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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2013年7月

2013年7月29日 00:27

そうか、君はマルクスを知らないのか

私の勤務校は留学生が多く、特にアジア諸国出身が大半になっています。

講義で、市場主義経済と計画経済の違いについて論じていた際、中国からの留学生に「カール・マルクス知っていますか」と尋ねました。すると、多くの中国人留学生が聞いたことがある程度なのです。中には「知らない」という学生もいました(さすがに毛沢東は全員、知っていました)。

考えてみますと、20代前半の彼らは1990年代生まれであり、既に中国は「改革開放」路線を展開していました。彼らは市場主義経済で生まれ、育ち、「同じ」市場主義経済の日本に留学してきたのです(もちろん、民主主義論の文脈では、「違う」国なのですが)。

毛沢東は「中国人の偉人」として認識している段階であり、かつて世界中の多くの学者が喧々諤々議論してきました社会主義の一解釈上に位置付けられて記憶されている訳ではありません。毛沢東主義とは、多分に愛国主義を含むのです。

中国が社会主義、共産主義の計画経済を放棄したことは世界中が知っています。今更の議論です。しかしながら、中国人留学生にフリードマン、ケインズ、リカード、スミスと共にマルクスを彼らの知らない人物として「紹介」する時、市場主義のグローバル化を再確認せざるを得ないのです。

私は、1990年代後半、ルーマニアの首都ブカレストでルーマニア・アカデミー歴史学研究所の研究生をしていたのですが、ルーマニア人の研究者や学生とマルクスやマルクス主義の話をしたことはありませんでした。

ある日、ルーマニアではマルクスは議論にならないのかと話題に出したところ、知人のルーマニア人の経営学者と政治学者の夫婦が、「東欧のマルクス主義や共産主義を学ぶならロンドンかボストンにがベストだ」と笑いながら語っていました。数年前(1990年代前半)ご主人の経営学者が、ボストンに、奥様の政治学者がロンドンに行った時、両国の書店に社会主義の本が溢れていたのに大変驚いたそうです。

英米(西側)には社会主義や(過去の)共産主義体制について学ぶ研究者は少なくありません。それは、一部の西側の研究者がマルクス主義に傾倒しているだけではないのです。社会主義が嫌いな人も、社会主義関連の著作を手にしているのです。

社会主義の本が一定程度、売れているからという理由で、西欧諸国で今後、19世紀にマルクスが予期した社会主義革命が発生する可能性が高いと言えるのでしょうか(マルクスは西欧で革命が起こるだろうと言ったのです)。

私はそうは思いません。

もし、再び社会主義革命が起こるとすれば、社会主義とは何だったかを知らない(学ばない)国や地域だと思います。私見では、社会主義は社会主義としては顕在化せず、ナショナリズムの顔をして「民族社会主義」として社会を急進化させていくように考えています。

いずれにしましても、学ばない人間は、同じことを繰り返す危険性があります(勤務校の中国人がマルクスを知らないからと言って、13億人の中国人が全てマルクスを知らないとは限りません。きっと学んでいる人もいるでしょうが)。

マルクスの著作を聖書のように読めば、信じるか信じないかの議論になってしまいます。社会主義革命を失敗だと考える人も(二度と失敗しないために)「社会科学的」にマルクスと社会主義を再考する必要があるように思えます。

2013年7月28日 02:11

絵本化された王室:ジョージ王子の誕生に思う

7月22日、英国の王位継承順位第2位でありますウィリアム王子とキャサリン妃の間に第一子である王子が誕生しました。「ジョージ・アレクサンダー・ルイ」と命名された王子の誕生に、英国だけではなく、世界がフィーバーとなっているようです。

英国の王室は、政治的には英国と英連邦と海外領土、英王室直轄領のロイヤルファミリーであり、それ以上ではありません。世界中には他にも王室があり、「数多く」の王や女王がいます。

しかし、英国王室は別格に「世界の王室」となっているように思えるのです。故ダイアナ妃が米国を代表する歌手マドンナと初めて会ったとき、マドンナが「今日は、私よりも有名な人にお会いできて光栄です」と語ったとされていますが、英王室は同じ英語圏の米国でのプレゼンスもあり、その権威がグローバル化されてしまっています。「世界の王室」である故にダイアナ妃の悲劇のようなことも起こり、王子たちも何度となくタブロイド・マスコミに狙われてきました。

裏返せば、世界の人々はお姫様、王子様物語が大好きだと言うことです。それはなぜなのでしょうか。

もしかしましたら、絵本の影響かもしれません。女の子は、なぜかお姫様になりたがります。王子様になりたい男の子が多いかどうかは分かりませんが、〇〇王子という表現は世間に健在です。私たちは王様、お姫様、王子様の物語を日常的に消費しています。

それではなぜ英王室なのでしょうか。おそらく、それは、英王室が伝統を引き継ぐ「本物」だからなのでしょう。21世紀に現存する王や女王は、まるで絵本から飛び出してきたような感覚があります。逆に言えば、英王室の絵本化なのかもしれません。

もちろん、英王室は英国の階級制度の頂点に立っているのも事実です。ですから、英国にはその存在を否定する人や組織も少なからずいます。

しかしながら、英王室の世界的フィーバーは政治とは別のところにあるように思えるのです。王様がいない共和国でも、極東の島国でも、英王室はイメージとして存在することができます。家でお父さんやお母さんが読み聞かせる絵本と結びつく形で、英王室は(英国以外では)階級制度とは別のところに住んでいるのです。

故ダイアナ妃は、マスコミとの確執の中で人権を訴えました。王権神授説の時代は終わりました。絵本化した王室であっても(絵本化しているからこそ)その貴重な存在を、人間としての権利をもって社会的(世界的)にお護りすべきなのかもしれません。

「大衆の時代」と言われて続けて久しく、良くも悪くも多くの国では大衆が政治を動かしていることを認識したうえで、英王室の在り方も理解すべきなのでしょう。ジョージ王子に悲劇が繰り返されないことを願いたいと思います。


2013年7月27日 00:30

非正規雇用、4割をどう考えるべきか

パートや派遣等、非正規労働者が2042万人となり、初めて2000万人の大台を超えました(総務省「就業構造基本調査」2012年)。

雇用全体に占める割合も過去最高の38.2%と4割近くに至っています。1992年の調査では、非正規の人数は1053万人(21.7%)であり、20年でほぼ倍増したことになります(朝日新聞、7月13日)。

過去5年間に正規から非正規に移った労働者の割合は40.3%であり、2007年の前回調査と比べて3.7ポイント増えているのですが、非正規から正規へ移った割合は24.2%と2.3ポイント減っており、正社員と非正規の二極化が進んでいることが浮き彫りになりました(日本経済新聞、7月12日)。

特に深刻なのは15~24歳の若年労働者であり、ほぼ半数が非正規という状態です。若者の非正規化は少子化に直結しています。20~40代を対象に連合が行った調査では、非正規の約6割は「経済的な不安」を結婚できない理由に挙げています(時事ドットコム、2013年6月27日)。

国を挙げて、非正規雇用問題に取り組まない限り、日本の将来は厳しいことになります。もっとも、若者の安定的な雇用の促進は、先進国共通の課題であり、どこも深刻な状況です。むしろ、この課題を解決した国家が、国としてグローバル化の中で勝ち抜いていくことになるのかもしれません。

それでは、政府が企業に強制的に正規雇用を増やせば、日本が「勝ち組」国家になれるのかと言えば、そんなに単純ではないようです。日本経済新聞は「日本の正社員は付加価値を生むための専門性の不足や、長時間労働の非効率さ顕著であり、改革すべき点は多い」と指摘しています(2013年7月9日)。

グローバル化の競争の激化の中で、正規雇用されている社員が専門性に富み企業にとって不可欠な存在であれば、企業がそのようなスタッフを非正規化はできないでしょう(もしそうすれば、有能な社員はライバル会社に移籍してしまうかもしれません)。非正規化の問題は、実のところ正規雇用者の専門性や付加価値の課題と結びついているのです。

誤解すべきではないのは、専門性や付加価値に乏しいという問題点の全てが日本の労働者の個人の責任ではないことです(個人の課題もゼロではないでしょうが)。言い換えれば、社会システムの問題なのです。

政府は、いかに若者が付加価値性や専門性を磨いていけるのか、そのような社会環境、教育環境とは何か。高校、大学、大学院の役割とは何か。総合的にもう一度、考察しなければなりません。正規雇用を増やせと政治家が短絡的に主張するだけでは不十分なのです。

また、個々人も(若者も)、日々グローバル化している現状を把握し、専門性を身につけるために何をすべきかよく考えるべきです。それは、当ブログでは何度も書いております通り、勉強を嫌々するのではなく、自分がとことん打ち込める「好きなこと」を見つけ、徹底的に磨き、可能な限り(他者に代えられることのない)Only Oneの存在に近付くことなのではないでしょうか。

2013年7月24日 00:00

参議院選挙に思う:夢はいつまで続くのか?

7月21日、第23回参議院選挙の投開票が行われました。

昨年、12月の衆議院選挙が第二次安倍政権とアベノミクスの「始まり」であったとすれば、今回の参議院選挙は「ねじれ国会」として参議院に残っていた「民主党政権」の「終わり」を印象付けた結果となりました。

しかしながら、それも想定内であり、センセーショナルな結末ではありませんでした。予期された惨敗であるが故に海江田万里・民主党代表への厳しい声も聞こえず、代表も続投されるようです。民主党政権とは何だったのか、そろそろ本格的に「歴史」として分析しなければならない段階に来ているのかもしれません。

票の動きとしては、先日の東京都議会選挙と似ていました。自民党の大勝と民主の予想通りの惨敗、公明党は手堅く議席を確保します。そして、共産党は健闘し、日本維新の会は票が伸びず、実質上、敗北します。6月29日に記しました通り、民族主義(ナショナリズム)に立脚する急進的な右翼勢力が見当たらないのです。

改憲を主張する安倍政権はどうなのかと言われれば、確かに首相の主張には右翼的な傾向があるかと存じます。歴史認識や憲法改正の発議要件を緩和する96条改正の主張などナショナリズム的です(厳密には民族主義というよりも国家主義的ですが、その議論は後日)。しかしながら、アベノミクスと称される経済政策は、特にナショナリズムが特徴ではありません。金融緩和政策、財政出動、成長戦略、TPP参加、財政健全化と概して(多分にグローバル化を意識した)資本主義的な政策です。

ナショナリズムと資本主義の組み合わせがいけないのではなく、むしろ、安倍政権の大勝利はどちらかの色を全面に出さなかったことにあるように思えます。そして、(親米)ナショナリズムと資本主義とは、戦後昭和(55年体制)において自民党の長期政権を維持させた「イデオロギー装置」であったようにも思えるのです。

もちろん、昭和の自民党で改憲派は異端でしたので、昭和の歴代自民党政権と安倍政権が同じだとは申しませんが、現段階では「枠組み」を逸脱するものではないと考えます。

問題は、この「枠組み」が今後も維持できるのかということです。ナショナリズムを全面に出せば、外交関係も難しくなります。アジア諸国の関係ばかりではなく、米国が昭和型の二国間関係をベストと認識しているとすれば、日米関係にも影響してきます。

アベノミクスを基本に、グローバル経済を全面に出せば、日本も格差社会化します。バラマキ政策によって皆を満足させるような財政的余裕は今の日本にはありません。格差社会は、ナショナリズムを急進化させます。ヨーロッパ諸国にみられるように「下からのナショナリズム」が、新たな急進主義的な右翼、左翼勢力を台頭させるかもしれないのです。

参議院選挙の投票率は52.61%でした。選挙に行かなかった人も含めて、人々はナショナリズムを掲げながらグローバル資本主義での日本の復活(狭義に、個々としては「バブルをもう一度」)という「アベノミックス」の夢を見たように思うのです。

多くの人がハッピーであるとすれば(そして、安倍政権が支持を失った時、政治が急進化してしまう可能性が高いとすれば)できるならば、この夢は覚めて欲しくないものです。ただ、それが持続可能かどうかについて、国際的な情勢を考慮しますと、残念ながら私は懐疑的にならざるを得ないのです。

2013年7月21日 23:46

英国人の憧れのインド:映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』のステレオタイプ

当ブログ7月13日付で、英国人のフランス(特に南仏)に対するステレオタイプが描かれている映画として『プロヴァンスの贈りもの』を紹介しました。英国人のステレオタイプ映画としては『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』も挙げられます。ただ、本作品のほうが、捻りがあります。

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(原題: The Best Exotic Marigold Hotel)
制作国 英国
制作年 2012年
監督 ジョン・マッデン
主演 ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミス
原作  デボラ・モガー(『These Foolish Things』)

あらすじ
【インドの高級ホテル「マリーゴールド・ホテル」で老後を、という宣伝に魅了された7人の英国人シニアが度英国を離れ、インドに移住してきた。彼らにはそれぞれ理由があった。夫を亡くし、借金のため自宅を売らなくてはならなかった女性、英国に家を買うはずだったが、退職金を貸した娘が事業に失敗してインドへ来た夫婦。股関節の手術を受けようとした女性は、英国の病院では半年待ちと言われ、渋々インドへ。異国の地での最後のロマンスを願う男性。結婚と離婚を繰り返し、お金持ちの夫を探している女性。以前この地に住んでいた同性愛者の元判事の男性。しかし、実際の「マリーゴールド・ホテル」は彼らが想像していた優雅な生活とは程遠いものだった。】

本作品は、前述の通り、英国人のインドへのステレオタイプが土台になっています。インドの優雅な生活は英国人中産階級(以上)にとって一度は人生にあっても良い経験と認識されているのです。それは、植民地主義の名残と言ってもいいでしょう。登場人物の7人はそれぞれ英国の生活で挫折しています。挫折の中で失ったものを、インドの優雅な生活で取り返そうとするのです。

しかし、実際のインドは奥深く、それ程甘くもありません。英国での挫折を補填するどころか、「騙されて」しまうのです。

本作品はステレオタイプに土台にしながら、ステレオタイプで終わらないのは「騙された」後、本当の人生が始まることです。7人はそれぞれ、等身大のインドと等身大の自分を直視して、大きなインドで、小さな幸せを見つけていくのです(やはり、インドは偉大であるという別のステレオタイプかもしれませんが)。

それから、本作品は当ブログ5月29日で紹介しました『カルテット!人生のオペラハウス』と同系統の英国が得意な老人映画でもあります(マギー・スミスは両方に出演しています)。インドでも元気です。

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プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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