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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2016年6月

2016年6月29日 01:40

矛盾する人間の思考と行動も理論化できるのか?:映画『博士と彼女のセオリー』の美し過ぎるセオリー

人間の日常生活は、本来、矛盾だらけです。

『博士と彼女のセオリー』(原題:  The Theory of Everything)
制作国   英国
制作年  2014年
監督  ジェームズ・マーシュ
出演  エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ

あらすじ
【1963年、英国ケンブリッジ大学。大学院で宇宙物理学を専攻するスティーヴンは、文学を専攻していたジェーンと出会い恋に落ちる。スティーヴンは天才的なアイディアを次々に発表し、高く評価されるが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、余命は2年だと宣告される。ジェーンは、スティーヴンの難病が分かると結婚し、2人の子供を作る。スティーヴンは、ブラックフォールの謎を解く論文で博士号を取得し、ケンブリッジ大学の研究者として国際的な名声を得ていくが、ジェーンは子育てと看病で疲れ果てていく。ジェーンは、教会の聖歌隊で気分転換を図ろうとするし、教会で妻を失くしたばかりピアノ教師ジョナサンと出会う。ジョナサンは、スティーヴンとジェーンの良き友人となり、2人を助け、2人の子供たちの父親の代理のような役割を担うが、やがてジェーンとジョナサンの友情は愛情へ変化してく。】

宇宙物理学者スティーヴン・ホーキングの自伝の映画化です。

ここでは、難しい宇宙物理学の解説ではなく、ホーキング博士の最初の妻ジェーンとの出会いから、結婚生活、そして別れまでが描かれます。

ホーキング博士は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っており、その両方が「物語」として切り離せないのかもしれません。むしろ、多くの人々が、車椅子の天才物理学者という「物語」を好むようにも思えます。

もっとも、この自伝映画に沿って解釈するならば、ジェーンの献身的な協力がなければ、現在のホーキング博士は存在していなかったかもしれないという仮説が成り立ちます。

だからこそ、この「物語」は単なる恋愛映画を越えて重要であるとも捉えられます。

しかしながら、何か人間関係が「きれい」過ぎるようにも感じます。ジェーンとの出会いも、別れも理論的であり、誰も責められず、「美しい」のです。

本当は、ドロドロとした人間ドラマがあるべきだと主張するつもりがありませんが、人間は理論的ではないからこそ、人間なのではないでしょうか。

学問とは事象の理論化です。それが、人々の日常生活と矛盾すると申し上げているのではありません。

簡単には理論化できない人間(たち)を、それでも(少しでも)理解しようと試みるのは、人文科学であり社会科学の分野なのかもしれません。

2016年6月25日 20:12

「英国」がEUに(再)加盟する可能性はあるのか?:「イングランド=ウェールズ連合王国」の選択

前回、英国のEU離脱を、ヨーロッパ全体の課題として捉え直しました。

今日は、英国が今後どのようになるかを、スコットランド、北アイルランド独立問題を中心に考えてみたいと思います。

英国における国民投票の結果は、地域によって大きく異なりました。

スコットランドでは62%が残留を希望し、北アイルランドも55.8%がEUに留まることを望み、興味深いところではロンドン市は59.9%で残留が圧勝しています(BBC online "The UK's EU referendum: All you need to know", 24 June 2016)。

反対に、ウェストミッドランド(離脱希望59.3%)、イーストミッドランド(離脱希望58.8%)、ヨークシャー(離脱希望57.7%)とロンドン以外のイングランドにおいて、離脱規模が多かったことになります(ibid)。

既に報道にあります通り、(スコットランド独立派が政権を担っています)スコットランド政府は、スコットランド独立とスコットランドのEU加盟をスコットランドの住民投票で近年中に問うことになります。

2014年9月18日に行われました前回の独立を巡るスコットランド住民投票では、スコットランド独立は反対55.30%、賛成44.70%で否決されました。原因は色々ありますが、その一つは英国がEU加盟国である限り、スコットランド単独でのEU加盟が難しいことがありました。

しかしながら、次回はスコットランドが独立しても(英国のEU離脱後の)スコットランドのEU加盟が現実味を増していますので、独立派が勝つ可能性が高まっていきます。

皮肉なことに、今回の英国のEU離脱を問う国民投票において離脱が決定したことで、英国の有権者はスコットランドの独立(連合王国の崩壊)を後押ししたことになるかもしれないのです。

上記の通り、長年独立を巡る紛争地であった北アイルランドも、EU残留派が多く、EU離脱問題をきっかけに英国から独立し、EUに加盟する可能性もあります。

圧倒的にEU残留派が多かったロンドンでは、「英国からのロンドンが独立を宣言し、EUへの加盟を求める」請願書に4万人以上がサインとしたと報じられています(AFPBB News、6月25日)。

さすがにロンドン市の都市単位でのEU加盟は、難しいと考えますが、英国はEU離脱後に分裂して、それぞれがEUに加盟するという選択肢があるのです。

上記の通りになると仮定しますと、残すはイングランドとウェールズだけになります。「イングランド=ウェールズ連合王国」は、そもそも、1707年にスコットランドが事実上、英国の一部となり、連合王国を形成する以前の英国の「原型」です。

その「イングランド=ウェールズ連合王国」とEUの関係は、どうなるのでしょうか。

ウェールズは、今回、52.5%が離脱支持、47.5%が残留支持でした。スコットランドの独立によって、ウェールズの有権者のEU観も変化する可能性はあります。

更に「イングランド=ウェールズ連合王国」においては、首都であり、EU派、グローバル化推進派の大都市ロンドンの発言力は高まるでしょう。

もしかしましたら、「イングランド=ウェールズ連合王国」でさえ、EUに(再)加盟するという可能性もあるかもしれません。

もし、「その時」にEUが存在しているならば。

2016年6月24日 23:59

英国のEU離脱は、ヨーロッパ的現象である

2016年6月23日、英国においてEU離脱を問う国民投票が行われ、離脱支持が51.9%、残留支持が48.1%となり、同国のEU離脱が決定しました(BBC online, "EU Referendum" 24 June 2016)。

離脱を主張する「極右」による国会議員ジョー・コックス氏の殺害事件が、国民投票では残留派に有利に働くのではないかとみられていました。幾つかの世論調査では残留派が有利と伝えられていましたので、「英国のEU離脱」が大きなニュースとなっています。しかしながら、考え方を変えますと、この数字でも残留派が幾分「戻した」結果なのかもしれません(そのように観ますと、数字以上に差があることになります)。

今回、英国に焦点を当てて論じられていますが、実際、EUの主要国で同様の国民投票が行われたとしますと、EUにとっては厳しい結果が出るように感じます。

既にフランスでは、2005年5月29日、欧州憲法の批准の国民投票が行われており、54.68%の反対で否決されており、オランダでも2005年6月1日に行われた同様の国民投票では61.54%の反対で否決されています。その後、主要国では、欧州憲法の国民投票による批准を避ける傾向が強まっていきます。

EUは、主要国の国民投票において非常に不人気なのです。

そして、主要国における右翼急進派の台頭は(今回のジョー・コックス議員の殺害も同様ですが)、EUの大衆的不人気と一部であっても重ねて語ることができると考えます。

ヨーロッパは各国(特に先進地域)が経済的に二極化しており、概して下層はEUを支持しないのです。

つまり、EUは、今回の英国の離脱決定を、「英国性」として理解してはいけないことになります。

今回の52%の離脱と48%の残留という比率は、先進地域の「ヨーロッパ性」(社会的亀裂)を現しているに過ぎないのです。

むしろ、EUは2005年のフランス、オランダの国民投票による敗北以降、EUの二極化の問題に十分に対応できていないことが今回、証明されたとも言えます。

仮にEUが縮小したり、消滅したりしても、ヨーロッパは存在し続けます。長いヨーロッパの歴史の中で、EUが短期間の超国家組織として位置付けられるだけなのです(「歴史の中のEU」は下層の人々に拒否された政治、経済、官僚エリート組織としてレッテルを貼られてしまう可能性があります)。

しかしながら、EUが無くなっても、二極化しているヨーロッパは、国民国家単位の社会に戻ることもないでしょう。

ヨーロッパの変動はこれからなのかもしれません。

2016年6月22日 03:23

日常の物足りなさを埋めるために:映画『僕たちは世界を変えることができないBut, we wanna build a school in Cambodia.』の出会いと「化学反応」

映画は受けて(観客)側の立場によっても評価が異なってきます。昨年、11月にカンボジア(の小学校)を学生と共に訪れた私にとって、この映画は当事者マインドが伝わってくるものでした。

『僕たちは世界を変えることができないBut, we wanna build a school in Cambodia.』
制作国   日本
制作年  2011年
監督  深作健太
出演  向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝

あらすじ
【1年浪人して東京の医大生になった田中甲太は、日々の生活に何か物足りなさを感じている。ある日、郵便局に行くと、150万円で「カンボジアで学校を建てよう!」という海外支援のパンフレットが目に留まる。全ての友人たちに一緒にやろうとメールをするが、同じ医大の芝山と矢野の2人と他大の軟派な男・本田だけが賛同する。本田の提案で六本木のクラブで連続ダンスパーティを開催し、資金を集める。同時に医大でカンボジア支援サークルを立ち上げる。お金の準備を徐々に進めながら、3人はカンボジアの小学校建設予定地に赴くと、カンボジアの現実に直面し、大きな衝撃を受ける。】

この映画の中で、4人の大学生がカンボジアに学校を建てようと思う動機は、日常の物足りなさを埋めるに過ぎないものでした。

それが悪い訳ではなく、「良いこと」をする動機などは何でも良いのです。「良いこと」であることも、結果に過ぎないのかもしれません。

自分たちの満足のためにすることが、結果的にカンボジアの識字率を上昇させることになり、子供たちに学びの機会を増やしているとすれば、それは経済学でいうところの「プラスの外部効果」です。

別にボランティアは、地球を変えようと思ってやらなくても良いのです(もちろん、そう思ってやっても良いですが)。

自分の喜びのためにやったことが、結果のために人の役に立つと、二重に得した感覚で嬉しいものです。

この映画の若者たちは、明るくて、基本元気で、時にナイーブです。

そのノリで非日常のカンボジアに出かけて、現地の現場の厳しさに直面して途方に暮れます。東京に戻り、東京の日常も以前の景色とは同じようには見えなくなってしまうのです。そして、良くも悪くも人間関係を変えてしまいます。

それは、カンボジアの小学生にとっても同じでしょう。日本から来た若者たちに会い、カンボジアの子供たちの人生も変わるのです。

国境や世代を越えて、日常と非日常が交差することは(当事者は大変ですが)非常に面白い現象でもあるのです。このような出会いは、思わぬ「化学反応」を各方面で発生させるのではないでしょうか。

私自身、今年も、カンボジアに行きたいと思っています。

2016年6月21日 01:55

英国ジョー・コックス議員の殺害事件を考える

EU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票を間近(6月23日)に控える英国で、悲劇が起りました。

6月16日、残留派の女性国会(下院)議員、ジョー・コックスさんが、極右思想を持つ男性に射殺されたのです。

コックスさんは英国イングランド北部のバーストルにおける対話集会で有権者と意見交換していた同日午後1時前に、口論を始めた男たちの仲裁に入ったところを、一人の男に拳銃で撃たれたと報じられています(BBC, 6月16日;Newsweek, 6月17日)。

逮捕された容疑者トーマス・メアは、コックスさんを撃って刃物で刺しながら「ブリテン・ファースト(英国第一)」と複数回叫んだとされています(BBC, "Jo Cox MP dead after shooting attack"  6月16 日)。容疑者は、コックスさんが英国残留派であることを知っての犯罪であると見られています。

英国の未来を左右する大事な国民投票の直前の「銃」による言論封鎖は、国民投票に大きな影響を与えると考えられています。

容疑者は右翼思想を持ち、その意味で「ナショナリスト」なのでしょうが、民主主義の母国である英国では、民主主義もナショナリズムに相性が良いのです。それでも、今までは、親EUの英国残留派は、英国(UK)のナショナリズムに対峙する形でした。そこでは、民主主義は問われず、「EUかUKか」という選択だったのです。

しかしながら、コックス事件の後は、「民主主義か(残留か)、非民主主義か(離脱か)」という選択肢が加わることでしょう。

本来、EUから離脱しても民主主義が問われることはなかったのですが、離脱派の容疑者によるコックスさんの殺害は、国民投票の性質を変えてしまう可能性さえあります。

逆に考えますと、なぜ離脱派の右翼の1人が、このような行動に出てしまったのでしょうか。

容疑者は普通の男性であったとされています(CNN、2016年6月18日)。普通の男性を政治的に暴走させてしまったのは何だったのでしょうか(一方で精神的に病んでいたという報道もあります[The Telegraph, 2016年6月16日])。

彼は40年間、事件のあった北部イングランドのバーストルに住んでいた住民なのです(ibid)。バーストルで何が起こっていたのでしょうか。

予断は許されませんが、容疑者が普通であるとすればそれそれで怖いことです。それは、英国の他の町でも、第二、第三のメアが出現する危険性を示唆しています。メアのような人物が生み出された英国社会の状況を分析する必要があるのではないでしょうか。

国民投票の結果はどうであれ、結果以上にこの事件が英国にとって大きな傷になることは間違いありません。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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