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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2013年2月27日 06:30

政治性を超越した名作:映画『カサブランカ』にみる恋愛と政治

先日、当ブログにて戦後直後、フランスでドイツ人と関係があった女性が「丸刈り」にされたことに関して記しました。担当講義にて、このフランスの「丸刈り」騒動を採り上げようとした際、映画『カサブランカ』を思い出しました。イングリッド・バーグマンが演じるヒロインの描かれ方が好対照であるように思えたのです。

『カサブランカ』(原題 Casablanca))
製作国 米国
製作年 1942年
監督 マイケル・カーティス
出演 ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン
受賞 1943年米国アカデミー賞作品賞、監督賞

あらすじ
【舞台は、1942年、フランス領モロッコ・カサブランカ。フランス本国は、北部がナチス・ドイツに占領されており、南部はドイツの傀儡、ヴィシー政権が支配している。カサブランカは、ヴィシー政権下であるが、ドイツの影響力が高まっている。米国人リックはナイト・クラブを経営しており、体面的には中立を装っている。ある時、反ドイツ・レジスタンス運動の首領ヴィクトル・ラスロと妻のイルザが現れて、リックに米国への逃亡の助けを求める。イルザはリックのかつての恋人であり、2人は運命の再会を果たす。2人はパリ陥落の際、共に逃げる約束をしていたが、イルザは約束の場所に時間になっても現れなかった。カサブランカでリックと再会したイルザは、パリでリックと恋に落ちたのは、夫ラスロが独軍に捕われ殺されたと信じ切っていたからであり、約束を破って姿を消したのは出発の直前、夫が無事であることが判明し、しかも病気で彼女の看護を求めていると知ったからだったと告白する。】

あまりに有名なこの映画は、今まで評論尽くされてきたようにも思えます。

イングリッド・バーグマンが演じるイルザは、反ドイツ・レジスタンスの妻で、ノルウェー人という設定ですが、パリ滞在時、夫ラスロが死んだと思い、米国人リックと恋に落ちます。しかし、死んでいたと考えていた夫は病気ながら実は生きており、リックと別れて、夫の元に帰ります。

カサブランカで再会した際は、今度はリックがイルザへの想いを断ち切り(イルザへの想いがあるが故に)、イルザがラスロと共に逃げることを選択させるのです。

互いに愛を確認し合いながらも、政治に翻弄され、政治の中で生き抜くことを互いに選んだ2人の恋は、名曲"As Time Goes By"と重なり合いながら永遠のロマンスとなっていきます。

米国映画協会AFI(American Film Institute)が公表した1886年から1996年までの米国映画400本を対象にしたランキングにて、『カサブランカ』は「愛と情熱」部門で1位とされています。

しかし、戦後のフランスの「丸刈り」事件を考察した上で見直しますと考えることが少なくありません。仮に、イルザがフランス人で占領下のパリで、ドイツ軍の将校と恋に落ちていたなら、戦後、「丸刈り」にされていたのです。

1942年に米国で製作されたこの映画は、イルザを米国人リックと反ドイツ・レジスタンスの活動家ラスロが奪いあうことでドラマになります。そして、リックは愛するイルザを逃がし、自らは防波堤として立ち上がり、戦おうとするのです。

本来、非常に個人的なマターであるべき恋愛に、政治が介入しているという点では、『カサブランカ』も戦後フランスの「丸刈り」事件も同様です。ただ、戦後において相手がレジスタンスの闘士か、ドイツ人の軍人かによって全く異なった評価に至ります。相手(夫)が、レジスタンスの場合、米国人と結果的に「不倫」しても、夫の元に戻ることで美談になります。ドイツ人ならば「丸刈り」なのです。

もう一つの視点として、舞台がカサブランカであることも看過できません。アルジェリアの人質拘束事件やマリのフランス軍の軍事介入によって、北アフリカにおけるフランスのプレゼンスが注目されました。

北アフリカの人々にとって『カサブランカ』という映画はどのように映るのでしょうか。アフリカの人々にとってみれば、ドイツでもフランスでもヨーロッパの占領軍には変わりありません。「君の瞳に乾杯!」というボギー(ボガート)のセリフに感動するでしょうか。

しかしながらです。映画として本作品は素晴らしく、ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマンの代表作として輝いているのです。

上記のような政治的な恣意性を全て踏まえても名作になってしまう『カサブランカ』という作品を、どう認識したらよいのでしょうか。ハンフリー・ボガートのダンディさとイングリッド・バーグマンの美しさが、政治を超越したということなのでしょうか。であるとすれば、本作品において、映画が政治に勝ったとも言えるのかもしれません。

ウディ・アレンの初期のヒット作に『ボギー!俺も男だ』(1972年)というコメディ映画があります。映画『カサブランカ』に取り憑かれてしまった男性の話です。『カサブランカ』を見ると、不思議に男ならボギーになりたくなるとすれば、むしろジェンダー映画と見なすべきなのでしょうか。

この記事へのコメント

1. Posted by 小林 千三 2013年3月 1日 16:04

青春時代に見て感動しましたが、無知なるが故だったようです。
 立場が変わると、とんでもないプロパガンダ映画であり、噴飯ものだとも言われています。アジアアフリカ諸国はおろか中東諸国でも上映中に大ブーイングが出るようです。

 植民地にしているアフリカのモロッコで「自由だ、独立だ」と叫ぶ白人たちの身勝手さはサスペンス・コメディかとも思われるようです。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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