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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2013年10月

2013年10月30日 00:00

職人は「偽装」も「誤表示」もしない

先日、学会があり、青森県八戸市を訪れました。

大会実行委員長を務められた地元の先生に、学会発表の前日「仙人のお店」に連れていって頂きました。そのお店は、大変ユニークでした。

お店のマスターは、自ら山に登り、松茸を含む様々な椎茸や薬草を採り、自ら海に潜り、魚を捕るのです。ミネラウォーターも山で汲みます。竹の筒に入って出てくるお酒を除けば、全て長年培ってきた自分の職人技によって得られるものです。

「それ食べても大丈夫なのですか?」とマスターは良く聞かれるそうです(正直申しまして、最初は「私も大丈夫かなぁ」と不安でした)。

そういう時は、「大丈夫だよ」とまず自分が食べるそうです。マスターは、お客さんと一緒に食べて飲んで、ギターを弾きながら歌います。「お客さんが食を楽しんでるのに、自分だけ見ている訳にはいかないわ」と言っていました。

大きなお店ではありません。むしろ、小さいと言えますので、大儲けは無いかもしれません。それでも、職人マスターは本当に楽しそうでした。

先日、阪急阪神ホテルズが運営するホテルのレストランなどで発覚した食材偽装問題で、阪急阪神の出崎弘社長らホテル側の責任者が、「偽装」ではなく「誤表示」と主張している姿がテレビで映し出されていました。7年間に渡り、23店舗、47品目で「誤表示」があったそうです(産経ニュース、10月25日)。

大型ホテルやレストランになれば、作り手が自ら、食材を山や海でとってきて提供する訳にはいきません。

だからこそ、余計に有名ホテルのレストランが、安価なバナメイエビを「芝海老」と、一般の青ネギを「九条ねぎ」と、既製品のハンバーグを「手ごね煮込みハンバーグ」と、市販のジュースを「フレッシュジュース」と、自家菜園ではない野菜を一部使っていながら「自家菜園のサラダ」と、 冷凍保存した魚を「鮮魚」と「誤表示」することは許されないのです(朝日デジタル、10月22日、読売新聞、10月23日)。

このニュースを見ながら、八戸の仙人のお店を思い出しました。食の職人のマスターは自分が美味しいと感じるものしか出さないのです。

阪急阪神の「誤表示」を知っているレストランの従業員は、喜んで「誤表示」の品々を自ら食べたでしょうか。友達や親に紹介したでしょうか。

八戸の小さな食の職人のお店は、有名人のサイン入りの色紙が沢山ありました。普通、芸能人のサインなどは関心がないのですが、見たこともない食材を彼らも職人マスター(仙人)と一緒に口にしたのかと思うと親近感が湧いてきました。

自らの生き様に拘る職人は「偽装」も「誤表示」もしないのです。

2013年10月27日 01:48

自民党と共産党の「共闘」は何を意味するか?

10月24日の参院予算委員会において、共産党の小池晃氏が安倍晋三首相に対して、企業の内部留保が増えたのみで賃金は下がっていると指摘した上で「もう一歩踏み込んで、"賃上げのために内部留保を活用しよう"となぜ言わないのか」と問いました。

それに受けた安倍首相は「今までも(政労使会議で)内部留保の活用について言及したことがあるが、これからもお願いしたい」と返答し、企業の内部留保を賃上げに回すよう経営側に働きかける意向を強調したのです(時事ドットコム、10月24日)。

この自由民主党と共産党の「共闘」のニュースを観ながら、自民党という政党の面白さを実感しました。労働者の「味方」で、経営者を「敵視」する共産党が、賃上げを要求するのはセオリー通りですが、自民党が経営者に賃上げを求めることを説明するのは簡単ではありません。

有権者は国民なのですから(国民の最大多数に支持されたいと考える)政権与党が労働者の賃上げを求めることはポピュリズム的には分からなくもないのですが、概して、ヨーロッパの大企業や経営者を支持母体とする保守・ネオリベラル系政党や米国の共和党ならば、共産党もしくは革新系政党からの「賃上げ」の呼びかけには二の足を踏むことでしょう。

自民党という政治集団は、靖国神社に参拝し、国内外メディアから「右翼」政党と称されながらも、同時に共産党と政策が一致することもあるのです。しかし、自民党はまたTPPを推進するグローバル資本主義的な側面もあります。

理論的に考えれば、民族成員の全ての優位性と幸福を優先する民族主義と、組織成員の平等性を掲げる社会主義的な政策が合致することは、珍しくはありません。

しかし、社会民族主義的な政策とネオリベラル的な政策は矛盾します。

具体的にはグローバル化の中で自由貿易を推進すれば、社会は格差化が避けられません。グローバル化は、基本的に国家や民族単位ではありませんので、ある国家の全ての労働者が「勝ち組」になり、全て成員の収入が一律に上昇するような状態を達成するのは、一部のマイクロ国家を除けば、非常に困難です(日本でも「勝ち組」の一部の収入が跳ね上がり、大都市では、平均値を押し上げることはあるかもしれません)。

昨年のフランスやギリシャ等のヨーロッパの選挙を観ますと、概して、グローバル化を容認する既成政党が苦戦し、グローバル化を否定する極右、極左の社会民族主義政党が台頭しています。米国の政局の混乱も社会の格差化と無関係ではないでしょう。

そのような意味でも日本の自由民主党は非常にユニークな政党であると言えます。国際比較上、自民党が政権を担っている日本は、何らかの特殊性があるということになります。

2013年10月26日 00:00

大学の教員が高校を訪れ、高校の教員が中学を訪れる時代

今週、ある(兵庫)県立高校へ赴きました。

最近は、多くの大学で教員が高校へ出向き、入試やカリキュラムの説明を行うようです。少子化で、一部のメジャー大学を除けば、どこの私立大学も学生を集めるのに苦労しています。

私立学校振興・共済事業団の調査によれば、この春、40%の4年制私立大が、定員割れしたとされています(共同通信、2013年8月8日)。この調査に回答したのは、全国の576校であり、定員割れしたと答えた大学は232校でした(同上)。日本の大学の総数は、平成24年度において大学数は783校ですので(日本私立大学協会)、実際に定員割れした大学はもっと多いかもしれません。

私の勤務校は、留学生の枠が大きいため定員割れの状態ではありませんが、安心もしていられませんので、私も勤務校の説明道具(要覧や入試関連書類)を持って出かけることになりました。

訪れた高校では、進路指導部長の部屋に案内され、お話させて頂いたのですが、いかにもセールスが下手そうな私を見て、進路指導部長の先生は、「大学の先生も大変ですね」と言われました。続けて「実は、私たちは中学を訪問するのです」、「今は、高校も黙って学生が来るような時代ではないのです」とおっしゃられました。

その先生が言われるには、十数年前頃から大学の教員が高校を訪れ、高校の先生が中学を訪れ、頭を下げ続ける状況となっているようです。

私は、個人的には高校、大学学部レベルでは、どこに入るかはそれ程重要なことではないと考えます。それよりも、入学してから本気で勉強することが遥かに大切です。欧米のように大学院大学時代になれば、大学学部は、昔の高校のように扱われるでしょう。たとえ、良い大学(昔ならば高校)でも、大学院(昔ながらば大学)に行かなければ、「それで」という時代になるのです。

もし、大学同士が、学生獲得合戦をするとすれば、いかに4年間、良い環境で学生が勉強することができるのか、(自分を棚に上げて申せば)良い教員を揃えているのか、インターンシップや留学制度が充実しているか等で競うべきであると考えます。それでも、大学側には限界があります。学生が主体的に頑張らなければ、進学にせよ就職にせよ「次」がないのです。

高校生が主体性を持って大学を選んでいるかは定かではなく、また、どれくらいの大学が(校舎等の見た目ではなく)教育内容で勝負しようとしているのかは分かりません。

私は、「やはり、17歳や18歳では大学の良し悪しなどは分かりませんので、親御さんがしっかりすることでしょうか」と、訪問先の進路指導部長の先生に意見を申し上げましたところ、私よりも親御さんに接する機会の多いその先生は「それも、難しいでしょうね」と笑っていました。

日本の高校、日本の大学はどうしたら良いのでしょうか。課題は多いと思いながら帰路に就きました。

2013年10月23日 00:00

アンパンマンは、なぜ、顔を差し出せるのか?

10月13日、『アンパンマン』の原作者・やなせたかし氏が亡くなられました。

テレビの『それいけ!アンパンマン』は、おそらく私が成人してから最も観た(観せた)アニメ作品だと思います。子供たちが大好きで、DVDを何度も何度も観ていました。私は子供たちに「じゃ、アンパンマン観てなさい」とDVDを流して、家事等をする時間を作りました。

アンパンマンは、おなかを空かせた人がいると、いつも自分の顔を食べさせてしまうヒーローです。

『アンパンマン』は、1973年に発表されたのですが、当時、このアンパンマンが自分の顔を食べさせるという行為は、子供には残酷だと批判されたそうです。

一方で、アンパンマンの自分の顔を食べさせる行為はキリスト教的であるという意見もあります。最後の晩餐の際に、キリストがパンを手に取って裂き、「これはわたしの体である」と言って、弟子たちに与える姿とアンパンマンは重なるというのです(『ハピズム』10月17日)。

別の理由で、アンパンマンが好きなれないと言う知人がいます。彼はアンパンマンが自分の顔を他人にあげる行為が偽善のように見えると言っていました。現実世界には有り得ないというのです。

私はアンパンマンが自分の顔を食べさせる行為は、「ジャムおじさん」との関連で考察すべきであると思います。ジャムおじさんは、自分のパン工場でパンを焼いています。そして、アンパンマンの「新しい顔」を焼き、「顔」の補給や修繕ができるのです。

アンパンマンはジャムおじさんがいる限り、顔をエンドレスに空腹な人々に差し出すこと(また、バイキンマンを戦うこと)ができるのです。

そう考えると、アンパンマンの顔をあげる行為が、残酷でも偽善でもないことが分かります。アンパンマンは、新しい顔を作ってくれる人(ジャムおじさん)がいるから安心して、顔を差し出せるのです。

子供が、他者を意識する年頃に『アンパンマン』に嵌ります。アンパンマンの行為は、「他人に自分のおもちゃを貸したり、食べ物を分けることは良いことだよ」と訴える力があります。そして、その補填はジャムおじさんである、ママやパパがするのです。

パパ、ママがいるから「騙されることも、失うこともないよ」というメッセージです。

現実社会では、お金を他人に差し出しても、誰かがお金を補填してくれるシステムではありません。

しかし、幼児期においては例外なのではないでしょうか。

ある保育園の園長先生がアンパンマンは大体3歳、4歳ぐらいで「卒業」すると言っていたのですが、3,4歳までは、両親や親類(両親や親類がいないならば社会)が、子供たちが何か良いことをするために、何かを失った場合、全力を挙げて補填すべきなのです。

彼らが、大好きなアンパンマンになるには、ジャムおじさんの存在が必要です。

また、大人でも自然災害など理不尽なことで損害を被った時も、ジャムおじさんが現れても良いのではないでしょうか。

東日本大震災の直後、やなせ氏が作詞した『それゆけ!アンパンマン』のテーマソング「アンパンマンのマーチ」のリスクエストがラジオ局に寄せられ、それを聞いた人たちが元気をもらったと話題になりました。

やなせ先生も、積極的に支援活動をされました。

そう、私は、やなせ先生こそ、社会に「安心」をエンドレスに供給する「ジャムおじさん」だったように思うのです。

ご冥福をお祈りいたします。

2013年10月20日 15:05

未来のために過去に向き合うこと:映画『ランナウェイ/逃亡者』にみる仲間と時間

前回(10月19日)、NHK連続テレビ小説の『あまちゃん』を同時代性という観点から論じました。『あまちゃん』では、主人公のアキの母親の青春時代である1984年、85年が何度もフラッシュバックされ、主人公の青春ドラマに重ねられました。どのような青春であっても、人は大人になってから若き頃を顧みるものなのかもしれません。

『ランナウェイ/逃亡者』(原題:  The Company You Keep)
制作国 米国
制作年 2012年
監督   ロバート・レッドフォード
主演   ロバート・レッドフォード
原作 ニール・ゴードン

あらすじ
【かつて、米国でベトナム戦争反対を主張した「ウェーザーマン」という過激派組織があった。1969年、「ウェーザーマン」はミシガン州の銀行を襲撃し、警備員を射殺してしまう。その実行犯の4人は、1人がその場で逮捕されたが、3人はFBIの最重要指名手配リストに載りながら、逃走したまま消息が分からなくなっていた。30年後、2人の子供を持つ元メンバーのシャロン・ソラーズが逮捕される。もう1人の過激派メンバーであるニック・スローンは、ジム・グラントという偽名で社会派弁護士として活躍しながら、シングルファザーとして11歳になる1人娘を育てていた。地元の新聞「オールバニ・サン・タイムズ」の記者ベン・シェパードの取材によって、ニックの過去が暴かれると、ニックは娘を兄に託し、最後のメンバーであるミミ・ルーリーを探す旅に出る。】

サスペンス映画とされていますが、ヒューマンドラマでもあります。かつての過激派組織の仲間は、それぞれの道を歩んでいます。お互いを想いながら、時間を止めコンタクトを取らずにいたのです。

しかし、現在の子供との生活を考え、メンバーの1人であるシャロンが自首する過程で逮捕されてしまうことから、ドラマが動き出します。

元活動家たちは、それぞれが、家族の将来を護るために自分たちの過去に対峙しなければならなくなるのです。そして、過去と現在の狭間でドラマが展開していきます。

原題は「The Company You Keep」です。「仲間=the  Company」は、いつも一緒にいた昔の仲間であり、いつも一緒にいる今の仲間(家族)でもあるのでしょう。そして彼らは、未来に繋がる今を選ぶことで、過去の仲間が(未来を創る)現在の仲間に再生されていくのです。

制作・監督・主演は、1936年生まれの名優、名監督のロバート・レッドフォードです。彼は、1969年において33歳でした。70歳を超えた彼が、今、本作品を送り出す理由を考えれば、過去に向き合うことで、未来を見据えたいということなのかもしれません。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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