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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2014年8月

2014年8月27日 01:18

なぜ、オバマ大統領の米国で人種問題が起こるのか?

前々回、米国ミズーリ州セントルイス郊外ファーガソンにて発生しました白人警官による黒人青年射殺事件を採り上げました。それはファーガソンに限定されず、全米的な課題でもあります。

バラク・オバマ氏が、2009年1月20日に初めてのアフリカ系の血を引く「黒人」として第44代大統領に就任した時、米国が人種問題を「克服した」かのように(少なくとも大きな前進であると)報じられました。

オバマ大統領の実父のバラク・オバマ・シニアは、ケニア出身のイスラム教徒であり、ハワイ生まれのオバマ氏は、明らかに過去の大統領とその出自が異なっていました。

しかしながら、今月、ミズーリ州で発生した事件が、オバマ大統領の誕生(とその5年半の政権期間)が、米国の「人種問題」を解決しなかったことを露呈しました。

「黒人(ハーフ)大統領」の誕生は、バスケット、ベースボール、アメフト、ボクシングの黒人ヒーローの存在がそうであったように、それは専門職の社会においては大きな前進ではあったかもしれませんが、「残された人々」の間の差別・被差別の構造を根本的に変えることはなかったことになります。

グローバル化する社会は、世界各地にエリート層を創出します。

この時代に生み出された経済的・政治的・文化的エリートは、人種、宗教、民族、国籍、性別を問われません(政治家の場合、国籍は問われますが)。しかし、彼らの存在は、残念ながら、この世の中の人種、宗教、民族、性別、国際問題の解決を意味しないのです。むしろ、分断された社会におけるエリートの存在自体が、格差問題を孕む一つの構造と言えるのです。

エリートの創出はグローバル化の必然であり、今後も「黒人初」「女性初」「~教徒初」が登場し続けることでしょう。しかし、彼らは、第一に社会の超エリートであり、黒人性、女性性、宗教性などの(彼らがどのように自分自身を語ろうと)もって生まれた属性は希薄なのです。

逆に考察することもできます。このような時代だからこそ、オバマ大統領は白人の支持も得て大統領になれ得たのだと(それでも、黒人系のオバマ氏が大統領になれたことは、黒人系にもトップに繋がる政治エリートの道があることを証明できたことにおいて評価すべきです)。

今後、黒人系、ヒスパニック系、アジア系の米国大統領が誕生するかもしれません。女性初の大統領もあり得るでしょう。しかし、人種や格差等の社会問題は完全に解消されることはなく、今回のファーガソン事件のように定期的に顕在化するのではないでしょうか。

オバマ大統領なのに「人種問題」を解決できないと考えるべきではないのでしょう。オバマ大統領でも白人系大統領と同じように、できないと見なすべきです。

「人種問題」は、大統領が何系であるということと、別に考えて対処しなければならないのです。

2014年8月24日 00:56

バンコク、代理出産問題を考える

7月下旬にバンコクに短期滞在して以来、当ブログにてタイについて断続的に記してきました。

8月上旬、実業家の日本人男性が代理出産によって10人以上の子供を儲けたというニュースがありました。最終的に子供の数は16人とされ、子供の親はDNA鑑定によって同一人物であることが確認されています(朝日コム、8月18日)。

違法性があるかどうか現段階では定かではないのですが、タイでの代理出産が「安い」ということはその背景にあると考えます。ちなみに、16人のうち1人の代理母は約30万バーツ(約100万)を報酬として受け取ったと語っています(産経ニュース、8月24日)。

当ブログ(2014年8月2日)で計算しました通り、日本とタイでは約5倍の所得格差(世帯単位)があり、30万バーツは現地では高額です。しかし、1人の命を何か月もお腹で育て、そして出産する値段としては(先進国基準からは)高くはないでしょう。

タイの首都バンコクはアジアを代表する大都市の一つであり、繁栄しています。決して、バンコク全体としては貧困に苦しんでいるとは言えません。高級ホテルや高額なモノは、幾らでもあります。

しかしながら、著しい格差があり、平均所得以上に「人(手)」の値段が安価なのです。それ故に、バンコクは、概して質の高いサービス業が安く得られると言えます。

つまり、日本とタイとの格差もあり、バンコクの中も格差化しているということです。日本の富裕層がこの格差を利用しますと、何らかの目的のため、代理出産によって何十人、何百人の子供を残すことが現実的に可能なのです(日本だけではなく、他国やタイの富豪も可能ですが)。

私は、その是非はともかく、ヒト、モノ、カネの国境を越えた移動(=グローバル化)を止めることはできないと考えます。私たちの日常の消費生活を鑑みても、グローバル化は不可避なのです。

だから、グローバル化の諸問題に対しては、グローバル化を批判するのではなく、グローバルに対処するしかないと考えます。その重要な項目の一つは、人権のグローバル化に他ならないと思います。

誤解して頂きたくないのは、格差を利用したビジネスが悪い訳と言っている訳ではありません。仮に、悪いことであったとしても、格差を利用したビジネスは、格差がある限り、無くなることはないでしょう(当然ですが、格差を利用したビジネスは、格差を縮小する経済効果もあり、無碍に否定することはできません)。

しかし、人の命に係わる問題は、例外項目であるべきです。グローバル化が人類のためになるかどうかを、突きつけられているかのように見えます。

2014年8月23日 12:00

米国・黒人青年殺害(ファーガソン)事件を考える

今月9日、米国ミズーリ州セントルイス郊外ファーガソンにおいて、白人警官による黒人青年射殺事件が発生し、その後、抗議デモが続いています。ファーガソンの人口の約7割が黒人であり、この事件とデモの背景には「人種問題」があるとされています。

問題は、「人種問題」を引き起すだろうと考えられる構造が、ミズーリ州ファーガソンに限定されないことです。

セントルス大学の犯罪学者ノーム・ホワイト博士によれば、ファーガソンの構造は、他のセントルイスの郊外都市にも当てはまるとしており、その説の延長上に、Time誌は全米の大都市の郊外問題となりつつあるとしています(Time,  "How Ferguson Went From Middle Class to Poor in a Generation",  18 August)。

つまり、ファーガソン事件は、ミズーリ州、セントルイス、ファーガソンという特殊性が背景にあるとはいえ、全米の他の大都市の郊外でも「再発」する可能性があるのです。

上記を前提にファーガソンの社会構造を考えてみます。

黒人が大半を占めるミズーリ州ファーガソンは人口2万1千人ほどの小さな市ですが、貧しい地域です。実際に、ファーガソンの年間平均所得は37,500ドルであり、全米平均の47,300ドルよりも約1万ドルの差があります(U.S. Census Bureau, Bloomberg, "Ferguson Unrest Shows Poverty Grows Fastest in Suburbs," 19 August)。

しかし、この黒人率の高さと貧困化は、歴史的なものではなく、比較的近年に起ったものです。2000年において、ファーガソンの貧困率は10.2%に留まっていたのですが、2012年においては22パーセントと倍増しているのです(Bloomberg, 19 August)。この急激な経済状況の悪化は、主に白人系の中間層と富裕層が、ファーガソンから逃げ出していることに由来します。
1970年においてファーガソンは人口の99%が白人系であり、1990年においても74%が白人系でした。しかし、2000年には45%と過半数を割り、逆に52%が黒人系になります。そして、2010年には白人系は29%まで落ち込み、67%が黒人系となります(USA Today, "5 things to know about Ferguson Police Department" 19 August 2014)。

この問題を単純に「人種問題」としてのみ認識すべきではなく、貧困化の問題がファーガソンの黒人化の問題と結びついていると捉えるべきです(おそらく、少ないとはいえ、黒人系の中間層・富裕層も他の都市に移住しているのではないかと考えます)。

ここでは、(都市間、階層間)格差化と人種問題が重なっているのです。

今回の事件ではファーガソンの行政が、少数派の白人によって担われていることが批判されています。市長や市警本部長のポストは少数派の白人であり、警察も全53人のうち黒人は3人のみです(ABC  News , "Racial Tensions Are Not New in St. Louis Suburb" 12 August 2014)。

このようなアンバランスさが、事件の直接的な原因とされています。

しかしながら、私は、仮にファーガソンの警察官の7割が黒人になっても(まずはそうすべきですが)、事件の社会的背景に貧困率の高さがあるならば、貧困が改善されない限り、当然、社会の歪は他の形で問題化すると考えます。

ファーガソンに残された(今後残されていく)白人系住民も富裕層ではなく、貧しい白人系と黒人系住民の対立は警察の比率で解決するとは思えません。よりマクロ的な処方箋が必要なのではないでしょうか。

2014年8月20日 19:54

携帯電話を持つホームレス

当ブログ8月16日において、電線だらけで、露店が大通りの歩道を埋め尽くす今日のバンコクを歩きながら昭和(後半)を思い出したことを記しました。

ただ、昭和の日本と21世紀のバンコクは大きく異なる点もあります。

7月下旬、私が宿泊したバンコク市内のホテルの近くには、ホームレスの親子がいました。

2歳ぐらいの男の子を抱えた30歳ぐらいの女性が路上に横断歩道の一角に座り込んで「お恵み」をリクエストしてきます。

私は短期滞在の間、毎日、何回も「会い」ましたので、その生活スタイルが目に入って行きます。

彼女(お母さん)は、携帯電話を所持しており、よく長話をしていました。

携帯電話は、当然、電話線が無くても電話できますので、ホームレスでも持つことができるのでしょう。その親子は、職業として「物乞い」をしており、どこかに、「ホーム」がある可能性も否定できませんが、携帯電話を持ちながら日中に「物乞い」をしていたのは事実です。

失礼だと考えまして写真はお願いしませんでしたが、膝に幼児を抱えながら携帯電話で話すバンコクの「物乞い」は21世紀の一断面であり、とても絵になっていました。

もちろん、携帯電話を持っていることで、彼女が裕福であるとは全く言えなく、むしろ相対的貧困の中で苦しんでいる可能性が高いでしょう。

そういえば、この20年、タイの政治に大きな影響を与えてきたタクシン・チナワット元首相(首相としての任期は2001年2月―2006年9月)はタイ国内最大のシェアを誇る携帯電話会社「アドバンスト・インフォ・サービス」を所有していました(厳密には、タクシン氏が持つシン・コーポレーション・グループの子会社です)。

今年5月に政権を追われたタクシン氏の実妹でインラック・チナワット前首相も同社の社長でした。

1980年代、警察官僚だったタクシン氏は政府から携帯電話サービスの営業権を買い取り、「アドバンスト・インフォ・サービス」社を立ち上げました。大成功を収め、携帯電話会社を、タイを代表するコミュニケーション会社に発展させ、巨額の富を築くのです。その後、タクシン氏は、満を持して政界に進出します。

私が会ったホームレス親子の母親の携帯会社が「アドバンスト・インフォ・サービス」だったかどうか分かりません。

しかし、携帯電話を制する者が、国家を制すると言えるような気がしました。それが、国の政治の安定をもたらさないことも今日性なのかもしれませんが。

2014年8月18日 23:31

悲劇が続くのに不幸ではないのはなぜか:映画『ガープの世界』にみるウィリアムズの世界

ロビン・ウィリアムズ追悼、第2弾です。

『ガープの世界』(原題:  The World According to Garp)

制作国 米国
制作年 1982年
監督   ジョージ・ロイ・ヒル
主演   ロビン・ウィリアムズ

あらすじ
【1944年代、米国ニューハンプシャー州ドッグズ・ヘッド・ハーバー。看護婦のジェニー・フィールズは、男の性的欲望を憎んでいたが、子供だけは欲しかった。そこで、彼女は、当時、勤務する病院で看護を担当していた意識不明のまま寝たきりの状態であった軍人・三等曹長のガープ(Technical Sergeant Garp)との間に子供を儲けることにする。生まれた子供をT.S.ガープと名付け、1人で育てる。やがて、成長したガープは高校でレスリング部に入り、コーチの娘ヘレンと恋に落ちる。読書好きのヘレンが、将来作家と結婚したいと語ると、ガープは作家なることを志し、母ジェニーと一緒にニューヨークに引っ越す。しかし、ガープではなく、母ジェニーが、『性の容疑者』 という自伝を書いてベストセラー作家になってしまい、一躍フェミニストたちの教祖的な存在になる。間もなくガープも作家デビューを果たし、大衆受けはしないが、評論家好みの作品を発表し続ける。そして、予定通り、ヘレンと結婚し、2人の子供に恵まれる。順調で平穏な生活は、ガープの浮気と、ヘレンの浮気が、大事故をもたらすことによって崩れ去る。ガープとヘレンは、フェミニストの救済の家となったジェニーの自宅で静養することで、和解するが、フェミニストのシンボルとなった母・ジェニーの命が狙われ、後にガープにも悲劇が続くことになる。】

悲劇が続くのに、どんどん(「悲喜劇」の)物語に引き込まれていきます。悲劇が続くのにガープは不幸とはいえないのです。

政治的なテーマとしてフェミニズムを描きながら、ガープは、彼の誕生自体が母をフェミニズムの象徴としたにもかかわらず、フェミニズム運動からも距離を保ち、客観的に見ています。ガープは自分の価値観で、精一杯、生きているのです。

ガープは、自分の誕生が謎めいているからこそ、誰よりも過去と想像を大切にします。普通ではない「ガープの世界」において、彼は安定や幸せを求めます。しかし、普通ではない「ガープの世界」は周囲との関係で壊れていきます。しかし、壊れながらも、彼は「不幸」には見えないのです。

ジョン・アーヴィングのヒット作を、映画としても成功させたのは、脚本や監督の演出もあるでしょうが、主役を務めたロビン・ウィリアムズの名演技もあると考えます。ウィリアムズは撮影時、31歳、2本目の主演作品でした。

今、改めて同作品を観ますと、面白い父親像、教師(コーチ)像、女装、その後のウィリアムズの作風の原点になっているようにも思えます。それ故に、ウィリアムズが亡くなった今、同作品を観直しますとより強いインパクトがあります。

同映画は、後のウィリアムズ作品のようにウィリアムズ性が全面に出ることはなく、ガープを演じ切ります。主題歌は、ビートルズの1967年の楽曲『ホエン・アイム・シックスティー・フォー』なのですが、まるで映画のために作られたようにフィットしています。ガープ、ウィリアムズ、主題歌、ビートルズの誰(どれ)が負けているのではなく、それぞれ「ガープの世界」に溶け込んでいるのです。

正しい人生とは何かを教えてくれる作品ではありません。「答え」を提示することはないのです。ただ、人生とは、虚しくて楽しくて悲しくて時に幸福であるということを再確認させてくれるのです。そして、それは、ロビン・ウィリアムズの映画人生と重なるように思えます。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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