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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年12月 5日 20:34

誰がハーヴィー・ミルクを殺したのか?: 映画『ミルク』が描く1970年代の米国社会

犯人は分かっていても、犯行を許した社会性を考慮すると米国政治の暗闇に直面します。

映画『ミルク』(原題 Milk)
制作国 米国
制作年 2008年
監督 ガス・ヴァン・サント
出演 ショーン・ペン, エミール・ハーシュ, ジョシュ・ブローリン

あらすじ
【1970年代の米国サンフランシスコ。ハーヴィー・ミルクは自らゲイであることをカミングアウトし、同性愛者が集うサンフランシスコのカストロ通りで『カストロ・カメラ』を営んでいる。同性愛者が差別されている中、ミルクは市議会議員に立候補し、公民権を掲げ選挙を戦うが、落選していまう。3度目の立候補で市議に選ばれ、ミルクはゲイであることを公表した人として米国で初めて公職に就く。ミルクは、同性愛者のみならず、様々な社会的弱者の救済のために活動しようとするが、前市議のダン・ホワイトによって暗殺されてしまう。】

実在した同性愛者の活動家であり、公民権運動家であったハーヴィー・ミルクの自伝的映画です。ミルクは、前市議ダン・ホワイトによって1978年11月27日に暗殺されます。

ミルクの死は、彼が同性愛者故に殺された殉教者のように捉えられるのですが、映画ではダン・ホワイトと一時的に政治活動を共にしたり、家族を紹介されたりしていたことが描かれています。

つまり、ダン・ホワイトは同性愛者の理解者ではなくても、ミルクにとっては戦略的に組める相手だったのです。

ミルクは自分が暗殺されるのではないかと考えて、メッセージを残しています。しかし、おそらくそれはダン・ホワイトのような人物は想定していなかったのではないでしょうか。

ダン・ホワイトは裁判で、計画的殺意がないと判断され、7年8ヶ月の禁固刑という人を殺したとは思えない判決を受けています。結果的に、ホワイトは社会において反ミルクの急先鋒のように見なされてしまうのです。

誰がハーヴィー・ミルクを殺害したのかと考える時、ダン・ホワイトの殺意が、必ずしも反同性愛者ではなく「私怨」に近いことを、どのように捉えるかになります。「私怨」でも、ミルクの殺害を実行できたことは(その後の裁判の結果をみても)、別の理由でミルクを抹殺したいと思っていた人々が、当時の米国に、少なからず存在していたからとも推測できます。

そうのように考えると、殺人者はダン・ホワイトではなければ、他の人物であったかもしれないという帰結となります。

ミルクは、偉大な英雄です(本作のミルクは私生活において必ずしも立派ではないのですが、それでもそれをもって政治的業績は否定されないでしょう)。そしてその死は、多くの英雄が殺害されてきた米国政治の一つのパターンであるのかもしれません。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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