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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年9月 1日 03:20

国家主義は人種差別を無くすのか?: 映画『ドリーム』における競争と差別

ドナルド・トランプ氏が大統領に当選した2016年に、この映画が作られた意味を考えてしまいます。

『ドリーム』(原題 Hidden Figures)
制作国  米国
制作年  2016年
監督 セオドア・メルフィ
出演  タラジ・P・ヘンソン, ジャネール・モネイ, オクタヴィア・スペンサー

あらすじ
【1961年のバージニア州ハンプトン。3人の黒人女性キャサリン、ドロシー、メアリーはNASAラングレー研究所で計算手として働いていた。当時、米国はソ連と有人での宇宙飛行を競っており(マーキュリー計画)、有能な3人は重要な役割を担うようになっていく。キャサリンは上司からスペース・タスク・グループでの作業を命じられ、ドロシーは、計算部の代理スーパーバイザー、メアリーはエンジニアになることを勧められる。しかし、米国南部が人種隔離政策を行っていた時代、それぞれが壁にぶつかる。キャサリンは、直属の上司から嫌われ、コーヒーも別にされ、トイレは800メートル離れた有色人種専用に行かなくてはいけなかった。ドロシーも昇進に待ったがかかり、メアリーは黒人で女性のエンジニアはNASAにはいないと最終的に断られる。そのような中、キャサリンは誰も出来なかったような計算によってNASAを救う。】

1960年代の米国南部ではどれ程優秀でも、主人公たちには、黒人で女性という人種とジェンダーの壁があります。

しかし、同時にNASAが彼女たちを重用しなければならない程に、冷戦中のソ連との宇宙開発競争は激しくなっています。

この映画作品には原作があり、原作においてNASAでは、映画に描かれるほど強い人種差別はなかったそうです。

社会学、歴史学では、ナショナリズムを土台とした国民軍の成立が階級制を壊していく(英国では貴族制も弱体化していく)と言われていますが、自国が他国と何かで競っている(戦っている)際に、人材登用において人種で差別していては、他国に勝てないのです。

冷戦はイデオロギーの時代ですが、そのイデオロギーの時代が国家間競争を導き、それが人種やジェンダーの平等化をもたらした一要因になってきます。

ただ、そのプロセスは単純ではなく、平等に基づく国家主義と人種差別が併存している時代が1960年代の米国であり、主人公たちは社会的に差別に遭いながら同時に英雄にもなっていくのです。

周知の通り、2009年には黒人系のバラク・オバマ氏が米国大統領に就任しますが、2017年ドナルド・トランプ大統領が就任すると、バージニア州シャーロッツビル事件に見るように米国は「人種」がイッシューになってします。その意味では差別と平等の併存状態は、現在でも続いているとも言えます。

もっとも、今日は1960年代とは比較にならないくらい非白人の優秀な方々は社会に進出しており、グローバリゼーションの中で、中間層が弱体化し、白人も黒人もそれぞれ格差化している状況の中で、新しい人種問題が生じていると考えるべきかもしれません。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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