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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年5月30日 00:04

アイルランドにおける中絶禁止の撤廃を考える

5月26日、アイルランドで、人工妊娠中絶に関する国民投票がありました。カトリック教徒が8割を占めるアイルランド共和国では、憲法修正第8条で人工中絶が禁じられていました。

開票結果は、中絶合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%で圧倒的多数で、憲法修正第8条の撤廃が決定されました(投票率は有権者の64.13%)。

アイルランドのレオ・バラッカー首相は、「私たちが目にしたのは、過去20年間にわたってアイルランドで起きている静かな革命の最高点だ」と表現しています(Newsweek, 5月28日)。

1983年の住民投票で成立した憲法修正第8条は、「まだ生まれていない者の生存権を認め」、胎児と女性の権利を同等に位置づけ、あらゆる状況において実際上、中絶を禁じるものでした(BBC, 2018年1月30日)。

このように長らく中絶を禁じてきた宗教国家のアイルランドにとって、まさに「革命」といえるような変化なのかもしれません。

なぜ、ここまでアイルランドが中絶禁止に拘ってきたのでしょうか。カトリックの国でも、フランス、スペイン、イタリア等では認められています。

おそらく、アイルランドでは厳格な保守的なカトリシズムがナショナリズムに結び付いており、国家、国民のアイデンティティとカトリシズムが結合し、中絶禁止もその一つのシンボルとして、今までは「重石」となっていたのでしょう。

かつて、チャウシェスク時代のルーマニアの中絶禁止問題を描いた映画『4ヶ月、3週と2日』を、このサイトで紹介したことがあります(当ブログ、2012年1月21日)

あらすじは以下の通りです。
【1987年のルーマニアのある町。チャウシェスク大統領の独裁政権下、労働力確保のため中絶が禁止されていた。大学生のガビツァは望まない妊娠をしてしまい、寮のルームメイトのオティリアは彼女が隠れて中絶手術ができるように奔走する。オティリアは自分の恋人から金を借り、ホテルを予約し、闇医者のべべと連絡を取る。手術当日、現れた闇医者のべべは土壇場で手術代が足りないと言う。2人は身を持って代金を捻出することを余儀なくされる。】

中絶禁止は、宗教的保守主義だけが掲げる政策ではなく、近代発展を目指して人口を増加させようとしたルーマニア共産党の政策でもありました。

宗教的保守主義であっても、共産党の極端な人口増加政策であっても、個人の生活に国家権力が介入したものであり、女性を尊重する立場からは程遠いものでした。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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