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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2015年11月 1日 03:14

「僕がお爺さんになったら君はどうする?」:映画『やさしくキスをして』の将来の約束

西欧人は概して、イスラム教徒を同一視しています。しかし、欧州に住むイスラム教徒も概して、白人を同一視しています。

『やさしくキスをして』(原題: Ae Fond Kiss)
制作国 英国
制作年 2004年
監督  ケン・ローチ
出演  エヴァ・バーシッスル、アッタ・ヤクブ

あらすじ
【スコットランド・グラスゴー。パキスタン系(移民2世)英国人カシムはグラスゴ―大学を卒業後、実家の雑貨店を手伝いながらクラブのDJとして働いている。ある日、地元のカトリック系公立高校に通う妹を迎えに行くと、「西欧社会は何億ものイスラム人を同一視している」というスピーチをした妹が、その主張故にカトリック系学生から苛められており、アイルランド人の音楽臨時教員のローシンの教室に逃げ込む。そこで、妹を助け出したカシムはローシンに一目惚れして、自分が働くクラブに誘う。間もなく、2人は恋愛関係に陥るが、カシムの家族はパキスタンに住む従妹とカシムを結婚させようとしており、ローシンと付き合うことに対して大反対する。ローシンは、既婚者であり、既に別居しているが籍は外れておらず、勤務する厳格なカトリックの高校を辞めさせられる。それでも2人は、愛を貫ことするが、カシムの行為は地元のイスラムコミュニティの噂になり、家に泥を塗ることになる。結果として、彼の姉の結婚話までが壊れてしまう。】 

この作品は恋愛映画なのですが、同時に「家」を採り上げた社会的な物語でもあります。

ローシンは、前の夫との別居理由をカシムに「マッチング」しなかったと語ります。カシムの家族にとって、結婚における「マッチング」とは家と家の条件であり、「愛」ではありません。カシムは、両方の「マッチング」に違和感を覚えながらローシンに惹かれていきます。

カシムの家族は、カシムとローシンを家族全体の「幸せ」のために別れさせようとします。彼ら2人が「幸せ」になることが、自分たちの「家」を基本とした「幸せ」を壊してしまうからです。

妥協点は、カシムとローシンの「結婚」かもしれません。カシムの姉は、ローシンに「いつまで彼を愛せるのか」と尋ねます。それに対して、一度、結婚し、皆の前で生涯の夫とすることを誓いながら関係を維持できなかったローシンは、明確に答えることができないのです。

カシムの父親も、カシムに言います。「25年後のことを考えろ」「もし、お前が病気になったら」「その女に追い出されるぞ」「お前は捨てられ、新しい男を作るぞ」「おまえの金、財産、仕事はどうなるんだ」「お前の面子はどうなるんだ」「お前の文化や宗教はどうなるんだ」「白人女に(家族の)仲を割かれたくないんだ」と。

しかしながら、カシムは実家を出て行きます。(ネタバレですが)そして、ローシンのアパートに戻り、ピアノを弾くローシンに尋ねます「僕がとても歳をとってお爺さんになったら君はどうする?」。彼女は「ずっとそばにいるわ」と答えます。

彼らは将来の関係を約束したのでしょうか。

2人の関係が永遠に続くかどうか、映画は答えを出していません。しかし、家や社会のしがらみから離れて、個として向かいあった2人が、今、愛し合うだけでそれで良いとケン・ローチ監督が語っているように聞こえます。

最後に、舞台はスコットランド最大の都市グラスゴーです。この物語の舞台が、独立機運高まるスコットランドであることも見逃せません。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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