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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年7月 1日

2018年7月 1日 08:59

スパイ小説が実証する国家主義の一貫性: 映画『レッド・スパロー』が否定する「冷戦・ポスト冷戦」の枠組み

国家と個人は、アカデミズムでも長く、深く議論されてきたテーマです。しかし、スパイ小説のほうが分かり易いものがあります。

『レッド・スパロー』(原題 Red Sparrow)
制作国 米国
制作年 2018年
監督 フランシス・ローレンス
出演 ジェニファー・ローレンス, ジョエル・エドガートン, マティアス・スーナールツ

あらすじ
【21世紀のモスクワ。モスクワの花形バレリーナであったドミニカ・エゴロフは、病気の母親を支えながら生活していたが、舞台で怪我をしてしまい、バレエ人生が絶たれてしまう。母親の治療費を捻出しなければならなく、途方に暮れていた時、ロシアの諜報機関に勤務する叔父のワーニャ・エゴロフからスパイになることを持ちかけられる。そして、ドミニカは、美貌を生かした誘惑や心理操作で情報を入手する「スパロー」と呼ばれる女性スパイ育成学校に入れられるが、教育方針に反発する。しかしながら、上層部に評価され「卒業」し、ブタペストに派遣される。当地では、ロシア側の諜報機関の「裏切り者」(通称マーブル)を通じてロシアの機密事項を探る、米国CIA捜査官ナッシュへの接近を命じられることになる。彼女へのミッションは、ナッシュからマーブルの名前を聞き出すことであった。】

原作は33年間、米国CIAに勤務した後、小説家に転じたジェイソン・マシューズの同名小説(2013年)です。2015年に発表された『反逆の宮殿(Palace of Treason)』の含め、冷戦後のスパイ小説として大ヒットしています。

その作品の特徴は、「スパイ合戦」が冷戦後も冷戦中と同じように展開されていることを前提とした「諜報活動の日常の細部にわたる描写」です(Courrier Japon, 2017年8月1日)。ソ連からロシアに変わっても(その体制転換の混沌期は別として)、マシューズ氏は、ロシアの「帝国主義」的な、国家観には変わらないとします(同上)。

事実、映画『レッド・スパロー』でも主人公の女性は、全てを国家のために捧げることを強要されます。

作品では米国も同じようなところがあることを否定していませんが、一応、米国では、個人の意思が尊重される点が強調され、主人公ドミニカを迷わせます。

ちょっと米国の価値観が肯定され過ぎているような気もしますが(米国映画ですので、当然かもしれませんが)、冷戦後の21世紀においてもスパイ小説における「国家主義」が変わらないことは非常に興味深いです。

なぜならば、それはイデオロギー対立とされた冷戦期が何だったのかも示しているからです。

グローバル化の中で、国家の役割が終戦するという声もあります。私は、国家の役割(国のかたち)は変質しても存在は求められ続けると考えています。少なくても国家はイデオロギーを装った冷戦を生き残り、今日に至っています。

現実でも、スパイ小説においても。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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