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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2015年6月

2015年6月28日 22:01

ほぼ「同じ」であるが故に許せない「違い」: 映画『ノー・マンズ・ランド』が描く「同質性」と民族紛争

似ているからこそ、小さな「違い」や誤解が、許せなくなることがあります。

『ノー・マンズ・ランド』(原題: No Man's Land)

制作国  ボスニア・ヘルツェゴビナ、スロベニア、イタリア、フランス、英国、ベルギー
制作年 2001 年
監督  ダニス・タノヴィッチ
主演  ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ

あらすじ
【ボスニア戦争中(1992年~1995年)のボスニア。ボスニア兵のチキとツェラは最前線を深夜に移動し、霧のため迷ってしまう。夜明けとともにセルビア側から一斉射撃され、両軍の中間地帯にある塹壕まで吹き飛ばされる。その塹壕に、入隊したばかりセルビア兵ニノと老兵が、塹壕を調査してくるように派遣される。塹壕でセルビア兵の老兵は、負傷して動けないボスニア兵ツェラの体に爆弾を仕掛ける。その後、武装しているチキと戦闘になり、セルビア兵の老兵は亡くなる。結局、ボスニア兵チキと動けない体に爆弾を仕掛けられたツェラ、そしてセルビア兵のニノの3人が塹壕に残される。中間地帯のため、3人は両軍から攻撃される可能性があり、両軍はボスニアに駐留する国連軍に救済を求める。】

ボスニア兵とセルビア兵は、元々「ユーゴスラビア」という同じ国の国民でしたので同じ言葉を話します(出身地によって異なりますが、日本語の方言程度の違いです)。しかし、同じ言葉を話しながら、罵りあい、殺し合います。

一方で、多国籍からなる国連軍や西側のマスコミは、英語、フランス語が飛び交います。ただ、国連軍や西側のマスコミが一枚岩かと言えば、そうではなく、国連軍も「官僚的」であり、動かず(不介入主義のため動けなく)、バラバラであり、マスコミも自分たちの利益のことしか考えていません。結局、皆、バラバラであることを前提に物語が進んでいきます。

その中で、主人公の2人のボスニア兵とセルビア兵は、同じ言葉を話し、同じ村の女性(ボスニア兵の元彼女)を知っている関係として描かれます。知り過ぎている2人は(知り過ぎている故に)戦争当事者であり、知らない言葉を話しながら戦争を仲介する役目の国連軍兵のコントラストは、民族紛争の一面を見事に表しています。

ボスニア戦争は、民族対立がクローズアップされましたが、この映画は「同質性」と「些細な違い」の中に、その原因を見出そうとしています(M・イグナティエフも、1996年の著作『民族はなぜ殺し合うのか―新ナショナリズム6つの旅』にて、同様の指摘をしています)。

しかし、映画は戦争の解決策を提示はしません(そんなことはできません)。バラバラな国連軍にも期待していないように感じます。結局、当事者同士が、紛争の社会的構造に気付かない限り、民族対立は、解決しないということなのでしょう。

2015年6月24日 02:42

スタバのラテ(トール)が1000円以上する国

先月、スイスのジュネーブを訪れました。

まず、最初に驚いたのは1スイスフランが130円を超えていたことです(2015年6月24日現在、133円です)。

1フラン、110円台だった1年前も、十分に円安であり、ジュネーブの物価が高いと感じていたからです。

133円だとどうなるかと申しますと、マクドナルドのビックマックセット(メニュー)Mサイズは、13フランですので、1729円となります。スターバックス・コーヒーのカフェラテのトールサイズをカードで(円払いを選択して)支払いましたところ1000円を超えていました。

スイスフランは、円に対してだけではなく、殆ど全ての通貨に対して高くなっています。

スイスの輸出産業は殆ど存在しないから自国通貨が高くてもOKということではなく、スイスには代名詞のような時計、製薬、食品(チョコやチーズ)などの輸出産業があります。

しかしながら、この数年、数か月でスイスの時計メーカーが倒産したというニュースは耳にしません。

それどころか、2009年の輸出額は1,322,950 万フラン、2010年は1,616,680万フラン、2011年は1,930,420万フラン、2012年は2,142,600万フラン、2013年は2,183,370万スイスフラン、2014年は2,225,770万スイスフランと、フラン高に比例するかのように上昇しています。更にスイスフラン高が進んだ2015年に入ってからも1月~4月の売上は前年度より2.1%上昇しています(スイス時計協会FH「Swiss Watch Exports : January-April 2015 」『統計データ』、May  2015)。

2012年2月8日付の当ブログにて「スイスの時計はなぜ売れているのか:高級時計の付加価値」というタイトルで論じたことがあるのですが、スイスの時計産業は、恐ろしい程の国際競争力を誇ります。

時計だけではありません。スイスのチーズの輸出量は2009年、世界中を襲った金融・経済危機の影響で世界が不況の中、過去最高の輸出高を記録しました(swissinfo.ch、2012年2月12日)。その後、スイスフラン高の影響を受けながらも全体として輸出を減らしていません(The  Local . ch、2013年2月8日)。

結局のところ、本当の付加価値の高い、代替不可のモノを作れば、自国通貨が高かろうと安かろうと心配することはないのかもしれません。

スイス(ジュネーブ)のフラン高、物価高を体験すると、いつも思うのですが、円安で(仮に)輸出産業が儲かるとしても、それは一時的な状況に過ぎません。

日本の企業も、スイスに負けないくらいの国際競争力を養わないと先進国として、本当の意味で持続可能な発展は難しいのではないでしょうか。

2015年6月22日 02:08

「ジャイアン」を失って

6月18日、アニメ『ドラえもん』で長らくガキ大将・ジャイアンの声をされてきた、たてかべ和也氏がお亡くなりになりました。

『ドラえもん』は、1979年に放送が始まっており、たてかべ氏は2005年まで26年間、ジャイアンを演じられて来られました。

私は『ドラえもん』第一世代ですので、「たてかべ=ジャイアン」を聞き続けてきましたが、現役の子供たちは今の木村昴氏のジャイアンの声で育ってきており、たてかべ氏の残念なニュースは衝撃が少ないかもしれません。

時を同じくして、長らくドラえもんの声を担当されてきました大山のぶ代さんが、現在、認知症を患い、ご自分がドラえもんの声をされていたことを認識されているか分からないというショッキングなニュースがありました(スポニチ、6月14日)。

当ブログ(2015年3月22日 付)で記しました通り、『ドラえもん』は声優陣を一新し、世代を越えた再構築システムの確立に成功しました。繰り返しになりますが、番組が続くということは、大山氏やたてかべ氏の業績を未来に伝えることにもなるのです。

世代を越えただけではなりません。映画『STAND BY ME ドラえもん』が中国で大ヒットしています。5月に全国公開が始まり、興行収入が6月15日までに5億元(約100億円)を突破しています(日本経済新聞、6月15日)。1日の売り上げも、5月31日に17億6,000万円を記録し、歴代1位となっているそうです(同上)。

『ドラえもん』は文字通り、時間と空間を越えて愛されています。

しかし、それでも、たてかべ和也氏の『ドラえもん』のジャイアンの声が聞けないことは、(昨年なくなられました)永井一郎氏の『サザエさん』の磯野波平の声が聞けないことと同様にとても残念です。

多分、それは、たてかべ氏のガキ大将・ジャイアンや永井一郎氏の波平お父さん(おじいさん)が、昭和という時代を象徴していたからであるように感じます。

ガキ大将も頑固おやじも、平成という時代において「絶滅危惧種」であるのではないでしょうか。『ドラえもん』や『サザエさん』だけではなく、高度成長期のアニメには、ガキ大将と頑固おやじは不可欠でした。

彼らは、主役ではないのですが、アニメの世界において絶対に必要な存在でもあります(例えば、ジャイアンが居なければ、のび太は苛められませんので、のび太が、ドラえもんに「助け」を求めることがありません。物語上、『ドラえもん』は、ジャイアンの存在を前提としているのです)。

ガキ大将と頑固おやじがいない日本。淋しい限りです。

たてかべ氏のご冥福をお祈り致します。

2015年6月21日 01:03

日本人は多様であり、同時に米国人と共通する:映画『硫黄島からの手紙』の多元性

政治にある国家間、民族間の障壁を映画が越えているように思える作品があります。

『硫黄島からの手紙』
制作国 米国
制作年 2006年
監督  クリント・イーストウッド
出演  渡辺謙、二宮和也、伊原剛志

あらすじ
【1944年6月、日本軍の拠点である硫黄島に新たな指揮官、栗林忠道中将が派遣される。米国駐在経験のある栗林は、合理主義者であり、無意味な精神論が幅を利かせていた軍の体質を改める。上官の理不尽な体罰に苦しめられ絶望を感じていた一等兵の西郷も、栗林の登場にかすかな希望を抱き始める。しかし、戦況が悪化の一途を辿り、栗林は圧倒的な戦力の米軍との対決を前に死を覚悟する。と同時に、1日でもここで持ち堪えることが本土への米軍の攻撃を遅らせることになると考え、そのためにゲリラ戦を決意する。栗林は、硫黄島中にトンネルを建設し、島の地下要塞化を行う。古参の海軍将校たちから反対されながらも、栗林は断固として譲らない(allcinema参照)。】

この全編日本語の米国映画では、戦闘シーンよりも日本人同士の対立を描くことに時間が割かれています。

陸軍の栗林中将と海軍将校の対立、パン屋だった西郷一等兵と憲兵出身の清水陸軍上等兵の確執等、イーストウッド監督は、単線的に日本と日本人を描くことを拒否しています。日本人の多様な「物語」を提示しているのです。

同時に、捕虜となった米兵が所持していた、母親からの米兵への手紙を読むことで(西中佐という英語が読める実在した男爵将校が重要な役割を担います)、日本兵たちに、自分たちが母親から貰う手紙と内容が殆ど同じであることを確認させます。米国兵の手紙の内容に共感する日本兵のリアクションが、当時の状況を鑑みると、些か「西欧化」され過ぎているようにも感じますが、本筋を壊すレベルではありません。

日本人は多様であり、また、時に、日本人(兵)は米国人(兵)と同じなのです。故に、イーストウッド監督にとって、「言葉」の壁は、同一民族間の諸集団における「思考の違い」程の障壁にはならないのです。

この映画が米国映画であり、米国で公開した作品であることを素晴らしいと思わずにはいられません(製作は監督も兼ねるクリント・イーストウッド とハリウッドの巨匠スティーヴン・スピルバーグです)。

様々な問題が現在進行形ということもありますが、日本、韓国、中国はこのような映画はまだ作れないでしょう。映画を通じて、相手国に一元的なレッテルを貼らず、複眼的にみて問題を直視することは現段階では困難であるように思うのです。それは、日本の映画監督のレベルの問題ではなく、政治の反映であるとも言えます(作れないのが普通です)。

日米関係は、日中関係や日韓関係よりも遥かに安定しています。しかし、それを差し引いても、米国映画であるこの作品は凄いです。米国人は、この映画を観て必ずしもハッピーにはなりません。

映画が政治を越えた作品のように思えます。

2015年6月20日 00:00

「学歴フィルター」を考える

ゆうちょ銀行が大学新卒採用において「学歴フィルター」を設けていることが批判されています。

就職活動中と思われる大学生が6月1日、ツイッターに2枚の画像を投稿しました。2枚とも、就活ナビサイトに掲載された同銀行の「説明会予約画面」の画像です。1枚目は、大学名を「日東駒専」で登録したものであり、説明会は全て「満席」だったそうです。2枚目は同じ説明会予約画面を、大学名を「東京大学」にして登録したもので、1枚目で満席だった4回の説明会は、全て予約できる状態になったということです(BLOGOS 、6月2日)。

学生に同情的な意見と、企業は優秀な人材を業界の常識と捉える意見に分かれて議論を呼び起こしています。

私も就職活動中の学生をゼミに抱えており、色々と考えることがあります。

高卒と大卒、大学院では採用基準が異なりますが、誰も文句は言いません。大学学部卒の「学歴フィルター」が問題視されるのは、大学生ならば建前上、平等に扱われるべきであるという考え方があるからだと思います。

しかしながら、大学でも差がありますので、大学によって採用基準を変えたいという企業側の考え方も理解できます。

ただ、それはちょっと「優秀」を履き違えた思考だと思います。

例えば、フィルターで有利といわれる東早慶(東京大学、早稲田、慶応)MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)ですが、東京大学は留学生を含めて2015年度の入学者数は3,144人、早稲田大学は秋入学もあるため、総学部の在学生数43,962人を4学年で割ると1学年約11,000人、慶應大学は在学生数が28,855人、1学年約7,000人、明治大学は1学年7,000人~8,000人、青山学院大学は1学年約4,500人、立教大学は1学年約5,000人、中央大学は1学年6,500人、法政大学は1学年約8,000人もいます。

東早慶+MARCHで1学年5万人以上が在籍しているのです。あまりにも数が多過ぎて「フィルター」として機能しないのではないかと考えます。

企業が学歴の高い優秀な学生を求めることは、経済学ではシグナル理論(マイケル・スペンス)として講じられものです。企業もサバイバルしなければなりませんので、「優秀な学生」を採用するのは当然ですし、大いに結構です。しかし、大学名による「学歴フィルター」は効果的ではないように思えるのです。

東早慶+MARCHにも企業が欲しがるような「優秀な学生」は、もちろんいるでしょう。しかし、それ以外の大学にもいるはずです。偏差値は、大学に入学した段階の一基準にしか過ぎません。4年間の成長も考慮して、伸び代のある人材を見つけるような「フィルター」を作らない限り、企業の競争力は保てないのではないでしょうか。

私はこのニュースを聞いて、学生に同情するよりも、偏差値別の「学歴フィルター」を採用している企業の将来が心配になってきました。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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