QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年12月 3日 11:12

善き市民でさえ、ある日、突然落ちていく: 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』が社会に問うこと

第69回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品です。ケン・ローチ監督は、作品を通じて人々に「これでいいのか」と問いていきます。この作品も、そうです。

映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』(原題 I, Daniel Blake)
制作国 英国
制作年 2016年
監督 ケン・ローチ
出演 デイヴ・ジョーンズ, ヘイリー・スクワイアーズ

あらすじ
【今日の英国イングランドの北東部ニューカッスル。59歳の大工のダニエル・ブレイクは、心臓病を患い仕事ができない。役所で医療手当を申し込むが「受給の資格なし」と判断される。今度は、求職者手当や支援手当を申し込もうとするが、PCが使いないダニエルは上手くできない。そんな中、ダニエルは、職業安定所で、ロンドンからやってきて手当を申請しながら同じく苦戦していたシングルマザーで2人の子供がいるケイティと出会う。ギリギリの生活をしながら、ブレイクとケイティ一家は交流を深めながら生きていくが、手当が貰えず、状況はより厳しくなっていく。】

ダニエル・ブレイクは英国の労働者階級の「善き」代表のように描かれています。

大工として40年のキャリアがあり、結婚し、税金を払い、善き市民でした。敢えて言えば、ちょっと英国人らしくちょっと皮肉屋で、そして、年齢的にパソコンが使えないのです。

しかし、彼が心臓病を患い、働けなくなったことで状況が一転します。パソコンができない彼は、医療手当や求職者手当、支援手当を上手く申し込むことができません。そして、彼は社会のセーフティネットから落ちていきます。

ロンドンからニューカッスルに来た、シングルマザーのケイティも同様です。

特に悪意に満ちた人間ではなく、大学を出ることを夢見ながら(放送大学で勉強しようとしています)、2人の子供を育てるために何とかしようとしているのですが、行政は支えてくれないのです。

ダニエルやケイティを、国は支えるべきですが、現実の英国(英国だけではなく、ある程度、先進国共通でしょう)は逆に、彼らを追い込んでいきます。

なぜ、ダメなのか。おそらく、財政問題があるでしょう。しかし、ケン・ローチ監督は、財政問題を批判しているのではなく、パソコンが使えない、技術がないだけで社会の底辺に堕ちてしまうことを指摘しているように思うのです。

仮に、彼らのような「善き市民」を救うと、制度を悪用するような「悪い市民」が得することになったとして、ダニエルやケイティを見殺しにしていいのか。そんなケン・ローチ監督の声が聞こえてくるような作品です。

この記事へコメントする

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2018年12月
2018年11月
2018年10月
2018年9月
2018年8月
2018年7月
2018年6月
2018年5月
2018年4月
2018年3月
2018年2月
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
アジア事情 (34)
カンボジア (27)
スイス (27)
スポーツと社会 (142)
ネパール (26)
国際事情(欧州を除く) (237)
大震災/原発事故と日本 (30)
御挨拶 (15)
日本政治 (129)
日本社会 (310)
映画で観る世界と社会 (353)
欧州事情 (100)
留学生日記 (95)
英国 (100)

ページトップへ

カレンダー
<< 2018年12月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
最新記事
交わらない2つの社会(世界):映画『海は燃えている』が描き出す人々のエゴと欲
私たちは、なぜ、グローバル企業の経営者の報酬を「巨額」と感じるようになったのか?
もう一度、落合博満監督の現場主義に基づく野球を観てみたい
誰がハーヴィー・ミルクを殺したのか?: 映画『ミルク』が描く1970年代の米国社会
北方領土2島返還は「国のかたち」を大きく変化させるのでは?
最新コメント
武蔵は春田に言います...
Posted by S
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草