QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年2月 8日 14:01

漫画『逃げるは恥だか役に立つ』の日本論的考察

以前、勤務先の大学の女性職員から東村アキコ氏原作の漫画『東京タラレバ娘』を読めという宿題が出たのですが、今回は、海野つなみ氏の漫画『逃げるは恥だか役に立つ』を分析せよという課題がでました。

数日かけて、既刊8巻を面白く読みました。

色々と語れるのですが、主人公の男女がビジネスとして「結婚」を捉え、そこから物語が始まることを、まず、考えていきたいと思います。

主人公の25歳の女性、森山みくりは大学院修士課程で心理学を学び、臨床心理士の資格も持っているのですが、就職活動に失敗し、とりあえず派遣社員になります。しかし、間もなく、派遣切りで失業し、父親の勤務先の部下である36歳の独身男性、津崎平匡の家事を手伝うことになります。

みくりは、何となく家事をしていたのですが、父親が退職し、両親は田舎に引っ越すことになり彼女は決断に迫られます。そこでみくりは、津崎に「雇用主と従業員」という関係を維持することを目的とした「偽装結婚」=「契約結婚」を提案します。

津崎も「お手伝いさん」を失うことは好ましくないと考えており、とりあえず、表立っては入籍せず「事実婚」ということで、その提案を受けることになります。

その後、彼らは徐々に恋愛関係に陥っていくのですが、契約関係を優先していることもあり、非常にゆっくりとしたスピードなのです。

仮に、彼らが最終的に名実ともに婚姻関係に至るとしますと(第9巻はまだ出ていません)、長期の「お見合い」を「契約結婚」の中で行っているような感じなのです。

草食系とか肉食系とか論じる前に、この漫画がドラマ化され2016年の代表的なTVドラマとされていることが、興味深いです。

フランスや北欧諸国では、伝統的な結婚形式を採らないカップルも増えており、「事実婚」が広がりつつあります。

それが良い悪いということではなく、日本社会では「結婚」という縛りがまだ機能しているからこそ、この漫画のストーリーが成り立つのでしょう。

おそらく、欧米社会でしたら、最初の段階で恋愛感情がなければ、フェイクで結婚、もしくは事実婚などせず、単なる「雇用主と従業員」という契約で終わるのではないでしょうか。もし、2人の関係が、恋愛関係に変容すれば、「雇用主と従業員」の契約が解消されるだけです。

本来、「雇用主と従業員」という関係は、公的なものであり、それを私的な「家庭」「恋愛」の枠に入れなければいけない状況は、日本の若者の草食化や社会の保守的な結婚観だけではなく、「家事」の位置付けの曖昧さ、女性の社会進出及びワーク・ライフ・バランスの遅れ等を指摘していることになります。

ただし、この物語は、「雇用主と従業員」の契約を、恋愛感情が芽生えても守ることで、「主婦」の仕事(哲学者イヴァン・イリイチの言うところの「シャドーワーク」)の価値が再構築していきます。それだけではなく、みくりが外の仕事に活躍の場を見出すことによって、一気にワーク・ライフ・バランスも射程に入れてくるのです。

最終的にどのような着地点になるのかわかりませんが、日本論的にも面白い作品です。

この記事へコメントする

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (25)
スポーツと社会 (105)
ネパール (15)
国際事情(欧州を除く) (205)
大震災/原発事故と日本 (28)
御挨拶 (13)
日本政治 (111)
日本社会 (240)
映画で観る世界と社会 (240)
欧州事情 (85)
留学生日記 (58)
英国 (76)

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年02月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28        
最新記事
NAFTAはなぜ米国への移民を生み出してしまうのか?
漫画『逃げるは恥だか役に立つ』の経済学的考察
漫画『逃げるは恥だか役に立つ』の日本論的考察
「人は一人では生きていけない」としたらどうするか:映画『アバウト・ア・ボーイ』が提示する新しい「家族」
米国で自動車を作ることは難しいことなのか?
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草