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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年8月

2018年8月10日 00:00

無国籍のサッカー少年、洞窟に閉じ込められ救出されることによって、タイの国民となる

ある事件が、社会の変革をもたらすことがあります。

2018年6月23日から10日間、タイの北部チェンライ県タムルアンの洞窟に、「イノシシ」という名の地元の少年サッカーチームのメンバーと男性コーチの13人が閉じ込められた事件がありました。

ロシアでサッカーのワールドカップが開催中であったこともあり、国際的に注目され、日本でも毎日、タイの現場からの国際中継があったほどでした。

救出にあたっていた1人の元タイ海軍潜水士が亡くなってしまうのですが、少年と男性コーチの13人は無事救出されました。その後、キリスト教徒の少年を除いて、コーチも含めチームの大半が9日間、「出家」したことも大きな話題になりました(AFP, 7月23日)。

更に、このメンバーのうち少年3名と25歳の男性コーチがタイ国籍を所持していない「無国籍」であったことが判明します。そして、タイ政府は、即、国籍を付与します(BBC, 8月9日)。

タイには無国籍の住民が約48万人いると言われています(AFP, 8月9日)。なぜこれ程、同国には無国籍者がいるのでしょうか。

まず、カンボジア、ミャンマー、ラオスと国境を接しているタイ北部には外国からきた「移民」が多いのですが、1991年以前は、タイ国籍法が「父系血統主義」だったため外国人の場合、タイ国籍を持つことができなかったとされています(高田胤臣, ハーバービジネスonline, 7月24日)。。現在は、「出生地主義」を採用しており、両親の出身地は別として、タイで生まれたらタイ国籍を得られることになっています(同上)。

それでも、「親が出生届けを出し忘れていた」、「親も国籍がないために出生届を出せなかった」、「親が出生届の存在を知らなかった」ことによって無国籍者数が減っていないとされています(同上)。

いずれにせよ、洞窟事件があったことで、4人の少年サッカー選手とコーチは晴れてタイ国籍を獲得したことになります。

国家側から見れば、今回の事件では、タイ海軍が動員されたことを見ても国家の威信をかけての救出劇であったと考えられます。救出されたタイ生まれで、タイ育ちのコーチと少年の4人が国籍を持っていないことは、状況的に許されないことだったのでしょう。

国家(主義)が国民を生み出したことになります(無国籍の彼らがどれほどタイ国民の意識を持っていたのかは定かではないのですが)。そして、48万人の無国籍者の存在が改めて国際的にクローズアップされているのです。

しかしながら、洞窟にいた時間と同じだけ仏の道に入り「出家」したり、そして、即、国民になったりと洞窟事件は子供たちとコーチの人生を大きく変えてしまったことになります。

2018年8月 9日 23:59

なぜ男子医大にせず、女子差別を続けていたのだろうか?

東京医科大学が、遅くとも2010年以降、入学試験において女子受験生の得点に一定割合の係数をかけて一律に減点し、恣意的に女子の合格者を3割程度に抑えていたことが大きく報道されています(朝日デジタル, 8月3日)。

その理由として同大関係者は新聞社の取材に対し、「女子は大学卒業後、結婚や出産で医師をやめるケースが多く、男性医師が大学病院の医療を支えるという意識が学内に強い」と説明しています(読売新聞, 8月2日)。それ故に、東京医大は女性受験生差別を「必要悪」と認識していたのではないかというのです(文春オンライン, 8月6日)。

これに対して、女医の離職の事実はともかくも、「時代錯誤」という批判が殆どです。日本女医会の前田佳子会長は、ご自身のFacebookにて「時代に逆行している」とし、女医が離職せずに働ける環境作りを整備すべきだと主張されています(The Huffington Post Japan, 8月5日)。

この問題は、医師における男女区別と、東京医大の入試問題の二つに整理して考えたほうが良いと思われます。

ます、本当に医師において男女の区別が必要かということです。

医師兼タレントの西川史子さんは、テレビやラジオにおいて「当たり前です、これは。(成績の)上から採っていったら、女性ばっかりになっちゃうんです。女性と男性の比率はちゃんと考えないといけない」(TBS「サンデージャポン」8月5日)と医師における男女の区別を肯定されています。

その理由としては「外科は女性だと大変です。人の太腿だけでも20キロある。女医だと持てないですね。私は持てません」(ニッポン放送「ラジオビバリー昼ズ」8月7日)と説明します。

一方、医療ジャーナリストの鳥集徹氏は、米国での調査で男性医師よりも女性医師のほうがガイドラインに忠実な傾向があり、結果として患者の死亡率が低いことを指摘した上で、一番大変な外科であっても、腹腔鏡手術やロボット手術などが発展し、女性が活躍できる手術が増えていっているとしています(文春オンライン, 2018年8月06日 )。

いずれにせよ、2011年のOECD諸国における「医師の中での女性割合の国別比較」において日本は統計が得られる27カ国中最低の18.8%に留まっており、中央値であるドイツの43.1%と比べ半分にも満たない現実があります(RIETI, 8月8日)。

もしかしたら、医師の男女区別が必要だと思い込んでいるのは、先進国では日本だけなのかもしれません。

次に、二つ目の東京医大の入試を考えましょう。

この件に関しまして、文部省の担当者は「入試の応募要項に男女比の調整を明記していれば、大学の責任で実施できる。東京医大がそうした説明をしないまま調整していたなら問題だ」と述べたと報告しています(朝日新聞, 8月2日)。

林文部科学大臣も「募集要項にも示されずに、適切な目的なく、不当に女子が差別されているような入学者選抜があるとすれば、文部科学省としては認められない」と言っています(RIETI, 8月8日)。

思い切ったことを言えば、女子しか入れない女子医大があるのですから、東京男子医大として男性医師の育成を全面に出していたら問題はなかったということになります。

なぜ、そうせずにコソコソ女子差別を続けていたのでしょうか。

東京医大は8000万円超の女性研究者支援助成金を政府から受けていたことが明らかになっています(同上)。同大が、医学における医師の男女平等性に気付いていながら入試だけ女子差別を続けていたとしたら、差別を止められなかった理由は何なのでしょうか。悩むところです。

2018年8月 8日 01:21

バーチャルな日本の普遍性: 映画『犬ヶ島』のリアリティ

『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)で名を上げたウェス・アンダーソン監督の最新作です。

映画『犬ヶ島』(原題 Isle of Dogs)
制作国 米国, ドイツ
制作年 2018年
監督 ウェス・アンダーソン

あらすじ
【20年後の日本。架空都市・メガ崎市の小林市長は、流行する"ドッグ病"の対策としてすべての犬をゴミ島「犬ヶ島」に隔離する。愛犬のスポッツを強制的に「犬ヶ島」に連れていかれた小林市長の養子・アタリはひとりで飛行機を操縦し「犬ヶ島」へ行く。アタリはそこで飼い犬だったレックス、22本のドッグフードのCMに出演したキング、高校野球で最強チームのマスコットだったボス、健康管理に気を使ってくれる飼い主の愛犬だったデューク、そして、ノラ犬だったチーフという5匹の個性的な犬に出会う。アタリは、この5匹の犬たちよスポッツを探す旅に出る(Huffpost, 5月28日参照)。】

この映画は舞台が日本なのですが、米国では公開直後から、「この映画ってトランプのことだよね?」「(小林市長の犬追放政策は)トランプの移民政策と酷似している」などの声がSNSで飛び交ったそうです(Huffpost, 5月28日参照)。

トランプ政権成立前から企画されていたので、偶然らしいのですが、結果的に時代に合ったテーマとなっています。

つまり、権力者にとって気に入らないマイノリティ(ここでは犬たちです)が追放されるという現象は、世界中で発生しているのです。

物語は、日本の高校生ヒロシと留学生のトレーシーが、小林市長の腐敗し切った政治の内情を告発し、状況が変わっていきます。

これは、なかなか進まない米国の銃規制に対して、米国の高校生がデモや抗議運動をしていることがモチーフとなったそうです(同上)。

しかしながら、犬たちの物語に非常に魅了されながら、日本という舞台で若者が中心に政治を変えるというストーリーがどうもリアリティに欠けるように見えたのも事実です。

若者の社会運動が良いか悪いかは別として、第一に日本の若者は概して政治に無関心であるような気がするのです。

最初に戻って、本作が日本を舞台にしながら、日本映画ではないと割り切ればいいのかもしれません。むしろ、この違和感こそが、日本が他の先進国とは異なる政治文化であることを教えてくれるのかもしれません。

上記のような点があったにせよ、本作品は十分に面白いです。日本の文化的背景には(おそらく、意図的に)配慮せず、同時に、『将軍 SHOGUN』や『Sayuri』等、外国人が製作した日本を舞台にした映画にみられる「オリエンタリズム」とも一線を画します。

アンダーソン監督が描いたようなバーチャルな日本は、それはそれで(部分的にリアリティに欠けても)映画の中で成立しているのです。

2018年8月 7日 20:16

消えたゴミはどこに行ったのか?

8月4日(土)、第48回みなとこうべ海上花火大会(神戸花火大会)が行われました。

当ブログ2015年8月10日に紹介しましたが、私が勤務先の大学で顧問をしています(主に留学生によって構成されています)ユネスコクラブは、毎年、花火大会の翌日に清掃ボランティアをしています。

2015年は今回は、中国出身者3名、ネパール出身者1名、ベトナム出身者1名、モンゴル出身者1名の6名だったのですが、今年は、何とネパール出身者13名、ベトナム出身者12名、中国1出身者名、ミャンマー出身者1名、モンゴル出身者1名、バングラデッシュ出身者1名の計29名と大きくなりました。

当然、清掃地域も拡大し、毎年、担当していました公園のみならず、その隣の公園や公道まで割り当てて頂くことになりました。

熱中症を避けるために比較的涼しい(と言っても十分に暑いのですが)午前8時に集合して、約2時間、エリアを分けて清掃を行いました。例年通り、あまり大きなゴミはなく、留学生から「日本人は綺麗好きですね」という声が続きました。それでも、ペットボトルや缶などが散乱しており、コンビニで購入していったゴミ袋は全て使い切りました。そして、ゴミが集められている場所にゴミ袋を置き、通り過ぎるゴミ収集車を横目で見ながら解散しました。

今年も清掃ボランティアが終わったと安堵していたところ、市役所から電話がかかってきまして、「清掃されたんですか」、「後ほど、見に行ったところ、ゴミ袋はありませんでした」とご指摘頂きました。

正直、炎天下の中、ボランティアをした後にやっていないと言われると気持ちが良いものではないのですが、ゴミ袋がないというは不思議です。

「ゴミ収集車をみかけたのですが」と伺ったところ、「市のゴミ取集車はお昼過ぎに行ったはずなので、そんなことはない」と言われるのです。

後日、調査したところ、民間のゴミ収集車が集められたのではないかということでしたが、ボランティアのゴミ収集車まであるとすれば、凄いことです。

学生たちは、「市役所がご不満ならば、もう一回やってもいい」というぐらい、清掃ボランティアを楽しんでいました。

ベトナム人の男子学生は、「バイトばかりで、ボランティアの掃除は息抜きになります」と語っていました。

東京オリンピックも2年後となり、学生ボランティアが注目される今日この頃ですが、留学生のボランティア活動についても本格的に考えた方が良いのではないでしょうか。(清掃ボランティアは紆余曲折ありましたが)学生たちの興味関心の高さを鑑みると、留学生研究として、研究対象にする価値さえもあるように思えてきます。

2018年8月 3日 22:28

留学生は、なぜコンビニで働くのか?

全国のコンビニで働く外国人の数が、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社の数字だけで4万人を超えたそうです(2017年のデータ)(Newsポストセブン, 7月24日)。

今や、コンビニで働く人の20人に1人が外国人になっているそうですが、外国人は都市部に集中しており、東京、大阪、名古屋、福岡などの大都市の中心部では、外国人を雇っていないコンビニの方が珍しいのではないでしょうか。

私のゼミには、ベトナム、中国、ネパール、ミャンマー、モンゴル出身者がいるのですが、コンビニでバイトしたことがない人の方が少ないです。

なぜ、彼らはコンビニをバイト先として選ぶのでしょうか。ゼミ生に聞いてみました。

ローソンで働くベトナム人の女子留学生Aさんに聞いたところ「日本語を使うので、日本語が上手くなると思ったから」と言っていました。ネパール人の男子留学生のB君も、やはり第一の理由に日本語や日本語での接客を挙げています。その上で、「時給は安いけど、工場よりも楽だから」と語っていました。

日本語学校経由の留学生にとって、お弁当等の工場バイトも避けて通れない経験です。日本語学校入学時において、日本語力が殆どない場合、コミュニケーションを必要としない工場勤務しかできないからです。

しかし、工場は深夜勤務もあり、労働条件が厳しいのです。コンビニは工場よりも時給は安いのですが時間の調整が可能で、比較的「楽な仕事」と認識されているようです。日本語ができると工場勤務からコンビニ勤務に移ってきます。

ただ、コンビニでバイトしたことのない中国からの女子留学生Cさんは、しない理由を「時給の安さ」と言っています。彼女は日本語が上手であり、高級和食料理のお店でアルバイトしています。彼女曰く「コンビニは、日本語ができない留学生向けの仕事のような感じです」とのことでした。

「コンビニ=高度な日本語」というイメージがありますが、実際のところ、コンビニの仕事は高度にマニュアル化されており、日本語は慣れてしまえば難しくないというのです。とは言っても、来日したばかりの留学生ではできませんので、コンビニは、工場と更なる「高給」バイトの中間地点ということになるのでしょう。

いずれにしましても、4万人以上の外国人が働く「コンビニJapan」は、日本人の支え、留学生の生活も支えていることになります。おそらく、今後、コンビニは更に労働力を外国人に依存していくことになるのではないでしょうか。「留学生とコンビニ」、これからフォローしていきたいと思います。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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