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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年4月28日 02:18

南北首脳会談の背景としてのグローバリゼーションと機械化

前回、金正恩・労働党委員長と韓国の文在寅・大統領による首脳会談を、金委員長のパフォーマンスにフォーカスして論じました。

そもそも、この時期に首脳会談が行われた理由は何だったのでしょうか。

政治的には、対米関係(米国との軍事衝突の危機を回避したい)という見方があり、経済的には、北朝鮮への制裁が相当な効果をあげているとも言われています(重村智計「南北首脳会談、なぜこのタイミングだったのか」iRONNA)。

特に石油に関する制裁は大きく、昨年の北朝鮮の石油輸入量は最大150万トンとされる中、今年は制裁によって原油と製品合わせて70万トンまでに落ち込むと見られています(同上)。

なるほど、納得できます。

ただ、私はこの歴史的会談をテレビで見ながら、北朝鮮が経済開放を急がないと、現実としてグローバル化、機械化の波に飲み込まれてしまうように感じました。

実際、今回の首脳会談の前の4月20日の北朝鮮労働党中央委員会総会において、金委員長は「経済建設に総力を集中する新たな戦略的路線」を宣言しており、経済発展を重視する姿勢が見られます(毎日新聞、2018年4月27日)。

金委員長は、経済制裁を解除し、経済協力を引き出し、北朝鮮を経済的に発展させることを掲げているのです。そして、早くも朝鮮半島に平和が実現し、北朝鮮が経済開放をすれば、韓国よりも北朝鮮に直ちに莫大な利益がもたらされるだろうという声もあがっています(Bloomberg, 2018年4月25日)。具体的には、北朝鮮国内への投資機会が増え、輸送やインフラ、発電施設への投資ブームが起こり得るだろうと予測されています(同上)。

私はかつて「北朝鮮と安価な労働力:敵はロボットか?」(当ブログ2013年2月20日付)、というタイトルで、北朝鮮が急いで経済開放路線に踏み切らないと、その安価な労働力を活用せずに、世界のロボット化、機械化が先に進んでしまうのではないかと書きました。

あれから数年経ち、2015年の1人当たりのGDPを比較すると、バングラデッシュの3,700米ドル、ミャンマーの5,600米ドル、ベトナムの6,200米ドルに比べ、いまだに北朝鮮の1人当たりのGDPは1,700米ドルに過ぎなく、アジア各国に比べ遥かに低くいのです(CIA handbook)。

つまり、北朝鮮の労働賃金は安いことになりますが、「安価な労働力」自体が重要視されない状況も発生しています。近年、米国では、機械化が進み(それに、トランプ政権の政治介入もあり)、製造業の海外流出が止まり、製造拠点を米国へ戻す傾向が生じています。

もちろん、上記のグローバルな産業状況の変化が、今回の南北首脳会談の直接の理由ではないでしょう。しかしながら、北朝鮮の改革開放路線への転換が遅くなれば遅くなる程、北朝鮮は機械化との闘いを余儀なくされるのではないでしょうか。

そのためにも、まず、北朝鮮は山積する政治的課題を片付けていかなくてはいけないことになります。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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