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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年4月23日

2017年4月23日 01:34

「すず」は世界中の「片隅」にいる: 漫画『この世界の片隅に』から今、読み取るべきこと

大ヒットしております『この世界の片隅に』(片渕須直監督、2016年)の原作(こうの史代氏作)の単行本版を読みました。

あらすじ
【1944年2月の広島県呉。広島市内に住んでいた(絵を描くことが大好きな)浦野すずは、呉の北條周作と結婚する。周作とは、子供の頃出会っており、周作の望んだ結婚であったが、同居する小姑の黒村径子は歓迎していなかった。戦時下で生活も苦しい中、すずは周作に支えられながら、楽しく過ごしているが、軍港の街である呉は頻繁に空襲を受けるようになり、1945年6月22日の空襲で、すずが右手を失い、その時、すずと一緒だった径子の娘・晴美が亡くなってしまう。すずは径子に恨まれ、自分でも絶望しながら過ごしている。そして、8月6日、広島市へ原子爆弾が投下され、すずの実家も被害を受ける。間もなく終戦を迎え、すずは広島の実家を訪れるが、廃墟となっており、両親もいない。途方に暮れていたところ、周作がすずを迎えにくる。すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、出会った戦災孤児の少女を連れて呉に戻る。】

この漫画は、すずの目を通じて、社会史のように淡々と戦時下の日常を描いています。すずには政治的な主張もなく、広島から呉に嫁入りした(絵を描くのが大好きな)「普通」の女性です。彼女は、色々と悩みながらも元気いっぱい生きていきます。

そのような人生であっても戦争に左右されてしまうのです。まるでNHKの朝ドラを漫画で読んでいるような感覚です(同じ広島を舞台とした『はだしのゲン』と比較すると綺麗過ぎるような観もありますが)。

日本人が被害者となっている戦争物語は、国際的には日本人の「加害者意識」がないと批判されるかもしれません。

しかしながら、すずが普通の女性のメタファーであるとすれば、今日の北朝鮮にも、シリアにも、どこの世界の片隅にも「すず」がいるかもしれないのです。

大国のパワーを根源とする国際関係学のリアリズム的な思考を否定するつもりはないです。もし本当にシリア軍が化学兵器を使用したら許すべきではなく、北朝鮮が日本列島を攻撃することも許すべきではないです。

ただ、同時、世界中の「片隅」には「すず」のような存在がいることも忘れてはいけないと思います。もし、彼女が「イスラム国」に住んでいても、北朝鮮に住んでいても、彼女には罪はないのです。もちろん、戦時中の日本でも。

この漫画と映画がヒットしたことに希望を感じます。できれば世界中に届けたい作品です。特に、北朝鮮やシリアに。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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