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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2018年1月10日

2018年1月10日 02:30

スコットランドとバルセロナと「アヴェ・マリア」

音楽は、その曲を耳にした場所(空間)が記憶に焼き付くことがあります。

年末になりますと、フランツ・シューベルト作曲の「アヴェ・マリア」(エレンの歌第3番)が世界各地で流れますが、私は、この曲を聞くたびに約20年前に訪れたバルセロナを思い出します。

当時、英国・スコットランドのエジンバラ大学に留学していた私は、タブロイド新聞のクーポンを1週間集めると格安航空会社EasyJetのロンドン-バルセロナが「格安」で利用できるというプロモーションを用いて(参加して)、初めて年末のバルセロナ(カタルーニャの首都)を訪れました。クリスマス前のその街は、数々のイルミネーションでとても綺麗に飾られていました。

そして、なぜか数泊の短い滞在だったにもかかわらず、時節柄だったのでしょう、何度もストリート・パフォーマンスの「アヴェ・マリア」を見聞きすることになったのです。この透明感に満ちた曲は、不思議に、バルセロナを飾るガウディの建築物にもフィットし、心に沁み込んできました。

「アヴェ・マリア」は、もちろん、バルセロナともカタルーニャとも無関係です。そもそも、クリスマスにも縁のない曲なのです。。

同曲は、私が学んだスコットランドとは深い関係があり、18世紀から19世紀に活躍したスコットランドの詩人ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人』(『湖上の麗人』)のドイツ語訳にシューベルトが曲を付けたものです。

物語の舞台は16世紀のスコットランド王国。

狩りで道に迷った青年の国王は「湖上の麗人」と称された美しい娘エレンと出会います。身分を隠していた国王は、厚遇してくれたエレンにお礼として自分の指輪を渡して立ち去ります。しかし、その後、エレンの父は反国王派リーダーとして国王と戦うことになってしまい、エレンの恋人マルコムと共に国王軍に囚われてしまいます。その時、娘のエレンがマリア様に助けて欲しいと願い「アヴェ・マリア」を歌います。そして、(指輪を持っている)エレンと再会した国王は、政敵であるエレンの父と恋人マルコムを許すのです。

ご存知の通り、現在、バルセロナがあるカタルーニャは、スペインからの独立を訴える人々が約半数を占め、政治的な緊張関係が続いています。約半数はスペイン残留を望み、独立運動が高揚しながらカタルーニャ自体が分裂しているのです。

仮に独立しても、もしくは、スペインに留まっても、いずれのケースにおいても亀裂は残ります。私は、政治現象を文学的(ロマン主義的)感覚を持って語るのは適切ではないと考えますが、今のカタルーニャは、カタルーニャに住む全住民(家族、恋人、友人)を救うため、誰かが、この透明感に満ちた「アヴェ・マリア」を歌わなければいけないのではないでしょうか。

音楽には、スペイン、カタルーニャ間、そして、カタルーニャ国内を、大きく引き裂く溝を修復するような力はないかもしれません。それでも、同曲は、人々にちょっとした「休戦」ぐらいはもたらすような気がします。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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