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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年3月 5日

2018年3月 5日 23:37

法と公正さがズレている時: 映画『アラバマ物語』における法の限界と差別の構造

名作は、時代を越えて問う何かがあります。

『アラバマ物語』(原題To Kill a Mockingbird)
制作国 米国
制作年 1962年
監督 ロバート・マリガン
出演 グレゴリー・ペック, メアリー・バダム, フィリップ・アルフォード

あらすじ
【1930年代の米国アラバマ州。妻と死別した弁護士のアティカス・フィンチは、一人で小学生の息子のジェムと娘のスカウトを育てている。2人は近所に住む、(狂人と噂され、父親に軟禁されているという)青年ブー・ラドリーに関心を抱いていた。そんなある日、父・アティカスは、白人女性の婦女暴行事件の黒人容疑者トム・ロビンソンの弁護を引き受ける。当時、米国南部のアラバマ州は、黒人差別が激しくアティカスが弁護を引き受けたことによって、彼の子供たちまで非難中傷を受け、裁判の日を迎える。裁判で負けた後も一家は批判され続け、子供たちにも危害が及ぶような状況となる。そんな時、「変人」ブー・ラドリーが駆けつけ、子供たちを痛めつけようとする犯人をナイフで刺し、2人を助け出す。】

黒人に対する偏見が強い当時のアラバマ州で、黒人の青年トム・ロビンソンは婦女暴行の無実の罪を着せられてしまうのですが、弁護士アティカスは1人立ち上がり、法の下の平等を説きます。グレゴリー・ペック演じる弁護士の主人公が、正義を代表し、強く逞しく完璧であればある程、当時の人種差別意識がいかに根強かったかが分かります。

ただ、この作品が公開されて半世紀以上たっても評価が高い理由の一つには、おそらく知的障害があるとされる青年ブー・ラドリーが重要な役割を担っていることがあるでしょう。彼が存在するために、物語が単に黒人VS白人の「人種問題」に矮小化されず、差別問題全体に広がっていきます。

しかし、弁護士で法の公正な精神をもって勇敢に闘う、かっこ良い父親アティカスは、挫折してしまいます。

そして、(ネタバレですが)裁判に負けることだけではなく、子供を守るために殺人を犯してしまうブーを守ることで、そもそも法の限界を露呈してしまうのです。

「公正」な法律の精神が機能していない当時のアラバマ州だったのですが、そもそも法が完璧に働いても人を幸せにするとは限らないのです。

でも、裁判において法の「公正」が機能しない状況とは異なり、最後に示された法を越えた「解決案」は「公正さ」を失ってはいません。

いずれにせよ、この物語はあらゆる偏見への批判を掲げながら、同時に「公正」とは何かを問い続けているのです。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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