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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年5月 6日 05:58

憲法改正と吉田ドクトリン

5月3日は憲法記念日であり、憲法に関する様々議論が各地で行われました。

安倍晋三首相は、「第19回公開憲法フォーラム」シンポジウムにビデオでメッセージを送り、「憲法改正は、自由民主党の立党以来の党是です」とし、改憲への熱意を語りました。

特に「憲法9条」に関しては、「「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ」というのは、あまりにも無責任です」と主張し、9条の平和主義の理念を維持しながら「自衛隊を明文で書き込む」という考え方を提唱しています。

一方で、東京臨海広域防災公園では、憲法改正に反対する市民や団体による「5・3憲法集会」があり、約5万5千人(主催者発表)が集い、「憲法が大切にされる国に」などと書かれたのぼり旗やプラカードを掲げて「戦争反対。9条守ろう」などと訴えました(朝日デジタル、5月3日)。

同集会で演説された評論家のピーコさんは、自民党の草案では自衛隊が国防軍になっているとして「戦争はしない、という草案ではない」と語り、安保法制に反対する伊藤真弁護士は「憲法を壊すたくらみに声を上げ、戦い続ける覚悟を決めよう」と呼びかけ、集会では「武器を持たぬことを伝えた先人たちの声を永遠に語り継ぐのさ」と歌われたそうです(同上)。

震災時などにおける自衛隊の多大なる貢献に関しては、議論の余地はないと思いますが、自民党を立党以来の改憲の政党と見なして、同党に投票した人はどれ程いるのかと疑問に感じます。

改憲運動を推進される中曽根元首相が「現行憲法によるこの70年は確かにわれわれの生活に豊かさをもたらした」(98歳・中曽根康弘元首相「国民自らがつくる憲法へ奮起を」産経ニュース、5月1日)と述べられていますが、平和憲法を戦略的に用いた「吉田ドクトリン」はまさに戦後の自民党政権の外交と内政の指針であり、多くの国民も経済重視政策を支持していたのではないでしょうか。

改憲を反対する人たちにも矛盾があるように思います。北朝鮮の脅威を持ち出すまでもなく、日本の現行憲法における「武器を持たぬ平和」というのは、日米安全保障条約という「軍事同盟」があってこそ「軍隊ではない自衛隊による平和」が維持できたのでしょう。

例えば、一国で永世中立を貫くスイスでは、徴兵制を採り、高額な防衛費と共に強力な軍隊を配置し、その上で、万が一のために家でも職場でも公園でも国民が避難できる核シェルターの建設を義務付けてきました。そして、隣国リヒテンシュタインはそのスイスに防衛を依存する形で「武器を持たない平和」を体現しています。

日本の場合も、日米安保の下の「一国平和主義」でした。もちろん、日米安保があるが故に、戦争に巻き込まれる可能性もあったと言えますが、「吉田ドクトリン」(平和憲法)を掲げれば、最小限の軍備で経済重視の原則に回帰できたのです。

1990年代以降(日本を取り巻く)国際情勢の変化によって、この経済重視の「吉田ドクトリン」が機能しなくなっているところに、憲法問題があるように思えます。

しかしながら、NHKの世論調査「日本人と憲法2017」では、「国の政治に優先的に取り組んでほしいこと(3つまで回答)」の項目において、1位は、62%で社会保障や福祉政策であり、2位は55%で景気・雇用対策でした。憲法改正は9番目の最下位で、6%でした。

人々は、いまだ「吉田ドクトリン」の中にいます。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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