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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年5月

2017年5月17日 03:18

女優誕生の形式(パターン)と芸能界: 映画『イヴの総て』における「踏み台」の重層性

ショービジネスだけではなく、人を「踏み台」にして出世していく人はどこの世界にもいます。

『イヴの総て』(原題 All About Eve)
制作国  米国
制作年  1950年
監督  ジョセフ・L・マンキーウィッツ
出演  ベティ・デイヴィス、アン・バクスター

あらすじ
【新人女優イヴ・ハリントンに米国演劇界の最高賞であるセイラ・シドンス賞が与えられる。拍手喝采の中、彼女が祝辞で名前を挙げた「恩人」たちは、複雑な表情を見せる。受賞式の8カ月前、女優志望のイヴは、ブロードウェイの大女優のマーゴが出演する舞台に毎日通い、夫を戦争で亡くしたと語り、マーゴの付き人となる。以後、イヴは、マーゴの食べ方、歩き方、話し方まで真似る。マーゴに、煙たがれると、プロデューサーや演出家、脚本家に近づき、舞台のマーゴの代役を獲得する。そして、マーゴを裏切って舞台に立ち、有名な批評家まで味方につけてデビューを成し遂げる。】

米国アカデミー賞を6部門(作品賞、助演男優賞、監督賞、脚本賞、衣裳デザイン賞、録音賞)を獲得した名作ですので、語りつくされた作品ではありますが、今観ても迫力があり、かつ色々と考えさせられる作品です。

何と言ってもイヴの上昇志向と目的のためには手段を選ばないやり方が、「怖い」のです。

イヴは気が利いて、何事にも有能な女性として登場しながら、出世のために恩人のマーゴを裏切り、野心をむき出しにします。実のところ、野心をむき出しにしてからは、それ程「怖く」ありません。第三者から見て、完璧な「善い人」が、結果として「悪人」になっている前半のほうがスリリングです。

それでも、スターへの道を上り詰め、セイラ・シドンス賞を獲得します。彼女が、本性をむき出しにしてからも、公に批判されないことは(彼女は、されないように策を巡らしてはいますが)、演技が優れていればこそであり、イヴは策略も実力があってこそなのでしょう。

受賞後、ネタバレですが、彼女と同じような女優志願の若い女の子がイヴに(以前のイヴと同じように)近付いてきます。イヴも近い将来、「踏み台」にされていくことを暗示されます。

つまり、本作では、女優の誕生の形式(パターン)が描かれており、イヴとはその一例でしかなかったことになります。イヴの存在を、一つの形式の中で捉えると、後半のイヴの「狡さ」の露呈が、「哀れ」となって映ります。

マーゴはどうかといえば「踏み台」にされながら、結婚して自分の道を歩むことになります。結婚によって、若さや名声を競うことから解放されるのです(結婚によって問題解決するというのは、制作時の1950年という時代かもしれませんが)。

上記のような芸能界の「構造」の中、イヴは、演劇界最高のセイラ・シドンス賞の授賞式でハリウッドに行くことを宣言します。演劇界も「踏み台」にして、映画の世界へ旅立つのです。

「踏み台」の重層性こそが、この作品を何十年も輝かせている理由なのではないでしょうか。

2017年5月15日 23:59

なぜ、マクロン大統領と大統領夫人の年齢差は許容されるのか?

5月7日のフランス大統領選挙の結果を受けて、14日、エマニュエル・マクロン氏がフランス第25代大統領に就任しました。

当ブログ(5月8日)でも記しました通り、格差化し、社会が分断されているフランスの大統領として前途多難のマクロン氏ですが、その奥様の存在が注目されています。

1953年4月生まれのブリジット・マクロン夫人は、現在、64歳であり、1977年12月生まれのマクロン大統領とは24歳8カ月年上です。

米国のドナルド・トランプ大統領も、1946年6月生まれの70歳、1970年4月のメラニア・トランプ夫人との年齢差は24歳2カ月年下です。

男女の違いはあるとはいえ、24歳の格差婚が批判されるのでしたら(マクロン大統領は批判されていないのですが)、フランス大統領と米国大統領も同じであるでしょう。

更にマクロン夫妻の場合は、2人の出会いが、当時、39歳のブリジットさんが高校の演劇の教師、15歳のエマニュエル・マクロン氏がブリジットさんの学生という関係だったことが特異ではあります(BBC 5月9日)。

その時、ブリジットさんは既婚であり、3人のお子さんがおられ、当然、マクロン氏の両親から関係を大反対されます。

それでも、両者は愛を貫き、2006年にブリジットさんは離婚し、2007年にマクロン氏は29歳、ブリッジさんが54歳の時に結婚します(CNN 4月25日)。

そして、今日、大統領夫人となるブリジットさんの存在は批判されるどころか、好感を持って受け止められています。世論調査会社「YouGov」によると、49%が彼女に好印象を抱いていると回答したのに対し、悪いイメージを抱いていると答えたのは26%に留まっています(HuffPost France, 5月12日)。

このようなブリジットさん人気を、青山学院大学・羽場久美子教授は「フランスは自由恋愛の国。個人が好きな形で恋愛することに社会が何か言うことはない。むしろ一途さが評価され女性票が集まったことは事実ではないか」と分析していますが、マクロン大統領にとってもプラスになっているのは確かです(J-Cast 5月15日)。

しかしながら、もし、24歳下の女性と再婚した男性(前妻との間に3人の子供がいる)がフランスの大統領もしくは大統領候補となった場合、ファーストレディに対して、たとえそれが「一途な愛」であっても同じような結果がでるのでしょうか。

それでは、米国のトランプ大統領や英国のチャールズ皇太子は、なぜ批判されてきたのでしょうか。

それが、フランスと米国(英国)との恋愛観、家族観の違いなのでしょうか。

もちろん、ブリジットさんの場合、個性が人々を魅了している点もあると思われますが、もう少し考えていきたいテーマです。

2017年5月13日 23:10

北朝鮮問題において危機感がないのは誰なのか?

周知の通り、5月9日に韓国で大統領選挙が行われまして、大方の予想通り、共に民主党の文在寅氏が1342万3800票(得票率41.08%)を獲得し、韓国の第19代大統領に選ばれました。投票率は77.2%でした。

今回の大統領選は、米国と北朝鮮の関係が悪化しており緊迫する状況で展開されていたにもかかわらず、韓国の有権者は安全保障より国内問題により関心があったようです。

韓国の正論調査会社・リアルメーターの「選挙の争点は何か」という調査において、「根深い汚職問題の解決と改革に取り組む候補者の意思」と答えた人が27.5%で最も多く、次に「国民生活と経済を回復させる能力」が24.5%でした(CNN, 5月8日)。北朝鮮問題に関連する「国家の安全とリベラルな民主主義を守ること」との回答は18.5%であり、少なくはないのですが、最大関心事ではありません(同上)。

北朝鮮問題と軍事衝突になれば、「根深い汚職問題の解決と改革」どころではないのではないかと思うのですが、国内問題が争点だったのです。

そもそも、「韓国では北朝鮮に対する危機意識は感じられない」と指摘されています(「異例尽くしの韓国大統領選ソウルの街角は」『ホウドウキョク』フジテレビ)。

例えば、4月29日の早朝に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した直後、日本の各マスコミがその紛争の危機を報じたのに対し、韓国は、朝のテレビニュースの最後、天気予報の直前に20秒程度の原稿をキャスターが読んだだけだったとされています(同上)。

その理由を考えれば、北朝鮮の軍事問題は韓国の有権者がどうすることもできなく、選挙とは別物であるのかもしれません。もし、北朝鮮問題を国内問題よりも深刻に捉えていれば、この時期の大統領選挙は適切ではないと捉えていたでしょう。

もっとも、これは見方次第でもあります。ヨーロッパから見れば、日本も報道されているほど、人々に危機感があるとは見えません。

スイスに住む知人が、北朝鮮が在日米軍と軍事衝突することになれば、日本も危ないのではないかと言ってきました。私が、危機の最中、ゴールデンウィークに約10万人の日本人が韓国を訪れたと言うと、「日本人は危機感がない」という話になりました。

韓国に旅行に行くことは別にして、(韓国人よりは危機を認識しているとされる)日本人も日常生活を大きく変えてはいないでしょう。北朝鮮の出方を予想することも難しいこともあり、警戒はしたとしても、日常を過ごしていくしかないのです。

結局、「危機感があるとか、ないとか」の判断は、どこから見るか次第なのではないでしょうか。

2017年5月10日 06:49

魔法界とスコットランド:映画 『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のケルト性

たとえ、ファンタジー小説であっても、現存する特定の社会の歴史や文化から影響を受けている可能性があります。

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
(原題 Harry Potter And The Prisoner Of Azkaban)
制作国  米国
制作年  2004年
監督  アルフォンソ・キュアロン
出演  ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン

あらすじ
【夏休みも終わり、ホグワーツ魔法魔術学校の新学期を楽しみにしているハリーは、魔法界の刑務所アズカバンを脱獄したシリウス・ブラックという人物が、自分の命を狙っていることを知らされる。新学期が始まりホグワーツ魔法魔術学校に戻ると、ハリーはブラックと自分の父が親友であったこと、ブラックがハリーの名付け親であったことを知る。にもかかわらず、教師たちの話によれば、ブラックがハリーの両親を裏切って2人を死に追いやったとされ、ハリーはブラックに恨みを抱く。しかしながら、実際にブラックに会ってみるとハリーの味方であり、裏切ったのは別の男ピーター・ペティグリューであることが分かる。ブラックはハリーに将来、一緒に住もうと誘い、ハリーも喜ぶが、ブラックの無実の証明ができずにシリウスは再び監禁される。その後、ダンブルドア校長からその事実を聞かされたハリーとハーマイオニーは、逆転時計を使って時間を遡り、ブラックを救おうとする。】

映画化されたハリー・ポッター作品の第三弾です。

前回、ハリー・ポッターの作品の重要なテーマの一つが、ハリーの「マージナル性」(マージナル・マン)であると記しました。

本作品では、ハリーだけではなく、登場人物の多くが「二面性」や「マージナル性」を抱えています。

アズカバン刑務所を脱獄したシリウス・ブラックは、悪人とされながら、実は、ハリーの保護者的な存在であり、善い人でもあります。「闇の魔術に対する防衛術」教授のリーマス・ルーピンは、満月の夜は狼に変身してしまいます。ハリーの両親を裏切った本当の犯人であるピーター・ペティグリューは、(ネタバレですが)ハリーの親友ロン・ウィーズリーのペット「スキャバーズ」(ネズミ)として長年、身を隠していました。

まるで、『ジキル博士とハイド氏』の世界です。『ジキル博士とハイド氏』は19世紀後半にスコットランドのエジンバラでロバート・ルイス・スティーヴンソンによって書かれたものですが、『ハリー・ポッター』シリーズも約100年後のエジンバラで生み出されています。

それ故に、スコットランドの歴史・文化やケルト神話などの影響が大きいように見えます。

映画の俳優陣も1作目、2作目の校長:リチャード・ハリス(アイルランド人)、3作目の校長:マイケル・ガンボン(アイルランド人)、教授:アラン・リックマン(アイルランド系英国人)、教授:イアン・ハート(アイルランド系英国人)ハグリット:ロビー・コルトレーン(スコットランド人)など、ケルト系の大物が多くみられます。

もちろん、ケルトとスコットランドを単純に同一視はできませんが、原作者のJ・K・ローリングは、イングランド人であり、外から見たある種のステレオタイプ的な「ケルト性」なのかもしれません。

2017年5月 8日 14:30

フランス大統領選挙の結果を考える

フランス大統領選の決選投票が5月7日にありました。大方の予想通り、エマニュエル・マクロン氏(無所属)が66.1%の票を集め、マリーヌ・ルペン氏(国民戦線)を破り、第25代フランス共和国大統領に選ばれました。

しかし、得票率を単純に捉えることはできません。

国民戦線のルペン氏は(得票率33.9%で敗北しながらも)第1回投票よりも10ポイント近く票を伸ばしました。

第1回投票では、極右のマリーヌ・ルペン氏は7,678,491票(21.30%)でしたが、対極でありながら政策が似ている、極左のジャン=リュック・メランション氏が4位ながらも、7,059,951票(19.58%)を得ていました。

当ブログ(2017年4月28日付)でも言及しましたが、私は、共産党を中心とするメランション氏の票が、極右のルペン氏へ流れることは難しいと感じていました。

実際、それは、12%という歴史的な白票の多さとなって顕在化しました(「フランス大統領選で無効票・白票が50年ぶりの多さ「どちらの候補も信条に合わなかった」の声」HuffPost France, 5月8日)。

投票者7,752人を対象にしたOpinion Wayの調査によると、第1回選挙でメランション氏に投票した25%、共和党のフランソワ・フィヨン氏に入れた21%が白紙投票あるいは無効投票を行ったとされています(同上)。つまり、マクロン氏にもルペン氏にも入れられない有権者が多く存在したということになります。

マクロン氏の得票率66.1%は、ルペン氏に対するアンチ票と考えられ、実際の支持率は15%程であり、マクロン氏の支持基盤は極めて脆弱であると報じられています(マクロン氏、フランス大統領選に勝利 しかし残る「敗北の後味」HuffPost France, 5月8日)。

一方、ルペン氏は、固い支持票の上に、決選投票ではプラス約300万票を獲得しました。

ルペン氏の300万票は、「排外主義を支持する右翼、既存システムを強く憎む中間層のほか、極左と呼ばれる人の一部までもが、ルペン氏を選んだことも示唆する」と分析されていますが(同上)、それでも、全体としてみれば、白票が多かったことからメランション支持者は今回の決選投票においてルペン支持にまでは至っていないと言えるでしょう。

マクロン氏は勝利宣言において「彼らも怒りや不安を表明しました。私はその声を尊重し、国民が今後、極右に投票しないで済むよう、できることはすべて実行します」(NHK, 5月8日)と述べています。

しかし、政策上の類似点を見ますと、今回の多くの白票を、近未来においてマクロン氏が集約すると考えるよりも、ルペン氏とメランション氏の「共闘」によって「動かされる」可能性のほうがより現実的なのではないでしょうか。

そうであったとしても、2017年のフランスの有権者が、第二の「トランプ」現象を阻止したことは事実です。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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