QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

英国

2017年5月10日 06:49

魔法界とスコットランド:映画 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のケルト性

たとえ、ファンタジー小説であっても、現存する特定の社会の歴史や文化から影響を受けている可能性があります。

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
(原題 Harry Potter And The Prisoner Of Azkaban)
制作国  米国
制作年  2004年
監督  アルフォンソ・キュアロン
出演  ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン

あらすじ
【夏休みも終わり、ホグワーツ魔法魔術学校の新学期を楽しみにしているハリーは、魔法界の刑務所アズカバンを脱獄したシリウス・ブラックという人物が、自分の命を狙っていることを知らされる。新学期が始まりホグワーツ魔法魔術学校に戻ると、ハリーはブラックと自分の父が親友であったこと、ブラックがハリーの名付け親であったことを知る。にもかかわらず、教師たちの話によれば、ブラックがハリーの両親を裏切って2人を死に追いやったとされ、ハリーはブラックに恨みを抱く。しかしながら、実際にブラックに会ってみるとハリーの味方であり、裏切ったのは別の男ピーター・ペティグリューであることが分かる。ブラックはハリーに将来、一緒に住もうと誘い、ハリーも喜ぶが、ブラックの無実の証明ができずにシリウスは再び監禁される。その後、ダンブルドア校長からその事実を聞かされたハリーとハーマイオニーは、逆転時計を使って時間を遡り、ブラックを救おうとする。】

映画化されたハリー・ポッター作品の第三弾です。

前回、ハリー・ポッターの作品の重要なテーマの一つが、ハリーの「マージナル性」(マージナル・マン)であると記しました。

本作品では、ハリーだけではなく、登場人物の多くが「二面性」や「マージナル性」を抱えています。

アズカバン刑務所を脱獄したシリウス・ブラックは、悪人とされながら、実は、ハリーの保護者的な存在であり、善い人でもあります。「闇の魔術に対する防衛術」教授のリーマス・ルーピンは、満月の夜は狼に変身してしまいます。ハリーの両親を裏切った本当の犯人であるピーター・ペティグリューは、(ネタバレですが)ハリーの親友ロン・ウィーズリーのペット「スキャバーズ」(ネズミ)として長年、身を隠していました。

まるで、『ジキル博士とハイド氏』の世界です。『ジキル博士とハイド氏』は19世紀後半にスコットランドのエジンバラでロバート・ルイス・スティーヴンソンによって書かれたものですが、『ハリー・ポッター』シリーズも約100年後のエジンバラで生み出されています。

それ故に、スコットランドの歴史・文化やケルト神話などの影響が大きいように見えます。

映画の俳優陣も1作目、2作目の校長:リチャード・ハリス(アイルランド人)、3作目の校長:マイケル・ガンボン(アイルランド人)、教授:アラン・リックマン(アイルランド系英国人)、教授:イアン・ハート(アイルランド系英国人)ハグリット:ロビー・コルトレーン(スコットランド人)など、ケルト系の大物が多くみられます。

もちろん、ケルトとスコットランドを単純に同一視はできませんが、原作者のJ・K・ローリングは、イングランド人であり、外から見たある種のステレオタイプ的な「ケルト性」なのかもしれません。

2017年4月29日 17:48

なぜ、ホグワーツ魔法魔術学校は支持されたのか?:映画『ハリー・ポッターと賢者の石』で消費される「上流階級性」

ハリー・ポッターと言えば、ホグワーツ魔法魔術学校の世界です。

『ハリー・ポッターと賢者の石』
(原題Harry Potter and the Philosopher's Stone)
制作国  米国
制作年  2001年
監督  クリス・コロンバス
出演  ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン

あらすじ
【1992年、ロンドン。10歳のハリーは、赤子の頃に両親と死別し、叔母のダーズリー家に引き取れていたが、家族から厄介者扱いをされていた。ハリーが11歳を目前としたある日、ホグワーツ魔法魔術学校からハリー宛に入学許可証が届き、ダーズリーの家族の妨害に遭ったが、ホグワーツ魔法魔術学校の森番・ハグリッドが迎えに来て、家を出る。そして、ハグリッドは、ハリーの両親が高名な魔法使いであり、闇の魔法使いであるヴォルデモート卿によって殺害され、ハリーだけが奇跡的に生き残ったことを伝える。ロンドン・キングスクロス駅からホグワーツ魔法魔術学校への列車の中で、ハリーはホグワーツの同級生、ロンとハーマイオニーに出会う。3人の魔法学校生活が始まるが、直ぐに何者かが学校の秘宝である賢者の石を盗もうとしていることに気付き、阻止しようと試みる。】

2001年に映画化されたハリー・ポッター作品の第一弾です。

この世界中で大ヒットしたハリー・ポッターのシリーズは、よく指摘されている通り、寮生活を中心に英国の名門私学中等学校(パブリックスクール)の世界を幻想的に描き出しています。

この作品は、J・K・ローリングによって、スコットランドの首都エジンバラで書かれたのですが(ハリーは魔法学校に入るのに、ロンドン・キングスクロスからスコットランド方面行きのホグワーツ特急に乗ります)、エジンバラの名門私学のフェテス・カレッジがホグワーツ魔法魔術学校のモデルの一つと言われています。

原作を映像化すればよりビジュアル的に再現しなければなりません。結局、ホグワーツ魔法魔術学校のロケ地は、幾つかのパブリックスクール、英国を代表する高等教育機関オックスフォード大学でした(学生の頃、私がオックスフォード大学の図書館を訪れた際、偶然、同作品のロケをしていました)。

現実にパブリックスクールの世界は日常にあるのですが、パブリックスクールに通う学生の比率は全英国の学生の6.5%にしか過ぎなく、大多数の英国の子供たちにとっても、世界の子供たちにとっては無縁の世界なのです(Independent Schools Council, website "Research")。

しかしながら、ホグワーツ魔法魔術学校は世界中で大人気です。地元では2008年、スコットランドのベスト教育機関の人気投票で36位にランクインしてしまい話題になったほどです(The Scotsman, "Harry Potter's school outranks Loretto" 31 March 2008)。

どうして、パブリックスクールを原型としたホグワーツ魔法魔術学校がこんなに支持されるのでしょうか。映画にも描かれる通り、楽しいことばかりではなく、教育システムは厳格なのです。

私は、グローバリゼーションは世界を二極化させていると考えますが、同時にグローバリゼーションによって世界中の人の価値観は一元化されていると捉えています。ちょっと「上流階級的」で「伝統的」な魔法学校と魔法の世界は、そのような時代に(消費対象として)フィットしているのではないでしょうか。

2017年4月 9日 12:53

守るべき「家」が意味するものとは?:ドラマ『ダウントン・アビー シーズン5』が描く「大人の恋」とその終焉

NHKの地上波で、昨年末から2月にかけて英国のテレビドラマ『ダウントン・アビー シーズン5』が放送されました。

ドラマ『ダウントン・アビー ~華麗なる英国貴族の館~ シーズン5』
(原題Downton Abbey, Series 5)
制作国  英国ITV
制作国  2014年
脚本  ジュリアン・フェロウズ

あらすじ
【労働党が英国で初めて政権を担った1924年。グランサム伯爵家と使用人たちにも大きな変化が訪れる。グランサム伯爵の長女のメアリーは再婚相手としてギリンガム卿を見極めきれず、2人で小旅行に出かけ、別れを決意する。次女イーディスも、ドイツで亡くなった恋人グレッグソンの娘を産み、農家に預けるが気になって仕方がなく、引き取りたいと願っている。メアリーの義理の母イザベルは高齢のマートン卿からプロポーズされ、グランサム伯爵の母バイオレットは、以前、恋仲だった英国亡命中のロシア貴族クラーギン公爵と再会し、公爵から再度、告白される。使用人たちは、執事のカーソンが、家政婦長のヒューズに結婚を申し込み、下僕のモールズリーと侍女のバクスターも親密な関係に至る。一方で、侍女のアンナ・ベイツは殺人容疑で逮捕され、夫のジョン・ベイツが犯人は自分だと名乗りでる。伯爵の三女シビルと結婚し、(シビルを病気で失っている)元運転手のトムは、一人娘と共に渡米することを決意する。】

シーズン5は、シーズン1~3まで物語の中心であった長女メアリーの恋愛話が脇役となり、それぞれの「恋」が展開していきます。

そして、(ネタバレですが)いずれのケースも、その関係は成立しません。

メアリーの亡くなった夫マシューの母イザベルは、妻に先立たれた高齢のマートン卿からプロポーズされますが、マートン卿の子供たちに反対され結婚を断念します。

グランサム伯爵の母バイオレットも、昔、駆け落ちしようとまで考えた亡命ロシア貴族のクラーギン公爵から愛の告白をされるのですが、生き別れていたクラ―ギン公爵の妻が見つかり、二人の関係は振り出しに戻ります。

一方、下々の使用人の世界でも、執事のカーソンと家政婦長のヒューズの高齢カップルが誕生しようとしています。

シーズン5は60代、70代の「大人の恋」の物語が中心となり、全てが諸事情によって影響され、カーソンとヒューズ以外は結ばれません。30代、40代の「若者」は、恋愛ではなく自分の道を見つけようと努めます。

しかし、徹底的に1924年を舞台した成就しない「大人の恋」に拘るのでしょうか。

登場人物たちは、個の感情を抑えて家の体裁を重んじます。言い方を変えれば、自分が長年築いてきた時間=「家族」を選びます。家を持たない執事のカーソンと家政婦長のヒューズだけが、彼らの共有した時間の長さ故に幸せを得られるのです。

英米社会における家族の肖像は複雑化しています。離婚、再婚は「普通」となり、家族の構成は簡単ではありません。

ドラマは成就しない「大人の恋」を描いて何が言いたいのでしょうか。大衆化時代において弱体化する貴族制度と複雑化する家制度を同一視しようとしているのでしょうか。

2017年1月18日 23:59

かつて自由貿易を推進した英国保守党、米国共和党が自ら反動的「保守主義」となる矛盾

1月17日、英国のテリーザ・メイ首相は、英国の欧州連合(EU)離脱(所謂「ブレグジット」)の交渉について演説しました。

要約すれば、「EUの単一市場から脱退」して、その上で、諸国と「新たな包括的で野心的かつ大胆な自由貿易協定」(FTA)の構築を目指しながらも、「EUからの移民は制限」するという内容でした(BBC News, 17 January 2017;日本経済新聞、2017年1月18日)。

また、上記のEU離脱の最終決定は、上下両院の承認のもと行われることも宣言しています(同上)。

英国のEU離脱は2016年6月23日の国民投票の結果を受けて行われていますが、現在、政権を担っている保守党は、国民投票でEU離脱反対を訴えてきましたので、今日、国民の決定としてブレグジットを進めなければいけない立場であるメイ首相と保守党にとっては、非常に苦しい展開になっているのは事実です。

フィナンシャル・タイムズ紙は、自由貿易を推進しヨーロッパの5億人の単一市場への参加を可能としたのは保守党のサッチャー元首相であったことが忘れられていると嘆いています(FT, 1月18日)。

同じ保守党のメイ首相の手によってEU市場から離脱することになったのですが、この流れは米国、メキシコ、カナダの間で結ばれた北米自由貿易協定(NAFTA)と米国共和党の関係に共通しています。

「米国第一」を掲げる新大統領トランプ氏は、NAFTAが米国人の仕事を奪っていると攻撃していますが、実際にNAFTAを作り上げ、1992年12月に署名したのは共和党のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領なのです("Trump Is Wrong, NAFTA Was Not Bill Clinton's Creation", PoliticusUSA.com., 13 August 2016)。

今、自由貿易を推進してきた英国保守党、米国共和党は自らの手で「保守主義」へ時計の針を戻そうとしているかのように映ります。フォークランド紛争を戦ったサッチャー氏も湾岸戦争を始めたブッシュ氏もナショナリストですが、経済政策では、より大きな市場を肯定していたのです(二国間貿易の場合はそうとは言えないのですが)。

もっとも、当ブログ2016年11月12日付の「トランプ氏の勝利:グローバル化の鏡としての反グローバル化」でも記しました通り、ブレグジットも、トランプ氏の大統領選勝利も、グローバル化に対する反動として顕在化した現象であり、グローバル化はむしろそれらの「産みの親」なのです。

ですから、私はグローバル化を無視することや、拒否することは、(グローバル化が良い悪い、好き嫌いとは別の次元で)メイ首相の英国保守党にもトランプ大統領の米国共和党にもできないことであると考えます。

2016年7月 4日 02:14

GDPにおいて世界の約4%にしか過ぎない英国の住民投票が、なぜ世界経済に影響を与えるのか?

週末、1週間のニュースを見ていたところ、英国のEU離脱に関してある解説者が、英国の実体経済を考えれば冷静になれるはずだとコメントしていました。

2015年におけるEUの総人口は約5億819万人、英国は6488万人ですので、全体の12.74%になります(Eurostat)。

2015年におけるEUのGDPは14兆6,254億ユーロであり、内、英国は2兆5,689ユーロです。英国の占める割合は、EU経済全体の中の20%以下です(Eurostat)。

この数字をどのように認識すべきなのでしょうか。

顕在化される政治経済の現象は、実際の統計的な数字ではなく、それぞれの関係性の中に起こされるのです。

英国のGDPの数字は、全世界において約4%にしか過ぎません("World Economic Outlook Database", International Monetary Fund)。

しかし、英国の有権者がEUの離脱を決意表明すると、日本でも激震が走りました。6月24日の東京株式市場で日経平均株価の終値は、前日比1286円33銭安の1万4952円02銭となり、東日本大震災直後以来の下落率を記録します(時事通信、朝日デジタル6月24日)。

円高も一気に進み、離脱が決まった24日には、約2年7カ月ぶりの1ドル=99円台をつけます。

英国民の決定は、日本だけではなく、多かれ少なかれ世界中に影響を与えたのです。結果的に、GDP世界の4%程の国家の国民投票が世界の経済を動かしてしまったのです。

GDPにおいて英国の15分の1程度のギリシャが世界経済に影響を与えたギリシャ危機の時も同様ですが、きっかけとなる最初の国の経済規模から「結果」を予想することはできないのです。

私たちは関係性の中で生きています。お金は止まっているのではなく、常に動いています。ドミノ倒しのように様々な関係性の中で、4%の経済が40%にも80%にも影響を与えていくのです。

それではなぜ、人々は経済や政治を単体で見ることから離れられないのでしょうか。(形の異なるドミノカードがあるとして)1枚のカードの重さや大きさを語っても意味がないのにもかかわらず。

それは、歴史や経済、社会が各国別に語られ過ぎているからかもしれません。

もちろん、過度に騒ぐべきではありません。私たちは、好むと好まざると世界政治経済の「アクター」でもあります。騒ぐことでドミノを大きくしてしまう可能性があるのです。

もし、ドミノを食い止めたかったら、「アクター」としての自覚を持って物事を理解し、慎重に行動に移すべきなのでしょう。

極東に住む私たちが、欧州の西の端のブリテン島と北アイルランドの住民投票から影響を受けるように、私たちの行動も彼らに(世界に)影響を与えかねないのです。

 1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10  |  11  |  12  |  13  |  14  |  15  |  16  | All 次へ >>

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (25)
スポーツと社会 (110)
ネパール (15)
国際事情(欧州を除く) (217)
大震災/原発事故と日本 (28)
御挨拶 (13)
日本政治 (115)
日本社会 (250)
映画で観る世界と社会 (259)
欧州事情 (89)
留学生日記 (59)
英国 (79)

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年05月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
最新記事
女優誕生の形式(パターン)と芸能界: 映画『イヴの総て』における「踏み台」の重層性
なぜ、マクロン大統領と大統領夫人の年齢差は許容されるのか?
北朝鮮問題において危機感がないのは誰なのか?
魔法界とスコットランド:映画 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のケルト性
フランス大統領選挙の結果を考える
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草