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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年7月22日 01:06

見えないところに何を見るのか: 映画『最強のふたり』が描かないことで考えるもの

背景を知ると見方が変わる作品もあります。

映画『最強のふたり』(原題 Intouchables)
制作国 フランス
制作年 2011年
監督 エリック・トレダノ, オリヴィエ・ナカシュ
出演 フランソワ・クリュゼ, オマール・シー

あらすじ
【フランス、パリ。事故で全身麻痺になってしまった大富豪のフィリップは、金目当てや同情して近付いてくる人物に辟易しており、なかなか良い介護者を見つけられない。そんな中、フィリップは、生活保護の申請に必要な(職探しの形跡としての)不採用通知を得るためだけにやってきた黒人のドリスを採用することにする。貧困地域に育ったドリスは、服役歴もあり、フィリップの友人たちはいかがわしい顔をするが、良くも悪くも「普通」に接してくれるドリスにフィリップは友情を抱くようになる。】

この作品は当ブログ2018年1月31日付で「肌の色を越えながら、現実味に欠けるのはなぜか?: 映画『最強のふたり』における反転するステレオタイプ」というタイトルで論じました。

その時、私は、金持ちのクラシック音楽好きの身体障碍者の白人と、貧しいけどとても陽気な黒人という描かれ方が、(プラスであっても)ステレオタイプ過ぎるのではないかという考えに同意していました。

また、この作品は実話なのですが、オリジナルの人物は、黒人ではなく、アルジェリア系(移民系)のイスラム教徒の若者であることに違和感を抱きました。なぜ、実話がベースなのに、黒人のドリスという役を作らなくてはいけなかったのか理解できませんでした。

現段階でも同じように思いますが、早稲田大学エクステンションセンターの講義で同作品を採り上げ、改めて分析するともう少し深いようにも感じてきました。

まず、最初の黒人系移民のステレオタイプですが、メイキングドキュメンタリーを見たところ、黒人のドリスを演じた俳優オマール・シーは自らが貧民街(バンリュー)出身で、彼の意見を尊重して映画が撮影されたというのです。

ですから、ステレオタイプは、事実でもあったのです。

それから、なぜ主人公がアルジェリア系移民ではなかったのかですが、映画の最後で本物のフィリップとドリスのモデル役のアルジェリア系アブデルが登場しており、監督はアブデルがモデルであることを「見せて」いるのです。

ではなぜ、作品においてアルジェリア系にしなかったのか。憶測でしかないのですけれど、この作品の監督であるエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュは、ユダヤ系移民なのです。それが全ての理由ではないでしょうが、もしかしたら、彼らがイスラム教徒のアルジェリア系移民の姿を撮ることを避けたのかもしれません。

いずれにしましても、イスラム系移民が関わるイッシューはフランスの最も困難な社会問題の一つでしょう。見えないところに何かを見るとすれば、テーマが「重過ぎた」のかもしれません。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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