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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年11月 4日 01:53

父の金メダルの夢は、娘たちによって社会変革へ向かう: 映画『ダンガル』に描かれる女性の人生選択

スポーツを通じて、インド社会を(男女差別の文脈で)考えさせる作品です。

映画『ダンガル きっと、つよくなる』(原題 Dangal)
制作国 インド
制作年 2016年
監督 ニテーシュ・ティワーリー
出演 アーミル・カーン

あらすじ
【マハヴィルは、アマチュアレスリングのインド代表であったが、父親にレスリングでは食べていけないとキャリアの継続を断念させられた。マハヴィルは自分の子供に自分の夢を託すことを考える。しかし、結婚して生まれてくる子供は女の子ばかりで、夢を断念しようとしたところ、小学生の長女のギータと次女のバビータが近所の男の子を喧嘩でこてんぱんにやっつけてしまう。ギータとバビータにレスリングの才能を見出したマハヴィルは、2人に家事をさせず、レスリングの猛特訓を施すことにする。男の子のような髪型にさせ、男の子と試合をさせる父親に2人は反発するが、ある日、父親から無理に結婚させられる10代の女の子から「あなたたちの父親は素晴らしい」と言われ、自分たちの道を悟っていく。2人はめきめきと才能を開花させ、ギータは女子レスリングの全国大会で優勝し、トップレベルの選手になる。その結果、父親から離れてナショナルチームのコーチに指導を受け、国際大会を目指すことになる。】

世界的に大ヒットした父親と娘2人のインド版スポ根物語です。

ただ、この作品が単にスポーツを越えた社会的な作品として評価も受けているのは、インドの女性問題があるからでしょう。

主人公マハヴィルは、村人に白い目で見られながら(才能に恵まれた)2人の娘にレスリングの道を強制的に歩ませます。

娘たちは戸惑い、反発しますが、「家事―結婚―家事」以外の道は自分たちにはレスリングしかないことを悟り、自ら自分たちの道を切り開いていくようになっていきます。

2人の娘たちに他に選択がないことが(それ故に成功を収めるのですが)、どれほどインドの貧困層における女性の立場が厳しいのかを顕しているように感じます。そこには、欧米先進国にある「普通」はないのです。

ネタバレですが、長女ギータは紆余曲折あった後、英連邦の五輪「コモンウェルスゲームズ」で金メダルを獲得します。ギータに、父マハヴィルは、自分のためではなく、インドの少女たちのために頑張るように激励します。インドの少女たちの夢になるように。

父マハヴィルの夢は娘たちが注目されることで変質していったのです。自分が現役時代に欲しかった金メダルだけではなく、娘たちの勝利によって、インド社会を変えることを目指し始めていくのです。

そして、マハヴィルの娘たちの活躍は、インドの(スポーツ)ナショナリズムを高揚させます。

真正ナショナリズムがあるとすれば、それによって男女の壁は壊されます。ネーションの構成員を(性)差別している限り、ネーションで纏まることはできないからです。

ナショナリズムは急進化すれば、多民族に対して排他的になり、国内の少数民族を排除するような力を持ちます。しかしながら、インドの場合、女性を平等視する(スポーツ)ナショナリズムは少なからず必要であるように思えてきました。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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