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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年4月

2017年4月30日 04:06

民主主義は、独裁を生み出すのか?

4月29日、トルコ当局が、オンライン百科事典「ウィキペディア」へのアクセスを遮断したと発表しました( "Turkey blocks Wikipedia over what it calls terror 'smear campaign", CNN, April 29, 2017)。

その理由としては「ウィキペディア」のトルコに関する記事が、トルコがテロ組織と連携しているかのような記事やコメントが掲載されているからと説明されています(Ibid)。

トルコは、4月16日に(大統領の権限を大幅に強化することも含む)憲法改正を問う国民投票が行われたばかりです。そして、51.41 %が改正賛成、48.59 %が反対という結果となりました(Anadolu Agency, "Turkey: Official referendum results announced")。

今後、トルコでは議院内閣制が廃止され、大統領に権限が集中されます。そして、予算案の起草や非常事態宣言の発出、議会の承認なしに閣僚などを任命する権限を、大統領が獲得します(「僅差で「独裁」を選択したトルコの過ち」Newsweek日本版, 2017年4月17日)。

ご本人は否定していますが、当事者であるレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の独裁化を懸念する声もあります("CNN Exclusive: Erdogan insists Turkey reforms don't make him a dictator", CNN, April 19, 2017)。

それでは、そもそもなぜトルコ国民はそのような選択をしたのでしょうか。

それには2つの要因があるとされます。

まず、2016年7月に発生した軍の一部によるクーデター未遂事件です。結果的には失敗となりましたが、国民が「強い指導者」を求める傾向が強まったとされています(「民主化の先、独裁リスク トルコ大統領に権力集中」朝日デジタル、4月18日)。

更に、クルド人問題があります。クルドの独立を求めるクルディスタン労働者党(PKK)とトルコ軍は武力衝突に発展しています。クルド人の武力組織や政党対して強硬な姿勢を取るエルドアン大統領の方針を、少なからずのトルコ系トルコ人が支持していることが挙げられるでしょう(「トルコは、なぜ選挙で「独裁」を選んだのか? 国民が払った「代償」」withnews, 4月23日)。

国民投票の後の勝利宣言において、エルドアン大統領が「トルコ史上初めて国民の意思で変革の決定が下された」と語っている通り(朝日デジタル、4月18日)、軍によるクーデター失敗と対少数民族問題(ナショナリズム)があったにせよ、今回の「変革」が民主主義のルールに則っていることは確かです。

独裁は民主主義が生み出すことは、政治学では日常的に語られることです。

トルコの民主主義が独裁へ移行するのか、それとも、公表されているように「変革」に留まるのか、注意深くフォローしていく必要があるのでしょう。

2017年4月29日 17:48

なぜ、ホグワーツ魔法魔術学校は支持されたのか?:映画『ハリー・ポッターと賢者の石』で消費される「上流階級性」

ハリー・ポッターと言えば、ホグワーツ魔法魔術学校の世界です。

『ハリー・ポッターと賢者の石』
(原題Harry Potter and the Philosopher's Stone)
制作国  米国
制作年  2001年
監督  クリス・コロンバス
出演  ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン

あらすじ
【1992年、ロンドン。10歳のハリーは、赤子の頃に両親と死別し、叔母のダーズリー家に引き取れていたが、家族から厄介者扱いをされていた。ハリーが11歳を目前としたある日、ホグワーツ魔法魔術学校からハリー宛に入学許可証が届き、ダーズリーの家族の妨害に遭ったが、ホグワーツ魔法魔術学校の森番・ハグリッドが迎えに来て、家を出る。そして、ハグリッドは、ハリーの両親が高名な魔法使いであり、闇の魔法使いであるヴォルデモート卿によって殺害され、ハリーだけが奇跡的に生き残ったことを伝える。ロンドン・キングスクロス駅からホグワーツ魔法魔術学校への列車の中で、ハリーはホグワーツの同級生、ロンとハーマイオニーに出会う。3人の魔法学校生活が始まるが、直ぐに何者かが学校の秘宝である賢者の石を盗もうとしていることに気付き、阻止しようと試みる。】

2001年に映画化されたハリー・ポッター作品の第一弾です。

この世界中で大ヒットしたハリー・ポッターのシリーズは、よく指摘されている通り、寮生活を中心に英国の名門私学中等学校(パブリックスクール)の世界を幻想的に描き出しています。

この作品は、J・K・ローリングによって、スコットランドの首都エジンバラで書かれたのですが(ハリーは魔法学校に入るのに、ロンドン・キングスクロスからスコットランド方面行きのホグワーツ特急に乗ります)、エジンバラの名門私学のフェテス・カレッジがホグワーツ魔法魔術学校のモデルの一つと言われています。

原作を映像化すればよりビジュアル的に再現しなければなりません。結局、ホグワーツ魔法魔術学校のロケ地は、幾つかのパブリックスクール、英国を代表する高等教育機関オックスフォード大学でした(学生の頃、私がオックスフォード大学の図書館を訪れた際、偶然、同作品のロケをしていました)。

現実にパブリックスクールの世界は日常にあるのですが、パブリックスクールに通う学生の比率は全英国の学生の6.5%にしか過ぎなく、大多数の英国の子供たちにとっても、世界の子供たちにとっては無縁の世界なのです(Independent Schools Council, website "Research")。

しかしながら、ホグワーツ魔法魔術学校は世界中で大人気です。地元では2008年、スコットランドのベスト教育機関の人気投票で36位にランクインしてしまい話題になったほどです(The Scotsman, "Harry Potter's school outranks Loretto" 31 March 2008)。

どうして、パブリックスクールを原型としたホグワーツ魔法魔術学校がこんなに支持されるのでしょうか。映画にも描かれる通り、楽しいことばかりではなく、教育システムは厳格なのです。

私は、グローバリゼーションは世界を二極化させていると考えますが、同時にグローバリゼーションによって世界中の人の価値観は一元化されていると捉えています。ちょっと「上流階級的」で「伝統的」な魔法学校と魔法の世界は、そのような時代に(消費対象として)フィットしているのではないでしょうか。

2017年4月28日 19:54

2017年フランス大統領選挙:イデオロギーの残存が極右政権の誕生を阻止する?

4月23日、フランスの大統領選挙の第一回投票が行われ、独立系候補であるエマニュエル・マクロン前経済相が8,656,346票(得票率24.01%)で第一位、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が7,678,491票(21.30%)で第二位となりました(Ministère de l'Interieur interieur.gouv.fr )。

5月7日に、両者で決選投票が催されます。

注目すべき点は幾つかありますが、米国の大統領選挙のような番狂わせは起こらなかったことが第一でしょう。決選投票でもマクロン氏が勝つ可能性が高まっています。

その要因の一つは、上記の二人ではなく、4位となったジャン=リュック・メランション氏が7,059,951票(19.58%)にあると考えます(ちなみに3位は得票率20.01%の元首相フランソワ・フィヨン氏)。

戦前の「最悪」の予想として、極右で反EU、反グローバル化のルペン氏と極左で反EU、反グローバル化のメランション氏が、1位、2位となって決選投票に残ることが(既成政党支持者からは)懸念されておりました。

当ブログにおいても前回のフランス大統領選挙を分析しましたが(「フランス大統領選挙を振り返る(1):国民戦線と左派戦線の躍進」2012年5月26日付)、ルペン氏とメランション氏は、対立しながらも政策は反EU政策等、共通点が少なくなく、いずれにしても政権獲得後の見通しが不透明(不確実)であるとされていたからです。

しかし、メランション氏が4位であり、同時に、得票率が20%近くあったことはルペン氏にとってはマイナスになった可能性があります。

既に、決選投票においてフィヨン氏がマクロン氏への支持者を表明している通り、既成政党支持者はマクロン氏に流れます。一方、極右とされるルペン氏を、極左を代表するメランションの全ての支持者が決選投票で支持できるでしょうか。

両者は、非常に掲げる政策が似ています。しかし、極右と極左なのです。

この問いは、なぜ米国でトランプ氏が大統領になれたかを示唆しています。トランプは、左翼的であり、右翼的であり、(良し悪しは別として)今までにない民主党的な共和党候補者だったのです。

今回のフランス大統領選挙において、40%以上がルペン氏とメランション氏に投票しています。マジョリティには届きませんが、今回のフランスの大統領選においても、左翼的でかつ強力な民族主義者であるトランプ氏のような統一候補がいたとすれば、EUやグローバル化に不満を抱く下層の票を纏めることで、フランスでもオーソドックスな政治家に勝利したかもしれません。

極右と極左の候補者がいるフランスでは、極右政権が阻止され、極左が見当たらない米国ではトランプ氏が下層票を集約できたとすれば、フランスではイデオロギーの名残が極右政党(もしくは極左政党)の台頭を阻止しているという皮肉な現象となります。

上記から逆説的に申し上げれば、もし、ルペン氏が決選投票で勝つケースがあるとすれば、極左とされるメランションの支持者が、極右であるルペン氏の主張とメランション氏の主張が殆ど変わらないことに「気付いた」時であると考えられます。もちろん、それが良いことかどうかは別ですが。

2017年4月24日 16:57

チップス先生はなぜ、空襲中も講義を続けるのか?

この数年、早稲田大学エクステンションセンター中野校にて『映画から見る英国』という講座を担当しています。この春講座では、英国の学校をテーマにして、幾つかの作品を紹介しています。

本日は、(以前、2017年3月 1日付の当ブログでも言及しました)1939年の英国映画『チップス先生さようなら』(原題:Goodbye, Mr. Chips)を採り上げました。

あらすじ
【1870年の英国イングランド。25歳のチャールズ・チッピングはラテン語の新任教師として名門の全寮制の男子校ブルックフィールド・スクールに着任する。初日からいたずらをしようとする学生と対立してしまい校長から叱責を受けるが、何とか乗り越え教師生活を始める。その後も真面目に教師生活を続けるが、中年になったチッピングは出世もせず、未婚だった。ドイツ人のドイツ語教師に誘われてオーストリアの旅に出ると、キャサリン・エリスという若い女性と運命の出会い、彼女と結婚する。キャサリンは毎週のように学生を自宅に招き、学生たちを魅了する。チッピングも、キャサリンからチップスと呼ばれ、徐々に学生たちとの絆も深めていくが、出産の際にキャサリンは子供と共に亡くなってしまう。独り者に戻ったチッピングは、その後も教員生活を続け、1914年に退職する。しかし、第一次世界大戦で教員も卒業生も戦場に向かい、人手不足からチッピングが代理校長として復帰することになる。】

何度か観ている作品ですが、改めて講義で分析していると、後半、チップス(チッピング)先生が、第一次世界大戦が始まり、校長として復帰してからの展開がより興味深く感じてきました。

チップス先生が勤務する男子校ブルックフィールド・スクールは、第一次世界大戦終盤、ドイツ軍の空爆に遭います。空爆の最中、チップス先生は、ラテン語の授業を続けます。逃げろとか隠れろとは言わず、いつもと同じように授業が進んでいきます。

しかしながら、ブルックフィールド・スクールは異常事態であり、そのことは一度、退職しながら校長として復帰したチップス先生が一番知っているのです。チップス先生が教えた卒業生も多くが戦死します。同僚だったドイツ人のドイツ語の教員も敵側として戦場で命を落とします。

チップス先生は「戦うこと」を決めたのでしょう。チップス先生は、日常=教育を可能な限り継続することを彼の「戦い」としたかのようです。

最後のチップス先生の戦死した愛弟子の息子が、ブルックフィールド・スクールに入学してきます。チップス先生は、その学生の父親に接したようにその学生にも教育を施そうとします。それもまた、チップス先生の「戦い」なのかもしれません。

教育とは長い道のりであり、今、現在の出来事には負けてしまうかもしれません。しかし、戦争が人と人の「戦い」であるとすれば、当然、人間教育の普遍化しか「戦い」を阻止することはできないのでしょう。

『チップス先生さようなら』は英国のエリートを輩出する有名私学を舞台とした作品です。故に、階層上において限定的ではあります。ただ、それでも、教育の真髄が描かれているように思えます。

教員はそれぞれ自分の持ち場(教育現場)で、戦わなくてはいけないのかもしれません。それは、同じような日々の繰り返しではなく、非常事態を分かった上で、日常を継続する「戦い」なのでしょう。

2017年4月23日 01:34

「すず」は世界中の「片隅」にいる: 漫画『この世界の片隅に』から今、読み取るべきこと

大ヒットしております『この世界の片隅に』(片渕須直監督、2016年)の原作(こうの史代氏作)の単行本版を読みました。

あらすじ
【1944年2月の広島県呉。広島市内に住んでいた(絵を描くことが大好きな)浦野すずは、呉の北條周作と結婚する。周作とは、子供の頃出会っており、周作の望んだ結婚であったが、同居する小姑の黒村径子は歓迎していなかった。戦時下で生活も苦しい中、すずは周作に支えられながら、楽しく過ごしているが、軍港の街である呉は頻繁に空襲を受けるようになり、1945年6月22日の空襲で、すずが右手を失い、その時、すずと一緒だった径子の娘・晴美が亡くなってしまう。すずは径子に恨まれ、自分でも絶望しながら過ごしている。そして、8月6日、広島市へ原子爆弾が投下され、すずの実家も被害を受ける。間もなく終戦を迎え、すずは広島の実家を訪れるが、廃墟となっており、両親もいない。途方に暮れていたところ、周作がすずを迎えにくる。すずはこの世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝しながら、出会った戦災孤児の少女を連れて呉に戻る。】

この漫画は、すずの目を通じて、社会史のように淡々と戦時下の日常を描いています。すずには政治的な主張もなく、広島から呉に嫁入りした(絵を描くのが大好きな)「普通」の女性です。彼女は、色々と悩みながらも元気いっぱい生きていきます。

そのような人生であっても戦争に左右されてしまうのです。まるでNHKの朝ドラを漫画で読んでいるような感覚です(同じ広島を舞台とした『はだしのゲン』と比較すると綺麗過ぎるような観もありますが)。

日本人が被害者となっている戦争物語は、国際的には日本人の「加害者意識」がないと批判されるかもしれません。

しかしながら、すずが普通の女性のメタファーであるとすれば、今日の北朝鮮にも、シリアにも、どこの世界の片隅にも「すず」がいるかもしれないのです。

大国のパワーを根源とする国際関係学のリアリズム的な思考を否定するつもりはないです。もし本当にシリア軍が化学兵器を使用したら許すべきではなく、北朝鮮が日本列島を攻撃することも許すべきではないです。

ただ、同時、世界中の「片隅」には「すず」のような存在がいることも忘れてはいけないと思います。もし、彼女が「イスラム国」に住んでいても、北朝鮮に住んでいても、彼女には罪はないのです。もちろん、戦時中の日本でも。

この漫画と映画がヒットしたことに希望を感じます。できれば世界中に届けたい作品です。特に、北朝鮮やシリアに。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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