QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年4月11日 11:23

レスリング女子におけるパワハラ問題を考える

連日、報道されていますレスリング女子でオリンピック4連覇をした伊調馨選手への栄和人・日本レスリング協会選手強化本部長のパワハラ問題が一応の決着をみせました。

4月6日、同協会は三者委員会に調査を依頼し、伊調本人、栄氏らを含む19人からヒアリングを実施した結果、パワハラがあったことを認めました(日刊スポーツ,4月7日)。

パワハラに認定されたのは以下、4項目。
<1>平成22年2月にNTCで、伊調に対し「よく俺の前でレスリングができるな」、などと言ったこと。
<2>平成22年9月の世界選手権で、田南部力コーチに「伊調の指導をするな」と言ったこと。
<3>平成22年、9月の世界選手権および11月のアジア大会の選手選考について、露骨な伊調外しを行ったこと。
<4>平成27年2月、NTCで田南部コーチに「目障りだ。出て行け」などと罵倒したことです(同上)。

これに対し、ネットを中心に「やっぱりパワハラはあったのか」という声がある一方、同情論もあります。

拓殖大学レスリング部監督の須藤元気氏は、4月9日放送のテレビ番組『羽鳥慎一モーニングショー』に出演し、以下のようにように主張されています。

「パワハラの定義が、一般社会と格闘技・レスリングとを同じにしてしまうと、温度差が必ず出ますね。どうしても(厳しさが)必ず出ます。『バカヤロー』と言ったら一般社会ではパワハラになるけど、『バカヤロー』とか『よく俺の前で練習できるな』とかはあるわけです。叱咤激励みたいな」

須藤氏は認定されたパワハラ4つのうち上記<3>を除いた3つは栄監督がかわいそうだと語っています(J-Cast, 4月9日)。

最初に申し上げますと、アウトはアウトということです。その上で、言葉のパワハラは受け手側次第であるのも事実で、須藤氏の御主張も一理あるように感じます。

関西の先生は、自分の学生が失敗した時に、「アホやな」などと普通に言います。それは、全てではないとしても、多くの場合、学生を馬鹿にしているのではなく、愛すべき存在として捉え、「今度は頑張れよ」というようなニュアンスも含んだ表現でもあります。

ただ、同じ「アホ」でも、受け手が侮辱されたと感じれば、パワハラになってしまうでしょう。

パワーとは「権力」であり、パワハラにおいても、まず、「権力とは何か」を定義する必要があります。

権力の定義は論者によって様々ですが、主要なところを繋ぎ合わせれば、権力とは「自己の意思を他人の行動に対して押し付ける可能性」(マックス・ウェーバー『支配の社会学』)であり、権力者になり得る者が、権力資源を投入する意志があり、権力を受け入れる者によってそれが認識されて初めて「権力化」されると言われます(ハロルド・ラスウェル『権力と人間』)。更に、重要なことは、権力による「支配」の構造は、「支配者」と「被支配者」の相互作用(ゲオルク・ジンメル『社会分化論社会学』)であるということです。

つまり、権力のハラスメント(パワハラ)とは、相互作用のバランスが崩れている状態を指すことになります。

結局、(明らかに法に触れるようなケースが無いならば)栄氏にパワハラがあったかどうかは、伊調選手がどう感じたかになってしまうのではないでしょうか。

この記事へコメントする

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2018年4月
2018年3月
2018年2月
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
アジア事情 (8)
カンボジア (27)
スイス (27)
スポーツと社会 (125)
ネパール (26)
国際事情(欧州を除く) (232)
大震災/原発事故と日本 (29)
御挨拶 (14)
日本政治 (124)
日本社会 (289)
映画で観る世界と社会 (314)
欧州事情 (97)
留学生日記 (74)
英国 (98)

ページトップへ

カレンダー
<< 2018年04月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
最新記事
プロ野球とストレス
観光地はお姫様の物語を求めている?: 映画『ローマの休日』で再プロデュースされたローマ
レスリング女子におけるパワハラ問題を考える
男女(は別)論はどこまで当てはまるのか? : 映画『恋と愛の測り方』の様々な測り方
日本も大学・大学院のパートタイム化を促進すべきなのでは
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草