QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2016年5月

2016年5月29日 22:24

サミット不要論を考える

私が今年度、非常勤講師を務める立命館大学の学生が、講義前に伊勢志摩サミットの話をしていました。

第42回先進国首脳会議(サミット)は、日本、フランス、米国、英国、ドイツ、イタリア、カナダ、EUの代表者が2016年5月26日から5月27日にかけて、伊勢志摩に集い開催されました。

サミットが開催されると、毎回のように不要論が持ち上がります。

サミットは、1975年、冷戦時代に自由主義陣営の主要国が政策協調をする場として生まれ、冷戦の終結後は「西側」もなくなりアイデンティティ・クライシスに陥ります。また、グローバル化によって南北問題が形を変え、途上国が経済成長を遂げると、サミット参加国(G7)の経済的影響力も低下し、「北側」の意味も失います。

しかしながら、サミットとは、そもそも限界性の中で誕生したようにも思えるのです。

それは、最初から冷戦時代の自由主義陣営という限定がありました。

更に、米国の社会学者ダニエル・ベルが、1980年に「国民国家は、生活の小さな問題をきめ細かく解決するには大きすぎ、大きな問題を処理するには、あまりにも小さすぎる」(慶応国際シンポジウム実行委員会編『地球社会への展望:慶応国際シンポジウム』日本生産性本部、261頁)と指摘したように、現代社会は一国の限界を突き付けていたのです。

見方を変えますと、サミットは成立直後から国家の限界性の中で歴史を重ねてきたことになります。

つまり、サミットは全世界を動かそうと最初から意図されて企画されたものではないのです。しかしながら、一国では対処できない大きな問題を、G7諸国の首脳が考える機会が1年に1度あっても悪くはありません。

今回は、この時に不要とされるサミットには、なかなかの宣伝効果があることも分かりました。

伊勢志摩サミットで用いられた酒類や工芸品が、インターネットで公開された直後から注文が殺到したのです(サンケイスポーツ、5月29日)。特に5月26日の夕食会で乾杯酒であった大田酒造(三重県伊賀市)の「半蔵 純米大吟醸」は、「1日で1年分が完売状態」となっているそうです(スポーツニッポン、5月29日)。

政治意識の高い学生たちにサミット話を終えて、講義を始めようとしたところ、熱心にネットの中継を見ていた1人の学生が、実はサミットではなく、佐藤天彦八段と羽生善治名人で戦われた将棋の「第74期名人戦」を見ていることが判明しました。

確かに名人戦もリアルな「サミット」でありますから、妙に感心しました。お酒の宣伝にはなりませんが、緊張感では名人戦のほうが遥かに上かもしれません。

2016年5月28日 23:22

共存できなければ、社会は壊れてしまう:映画『リフ・ラフ』が突き付ける今日的課題

ある時代の課題を写し撮った作品が、時間を経て(時代を越えて変化した社会に)同じような根本的なテーマを突き付けることがあります。

『リフ・ラフ』(原題:Riff Raff)
制作国   英国
制作年   1991年
監督  ケン・ローチ
出演  ロバート・カーライル、エマー・マッコート

あらすじ
【サッチャー政権の1990年、ロンドン。グラスゴー出身のスティーブは刑務所を出た後、ロンドンにて改装工事現場で週契約の職を得る。そこは、全国から訳ありの最下層の労働者階級(リフ・ラフ)の男たちが、偽名を使い、劣悪な労働条件下において最低賃金で働いていた。スティーブはある日、スーザンという歌手になることを夢見ている女性のバックを拾い、住所が分ったことから彼女の家に自ら届けることにする。それが縁で、スーザンが出演しているライブハウスに行き、2には恋に落ち、同棲することになる。しかし、スーザンは鬱病を患っており、スティーブが思い描いたような生活は来なかった。】

1990年、「金融ビックバン」後のロンドンは好景気が始まろうとしており、スティーブと「仲間たち」は、建設現場を古い病院を高級マンションに改築する仕事に従事します。

しかし、彼らは自分たちが住む家がないのです。スティーブも、仲間の「勧め」でマンションの空き部屋を無断で占拠し、住み始めます。

その不法占拠したマンションの部屋で、スティーブはお世辞にも上手いとは言えない「歌手」のスーザンと暮らします。

スティーブと彼の仲間を取り巻く社会環境は、厳しく、空虚であり、非常に危ういのです。しかし、そこに「リフ・ラフ」の人々は、時に仲間を裏切り、時に仲間を助けながら「リアルな生活」を構築しようとしていきます。それは、良くも悪くも労働者階級の特性であり、本作ではケン・ローチ監督によって見事に描かれています。

しかしながら、命の危険に直面し、限界点に至った時に、彼らは明日のことも考えずに全てを「ゼロ」にしようとします。

結句のところ、ケン・ローチ監督は、異なる階級の人々が共存できる社会構造の構築を訴えているのでしょう。共存できなければ、社会が壊れてしまうのです。

2016年のロンドンは、本作品が撮られた1990年とは大きく異なりますが、移民問題等、異質な人々が共存できる社会を構築しなければ、皆の社会生活が維持されないことには変わりがありません。

それは、グローバル化が進む今日、ロンドンだけではなく、ヨーロッパの諸都市、そして世界の大都市に共通する課題であるように思えます。

2016年5月25日 22:29

合計特殊出生率1.46をどのように認識すべきか?

厚生労働省によりますと、2015年の合計特殊出生率は【1.46】となり、2014年の【1.42】より0.04 ポイント上がりました(厚生労働省『平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況』2016年5月23日)。

一部マスコミでは、21年ぶり高水準と報じています(日本経済新聞、5月23日;FNNニュース、5月23日;毎日新聞、2016年5月24日)。

しかしながら、2010年以降を改めて見ますと、2010年は【1.39】、2011年も【1.39】、2012年は【1.41】、2013年は【1.43】であり、1994年に1.50を下回ってから、長期の低迷傾向にあると認識すべきでしょう(厚生労働省『平成27 年人口動態統計の年間推計』4頁)。

昨年よりも0.04ポイント上昇したことは良いことですが、90年代少子化問題が深刻であったフランスは2010年には出生率が【2.02】まで回復し、現在も2.0前後を維持しています(内閣府『平成27年版 少子化社会対策白書』)。2013年で国際比較をすれば、日本が先進国として下位グループであることが分かります。

2013年の合計特殊出生率の国際比較
フランス(1.99)
アイルランド(1.96)
スウェーデン (1.89)
豪州(1.88)
米国(1.86)
英国 (1.83)
ノルウェー(1.78)
ベルギー (1.76)
フィンランド(1.75)
日本(1.43)
ドイツ(1.40)
イタリア(1.39)
(内閣府『平成27年版 少子化社会対策白書』;Demographic references - Fertility rates Report. OECDの両方を参照)

しかしながら、この下位グループにも2015年は動きがありました。

周知の通り、ドイツが、100万人を超えるシリア難民を受け入れたのです。そして、それが様々な問題を引き起こしていることは、このQuonNetでも記してきました。それでも受け入れざるを得なかったのは人道的配慮のみならず、ドイツは少子化問題によって追い込まれていたと言えないでしょうか。

人口が急激に少なくなれば、当該国の市場も小さくなり、企業は国際化、グローバル化の名のもとに海外市場に目を向けます(海外に逃げ出すか、逃げ出さないまでも、本社機能を海外に移転します)。大企業の数が減れば、雇用にも影響するでしょう。経済的に厳しい状況を受け入れざるを得ないのです。

とはいえ、ドイツに見られるように、急激な移民・難民の受け入れて人口を維持する方法は、様々な軋轢を生じます。

結局のところ、地道な少子化対策しかないのです。子供を産み易い、育て易い環境を早急に整える必要があります。

少子化の課題を解決できない国は、グローバル化の中でサバイバルできないと言えます。国家単位で考えることではないのかもしれませんが、国の存亡を賭けて臨まなければいけないことも確かです。

2016年5月22日 03:08

ドイツに内包された「ケバブ」:映画『ケバブ・コネクション』が繋げるもの

ドイツのトルコ系の「食」といえば、連想されるのはケバブです。それは、ドイツ人が「内部」に受け入れた異文化でもあります。

『ケバブ・コネクション』(原題:Kebab Connection)
制作国   ドイツ
制作年   2004年
監督  アンノ・サウル
出演  ノラ・チルナー、デニス・モシットー

あらすじ
【ドイツ・ハンブルク。ドイツ生まれのトルコ系移民2世の21歳のイボは、映画監督になり、ドイツで初めてカンフー映画を撮る夢を抱いている。ある日、ケバブ屋を経営する叔父からスポット広告映画の撮影を依頼され、カンフー風に撮ると予想外のヒットとなり、映画の道が開かれたかに思えた。そんな時、イボが付き合っているドイツ系ドイツ人の恋人ティジーが妊娠する。イボは父親になる自信がないとティジーに正直に話すと、子供も産み育て、女優になる夢も実現させたい彼女は怒り、絶縁を言い出す。その後、イボは自分の家族に報告するが、今度は、ドイツ人との結婚に反対するイボの父親が立腹し、イボを家から追い出してしまう。1人になったイボは、自分の将来を考え直し、ティジーと復縁することを決意する。】

トルコ系移民社会をフォーカスしたコメディです。

主人公の叔父はケバブ屋をしており、そのライバルはギリシャ人移民が営むギリシャ料理店です。ステレオタイプが満載であり、むしろ、敢えてステレオタイプを前面に出し、笑わせることで移民文化を内包しようとしているように見えます(もしくは、既にドイツに内包されているトルコ系ドイツ文化を写そうとしているのかもしれません)。

ドイツ人に受け入れられたトルコの食「ケバブ」がシンボリックにドイツ文化とトルコ文化を繋げているのです。

主人公のイボは、移民系2世です。彼は、ドイツ系ドイツ人の恋人がいるのですが、カンフー映画に憑りつかれています。ドイツに完全な同化はされていないのですが、トルコ人の父親世代とも異なります。所謂、「マージナル・マン」のような存在です(主役のイボを演じるデニス・モシットー自身も父はイタリア系、母はトルコ系)。

ただ、この映画において民族問題はサブテーマです。飽くまでも、大人に成り切れない主人公イボが「男女平等」のドイツ社会において、しっかりした父親になる決意をするまでのプロセスを描きます。

正直申しまして、名作であるとは言えません。

しかしながら、移民問題が深刻化するヨーロッパにおいて、英国リーズを舞台にしたパキスタン系移民と白人系英国人の物語である映画『ミスチーフ・ナイト』(英国、2006年)同様、今のドイツには、このようなステレオタイプと笑いに満ちた、たわいのない移民系コメディ作品が必要であるようにも思われます。


2016年5月21日 02:16

思い出が染み込んだ「いつもの場所」での「再会」:藤川投手の221セーブ目が投げかけること

5月18日、プロ野球、阪神-中日11回戦(甲子園)。

3-2で阪神1点リードの9回の表、中日の最後の攻撃が始まる前に、甲子園球場にあの懐かしい曲『Every Little Thing Every Precious Thing』が流れました。

阪神に復帰した今シーズン、藤川投手は先発として臨みましたが、期待通りの結果が残せていませんでした。

5月14日のDeNA戦から「中継ぎ」に回っていましたが、それでも不安定な投球が続いていました。

18日の中日戦の9回、藤川投手の登場は、その日36000人を越えた観客(殆ど阪神ファン)をどよめかせました。

私はテレビでの観戦でしたが、期待と不安が入り混じった感覚でした。そして、何よりも阪神の新指導部である金本監督、コーチ陣が勝負に出ていることが伝わってきました。

阪神ファンは藤川投手と多くの思い出(220セーブ、102ホールドという数字を越える記憶)を共有しています。

米国での挫折、手術、四国への帰郷、そして、金本阪神での復帰。

私は、一阪神ファンでしかないためファンを代表することはできませんが、藤川投手の4年間のブランクの後の復帰は、4年前に別れた「恋人」に会うような感じでもあるのです。

変らないで(「火の玉ストレート」を投げて)いて欲しいと願いながら、4年の月日は重いのです。

今シーズンの先発という配置転換は、若くはないけど(剛速球が投げられないけど)「大人の魅力」として再プロデュースするという金本阪神のメッセージだったのではないでしょうか。

首脳陣が目論んだ、「歳は重ねたけど、それ故に魅力的」に変化した「元彼女との再会」は失敗してしまいました。そして、5月18日、思い出が染み込んだ「いつもの場所」(甲子園)の「いつもの時間」(9回)に、「元彼女」と会うことになりました。

私は藤川投手の日本球界復帰にはやや否定的でした(当ブログ、「藤川投手が「追いかけた夢を一緒に見たい」」2015年6月10日)。米国で頑張って欲しかったですし、「夢」の延長上に甲子園で(9回に)「再会」することが想像できなかったのです。

(阪神に復帰するならば、抑えからの先発転向は難しいという技術論は別にして、ファンの心理上、藤川投手の先発転向は正しかったように思えます)。

5月18日の9回の表の結果は、3者凡退で藤川投手は、日本球界で221セーブ目を挙げました。正直、やっぱり、泣きたくなる程、嬉しかったです。

しかしながら、長い目で見た時にこれで良いのでしょうか。4年の時を無かったかのように、また「夢」を追いかけることができるのでしょうか。

ファンは、4年前までの「思い出」を壊さないために応援するようになってしまうのではないでしょうか。今後、9回に流れる『Every Little Thing Every Precious Thing』を未来志向で迎えるためには、どうしたらよいのでしょうか。同じ場所で、同じ時間に新たな関係を築かなければいけないのでしょう。

「超変革」阪神タイガースは、(阪神ファンに)非常に大きな課題を突き付けてきました。

 1  |  2  |  3  | All 次へ >>

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (26)
スポーツと社会 (115)
ネパール (26)
国際事情(欧州を除く) (225)
大震災/原発事故と日本 (29)
御挨拶 (13)
日本政治 (124)
日本社会 (262)
映画で観る世界と社会 (290)
欧州事情 (93)
留学生日記 (70)
英国 (96)

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
最新記事
どれ程、国が儲かっていても、格差がある限り政治は急進化する
甲子園で行われる試合は、多かれ少なかれ、自然から影響を受けることを前提としている
子供の頃の思い出も、大人になれば美化される: 映画『やかまし村の春・夏・秋・冬』におけるステレオタイプ
日本男子は、気持ちを言葉にしない!?
君とお金のために結婚するのではない: 映画『静かなる男』における持参金というプライド
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草