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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年10月 1日

2018年10月 1日 12:24

モンゴルの「アルプスの少女ハイジ」: 映画『天空の草原のナンサ』が描く、遊牧民の脱遊牧の過程

モンゴル版の『アルプスの少女ハイジ』のような本作品です。

映画『天空の草原のナンサ』(英題: The Cave of the Yellow Dog)
制作国 ドイツ
制作年 2005年
監督 ビヤンバスレン・ダバー 

あらすじ
【モンゴルの遊牧地。遊牧民の家庭に育つ6歳の少女ナンサは、父と母と2人の兄弟の5人で、大自然の中に暮らしている。ある日、ナンサは草原で小犬をみつける。近年、遊牧を辞める人によって飼い犬が捨てられ、野犬化しているが、父親は「野犬は狼を引き寄せる」と言って犬を飼うことを反対する。どうしても、犬が捨てられないナンサは黙って犬にツオーホルという名前を付けて飼い続ける。そのような中、父親と母親は遊牧生活を辞めて都会で働くことを決意する。ゲルを解体し、都会へ引っ越す日、ツオーホルは遊牧地に置いて行かれるが、迷子になったナンサの弟を助けることで状況が変化する。】

1989年の民主化以降、モンゴルでは60万人の遊牧民が遊牧を辞め首都ウランバートルになだれ込んでいると報じられています( "Nomads no more: why Mongolian herders are moving to the city", The Guardian, 5 Jan 2017)。

本作品は、2005年の製作ですが、多くの遊牧民が遊牧を辞めて大都市に「移動」していることを、物語から窺い知ることができます。

ナンサが拾った子犬ツオーホルも、おそらく、都会に出て行った遊牧民が捨てた犬であり、その犬を飼うことは自分たちも都会に行くことを決意している両親にとっては受け入れられないことになります(理由は、犬がいると狼が来てしまうということになっていますが)。

ナンサは、単に犬が好きなだけなのですが、その純粋さが、大自然に育まれた生活を捨てることがどういうことを意味しているかを十分に表現しているのです。しかし、それでも、大人たちは、遊牧生活を捨てる選択をするのです。

ネタバレですが、ナンサの一家はツオーホルを引き連れて都会に行くことにします。

どれ程、大自然が素晴らしくとも、現代社会の中で、遊牧民の人たちの都市に行きたいという気持ちを否定することはできないでしょう(特に先進国の大都会に住んでいる人間が、遊牧民の都市化を批判することは矛盾します)。とすれば、子犬が「象徴する大自然」を抱えて、都会に行き、シンボルとしての大自然を忘れずに愛していくしかないように思えます。

おそらく、先進国においても、自然とはこのようにして都会でシンボル化していくのではないでしょうか。

子犬と少女のストーリーですが、モンゴル社会の変化を捉えた、とても示唆に富んだ素晴らしい物語です。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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