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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2014年2月22日 00:00

浅田真央選手に託したもの

ソチ五輪、フィギュアスケート女子フリー(2月20日)で浅田真央選手が滑り終わった時、「ありがとう」という感情を覚えた人は少なくなかったのではないでしょうか。勝ち負けではなく、私たちは浅田選手に何かを託していたように思えるのです。

周知の通り、前日のショートプログラムにて、浅田選手は16位でした。浅田選手が出場した大きな試合では、おそらく最悪の内容だったのではないでしょうか。過去に何回も何回も「普通」にされてきたことに失敗してしまったかのようです(技術的な問題は、素人には分かりませんが)。

旧東ドイツの女子代表として1984年サラエボ五輪、1988年カルガリー五輪を連覇したカタリナ・ビットさんが、浅田選手のミスに関して、「日本ではフィギュアの人気が高く、メダルへの期待も非常に大きい。日本の選手が実力を発揮できなかったのは、その重圧を背負わされたことによるのでは」と分析しています(共同、2月20日)。

浅田選手は、過去に幾度も国民の期待を背負って戦ってこられたので、今回の失敗がプレッシャーだけからくるものなのかは分かりません。しかし、仮にプレッシャーがより重かったとすれば、今回は何が異なったのでしょうか。

勝負事ですので、競技上の環境が変化していた(ライバルが実力を付けていた)ことはあるかもしれません。結果から見れば、数字上、ショートでもトリプルアクセルを成功させ、高得点を出さない限り、メダルには届かなかったことになります。もし、浅田選手が肌感覚で、環境の変化を感じていたとすれば、ショートにおけるトリプルアクセルの失敗は、予想以上に心的なショックを与えたかもしれません。

一方で、そのような環境の変化に気付かずに、2度目の五輪ということで、多くの日本のファンが浅田選手を自己投影的な存在にしてしまったようにも感じられます。

ある生命保険会社の一連のCMでは、高校野球で「夢」破れた若者が、あるいは、就職活動で苦戦している若者が、浅田選手に「夢」を託します。私たちができなかった「夢」を、浅田選手がやってくれるので、私たちも与えられた、繰り返される日常を頑張るという筋立てです。

私は、CMが悪いとは考えていません。CMは、浅田選手への多くの日本人の感情表現であるように思えるからです。当ブログ、2012年11月27日付にあります通り、私も例外ではありません。

前々回、ソチ五輪へ参加している日本人選手が国を背負い過ぎているのではないかと記しました。代表選手が、荷を降ろして、自分の周辺の人々のために頑張ることのほうが、結果的に国への貢献にもなるように考えたからです。

しかしながら、浅田選手の場合は、単純な期待ではなく、人々の人生の「夢」までも託されていたのかもしれません。もちろん、浅田選手も、それをご自分の力にされてきた可能性もあります。

もし、今回、それが結果として、浅田選手への過度のプレッシャーになっていたとすれば、今後、皆が託した「夢」を、それぞれが引き取り、それぞれが自分なりに「夢」を背負っていくしかないのではないでしょか。今まで背負ってきてくれた浅田選手に最大限の敬意を払いながら。そして、身軽になった浅田選手が、これからもリンクで滑り続けてくれることを願って止みません。

最終的にソチ五輪の浅田選手は6位でした。フリーは自己ベストの素晴らしいパフォーマンスでした。

ソチ五輪で、浅田選手がもし簡単に金メダルを取ってしまったら、私たちは気付かないことがあったかもしれません(浅田選手に「夢」を託し続けたことでしょう)。国が何個メダルを取るかよりも、もっと大切なことが五輪(人生)にはあるように思えます。

浅田選手には、やはり、「ありがとう」しかありません。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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