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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年6月15日

2018年6月15日 03:05

死者からの手紙は人生を変えるのか?: 映画『P.S.アイラヴユー』で問われる手紙の力

愛する人が亡くなってしまい、その亡くなった彼(彼女)からP.S. I Love Youと書かれた手紙が定期的に届いたら、どう思うのでしょうか。

『P.S.アイラヴユー』(原題 P.S. I Love You)
制作国 米国
制作年 2007年
監督 リチャード・ラグラヴェネーズ
出演 ヒラリー・スワンク, ジェラルド・バトラー

あらすじ
【米国、ニューヨークのマンハッタン。リムジンの運転手アイルランド人のジェリーは歌を愛し、ジョークも冴える良い男。不動産会社に勤務するホリーとは結婚して9年目。2人は時に喧嘩しながらも仲睦まじく、暮らしていた。そんなある日、ジェリーが脳腫瘍で亡くなってしまう。生きがいを失い、もぬけの殻のようになってしまったホリーの30歳の誕生日に久しぶりに家族が集う。その時、死んだはずのジェリーからケーキとボイスレコーダーが届く。そして、これから手紙が届くから、ホリーに自分の言う通りにするようにと指示するのである。どうやら、ジェリーは亡くなる前に、予め手紙を書き、ホリーに時間差で送ってきているようである。ジェリーを忘れられないホリーは、最後にPS.アイラブユーで終わる手紙を何通も受け取る。そして、ジェリーの言う通りに外出したり、アイルランドに旅行に出かけたりしながら、徐々に自分を取り戻していく。】

この作品に対しては、涙が止まらない名作という声と、あり得ない駄作という意見があり、賛否両論です。

簡単にストーリーを纏めますと、ジェリーとホリーは、本当に愛し合っていたが、死別してしまう。そして、ジェリーは手紙を通じて、ホリーに自分を忘れさせようとするのです。

感動を覚える人は、おそらく、手紙を通じて表現されるジェリーの(ホリーを思い自分を忘れさせようさえする)深いホリーへの愛情に共感するのでしょう。そして、そうではない人は、何でも知っているようにジェリーが手紙を書いていることに、予定調和的な違和感を覚え、また、自分を忘れさせるように仕向けることにリアリティさを見出すことができないようです。

私は、やや後者であり、この手紙をジェリーが書いていなかったら良かったように思えました。例えば、ホリーの実母によって書かれたとか。

そう思えるのは、ジェリーを演じるジェラルド・バトラーが2004年に出演した英国映画『Dear フランキー』では、手紙は偽だったからです。しかし、偽の手紙だったからこそ、非常にリアリティがあるのです。同作品のあらすじは以下の通りです。

あらすじ
【DVが原因で離婚した母親リジーは、殆ど耳の聞こえない9歳の息子フランキーと自分の母(フランキーの祖母)の3人で、スコットランド・グラスゴー郊外のグリーノックに引っ越してきた。フランキーの耳は、実父の暴力が原因であり、リジーは元夫から逃げるために、家族と共に引っ越しを繰り返している。リジーは、息子フランキーに本当のことは言えず、「あなたの父は、世界中を航海する船乗り」と嘘をつき、父親に成りすまして息子に定期的に手紙を書き、グラスゴーの郵便局留めで受け取っていた。しかし、親子は、父親が乗っていることになっている架空の船が、偶然にもグリーノックに寄港するというニュースを知る。会いたいと言うフランキーの願いを叶えるために、リジーは1日だけ父親役をしてくれる男性を探すことになる。】

しかしながら、映画『P.S.アイラヴユー』では違うのです。手紙は本当の死者の意思として未来に送られてきます。死んでからも愛する人の人生に係りたいという気持ちは分かるけど、何か違うような気もします(実のところ、手紙を書かなくても似たような結論になるのではないでしょうか)。

もし、このタイトルがビートルズの1962年の名曲「P.S.アイ・ラヴ・ユー」をモチーフとしているとすれば、やはり、映画の(原作の)ストーリーは変です。

ビートルズの「P.S.アイ・ラヴ・ユー」では、何らかの理由によって離れ離れになって彼女に対し、彼が、何度も手紙を送り、P.S.アイ・ラヴ・ユーと書き続けるのです。自分が彼女のところに「また戻ってくるよ」と言いたいがために。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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