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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年2月

2017年2月28日 04:09

日米において「文化の盗用」の有無が示すこと

24歳の米国の白人モデル、カーリー・クロスさんが米国のファッション誌『VOGUE』2017年3月号に芸者風の恰好で登場したことが米国内で批判され、クロスさんが謝罪しました。

同誌において、カーリーさんは日本の着物のようなデザインのドレスなどを身にまとい、日本酒の大樽の前で、神社の階段で、相撲力士(のような人物)と一緒に、ポーズを取って写真に納まっています(The Huffington Post, 2月16日)。そして、この一連の写真が「文化の盗用」と見なされました(同上)。

「文化の盗用」とは、文化的、宗教的な意味合いがある伝統をその意味を理解せず、勝手にトレンドとして使用を煽るような行動とされています(CELESY, 2016年06月1日)。

言い換えれば、欧米社会にはそれぞれ個人や団体が自己のアイデンティティの延長上に「文化」を所有しており、その「文化」に無縁の人物が、他人の「文化」を勝手に自分のもののように着飾ったり、弄んだりしてはいけないという「ポリティカル・コレクトネス」があるということになります。

The Wall Street Journalによれば、カーリー・クロスさんは、デンマーク系の米国人ですので(The Wall Street Journal, 16 Feb, 2013)、デンマーク文化を彼女がどのように使っても米国では誰も文句は言わないことになります。

もっとも、クロスさんは米国シカゴ生まれですので、デンマークでは、米国人のクロスさんがデンマークの伝統文化を継承していると言えるかどうかは分かりません(離れていたほうがより伝統文化に触れて生活しているかもしれませんので、そう言えるかもしれません)。デンマークでは、クロスさんは米国文化を代表する存在になるかもしれません。

アイデンティティが多様なように、文化も多様であり、1人の人間が1つの文化を代表できると考えるには無理があるように感じます。ただ、自分とは無関係である文化が存在するのは確かであり、異文化や他の宗教を尊重することは重要なことではあるでしょう。

日本では、良くも悪くも文化的アイデンティティが希薄であり、それ故に「文化の盗用」という概念が殆どありません。

故に日本人はカーリー・クロスさんの着物姿の写真に抵抗感がないばかりか、日本文化の国際化のような肯定的イメージを抱くのです。

しかしながら、将来、少子化に苛まれる日本社会が移民を多数受け入れるようになると、多文化社会となりますので、「文化の盗用」意識が強まるかもしれません。

少なくとも、現段階では『VOGUE』2017年3月号によって、日本と米国の文化を巡る「ポリティカル・コレクトネス」の相違(有無)が顕在化したことになります。

2017年2月24日 00:41

「オバマさんが選ばれた時はオバマさん、トランプさんが選ばれた時はトランプさん。しっかり付き合うのは、当たり前」のDNA

自由民主党の高村正彦・副総裁が、2017年2月19日放送のNHKの討論番組「日曜討論」(午前9時00分~ 午前10時00分)に出演して、野党の政治家と議論をしていました。

共産党の志位和夫氏が、日米首脳会談で安倍晋三首相がトランプ大統領に対し、中東諸国などからの入国を禁じる大統領令について厳しい指摘をしなかったと批判しました。

すると、高村氏は「あの時点では、大統領令が裁判所に取り消されていた。傷ついている人に、塩をすり込むようなことを言う必要はない」、「友人としてのアドバイスを、表で声高に言うことが友人としてのアドバイスじゃない」(朝日デジタル、2017年2月19日)と安倍首相を擁護しました。

そして、日米同盟に関して、高村氏は「日本の外交は日米基軸。今までも、今も、これからもそうだ。米国民が選んだただ一人の大統領がトランプさん。好きな人も嫌いな人もいるだろうが、オバマさんが選ばれた時はオバマさん、トランプさんが選ばれた時はトランプさん。しっかり付き合うのは、当たり前。当たり前のことをして何で(批判的な)話になるのか、理解できない」(同上)と続けました。

国際関係学において、日本の米国外交はreactive(対応型)なのか、それとも proactive(積極型)なのかは長らく議論されてきたテーマです。

高村副総理のご意見から窺えることは、極めてreactiveであるということです。そして、reactiveであることが単純に悪いことであるとも言えません。

もし、日本外交は、米国の大統領がブッシュ氏だろうとオバマ氏だろうとトランプ氏でさえ、誰になっても「しっかり付き合う」しか選択がないとすれば、たとえ、「右翼」と称される首相であっても上手くやっていくしかないことになります。

仮にここでは、日米同盟を基軸とするしか選択肢がないとします。

自由民主党が長期政権を担ってきたのは、外交上は、無節操なまでの日米基軸のぶれない「一貫性」があったからでしょう。他国が何を言おうと、自国の左翼の野党が何を言おうと気にしないのです(民主党政権も日米基軸には変化はありませんでしたので、自民党だけではなく野党も同様なのかもしれませんが)。

そのような意味では、安倍首相のトランプ氏との日米会談は戦後の日本の外交をシンボリックに映し出していたのかもしれません。そして、それは、トランプ大統領にも伝わったことになります。

高村副総理の迷うことのない断言は、自由民主党の最も重要なDNAを表しているように感じるのです。

2017年2月23日 03:50

音楽は人を「解放」する力があるのか?:映画『善き人のためのソナタ』における「自由」

音楽が、「心の壁」を壊す話です。

『善き人のためのソナタ』(原題:Das Leben der Anderen)
制作国  ドイツ
制作年  2006年
監督  フローリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

あらすじ
【1984年の東ベルリン。長年、国家保安省(シュタージ)の局員であるヴィースラー大尉は、ある日、上司から劇作家のドライマンと彼の恋人で女優のクリスタが反体制活動家であるという証拠を掴むように命令される。ヴィースラーは、ドライマンの自宅に密かに盗聴器を設置し、屋根裏部屋で監視を始める。最初は、任務として諜報していた彼だったが、ドライマンとクリスタの芸術の世界を知る事で、徐々に彼自身が変化していく。そして、ドライマンが弾くベートーヴェンのピアノソナタ『熱情』を耳にした時、ヴィースラーの心は激しく揺さぶられ、新しい人生に目覚めていく。】

色々なことを考えさせてくれる作品ですが、まず、音楽の力を語らざるを得ません。ドライマンが弾くベートーヴェンの『熱情』は、長年の秘密警察の僕であったヴィースラー大尉の「心の壁」を壊していくのです。

映画の中でドライマンは恋人クリスタに「レーニンはベートーヴェンの『熱情』が好きだったが、あまり聴かなかったという。なぜならば彼はそうすると革命が成し遂げられなくなってしまうと思ったから」と語ります。

これは、ソ連のレーニンがかつて、作家マクシム・ゴーリキーに語った言葉とされているのですが、音楽の力は個人を解放してしまい集団性を第一とする共産主義革命とは相容れないものなのかもしれません。

ロシアは欧州なのか否かという議論がありますが、この話は、ロシアのヨーロッパ性の一面であるように感じます(ユーロセントリックという表現も使えますが)。

この映画の重要なシーンは、(ネタバレですが)ラストにあります。

1989年11月、ドライマン宅の盗聴作戦に失敗したヴィースラーは手紙の検閲作業場に左遷されています。ベルリンの壁が崩壊し、人々は熱狂している時、彼は事実を静かに受け入れ、作業を中止するだけなのです。

ドライマンとクリスタに間接的に感化され「自由」を獲得していたヴィースラーは、たとえ閑職に追いやられていても平穏に生きているのです。既に彼の「心の壁」は取り払われており、「ベルリンの壁」の崩壊は、外的なひとつの事件に過ぎなく、壁の崩壊後、彼は郵便配達員として淡々と日々を過ごすことになるのです。

体制が変わっても人は「自由」にはならないのです。一度解放された「自由」な人間は、どのような体制でも「自由」である。そう読み取れば、ストレスの多い現代社会での生き方を提示してくれているように観えてきます。

2017年2月22日 18:34

なぜ、金正男氏は殺されなくてはいけなかったのか?

北朝鮮の第2代最高指導者・金正日総書記の長男で、現指導者である金正恩氏の異母兄である金正男氏が2017年2月13日にマレーシア・クアラルンプール国際空港で殺害されて以来、毎日、この事件がトップニュースで報道されています。

なぜ、1週間以上経ってもこの事件のニュース性が色褪せないのでしょうか。おそらく、ある国の最高権力者の異母兄弟が何者かによって毒殺されるという(本来、21世紀にはあり得ないはずの)ドラマ以上にドラマチックな話が人々の関心を集めていることになるのでしょう。

しかしながら、どうしても理解できないのは、金正男氏が殺された理由です。亡命する可能性があったとか、正男氏を担いで亡命政権が樹立する計画があったとか、北朝鮮内の反体制派が正男氏と結びつこうとしたとか噂がありますが、どれも説得力がないように思えます。

金正男氏というビッグネームを消すほどの理由(それは、北朝鮮の政権にとっての大きなリスクとなり、それを負ってまでの効果があるのか)が分からないのです。

市民社会が極度に弱体な独裁国家における独裁政権が崩壊する条件は、多くの場合、軍部が反体制派と結びつく、もしくは軍が二分化され内戦状態に陥る、あるいが軍部が全体として反対体制になっていくかです。いずれにしても、徴兵制度によって国軍が一番、人々(国民)の声を反映し易く、体制変動は軍が動くかどうかにかかっています。

今回の場合、正男氏は北朝鮮の軍部と繋がろうとしたのでしょうか。もしくは、軍部が正男氏に近づいたのでしょうか。

もし、それならば、2月12日に、日米首脳会談中に北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を日本海に向けて強行した理由が分かりません。少なくても表面的には、金正恩氏は軍部を掌握しているように見えます。

現に韓国国情院は、「正男氏には北朝鮮内に影響力が全くなかった」と報告しています(AERA、2017年2月27日号)。

そして、国情院は、それでも正恩氏が殺害された理由として、同じ血筋の人間を生かしておかないという正恩氏の「偏執狂的な性格」と結論付けています(同上)。

独裁者分析では、上記のような表現が散見されますが、仮に指導者の性格がそうであっても暴走を許す体制がどのように構築され、どのように維持されているかを説明してはいません。

体制が維持されている限り、その構造があるはずです。その構造を理解できない限り、体制の維持も崩壊も予期できません。

2017年2月21日 23:31

逢うことはすべて:映画『君の名は。』の記憶を超える出会い

大ヒット映画は身構えて観てしまうのですが、この作品は本当に良かったです。

『君の名は。』
制作国  日本
制作年  2016年
監督  新海誠

あらすじ
【岐阜県飛騨地方の山奥にある糸守町の神社の娘である女子高生・三葉は、生まれ変わったら東京のイケメン男子になりたいと願っていた。すると、ある朝、東京の四ツ谷に暮らす男子高校生・瀧と三葉は、なぜか体が入れ替わっていた。毎日ではなく、週に数回。入れ替わっていた時の記憶はなく、2人は携帯電話にその日の出来事を書き連ね、相手に伝えることで記憶を繋いでいく。しかし、ある日を境に2人は入れ替わることがなくなった。瀧は、まだ会ったことのない三葉を探しに僅かな手掛かりを元に飛騨に向かう。やっとのことで辿り着いた糸守町は、3年前に1200年に1度現れる彗星の破片が町に落下し消滅していた。そして携帯の日記も消え、名前さえ忘れかけていく。】

映画『君の名は。』は、2016年を代表する日本のアニメ映画であり、今日の映画では珍しく社会現象にまで至っています。

この作品の素晴らしさは、社会学的に観ればPlace, Time, Genderそして防災までも組み入れて、綺麗に矛盾なく全てを「忘れること」で一度、落としている点です。そして、最後に再び全てを包み込むのです。

まず、場所(Place)から考えると、田舎と東京が対比されます。しかし、この描かれ方は自然体です。田舎が廃れている訳でも反動に理想化されている訳でもありません。東京も同様です。

時間(Time)は、2人の主人公の間には3年のタイムラグがあるのですが、そのギャップを見事に埋めています。

ジェンダー(Gender)は、思春期の男女の心を入れ替え、逆に異性を理解させようとしています。ただ、単に理解させるのではなく、自己愛から恋をスタートさせていきます。

防災こそは、日本(神戸、東日本、熊本)で生きるため、ネパールで生きるため、中国でいきるため、イタリアでいきるために最も重要なテーマの一つです。

そして、最後の最後は一期一会。そう、「逢う」と何かが(再び)始まる。

映画では「君の名は」と何度も問います。でも、答えは、どうでもいいんでしょう。名前などは所詮この世の仮の名です。

とにかく、部屋から出よう。最初の一歩を踏み出そう。そして、人に逢おう。きっと運命の誰かが君を待っている。昔、「ああ、日本のどこかで私を待っている人がいる♪」と山口百恵さんも歌っていました。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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