QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2015年5月

2015年5月31日 00:48

地域化する英国政治

今月初めに英国の総選挙(下院)がありました。

報じられています通り、政権交代の可能性さえ囁かれていた(もしくは、第一党、第二党ともに過半数議席を獲れないハングパーラメントになるという)事前の予想を覆す結果でした。

与党保守党は24議席増やして過半数326を上回る331議席を獲得し、逆に政権交代を狙っていた労働党は26議席を減らして232議席でした(BBC  online, "Election 2015"、以下同様)。

この第一党、第二党のプラス、マイナスのサプライズのみならず、今回の総選挙では、連立与党であった自由民主党の惨敗、スコットランドの独立を掲げるスコットランド・ナショナル党(SNP)の躍進が目立ちました。自由民主党は49議席も減らし、8議席に留まり党存続の危機に直面しています。SNPは逆に、50議席を獲得し、56議席の英国議会(下院)の第三党になりました。

この選挙から見えてきたことは、英国政治の地域化です。

スコットランド選挙区は、59議席のうち56議席をSNPが獲得しました。

過半数を制した保守党も、ウェールズでは全40議席中11議席、スコットランドでは僅か1議席に留まっており、300議席以上(319議席)をイングランド選挙区のみで得ています(保守党も労働党も北アイルランドにおいて議席はありません)。

特筆すべきは、今回の選挙で、保守党はイングランドで前回よりも21議席も議席を伸ばしたことです。逆に労働党は、地盤のあったスコットランドで40議席を失う歴史的大敗北を喫しましたが、イングランドでは15議席増やしています。労働党の敗因は、スコットランドで負けたこと、そして負けた分をイングランドで十分に取り返せなかったことになります。

スコットランドが英国の政治地図を大きく動かしたとも言えますが、結果として、2014年9月に行われたスコットランド独立を巡る住民投票が大きく影響を与えたことになります。

住民投票において、SNPが主張する独立は、賛成44.7%、反対55.3%で否決されましたが、スコットランドに基盤を持ちながら住民投票において独立反対に回った労働党は、今回の総選挙ではスコットランドの住民からの支持を大きく失ってしまったのです。

政治的に地域化した英国の将来はどうなるのでしょうか。

今回、勝利した保守党は、2017年末までに欧州連合(EU)残留か離脱かを問う国民投票を実施することをマニフェストに掲げており、保守党政権は、スコットランド独立問題とEU離脱問題に挟まれる形になります。勝利しても、厳しい未来が待ち受けているのです。

2015年5月30日 17:11

何のために映画を観るか:映画『マエストロ!』の「和」と「ラブ」

似たようなテーマの作品を続けてみると、どちらの作品への理解も深まることあります。

『マエストロ!』

制作国 日本
制作年 2015年
監督   小林聖太郎
出演   松坂桃李、miwa、西田敏行

あらすじ
【ヴァイオリニストの若者・香坂真一は名門オーケストラのコンサートマスターであったが、不況で解散してしまう。途方に暮れていたところ、オーケストラ再結成の話が舞い込む。とりあえず、練習場とした廃工場に集まったが、「メンバー」は音楽関係に再就職先も決まらなかった"負け組"たちと、アマチュアフルート奏者の橘あまねだけだった。久しぶりに合わせた音はとてもプロとは言えず、不安が募っている中、謎の指揮者・天道徹三郎が彼らの前に現れる。彼は経歴も素性も不明、下ネタを連発し、指揮棒の代わりに大工道具を振り回す。そのような態度に楽団員たちは反発するが、次第に天道の人間性を理解していく。やがて楽団員たちは、それぞれ自信を取り戻していくが、香坂だけは天道の隠された過去を知り、さらに反発を強める。そして迎えた復活コンサート当日。意気揚々と演奏に臨むオーケストラのメンバーたちは、天道が仕掛けた本当の秘密を知ることになる(Movie Walker参照)。】

この作品は、先日論じました映画『セッション』の後に見たのですが、同じ指揮者と音楽家の「闘い」を描きながら『セッション』とは対照的です。

『マエストロ!』の指揮者・天道と香坂の関係は、この作品にとって重要ですが全てではありません。天童と他の団員との関係性も十二分に描かれており、(ネタバレですが)香坂自身は実は、天童と「闘って」いたのではなく、ヴァイオリニストであった彼の父親と「闘って」いたのです。

私なりに解釈させて頂くと、映画『マエストロ!』のテーマはオーケストラや家族の「和」です。一方、映画『セッション』のテーマは「和」ではありません。

これも前回ご紹介しましたジャズ専門家である菊地成孔氏と、映画評論家の町山智浩氏の間で繰り広げられた論争は、音楽と映画を巡るこの違いだったように感じます。菊池氏は、音楽をラブ(愛)と捉えます。特定の個人ではなく、集団的であり「和」を重視する見方です。一方、町山氏は「闘い」を描いた映画性を重視します。

そして、映画『マエストロ!』は純粋な意味で「闘い」はなく、音楽=「ラブ」に近いニュアンスです。

どちらが観易いかと言えば圧倒的に映画『マエストロ!』です。安心して観られますし、ハッピーな気分になります。しかし、どちらが考えさせられたかと言えば、映画『セッション』です。おそらく、その違いは、映画をどういう目的で観るかということになるのでしょう。

2015年5月27日 19:55

「真夏」は5月であるという「常識」

先週、タイのある大学に招かれて、約10ヶ月ぶりにバンコクを訪れる機会がありました。

前回は7月だったのですが、あまり暑くなく、市内の公共交通機関のBTS(バンコク・スカイトレイン)の中などはエアコンが効き過ぎて、肌寒い程でした。

今回は、日本で仕事をした後にスーツを着た状態で機内に乗り込んだのですが、バンコクのスワンナプーム国際空港を出た瞬間に後悔しました。

夜は、30度以上の熱帯夜が続き、「真夏」のようでした。

現地の研究者の友人に尋ねたところ、「バンコクが一番暑いのは4月、5月なんです」と説明されました。6月からは雨期になり、少し暑さが和らぐそうです。

実際に調べてみますと、雨期は5月中旬頃から始まるようですが、概して、その通りでした(「気候」在タイ日本国大使館)。

【バンコクの最高気温】 
(1月)35.5度(2月)36.8度(3月)37.8度(4月)40.0度(5月)39.0度(6月)35.7度(7月)35.6度
(8月)35.3度(9月)35.8度(10月)34.9度(11月)36.5度(12月)36.5度
【バンコクの最低気温】
(1月)21.8度(2月)23.0度(3月)25.4度(4月)23.9度(5月)24.7度(6月)25.4度(7月)24.5度
(8月)24.4度 (9月)23.8度(10月)24.1度(11月)24.0度(12月)21.8度
【降雨日数】
(1月)8日(2月)5日(3月)3(4月)6(5月)14(6月)13(7月)21(8月)19(9月)25(10月)7
(11月)10日(12月)2日

1月でも最高気温が35.5 度あり、7月の35.6度と変わらないのですから、一年中、常に暑いとは言えますが、4月、5月は突出しています。

これは、タイだけではなく、南アジア、東南アジア全体に共通する「認識」だそうで、アジア(の常識)を知らない自分を再確認しました。

「真夏」とは相対的なものであり、ある地域では8月であり、ある地域では4月であるのです。

少なくとも8月が一番暑い日本に住む人々は、季節感を東南アジア諸国と共有していないことになります。

4月、5月を乗り越えれば、後は涼しくなると感じるアジア人と、5月に春を引きずる日本人では生活様式が違うのが当然なのではないでしょうか。

それにしても、バンコクは暑く感じました。

このところ、インドでは、4月中旬から続く熱波で、熱中症などによる死者が1100人を超えたと報じられています(毎日新聞、2015年5月27日)。ここ数年で最悪レベルの猛暑になっているそうです(同上)。

相対性を越えて、やはり、バンコクの暑さは異常気象も加わっていたのではないでしょうか。

2015年5月25日 01:21

芸術のためならば狂気は容認されるのか?:映画『セッション』が問う教育

教育とは、本当に難しい仕事です。

『セッション』(原題 Whiplash)

制作国 米国
制作年 2014年
監督   デイミアン・チャゼル
出演   マイルズ・テラー、J・K・シモンズ

あらすじ
【米国の名門シャッファー音楽学校へと入学したアンドリューは、世界に通用するジャズドラマーになろうと夢見ている。そんなある日、同音楽学校の中でも最高の指揮者として名高いテレンス・フレッチャーが彼の学ぶ初等教室へ足を運ぶ。アンドリューの卓越した演奏は、フレッチャーの目を引き、彼は同校の最高峰であるフレッチャーのスタジオ・バンドに招かれる事になった。以来、アンドリューは、フレッチャーの完璧な演奏を目指すために、手段を選ばない(暴力をも辞さない)指導に、おののきながらも、必死に食らい付いていく。しかし、フレッチャーのレッスンは次第に狂気じみたものへと変化し、アンドリューは限界を迎える(シネマトゥデイ参照)。】

青年アンドリューが、フレッチャーに認められ、貶され、批判され、叩きのめされ、這い上がっていく物語です。

アンドリューとフレッチャーの関係は、昭和のスポ根アニメを彷彿させます。「狂気」ともいえる関係性の中で、音楽が成熟していきます。

こんな指導者は、現実にはパワハラですし、(ネタバレですが)映画でもパワハラとなります。しかし、それを含めてラストシーンでは、「芸術」として昇華させられていく(ように見える)のです。

私は、大学の教員でもありますので、色々と考えさせられました(この作品は、それぞれの立場によって見方が異なると思われます)。

私は、芸術系の教員ではないので、多くの学生を踏み台にして、また才能のある人を苛め抜いて、一人の優秀な人材を創り出す意味をあまり感じません。

しかし、その音楽が多くの人の幸せや喜びに結び付くのなら、(教育としては否定されても芸術として)肯定されることなのかもしれません。果たして、2人の創り上げてきたものは、他者の幸せや喜びに結びつくのでしょうか。

既に、この映画を巡っては、この作品を音楽から批判するジャズ専門家である菊地成孔氏と、この作品を映画として肯定する映画評論家の町山智浩氏の間で、熱い論争が繰り広げられています。

多岐にわたっての論争ではありますが、最終的には「『セッション』は強烈なパンチだけで、ラヴ(愛)がない」(菊地氏)のか?に集約されます。それは、師弟愛ではなく、より人間的な「広がり」=和を意味するのでしょう。

難しい「問い」です。

でも、「問える」ということは、映画としては成功したことになります。

2015年5月24日 15:26

「負の遺産」から学べることは計り知れない

今月初め、国連教育科学文化機関(UNESCO)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が、幕末から明治にかけての重工業施設を中心とした施設(「明治日本の産業革命遺産」)の世界文化遺産への登録勧告を行って以来、韓国、中国との新たな問題となっています。

今回、日本が申請しました産業革命遺産は福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、山口、岩手、静岡の8県11市に跨り、具体的には「軍艦島」の通称で知られる端島炭坑(長崎市)、官営八幡製鉄所(現・新日鉄住金八幡製鉄所、北九州市)、三池炭鉱(福岡県大牟田市、熊本県荒尾市)、三菱長崎造船所(長崎市)、「近代化の思想的な原点になった」として推薦された松下村塾(山口県萩市)などが含まれます(日本経済新聞、5月4日;産経ニュース、5月4日;読売online、5月15日)。

これに対しまして、韓国では、「強制徴用の恨(ハン)が漂っている施設の遺産登録に反対する」と批判が起こり(中央日報、5月6日)、韓国のパク・クネ大統領は、「日本が非人道的な強制労働が行われた歴史に背を向けたまま登録を申請することは世界遺産の精神に外れ、国家間の不必要な分裂を招く」と反対を表明しています(NHK News Web、5月21日)。

中国も、中国外交部の華春瑩報道官が5月14日、申請された施設23カ所の中には戦時中、中国人らが強制労働させられた施設が数多くあると指摘して、日本に対して適切な対応を取るよう求めています(Record China、5月15日)。

これらのリアクションに対しまして日本政府は、日韓併合の1910年以前の時期を対象として推薦しているため、批判はあたらないと反論し、今回の対象施設は、(強制連行が行われた)日韓併合以前の1850~1910年に建設されていると説明しています(ウォール・ストリート・ジャーナル、5月21日)。

私は、世界遺産において「負の遺産」はとても重要であると考えています。「失敗」から人類が学ぶことは計り知れないのです。

既に、広島の原爆ドーム(1996年、世界遺産登録)、アウシュビッツ強制収容所(1979年、世界遺産登録)等の例は挙げられていますし、近代化、帝国化の歴史という側面から2004年には、英国のリヴァプール市が「海商都市リヴァプール」として世界遺産登録されています。このリヴァプールの世界遺産化に際しては、奴隷貿易という「負の遺産」についても言及されており、英国の国威発揚に利用されている訳ではありません。

私は上記の理由から、今回の「明治日本の産業革命遺産」も、世界遺産に値すると考えます。英国から始まった産業革命が、極東の島国・日本に伝播し、周辺国よりも早く日本が産業化したことは客観的な事実です。

日本がどのように産業化、近代化していったのか、そして、どのように発展し、軍事国家へ結びついていったのかは、長年、国内外の日本学者の間で問われてきた普遍的テーマです。

時代が異なるというような時代区分で逃げずに、(その後の負の要素も含み)世界的、普遍的遺産として再提示すべきなのではないでしょうか。

 1  |  2  |  3  | All 次へ >>

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (26)
スポーツと社会 (114)
ネパール (26)
国際事情(欧州を除く) (223)
大震災/原発事故と日本 (28)
御挨拶 (13)
日本政治 (121)
日本社会 (258)
映画で観る世界と社会 (284)
欧州事情 (92)
留学生日記 (66)
英国 (96)

ページトップへ

カレンダー
<< 2017年05月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
最新記事
恋愛映画は社会の恋愛観を映し出す: 映画『ひるなかの流星』における選択
映画評論家バリー・ノーマン氏から学んだこと
プロパガンダ映画を作るという恋愛映画: 映画『人生はシネマティック!』の洒落れた嘘っぽさ
2017年 ネパール滞在記(11): 6,7日目 次、どこにいきましょうか?
2017年 ネパール滞在記(10): 5日目 You're Beautiful
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草