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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年8月20日 10:46

階層と時間の交差を可能にするもの: 映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』の移民系「不良」学生のアイデンティティ

階層性と歴史性が繋がることもあります。

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(原題 Les Heritiers)
制作国  フランス
制作年  2014年
監督  マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
出演  アリアンヌ・アスカリッド, アハメッド・ドゥラメ

あらすじ
【移民系も多く、貧困層が暮らすパリ郊外クレテイユ。レオン・ブルム高校に赴任した歴史・地理の女性教師アンヌ・ゲゲンは、荒れた多民族集団のクラスの担任になる。やる気のない学生たちにゲゲンは、学生たちの可能性を説き、「アウシュビッツ」を題材にする全国歴史コンクールに参加するように説得する。嫌々ながら始めた学生たちも、ゲゲンの情熱に少しずつ前向きになるが、なかなかリサーチが進まない。そんな時、ゲゲンは、強制収容所の生存者レオン・ズィゲル氏を教室に招く。ズィゲル氏の話を聞き、学生たちはその日から目の色が変わり、自主的に学ぶようになっていく。】

実話がベースになっており、当事者の1人の青年(アハメッド・ドゥラメ)が、経験を基に脚本を担当し、更に出演(マリック役)もしています。そして、アウシュビッツの生存者レオン・ズィゲルもご本人です。

ストーリーは単純です。ネタバレですが、貧困層の移民系(多民族)が通う高校の最低クラスが、情熱的な歴史の先生の存在によって動かされ、更にレオン・ズィゲル氏のリアルな体験を耳にして変わっていくのです。

映画では紆余曲折を描いてはいますが、出来過ぎた展開ではあります。また、ユダヤ人の描かれ方も一元的であります(ハンナ・アーレント的な問題提起はありません)。

しかし、それでも、この物語は感動します。それは、階層的にボトムである貧困層の「不良」学生たちが過去の虐殺の歴史にリアルに触れて、感じ、直視することで、結果的に自分たちの今を変える結果を生み出しているからです。

その背景には、上記の通り、ゲゲン先生の熱意、レオン・ズィゲル氏の生々しい体験談があります。彼らが今を精一杯生きていることが、学生たちを過去に繋げるのです。

その上で、どうして落ちこぼれであった彼らが、短期間に変われたのかを考えると、彼ら自身の「熱さ」もあるように思えます。

映画の冒頭において在籍していたイスラム教の女生徒が、卒業証明書を取りにくるシーンがあるのですが、スカーフを巻いてきたために卒業証書を貰えないのです。先生たちは、「校則に従って、スカーフを外しなさい」と言うのですが、学生は「卒業したのだから、もう校則には従わない」と怒鳴り返して、帰宅してしまいます。

貧困層地域であるのですが、学生たちは非常にアイデンティティに拘り、自らのアイデンティティを拠り所にしています。ですから、反ユダヤ主義のようなアイデンティティによって差別されたり、虐殺されたりすることの痛みがストレートに伝わるのかもしれません。

この「熱さ」故に、貧困地域の多民族の若者が「アウシュビッツ」を語ることも理に適っているように見えるのです。

そして、「アウシュビッツ」は、普遍化されていきます。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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