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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年5月

2018年5月31日 23:54

大谷選手の二刀流は分業論を土台とする近代システムを揺るがす?

今月、野球界は、米国・大リーグのエンゼルスの大谷翔平選手の話題で盛り上がりました。

打者として今までの成績は、打率291、本塁打6本、投手としては4勝1敗で防御率3.18です(5月31日現在)。

毎日、スポーツニュースは今日の大谷選手から始まる程であり、大谷選手の活躍は国民的なニュースとなっています。

野茂選手から、イチロー選手、松井選手等、今までも沢山の日本人プレーヤーが海を渡り、大リーグで活躍しました。しかし、何といっても大谷選手が「二刀流」であることが日米の人々に大きなインパクトを与えています。

日本ハム時代から見慣れている日本人よりも、むしろ、この二刀流は米国人を驚かすことになっていることでしょう。

スポーツライターの相沢光一氏は、「大谷がもし栗山監督の下を経ずメジャーに行っていたら」というコラムの中で、2012年のドラフトの際、大谷は高卒から直接メジャーへの挑戦を表明しており、メジャー側も数チームが面談し、入団契約の確約を得ていたと振り返ります(Diamond Online, 5月15日)。

そんな中、日本ハムが強硬に指名しました。大谷選手は指名に困惑していたのですが、日本ハムの栗山英樹監督が「二刀流の選手としてしっかり育てたうえで、こころよくメジャーに送り出す」と確約して獲得に繋げます。

その後の日本での活躍は周知の通りですが、相沢氏は、もし大谷選手が日本ハムに入らず大リーグに直接行っていたらという仮定をすれば、おそらく即一軍ではなく、下部組織の1A→2A→3Aを経験させられてしまうだろうとします。そして、投手か打者かのどちらかを選択させられ、もし、投手となったとして、6年後の現在、20勝する投手になっている可能性があるとします。しかしながら、二刀流になっていることはあり得ないと主張されます。

おそらく、この仮定に多くの方は同意することでしょう。

そうしますと、分業論に則った米国の育成システムの中では、二刀流の大谷選手は誕生しないということになります。

こんなに夢のある選手を生み出せないとすれば、アメリカンドリームを体現する大リーグに制度的な欠陥があることになります。

日米にかかわらず投手は投手で、野手は野手で育成方法が違うでしょう。野手と言っても、捕手と外野ではまた育成方法が大きく異なるでしょう。近代野球というスポーツも、プロになれば細かい分業化が進んでいるのです。

考えてみれば、野球だけではないのかもしれません。芸術の世界も、学問も、企業も、基本は分業化を土台としています。

しかしながら、芸術の世界で(絵画も彫刻も学問もできる)ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチのような天才が、このシステムでは潰れてしまうのです。

大谷ショックは、野球のみならず分業論によって成り立つ(近代)システム全体に影響を及ぼすかもしれません。

2018年5月30日 00:04

アイルランドにおける中絶禁止の撤廃を考える

5月26日、アイルランドで、人工妊娠中絶に関する国民投票がありました。カトリック教徒が8割を占めるアイルランド共和国では、憲法修正第8条で人工中絶が禁じられていました。

開票結果は、中絶合法化に賛成が66.4%、反対が33.6%で圧倒的多数で、憲法修正第8条の撤廃が決定されました(投票率は有権者の64.13%)。

アイルランドのレオ・バラッカー首相は、「私たちが目にしたのは、過去20年間にわたってアイルランドで起きている静かな革命の最高点だ」と表現しています(Newsweek, 5月28日)。

1983年の住民投票で成立した憲法修正第8条は、「まだ生まれていない者の生存権を認め」、胎児と女性の権利を同等に位置づけ、あらゆる状況において実際上、中絶を禁じるものでした(BBC, 2018年1月30日)。

このように長らく中絶を禁じてきた宗教国家のアイルランドにとって、まさに「革命」といえるような変化なのかもしれません。

なぜ、ここまでアイルランドが中絶禁止に拘ってきたのでしょうか。カトリックの国でも、フランス、スペイン、イタリア等では認められています。

おそらく、アイルランドでは厳格な保守的なカトリシズムがナショナリズムに結び付いており、国家、国民のアイデンティティとカトリシズムが結合し、中絶禁止もその一つのシンボルとして、今までは「重石」となっていたのでしょう。

かつて、チャウシェスク時代のルーマニアの中絶禁止問題を描いた映画『4ヶ月、3週と2日』を、このサイトで紹介したことがあります(当ブログ、2012年1月21日)

あらすじは以下の通りです。
【1987年のルーマニアのある町。チャウシェスク大統領の独裁政権下、労働力確保のため中絶が禁止されていた。大学生のガビツァは望まない妊娠をしてしまい、寮のルームメイトのオティリアは彼女が隠れて中絶手術ができるように奔走する。オティリアは自分の恋人から金を借り、ホテルを予約し、闇医者のべべと連絡を取る。手術当日、現れた闇医者のべべは土壇場で手術代が足りないと言う。2人は身を持って代金を捻出することを余儀なくされる。】

中絶禁止は、宗教的保守主義だけが掲げる政策ではなく、近代発展を目指して人口を増加させようとしたルーマニア共産党の政策でもありました。

宗教的保守主義であっても、共産党の極端な人口増加政策であっても、個人の生活に国家権力が介入したものであり、女性を尊重する立場からは程遠いものでした。

2018年5月29日 19:51

メーガン妃とシンプソン夫人は何が違ったのか?

2018年5月19日に結婚した英国のヘンリー王子とメーガン妃が、直後の5月22日にはバッキンガム宮殿で開催されたこの園遊会に初公務として出席しました(ELLE online, 2018年05月23日)。

2人の人気は相変わらず高く、英国民の注目の的であり続けているようです。

私は、当ブログ2018年5月20日付にて、英国のヘンリー王子の結婚を主に「人種」という観点から考えてみました。「離婚」と「米国籍」に焦点を当ててみたいと思います。

まず、「離婚」ですが、メーガン妃は2011年9月に米国の俳優トレヴァー・エンゲルソン氏と結婚し、2013年8月に離婚しています。

ヘンリー王子は初婚ですので、当然、この離婚歴は問われたはずですが、最終的にはゴールインしました。

しかしながら、約80年前、1937年に英国のエドワード王子と結婚したウォリス・シンプソンさんの場合は異なりました。

米国人のシンプソン夫人は、2回の結婚、離婚歴があり、エドワード王子とは3回目の結婚でしたが、この結婚は世論の反発も強く簡単にはいきませんでした。

まず、エドワード王子は、1936年1月に父ジョージ5世の死後、即位しており、厳密には王子ではなく既に国王エドワード8世だったのです。独身であったエドワード8世は、シンプソンと結婚するために325日で退位し、王子に戻ることになります。

その後、王位に就いたのはエドワードの弟のジョージ(6世)であり、現在のエリザベス女王の父親です。もし、シンプソン夫人との結婚に退位が伴わなければ(エドワード8世が王であり続けていれば)、エリザベス女王の戴冠はなかったことになります。

それでは、シンプソン夫人とメーガン妃は何が違うのでしょうか。2人の生い立ちや個性はもちろん異なりますので、単純比較はできないでしょう。しかし、やはり、何よりも社会環境が違うのです(もちろん、王室に限定すれば、チャールズ皇太子とダイアナ妃が1996年に離婚していることも大きいでしょうが)。

第一次世界大戦後、英国の離婚率(人口1000人当たりの離婚者数)は、1人未満でしたが、現在は2倍以上となっています(United Nations, Demographic Yearbook, 2016等参照)。2014年、英国では12万人以上の人が離婚しているのです(同上)。

離婚率が高いことが良いのか、低いことが良いのかの判断は難しいところがありますが、いずれにせよ、離婚経験者であっても(未婚者と比較され)差別されない社会に移行していることは事実でしょう。

そのような意味においても、今回の結婚は社会的インパクトが大きいと考えます。

2018年5月28日 00:43

宇宙人が地球を支配しても人間同士の戦いは終わらない?: 映画『銀魂』の人間関係論

地球を異星人(宇宙人)が支配しても、人間同士の戦いは無くならないのでしょうか。

『銀魂』
制作国 日本
制作年 2017年
監督 福田雄一
出演 小栗旬, 菅田将暉, 橋本環奈

あらすじ
【江戸時代末期。天人(あまんと)と呼ばれる異星人たちが、江戸へ訪れ大改革を行っている。侍・坂田銀時は、剣術道場の息子・志村新八と戦闘種族である夜兎族の少女・神楽と共に万事屋を営んでいる。ある日、刀鍛冶の村田兄妹から彼らの父親が打った名刀「紅桜」を取り返して欲しいという依頼が舞い込む。同時に、街では辻斬りが横行しており、謎の男が名刀らしきものを振り回して人を切っている。銀時と新八は男と闘うことになるが、刀に負けてしまう。傷だらけの銀時の元に先日の依頼主の妹鉄子が現れ、実は、あの刀「紅桜」を作ったのは彼女の兄であり、その刀は人の血を吸う化け物であることを告白する。そんな時、行方不明となった友人・桂を追った神楽は、巨大な船に忍び込んでしまう。そこにいたのはクーデターを企てる高杉晋助率いる鬼兵隊だった。高杉は「紅桜」を量産し、国家転覆を企てている。かくして銀時たちは高杉たち闘うことを余儀なくされる。】

空知英秋氏の大ヒット漫画の実写映画化です。設定は江戸時代ですが、何とも言えない異次元性が醸し出されています。

江戸時代にもかかわらず、異性人によって江戸(町)が近代化しており、パラレルワールドなのです。

こんなパラレルワールドなのですが、注目は銀時のライバル高杉の存在です。2人は共に学び、育ってきたにもかかわらず、高杉は全力で国の転覆を、銀時は国を守るために敵味方として戦うのです。

何よりもリアルなのは、高杉が異星人と組んでいることです。高杉は、目的の達成のためには組む相手を選ばず、異星人の力も借ります。

何十年も前から国際関係論を学ぶ学生の間では、宇宙人が地球に来れば、国家間の戦争は無くなるのではないかという命題がありました。共通の敵の出現は、人類を一体化させるのではという説です。

しかしながら、この議論では、宇宙人と組んで戦争を継続する勢力が出てくるのではないかという主張を、(学生の)誰かによって投げかけられ、皆、納得するという「落ち」になる傾向がありました。

本作は(漫画の原作も同様で、映画だけのオリジナルではないかもしれませんが)、まさに宇宙人が到来しても、人類の戦いが終焉しないことを前提としていることになります。

2018年5月27日 22:57

アメフト危険タックル問題を考える: 人生、失敗した後が重要なのではないか?

日本大学のアメリカンフットボール部の宮川泰介選手が、関西学院大学との定期戦で危険なタックルを繰り返し、反則行為で退場したことが大事件になっています。

最大の争点は、宮川選手に日本大学アメフト部の内田正人前監督がタックルの指示をしたのかどうかになっています。

宮川選手は5月22日の単独記者会見で指示があったことを述べていますが、内田監督は、5月23日の記者会見で宮川選手への指示を明確に否定しており、監督と選手の言い分が真っ向から対立する形になっています。

しかしながら、(私を含め)両方の記者会見を聞いた人の多くが、宮川選手の主張がより説得力があると感じたのではないでしょうか。私はその理由として、宮川選手が責任を負う覚悟があるからだと思います。

記者会見では、以下の通り、宮川選手は反則行為をしてしまった理由を、記者からの質問に答え、自分自身で良し悪しを判断できなかった自分の「弱さ」であると断罪しています(「日大加害選手の"懺悔"会見全文(下)」AERA dot., 5月22日)。

記者:明らかな反則行為なわけですけども、直後から悔悟の念がよぎるその行動を、なぜしてしまったのか? 監督の指示がご自身のスポーツマンシップを上回ってしまった、その理由は何でしょう?

宮川:監督、コーチからの指示に、自分で判断できなかったという、自分の弱さだと思っています。

(中略)

宮川:いや、まず、そもそも指示があったにしろ、やってしまったのは私なわけで......。人のせいにするわけではなく、やってしまった事実がある以上、私が反省すべき点だと思っています。

宮川選手は、たとえ、監督やコーチの指示であっても、やってしまったのは自分であり、最終的には自分の責任であると主張しているのです。

ここが、自分たちは指示していないと主張した日本大学の内田監督と井上コーチの主張と大きな違いがあります。

責任を一手に引き受けようとしている宮川選手は、個としてもう惑わずに独立し、自分で判断し、会見に臨んでいるのです。

人生、誰もが失敗します。とすれば、失敗した後が重要なのです。

そして、宮川選手の失敗した後の責任の取り方は、非常に立派であり、監督やコーチを凌ぐものでしょう。おそらく、関西学院大学アメフト部も宮川選手の深い反省を受け止めてくれると考えます。そして、宮川選手は教育機関としての日本大学の名誉も救っているように感じるのです。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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