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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2016年7月

2016年7月31日 15:38

ポケモンは本当に、進化論なのか?:映画『ボルケニオンと機巧のマギアナ』にみる唯心論の絶対性

テーマは「心」です。

『ポケモン・ザ・ムービーXY&Z「ボルケニオンと機巧のマギアナ」』
制作国   日本
制作年  2016年
監督  湯山邦彦

あらすじ
【人間嫌いの幻のポケモンであるボルケニオンは、森の中の「ネーベル高原」で人間に傷つけられたポケモンと暮らしていた。特にボルケニオンは、アゾット王国で作られた人造ポケモン・マギアナを守ろうとする。ボルケニアオンと対立するアゾット王国の大臣のジャービスは、マギアナの心臓「ソウルハート」だけを取り、そのパワーを用いて王国を支配しようと企んでいる。そんな、ボルケニオンとマギアナは、旅するサトシ達と出会い、サトシはボルケニオンと不思議な鎖に繋がってしまう。そして、サトシ達は、アゾット王国と戦うことを余儀なくされる。】

スマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」の大ヒットは、日本でも社会現象となっていますが、サウジアラビアにおいて「ポケモン」は、反イスラムと位置付けられているそうです(ロイター「サウジ聖職者団体、「ポケモンは反イスラム」との宗教令を更新」、7月21日)。

その理由は「イスラム教は進化論を拒否しており、モンスターが進化するポケモンのゲームは進化論を助長するものであり、神への冒涜に当たる」(同上)とされています。

確かにポケモンは進化します。しかし、この映画を観れば、ポケモンの主なテーマが「心」であることが分かります。

ネタバレですが、人造ポケモン・マギアナは心臓部分に「ソウルハート」があり、強力なパワーを秘めています。その「ソウルハート」を悪用しようとする敵に対して、マギアナは「心」で対抗します。

ポケモンたちの(メガ)進化に関しても、トレーナーとポケモンの間に「絆」がないと進化できないのです。

つまり、ポケモンの進化は「心」によって左右され、支配されているとも言えます。「心」によって規定されている進化とは、非常に日本的であるようにも感じます。

手塚治虫氏の名作『鉄腕アトム』もそうですが、(アトムはロボットの少年ですが)そのテーマは「心」であり、人間以上に人間的な「心」を持ちます。日本では、人間以外に「心」を見出し、共存する思想が根付いているようにも思えます。

世界中で人が人を憎み、テロが多発しています。その解決策は映画のように簡単はいきません。

しかしながら、夏休みの映画館において、ロボットやポケモンと共存する思想を、(異質である感じられる)人間同士にも広げていって欲しいと思わずにはいられませんでした。

2016年7月27日 13:01

『東京タラレバ娘』における結婚観の「日本人性」

職場の女性陣たちから講義で男女平等を話されるのでしたら、まず、東村アキコ氏原作の漫画『東京タラレバ娘』を読んで下さいと言われ、一気に5巻まで読ませて頂くことになりました。

物語は、アラサーの独身女性が結婚に憧れながらも、理想の男性に巡り合わずに、3人で飲み明かすことを繰り返す物語です。

おそらく、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)の世界的ヒットに見るように、世界共通のアラサー問題はあると思います。

その上で、本作には日本的な要素も多分にあります。それは特に、(この物語において)日本では結婚が「あがり」と見なされていることに象徴されます。

世界主要国における1年間の1000人当たりの離婚率は以下の通りです(平成27年厚生労働省)。
第1位 ロシア(4.5)
第2位 アメリカ(3.6)
第3位 ドイツ(2.19)
第4位 イギリス(2.05)
第5位 フランス(1.97)
第6位 日本(1.77)
第7位 イタリア(0.91)

結婚している人間がどれだけ離婚するかというと米国(年間)の婚姻率は6.8 離婚率は3.6ですので、結婚した約半数が離婚していることになります。

この結果、欧米における独身者の最大の関心事は必然的に婚活ではなくなり、社会的には「家族の再生」が問われていきます。欧米では結婚、離婚の繰り返しによって「家族の肖像」が非常に複雑になっているのです。

一方、日本では相変わらず結婚がテーマであるとすれば、日本の家庭は壊れていないことになります。

ただ、それを喜んでばかりはいられません。

欧米では、離婚率はウーマンリブで上昇したと言われています。社会的(経済的)に強くなり、女性側からの選択としての離婚が可能となったのです。逆に、日本では、女性の社会進出の遅れが、離婚率を留めているとも言えます。ちなみに、スイスのNGO世界経済フォーラムが毎年発表する男女平等度において日本は最新の調査において145か国中101位です(The Global Gender Gap Report 2015)。

今後、「男女平等」となり、日本での女性の社会進出が促されると、欧米型になるのかもしれません。それが良いことか悪いことかは判断が難しいのですが、少なくても『東京タラレバ娘』のようなテーマは消えるかもしれません。

もう一つ『東京タラレバ娘』のアラサーの「楽しい」女子の仲間たちは、本当は結婚を望んでいないとも読めます。

経済学では「トレードオフ」と言いますが、何かをとれば何かを失う可能性があります。(日本社会の場合)結婚や出産によって、高い確率で独身時代の「仲間」を失います。

彼女たちは第一に「仲間」を失いたくないように思えるのです。この強固な「仲間」規範ゆえに、「何々だっタラ」、「何々してレバ」という選択に至ってしまうように見えるのです。実際に、その点を主人公たちは、モデルのイケメン男子の登場人物から批判されますので、作者の意図もその指摘にあるのでしょう。

しかしながら、フランスなどは、同棲率、事実婚率が高いので、結婚制度自体が形骸化しています。

もしかして『タラレバ』の主人公の女性たちが、深層心理において結婚制度にある種の「限界性」まで感じとっているならば、なかなか奥深いかもしれません。

制度ではなく、「仲間」規範の強さとパートナーの有無の問題となりますと、話は異なってしまいますが。

2016年7月23日 00:34

トルコ・クーデター未遂事件:「諸刃の剣」としてのSNS

7月15日、トルコで軍の一部によってクーデターが起こり、失敗に終わりました。このクーデターに関連した死者は、計290人以上、負傷者は1400人であると報じられています(ロイター、7月18日)。

今回のクーデターを失敗に終わらせたのは、市民の力だと言われています。

クーデターを受ける形になったトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、アップルの動画通信アプリ『FaceTime』を用いて、市民たちにクーデターに対抗するために街頭で抗議をするよう呼びかけたのです(WIRED, 7月20日)。そして、大統領の声に答えた一部の市民が、クーデターを阻止することになりました(Turkey Coup: Why did the Public Defend Authoritarian Erdogan?, Newsweek, 19 July 2016)。

もっとも、クーデター側の軍部も暗号化されたモバイルメッセージアプリ『WhatsApp』を利用して組織されたとされています(WIRED, 7月20日)。

つまり、SNS対SNSという構造だったのです。

そして、エルドアン大統領も、今回の首謀者と言われている(イスラム指導者フェトフッラー・ギュレン師を崇拝する)ギュレン派と呼ばれるイスラム主義派も、トルコの伝統的な世俗的近代主義者ではなく、イスラム教主義に近い存在です(内藤正典「トルコ、クーデター起こした勢力の意外な正体」読売online、7月22日)。

その彼らの「戦い」が、共にSNSを使って行われたことは、非常に今日的です。

今回、SNSによって助けられたエルドアン大統領ですが、元閣僚による汚職事件が批判された際、かつてツイッターについて、「裁判所の命令もある。ツイッターを根絶やしにする」、「国際社会はいろいろと言うだろうが全く気にしない」などと述べ(CNN, 2014年3月21日)、フェイスブックやYouTubeについても対立姿勢を示していました(同上)。

そして、同大統領は、今回のクーデター未遂事件後、強権を発動して民主化とは別の方向に進もうとしています。

同大統領は、SNSが政治的に大変有効であることを熟知しているからこそ、かつてそれを禁じ、今回のクーデターに「武器」として用いたのかもしれません。

しかし、一度、同大統領が保身のために使ってしまったSNSは、「諸刃の剣」です。いくら禁じてもSNSは、今後、トルコの政治に大きな影響力を持つことでしょう。

一部の軍部が起こしながらも、世俗的な軍部は一体化せず、非常に分かりにくい図式のクーデターでした。だだ、今回のクーデターで誰が「勝った」のかを考えますと、勝者はSNSであったように思えます。

世俗主義ばかりではなく、イスラム主義もSNSに乗ってやってくるのです。

2016年7月17日 00:50

4姉妹の「疑似家族」:映画『海街diary』の居心地の「良さ」と「危うさ」

名作の映画化は難しいものです。

『海街diary』
制作国   日本
制作年  2015年
監督  是枝裕和
出演  綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず

あらすじ
【鎌倉の一軒家。幸(29歳)、佳乃(22歳)、千佳(19歳)は両親が離婚した後も、3姉妹だけで大きな家に暮らしている。ある日、彼女たちに、15年前に彼女たちの元を去っていった父親が亡くなったという知らせが届く。3人で父が暮らしていた山形に葬儀に出かけると、異母妹のすず(13歳)が待っていた。実の母も亡くなっていたすずに、幸は鎌倉で一緒に暮らすことを提案する。後にすずを「四女」として迎え、4人の共同生活が始まる。】

吉田秋生さん原作のヒット漫画『海街diary』の映画化です。

漫画の印象は、落ち着いた鎌倉で暮らしている元気な4姉妹の物語が淡々と描かれているのに(だからそこ)、日常の節々に「影」があるというものでした。むしろ、どうにもならない人生の「影」を浮き上がらせるために、美しい海街・鎌倉舞台に元気な4姉妹を登場させているようにも感じていました。

是枝監督が映画化した映像作品は、影と日常を十分に映し出していたと思います。ただ、映画という非日常の連続の中で、diaryを描くのは難しいようにも思えました。綾瀬はるかさん、長澤まさみさん、夏帆さん、広瀬すずさんが演じる4姉妹の「日常」は、やはり非日常に映ってしまいます。

しかしながら、それは、私が原作贔屓であるからかもしれません。もちろん、原作の4姉妹も通常では、あり得ない設定ではあります。それでも、4姉妹は幸が父親役をして、佳乃、千佳が母親役をして「家族」を構成していきます(幸の女性性も彼女の不倫関係の中で描かれますが、姉妹の中では「父」なのです)。

そのような文脈では、すずは一貫して子供役なのですが、逆に子役のすずが登場することで「家族」の物語が初めて成立していくのです。

血縁関係のあるリアルな女性だけの家族による「疑似家族」の物語は、(その世界の)居心地の「良さ」と存続の「危うさ」を、同時に醸し出します。

日本学において日本は母性社会だと言われてきました(土居健郎 『 「甘え」の構造』1971年;河合隼雄 『母性社会日本の病理』1976年)。

4姉妹の家庭では、良くも悪くも依存すべき母親(と母親に依存する父親)が不在であることで、「普通」とは異なる形で、お互いに母性や父性を補填していかなくてはいけないのです。

核家族化している今日では、家族が作られ、大きくなった子供が独立することで家族が再生されていきます。4姉妹の家族が再生されるとすれば、底ぬけなく明るいすずが独立していく(やがて家を出ていく)ことでしかあり得ないのかもしれません。

2016年7月16日 23:59

フランス・ニースのテロ事件が突き付けるフランスの危機

7月14日、フランスのリゾート地ニースの大通り「プロムナード・デ・ザングレ」の遊歩道でテロがありました。

実行犯は1人。射殺されましたチュニジア国籍のモハメド・ラウエジュ・ブレル容疑者です。ブレル容疑者が運転する大型トラックが、革命記念日を祝う花火を見物していた人々の中に突っ込み、死者84人、重体52人という大きな被害を出しました。

ブレル容疑者に関しては、まだ詳細が分からないことが多いのですが、チュニジア生まれの31歳であり、彼は2005年頃にフランスに移住し(The New York Times, July 2015)、現在、彼が滞在許可書を持っており、トラックの運転手をしながらニースに住んでいたことは確かです(Europe 1, 15 juillet 2016)。

そして、彼は最近まで政治や宗教には全く言ってよいほど無関心な生活をしていたとされています。

しかしながら、家族は「最近態度が変わり、『イスラム国』(IS)について話していた」、そして、「自ら(ISのテロをせよという)呼びかけに応じた」(フランス・ルドリアン国防相)と報じられています(朝日デジタル、7月16日)。

この「最近」がいつなのかはっきりしていませんが、彼はフランスの情報当局の監視対象でもなく、ISによる訓練を受けた経験もなかったそうです(同上)。

所謂、プロではない「素人」が、大型トラック(小型銃一つを携帯していたそうですが)を使って、84人の命を奪ってしまったことは深刻な事態です。

フランスのベルナール・ベルナール内相が「重火器も爆薬も使わない新しいタイプのテロだ」と発言している通り、この手のテロは防ぎようがないのは明らかです(時事.com、7月16日)。

このような突発的なテロを防ごうとするならば、今までのように犯罪歴やISとの接触形跡がある人物を監視していく方法では十分ではなくなります。

移民系の若者を、ISの呼びかけに応じさせないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。「言うは易く行うは難し」ですが、やはり、フランスが、社会的に可能な限り包摂していくしかないように思えます。極右政党・国民戦線が主張するようにイスラム系住民を排斥すれば、全ての問題が解決する訳ではないでしょう。

事件はフランスの革命記念日に発生しました。同記念日は、フランス革命の発端となった民衆がバスチーユ監獄を襲撃した事件を記念して祝われます。

今日、フランス社会は分断の危機に直面しています。それは階級ではなく、民族です。民族的亀裂を乗り越えられるのかどうか、EUという超国家のアイデンティティも危うい中、人々の帰属意識が問われています。

この事件を「対岸の火事」と見なすべきではないでしょう。先進国は、多かれ少なかれ同じような問題に直面しています。

深刻な少子化によって移民の力を借りなければ国家が存続できなくなれば、日本も遅かれ早かれ、移民をいかに包摂するかが課題になっていきます。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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