作とは、子供の頃出会っており、周作の望んだ結婚であったが、同居する小姑の黒村径子は歓迎していなかった。戦時下で生活も苦しい中、すずは周作に支えられながら、楽しく過ごしているが、軍港の街である呉は頻繁に空襲を受けるようになり、1945年6月22日の空襲で、すずが右手を失い、その時、すずと一緒だった径子の娘・晴美が亡くなってしまう。すずは径子に恨まれ、自分でも絶望しながら過ごしている。そして、8月6日、広島市へ原子爆弾が投下され、すずの実家も被害を受ける。間もなく終戦を迎え、すずは広島の実家を訪れるが、廃墟となっており、両親もいない。途方に暮れていたところ、周作がすずを迎えにくる。すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、出会った戦災孤児の少女を連れて呉に戻る。】

この漫画は、すずの目を通じて、社会史のように淡々と戦時下の日常を描いています。すずには政治的な主張もなく、広島から呉に嫁入りした(絵を描くのが大好きな)「普通」の女性です。彼女は、色々と悩みながらも元気いっぱい生きていきます。

そのような人生であっても戦争に左右されてしまうのです。まるでNHKの朝ドラを漫画で読んでいるような感覚です(同じ広島を舞台とした『はだしのゲン』と比較すると綺麗過ぎるような観もありますが)。

日本人が被害者となっている戦争物語は、国際的には日本人の「加害者意識」がないと批判されるかもしれません。

しかしながら、すずが普通の女性のメタファーであるとすれば、今日の北朝鮮にも、シリアにも、どこの世界の片隅にも「すず」がいるかもしれないのです。

大国のパワーを根源とする国際関係学のリアリズム的な思考を否定するつもりはないです。もし本当にシリア軍が化学兵器を使用したら許すべきではなく、北朝鮮が日本列島を攻撃することも許すべきではないです。

ただ、同時、世界中の「片隅」には「すず」のような存在がいることも忘れてはいけないと思います。もし、彼女が「イスラム国」に住んでいても、北朝鮮に住んでいても、彼女には罪はないのです。もちろん、戦時中の日本でも。

この漫画と映画がヒットしたことに希望を感じます。できれば世界中に届けたい作品です。特に、北朝鮮やシリアに。

2017年4月16日 00:49

桜は、人々の過去と未来を繋ぎながら咲く

桜の季節も終盤に入りました。

今年度、私は勤務校で留学生向けの「日本事情」をも担当することになりました。講義後、あるネパールからの留学生から、姫路にお花見に行ったのですが、なぜ日本人は桜が好きなのですかという質問を受けました。

なぜ、日本人は桜が好きなのか定かではありませんが、随分前から日本人は桜が好きだったようです。

平安初期の『古今和歌集』には、桜を詠んだ歌が70首あったそうです(「昔は桜より梅が人気?花見の歴史の知られざる変遷を紹介」サイト『花と贈りものだより』)。鎌倉時代及び安土桃山時代には、武士階級にも桜のお花見が広がり、江戸時代には庶民の間にも花見文化が浸透していったとされます(同上)。

桜の花は21世紀でも日本人のお気に入りです。2000年以降の歌謡曲を見ると桜は大ヒット曲の主役になっています。

コブクロ「桜」(2000年)
福山雅治「桜坂」(2001年)
森山直太朗 「さくら」(2003年)
河口恭吾 「桜」(2003年)
レミオロメン「3月9日」(2004年)
ケツメイシ「さくら」(2005年)
いきものがかり「Sakura」(2006年)
FUNKY MONKEY BABYS 「Lovin' Life」(2007年)
AKB48「桜の栞」(2010年)

これらの名曲は、卒業等に絡んで「別れの曲」、4月を迎えて新しいスタートを(改めて関係性を継続することを含めて)「始める曲」に分類できると考えます。

「別れの曲」の代表作は、森山直太朗 さんの「さくら」(2003年)であり、コブクロ「桜」(2000年)、いきものがかりの「Sakura」(2006年)になるでしょう。

改めて「始める曲」としては、河口恭吾さんの「桜」(2003年)やレミオロメン「3月9日」(2004年)、FUNKY MONKEY BABYS 「Lovin' Life」(2007年)等が該当するのではないでしょうか。

桜は、卒業式シーズンから入学式シーズンをカバーして花を咲かせます。別れと(年度が変わっての)4月からの出会い、あるいは関係性の継続を見守り続け、春の人間関係の多様なメタファーになっているのです。

そして、桜は過去と未来を結びます。

「別れの曲」では過去の時間を、「始めの曲」では未来に向いているのです。

桜は開花から満開まで半月ほどです。気温や気候によって変化はしますが、最長でも1カ月、桜の花を見続けることはできないでしょう。

その短い「命」に、多くの日本人の時間を繋ぐ役割を担います。短い花にもかかわらず(だからこそ)、桜は人々の過去の記憶と未来の理想のメタファーになり得るのでしょう。

2017年4月 2日 01:56

モンゴルに帰って貰っては、困ります。

大相撲春場所で新横綱・稀勢の里と優勝を争った大関・照ノ富士に対する場内のブーイングがヘイトスピーチに当たるのではないかと批判されています(The Huffington Post, 3月27日)。

当ブログ(3月26付)でも紹介しましたが、14日目、照ノ富士は関脇に陥落した元大関の琴奨菊と対戦し、立ち合いに大きく変化し、はたき込んで勝利しました。6敗目を喫した琴奨菊は、この敗北によって大関復帰を阻まれました。

場内は、重要な一番に変化をした照ノ富士へのブーイングに荒れ、次の取組ために横綱・日馬富士が土俵に上がってからも続き、日馬富士は「相撲を取るどころじゃなかった。集中してるけど耳に入ってしまう。次の一番に集中してる人のことも考えてほしい。大けがにもつながるから」と苦言を呈している程です(日刊スポーツ、3月25日)。

そのブーイングの一つがモンゴル出身の照ノ富士への「モンゴルへ帰れ!」という言葉であったとされています(スポーツ報知、3月26日;サンスポ、3月31日)。

まず、このような心無い言葉は、公の場で許されるべきでありません。

もっとも、NHKで解説していた北の富士勝昭さんが「(ブーイングは)当然、飛ぶでしょうね」と語っているように、身内の関係者には当然と受け止められたのかもしれません。

そもそも、稽古中など部屋ではよく投げつけられる言葉なのかもしれません。そこに「愛」があるかどうかということも重要で、師匠や同門の親方が照ノ富士に言った場合は、「真っ向勝負で頑張れ」という意味が含まれていることでしょう。

いうまでもなく、若貴ブームの後、大相撲を支えたのは外国人力士であり、特に朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜などの横綱を輩出したモンゴル勢なのです。そして、稀勢の里が横綱になり、また現在、起こっている大相撲ブームも、「敵役」としてのモンゴルの強豪が存在するから成立しているのではないでしょうか(もちろん、モンゴル勢を応援している日本人も沢山いますし、外国人の稀勢の里ファンも少なくないのでしょうが)。

モンゴル、ハワイ、ブルガリアとは文化が異なりますので、日本で何年も修行しても究極なところで勝負に関する価値観は異なるかもしれません。それでも、大相撲は、彼ら外国人力士に支えられてきたのです。

唯一の日本人横綱・稀勢の里には、どうしてもナショナリズムが結びつきます。逆説的ですが、それは、大相撲の国際化を意味しており、悪いことではないのです(横綱・輪島は石川県、横綱・北の湖は北海道のシンボルでしたが、両者の対戦においてどちらかが日本を代表することはありませんでした)。

しかしながら、「愛」のない「母国へ帰れ」はいけないのです。照ノ富士に帰って貰っては困るのです。モンゴル勢がいなくなれば国際性がなくなってしまいます(小錦さんが現役の頃、場所で土俵に上がると「ハワイ・オアフ島出身高砂部屋」というアナウンスが流れ、それだけで「遠くから来たんだなぁ」、「凄いな」と思ったことを記憶しています)。

照ノ富士関には、日本に留まって真っ向勝負で頑張って頂きましょう。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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