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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年4月24日

2017年4月24日 16:57

チップス先生はなぜ、空襲中も講義を続けるのか?

この数年、早稲田大学エクステンションセンター中野校にて『映画から見る英国』という講座を担当しています。この春講座では、英国の学校をテーマにして、幾つかの作品を紹介しています。

本日は、(以前、2017年3月 1日付の当ブログでも言及しました)1939年の英国映画『チップス先生さようなら』(原題:Goodbye, Mr. Chips)を採り上げました。

あらすじ
【1870年の英国イングランド。25歳のチャールズ・チッピングはラテン語の新任教師として名門の全寮制の男子校ブルックフィールド・スクールに着任する。初日からいたずらをしようとする学生と対立してしまい校長から叱責を受けるが、何とか乗り越え教師生活を始める。その後も真面目に教師生活を続けるが、中年になったチッピングは出世もせず、未婚だった。ドイツ人のドイツ語教師に誘われてオーストリアの旅に出ると、キャサリン・エリスという若い女性と運命の出会い、彼女と結婚する。キャサリンは毎週のように学生を自宅に招き、学生たちを魅了する。チッピングも、キャサリンからチップスと呼ばれ、徐々に学生たちとの絆も深めていくが、出産の際にキャサリンは子供と共に亡くなってしまう。独り者に戻ったチッピングは、その後も教員生活を続け、1914年に退職する。しかし、第一次世界大戦で教員も卒業生も戦場に向かい、人手不足からチッピングが代理校長として復帰することになる。】

何度か観ている作品ですが、改めて講義で分析していると、後半、チップス(チッピング)先生が、第一次世界大戦が始まり、校長として復帰してからの展開がより興味深く感じてきました。

チップス先生が勤務する男子校ブルックフィールド・スクールは、第一次世界大戦終盤、ドイツ軍の空爆に遭います。空爆の最中、チップス先生は、ラテン語の授業を続けます。逃げろとか隠れろとは言わず、いつもと同じように授業が進んでいきます。

しかしながら、ブルックフィールド・スクールは異常事態であり、そのことは一度、退職しながら校長として復帰したチップス先生が一番知っているのです。チップス先生が教えた卒業生も多くが戦死します。同僚だったドイツ人のドイツ語の教員も敵側として戦場で命を落とします。

チップス先生は「戦うこと」を決めたのでしょう。チップス先生は、日常=教育を可能な限り継続することを彼の「戦い」としたかのようです。

最後のチップス先生の戦死した愛弟子の息子が、ブルックフィールド・スクールに入学してきます。チップス先生は、その学生の父親に接したようにその学生にも教育を施そうとします。それもまた、チップス先生の「戦い」なのかもしれません。

教育とは長い道のりであり、今、現在の出来事には負けてしまうかもしれません。しかし、戦争が人と人の「戦い」であるとすれば、当然、人間教育の普遍化しか「戦い」を阻止することはできないのでしょう。

『チップス先生さようなら』は英国のエリートを輩出する有名私学を舞台とした作品です。故に、階層上において限定的ではあります。ただ、それでも、教育の真髄が描かれているように思えます。

教員はそれぞれ自分の持ち場(教育現場)で、戦わなくてはいけないのかもしれません。それは、同じような日々の繰り返しではなく、非常事態を分かった上で、日常を継続する「戦い」なのでしょう。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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