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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2017年1月

2017年1月27日 01:59

誰がではなく、何が「壁」を作ったのかをよく考え、何度でも「壁」を壊そう

米国のドナルド・トランプ大統領は、1月25日、メキシコからの不法移民の流入が米国の治安を悪化させ、米国人の雇用を奪っているとして、メキシコ国境に「壁」を建設する大統領令に署名しました。

「壁」の建設費は、一旦米国が立て替えまして、後でメキシコに全額支払いを求めるそうです。

トランプ氏の選挙公約でしたので、極度の驚きはないのですが、本当に「壁」を作ると言われると、やはり、歴史を振り返らざるを得ません。

私は学生の頃、1989年の「ベルリンの壁」の崩壊に驚き、激変するヨーロッパに関心を抱き、渡欧しました。その後、ヨーロッパで新たな「見えない壁」が生まれていることを間近に見てきました。

2010年、早稲田大学エクステンションセンターの春講座にて『現代ヨーロッパ社会論:見えない「壁」を考える』を担当しました。

その時の講義概要は以下の通りでした。

1989年のベルリンの壁の崩壊後、東西ドイツは統合し、一つの国家となりました。また、1990年代、2000年代は、EUの拡大によって新たなヨーロッパ像が提示されました。しかし、政治的、地理的統合によって形成された巨大なヨーロッパという社会空間の中に、現在、数多くの見えない「壁」が形成されています。本講座では、ヨーロッパで展開されてきた諸国家の政治的「統合」を、社会的に見直し、ヨーロッパ社会に横たわる様々な「壁」を把握することを目標にします。

「壁」の崩壊は、人々の間に新たな「見えない(心の)壁」を作り出しました。

それは、ヨーロッパだけではなく、米国も、他の地域でも見られる現象です。

その結果、2016年にはドナルド・トランプ型の政治家を世界中に生み出し、2017年の今、「見える壁」を復活させようとしています。

米国とメキシコの国境の「壁」ができたとしたら、人々はトランプ大統領を批判する前にもう一度反省しなければなりません(反省した後に、遠慮なく批判してもいいのです)。

トランプ大統領を生み出したのは、(「見える壁」が崩壊した後に現れた)「見えない壁」に仕切られた人々の不満や怒りであるからです。

これから、どうしたらいいのか。

歴史を紐解けば、世界中に「壁」(境界線)を作ってきた政治家がいつの時代もいました。だからこそ、私たちは、今回に懲りずに(諦めずに)再び「見える壁」を壊す努力をしなければなりません。何度でも。何度でも。

そして、重要なことは「見える壁」がなくなった後に短絡的に歓喜せず、「見えない壁」も作らさないようにすることなのです。

そうしなければ、進歩はありません。

2017年1月22日 23:26

オバマ大統領はChangeできたのか?

全ては比較なのかもしれません。

ドナルド・トランプ氏の第45代アメリカ合衆国大統領への就任は、当然ですが、バラク・オバマ第44代米国大統領の退任を意味しました。

オバマ大統領の最後の1週間、米国の人々(主に反トランプ)を中心に世界の人々がオバマ時代の米国を名残惜しんだように見えました。

オバマ大統領の退任直前の支持率は、ワシントンポストによれば、前回11月の調査から4ポイント増え、60%に跳ね上がり、歴代4位の高支持率でホワイトハウスを去りました。

フジテレビの報道番組「ユアタイム」(1月19日放送)では、統領の専属カメラマンがセレクトした55枚の写真が紹介されていました(「米・オバマ大統領の人柄を語る「55枚」のベストショットです」FNN、1月20日)。

どれも気高く素晴らしい写真ばかりです。この8年間、当たり前のように見てきたオバマ大統領が、ホワイトハウスからいなくなる時、私たちは(初めて)喪失感を覚えているのです。 

しかしながら、ここでちょっと考える必要があります。

確かに愛妻家で、カッコよく、品位のある言葉で満ちたオバマ大統領ですが、大統領は米国をこの8年間に(8年前の公約通り)「Change」できたのでしょうか。

もし、本当に「Change」できたとしたら、誰がどのようにトランプ氏を大統領に押し上げたのでしょうか。

残念ながら、高潔で、尊敬すべきオバマ大統領が「Change」できなかったからこそ、トランプ氏が政治の舞台に登場してきたのであり、オバマ大統領はトランプ大統領の誕生の一役を担っているように思えるのです。

もちろん、グローバル化している今日、オバマ大統領が1人で「Change」できるような状況ではないのかもしれません。

しかし、それでも、オバマ大統領の公約は「Change」だったのです。

オバマ氏は、米国初のアフリカ系大統領として大きな期待を背負って大統領になられた方ですが、肌の色で下駄を履かせることは、肌の色で差別することと同様にしてはいけないことでしょう。

オバマ大統領の8年間の評価は、歴代の大統領同様、一人の大統領として判断されるべきです。

オバマ大統領は何ができて、何ができなかったのか。

そして、どうして米国は階層的に大きく分断されてしまったのか。

そもそも、米国を「Change」することは無理だったのか(それとも、「Change」した結果として、現在の混沌があるのか)。

現在、トランプ大統領は、大統領になっただけで多くの米国人から批判されています。

トランプ大統領によって納得いかない政治が行われるのでしたら、今後、人々は批判することはすべきでしょう。

しかし、その前に過去の総括をすべきです。

まず、オバマ時代を問わなくていけないのです。

2017年1月21日 00:14

多様な個が団結することの重要性:映画『マグニフィセント・セブン』に見る米国人の理想の行動原理

やはり、映画はその作品がいつどこで制作され、いつ公開されたかが重要です。

『マグニフィセント・セブン』
制作国  米国(原題 The Magnificent Seven)
制作年  2016年
監督 アントワーン・フークア
出演 デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホーク、ヴィンセント・ドノフリオ
イ・ビョンホン

あらすじ
【1879年。炭鉱町ローズ・クリーク。悪徳実業家のバーソロミュー・ボーグが町に乗り込んできて無理やり土地を奪おうとする。住人の1人マシューが抵抗すると、即座に射殺されてしまう。マシューの妻のエマは、全財産を遣ってボーグに復讐しようと考える。偶然出会ったカンザス州の准士官(南北戦争時の北軍士官)であり、お尋ね者探しで賞金稼ぎをしているサムに相談すると、サムは次々に6人の仲間を誘い出す。ピストル名手ジョシュ、メキシコ人バスケス、南軍の伝説の狙撃手グッドナイト、ナイフ使いの謎のアジア人ビリー、ハンターのジャック・ホーン、弓矢の達人コマンチェ族のレッド・ハーベスト。サムも含めて個性派の7人はボーグ軍との戦いに臨む。】

黒澤明監督の『7人の侍』(1954年)のリメイク米国版『荒野の七人』(1960年)を、更にリメイクした作品です。

アントワーン・フークア監督は「重要なのは『七人の侍』のDNAに忠実であること。クロサワが生きていれば、現代版のこの物語を観たいと思ってくれると信じている」(『マグニフィセント・セブン』HP)と言われていますが、『荒野の七人』のテーマソングも流れますし、『七人の侍』よりは『荒野』色が濃いように感じました。

ただ、主人公サムは黒人俳優の代表格デンゼル・ワシントンが、メキシコ人バスケスはメキシコ人俳優マヌエル・ガルシア=ルルフォが、謎のアジア人ビリー・ロックスは韓国の人気俳優イ・ビョンホンが、コマンチェ族のレッド・ハーベスト役はアサバスカ族(コユコン族)出身の俳優マーティン・センズメアーが演じています。

マイノリティの代表格による『マグニフィセント・セブン』は、強欲な実業家と戦います。7人の「英雄」たちは、最初は「金」のためだったのですが、徐々に目的が「正義」に変化していきます。

正直言いまして、展開が雑に見え、『7人の侍』や『荒野の七人』を超える作品であるとは思えませんでした。

しかしながら、米国が多民族の「流れ者」の連合体であり、行動原理として(インセンティブとして)「資本」=「金」が始まりであっても、「正義」が重要というメッセージは、単純でステレオタイプなのですけれど、結果として今日的でもあります。

本作の米国公開は、米国大統領選挙でトランプ氏が勝利する前であり(2016年9月)、制作はさらに1年ほど前でしたので、政治を意識してはいないでしょう。

それでも(だからこそ)、多様な個が団結して、一つの正義に進むことが、現在の米国人の一つの(重要な)行動原理であると考えるべきなのではないでしょうか。それが、たとえ、もはや約半数の米国人にとっては規範として機能していなくても。

2017年1月18日 23:59

かつて自由貿易を推進した英国保守党、米国共和党が自ら反動的「保守主義」となる矛盾

1月17日、英国のテリーザ・メイ首相は、英国の欧州連合(EU)離脱(所謂「ブレグジット」)の交渉について演説しました。

要約すれば、「EUの単一市場から脱退」して、その上で、諸国と「新たな包括的で野心的かつ大胆な自由貿易協定」(FTA)の構築を目指しながらも、「EUからの移民は制限」するという内容でした(BBC News, 17 January 2017;日本経済新聞、2017年1月18日)。

また、上記のEU離脱の最終決定は、上下両院の承認のもと行われることも宣言しています(同上)。

英国のEU離脱は2016年6月23日の国民投票の結果を受けて行われていますが、現在、政権を担っている保守党は、国民投票でEU離脱反対を訴えてきましたので、今日、国民の決定としてブレグジットを進めなければいけない立場であるメイ首相と保守党にとっては、非常に苦しい展開になっているのは事実です。

フィナンシャル・タイムズ紙は、自由貿易を推進しヨーロッパの5億人の単一市場への参加を可能としたのは保守党のサッチャー元首相であったことが忘れられていると嘆いています(FT, 1月18日)。

同じ保守党のメイ首相の手によってEU市場から離脱することになったのですが、この流れは米国、メキシコ、カナダの間で結ばれた北米自由貿易協定(NAFTA)と米国共和党の関係に共通しています。

「米国第一」を掲げる新大統領トランプ氏は、NAFTAが米国人の仕事を奪っていると攻撃していますが、実際にNAFTAを作り上げ、1992年12月に署名したのは共和党のジョージ・H・W・ブッシュ元大統領なのです("Trump Is Wrong, NAFTA Was Not Bill Clinton's Creation", PoliticusUSA.com., 13 August 2016)。

今、自由貿易を推進してきた英国保守党、米国共和党は自らの手で「保守主義」へ時計の針を戻そうとしているかのように映ります。フォークランド紛争を戦ったサッチャー氏も湾岸戦争を始めたブッシュ氏もナショナリストですが、経済政策では、より大きな市場を肯定していたのです(二国間貿易の場合はそうとは言えないのですが)。

もっとも、当ブログ2016年11月12日付の「トランプ氏の勝利:グローバル化の鏡としての反グローバル化」でも記しました通り、ブレグジットも、トランプ氏の大統領選勝利も、グローバル化に対する反動として顕在化した現象であり、グローバル化はむしろそれらの「産みの親」なのです。

ですから、私はグローバル化を無視することや、拒否することは、(グローバル化が良い悪い、好き嫌いとは別の次元で)メイ首相の英国保守党にもトランプ大統領の米国共和党にもできないことであると考えます。

2017年1月15日 16:51

安価な労働力を求めて、企業は、グローバル化の果てにどこにいくのか?

大学や市民講座でグローバル化に関する話をしますと、「安価な労働力を求めて製造業の企業が世界中を彷徨った後、最終的にはどこにいくのですか?」という質問をよく頂きます。

確かに、円高によって日本の工場を閉鎖して、中国に進出した数多くの日本企業も(少なからずの中国の中国企業も)、中国国内の賃金の上昇を目の当たりにして、安価な労働力を求め「チャイナ・プラスワン」としてベトナムやミャンマー、バングラデッシュに「作り場」を移しました。

世界は広いのでまだ賃金の安い国はあります。しかし、グローバル化のスピードも速く、安価な労働力を享受できる時期は、どんどん短くなっていくように感じます(おそらく、ベトナムやミャンマーは、中国ほど安価な労働力を元に儲けることはできないのではないでしょうか)。

さて、それでは企業はどこにいくのか。

理論上、国別でみた際の安価な労働力がなくなるということは、グローバル化による「フラット化」の完成です。それは、同時に各国の「格差化」が著しくなることも意味しています。

R.フロリダの「クリエイティブ・クラス」論やS.サッセンの「グローバル・シティ」論を紐解くまでもなく、各国の代表的な大都市は移民を吸収しながら格差化していきます。そうすると、メタファーとしての「地下」に安価な労働力が生み出されていくことになります。

それは、まさに、ワイマール時代のドイツで制作されたフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』(1926年)の世界になります。

地下の労働者と(彼ら労働者をコントロールする)地上の支配者の存在を描いた映画は、非常にカリカチュアされています。

この映画は未来を予見している名作であると思いますが、地下の労働者が機械を操作しているシーンは20世紀的です。

よく指摘されるように、機械化は多くの分野において人の労働を求めなくなっていきます。機械は、安価な労働力よりも安く、寒くても暑くても文句を言うこともないのです。

次期米国大統領のトランプ氏は、「米国第一」を掲げ、米国から海外に製造拠点を移した様々な分野の工場を米国に戻そうとしています。

上記の通り、それは、グローバル化の延長上において可能であると考えます。

ただ、機械化が進むハイテク工場が米国に再建されても、あまり雇用は増えないかもしれません。逆に、途上国産と値段で勝負するならば、雇用が増えても「賃金」は低くしなければ価格競争で勝つことはできないでしょう。働き手が人であっても、機械であっても。

仮に米国に工場が戻ってきても、棘の道であることには変わりありません、

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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