QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年8月

2012年8月29日 23:46

「格差」はナショナリズムを急進化させる

8月1日に法政大学市ヶ谷キャンパスにて【格差社会と「下からのナショナリズム」~ナショナリズム論からの日中欧の比較考察~】という題目で研究発表を致しました。

極右、極左政党が台頭しました4月のフランス大統領選挙や5月のギリシャ総選挙の結果をナショナリズム論/Nationalism Studiesの文脈から分析しました(他国との比較において極右、極左ではないという指摘もありますが、フランス、ギリシャ国内においては「極」であると言えるでしょう)。一部は、当ブログで記してきた内容とも重なります。

法政大学国際日本学研究所の第5回東アジア文化研究会としてお話させて頂きましたので、簡単にですが中国、日本の例とも比較致しました。

ナショナリズム論においては、ナショナリズムと「不均衡発展」(によって生み出される格差)の関係は70年代から研究の俎上に載せられてきており、グローバル化時代において再考察されるべき視点であると存じます。

発表の概要は以下の通りです。
http://hijas.hosei.ac.jp/tabid/1077/Default.aspx

周知の通り、8月10日、韓国の李明博大統領が、日韓が共に領有権を主張する竹島(韓国名・独島)を訪問しました。8月15日には日本が実効支配をする尖閣諸島(中国名・釣魚島)に、香港の活動家が上陸しました。

ですから、私の8月1日の発表において、2012年8月における両国のナショナリズムの急進化は対象とされていませんが、現在に至っても基本的な見方は変わっていません。

私は、ある国の政治が突如としてナショナリズムを全面に出してきたように見えた際、研究対象としては、そのナショナリズムが良い悪いではなく、第一にナショナリズムが勃興した当該国における社会的背景を分析すべきであると考えています。そして、多くの場合、国内の経済的な「格差」が一つの重要な要因になっていると仮定します。

実際、今回の中国、韓国のナショナリズムの急進化においては(もちろん、両国民の全てがコミットしている訳ではありませんが)、日本国内でも、両国社会の著しい格差化を結び付ける報道がなされています(産経ニュース、8月21日)。

ただし、発表でも繰り返しましたが、「格差」が大きければ大きい程、ナショナリズムが急進化する訳ではありません。「格差」の大きさだけではなく、社会における「格差」の可視化が条件になります。逆に、統計上、「格差」がどれ程拡大していても、社会的に可視化されていなければナショナリズムに発展しない可能性が高いのです。

もちろん、領土問題としてリンクしているのですから、外的要因として国際関係や日本の経済力の弱体化や沖縄等を巡る日米関係の不安定性も無視できません(日本経済新聞、社説、8月23日;高橋洋一氏「領土問題"の背景に日本経済低迷アリ!」8月28日)。

これらの条件が重なり、2012年8月の尖閣諸島、竹島の「政治」は、中国、韓国の「下からのナショナリズム」に結びついた形で顕在化したと見ます(韓国政府はかなり「積極的」ですので、「下から」と言い切ることができないかもしれませんが、現政権が「上から」大衆をリードしているというようには観られません)。

8月1日の段階において、日本では「下からのナショナリズム」が大衆レベルで起こっている(「格差」が可視化され、「下からのナショナリズム」に結びついている)とは言えないと申し上げました。

尖閣諸島や竹島を巡る騒動を経て、今後、日本においても、どのようにナショナリズムが変化していくかは注目していかなくてはならないと考えています。

2012年8月26日 01:09

なでしこはベッカムに匹敵する?:映画『ベッカムに恋して』

ロンドン五輪が終わりましたが、「ヤングなでしこ」のU―20(20歳以下)女子サッカーW杯が続いています。プロ野球も中継もなくなっているゴールデンタイムに、「ヤングなでしこ」の試合が放送されており、女子サッカーが完全に市民権を得たことを実感します。

おそらく、国民的人気という意味では、日本は、世界で(米国と並び)女子サッカーが最も人気のある国になっているのではないでしょうか。

サッカーの母国、英国では女性がサッカーをすることに対し、いまだに社会的偏見がないとは言えません。しかしながら、徐々に変化もしています。

『ベッカムに恋して』(原題 Bend It Like Beckham)
製作国 英国
製作年 2002年
監督 グリンダ・チャーダ
出演 パーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ

あらすじ
【西ロンドンに住むジェスは、デイヴィッド・ベッカム選手の大ファンのインド系移民(シーク教徒)2世の女子高校生。見るだけに留まらず、選手としても才能があり、地元の女子サッカー・チームのエース・ストライカー、ジュールズからチームに入るように誘われる。アイルランド人の男性コーチからもその才能が評価され、本格的に練習に打ち込もうとするが、ジェスの母親は、女性が肌を見せて人前でサッカーをすることに反対する。父親も、ジェスには大学に進学して医者か弁護士になって欲しいと願っており、あまり良い顔をしない。隠れながらもサッカーを続けるジェスだったが、ジェールズとコーチとの三角関係となり、両親にもサッカーを続けていることがばれてしまう。四面楚歌の状況の中、重要な試合日となる。かつて、クリケットの選手だった父親は、最終的に娘に試合に出るように語りかける。試合で活躍したジェスは奨学金を獲得し米国の大学に進学することになる。】

日韓ワールドカップが開催された2002年、イングランド代表のベッカムの人気は絶頂期でした。ベッカムは、今までのサッカー選手の枠を超えたヒーローであり、男性だけではなく、女性にもファンが広がっていたのです。この映画はそのようなベッカムの存在を前提としています。

英国では白人系の英国人でさえ、女子サッカーには偏見があります。ましてやインド系シーク教徒の家に生まれた女の子が、サッカー選手になることはあり得ないと言える程だったのです。

この映画は実話をベースにしており、主人公のモデルの女性は本当にプロのサッカー選手になります。あり得ない話が、ベッカムの社会現象的な人気と共にリアリティを持つのです。

日本に話を戻せば、「なでしこジャパン」は、2002年の英国におけるベッカムの存在に匹敵するかもしれません。約1年前まで殆ど知られない存在であった女子サッカーを、彼女たちがW杯や五輪で活躍することで、殆どの国民が知るスポーツに変えてしまったのです。そして、今や、なでしこが1人も出場していない「ヤングなでしこ」の試合までもが、ゴールデンタイムで放送されているのです。

2012年8月25日 18:10

ルーマニア女子大生殺害事件から学んで欲しいこと

2012年8月15日、ルーマニアの首都ブカレストの郊外にて、夏休みのインターンシップのプログラムに参加し、現地で日本語を教える予定であった東京の女子大生の益野友利さんが何者かによって殺害されました。

空港のビデオカメラによりますと、現地のルーマニア人男性(ヴラド・ニコライ)とタクシーに乗り込む姿が映っており、現在、その男性が事件の容疑者として逮捕されています。

男性は事件を否認していますが、男性が益野さんの携帯電話を所持し、デジタルカメラを転売し、益野さんの遺体に残された(犯人ものと思われる)組織のDNAと容疑者のDNAが検査の結果一致したと報じられています(日本経済新聞、8月23日)。

私は十数年前にルーマニアの首都ブカレストに留学していたことがあり、そのことを知る友人、知人たちから、現地の治安状況等に関して尋ねられました。

当ブログでも書きました通り、今年の初めはデモが続き、ルーマニア経済も厳しいのは確かです。しかしながら、それはルーマニアだけではなく、近隣のハンガリー、ブルガリア、旧ユーゴスラビア、ギリシャでも同様です。ルーマニアだけが近隣諸国と比べ著しく治安が悪化しているとは考えられません(もちろん、日本より悪いことは言うまでもありませんが)。

今回の事件の犠牲者の益野さんは、ツイッターにて1人で夜にブカレスト空港に到着する不安を記していました。現地に知り合いはいなかったようで、空港のカメラに写っている容疑者とは空港で出会い、声をかけられた可能性が高いことになります。

容疑者である段階で彼が犯人であると断定することはできませんが、一般に言えることは、どれ程、優しく声をかけられても、どれ程、親切そうに見えても、外国の空港や駅で知らない人について行ってはいけないのです。

そんなことは今時、子供でも知っていると言われるかもしれませんが、初めての異国で心身共に疲労困憊している時に、ふっと声をかけられてしまうと相手のペースに乗せられてしまうこともあり得るのです。

今回の事件で、留学やインターンシップのために海外に行こう考えていた若者が躊躇するかもしれません。ご両親が「外国はやっぱり危ないわね」と反対するかもしれません。しかし、敢えて言わせて頂ければ、グローバル化の中で外国を無視して生きることはできません。

日本に住み続けようと、海外に出ようと、今後、外国人との接点はますます増えるでしょうし、英語や中国語が、日本国内で使われる頻度は激増するでしょう。そのような状況の中で、(生活圏がどんどんグローバル化しているのにもかかわらず)若者がドメステックに留まっていても、何も始まらないのです。

もちろん、今回は非常に残念な事件でした。益野さんの死を無駄にしないためにも、外国では(特に空港や駅では)「知らない人について行ってはいけない」ということを心に刻み、若い皆さんには海外で頑張って欲しいと願っています。

2012年8月22日 00:00

愛国的パフォーマンスは国益に適うのか?:五輪から考える

今回のロンドン五輪では、男子サッカーの3位決定戦(日本対韓国)の後、勝利した韓国代表の朴鍾佑選手が、韓国が領有権を主張する竹島について「独島(竹島)はわが領土」とハングルで書かれたカードを掲げたことが物議を醸しました。

五輪憲章50条では、五輪開催場所や会場その他関連施設において、いかなる政治的な宣伝活動も認められないと規定されています。そのため、朴選手の行為は憲章違反となり、国際オリンピック委員会(IOC)は同選手のメダル授与式への出席を認めませんでした。現在、銅メダルの剥奪も議論されていると報じられています。

周知の通り、五輪は平和の祭典です。ギリシャの古代五輪では、争いの絶えなかった多くの都市国家が大会期間中は休戦し、五輪に参加しました。近代五輪もその精神を継承しているのです。

しかし、それでも、冷戦時に開催された1980年のモスクワ五輪は、ソ連のアフガニスタン侵攻に関連して、西側諸国がボイコットし、「報復」として1984年のロサンゼルス五輪は多くの旧共産圏諸国が参加しませんでした。

五輪が政治利用されることは、五輪の存在意義に関わることになります。また、このような国際規範に反しないことは、実は非常に国益に適うことでもあります。ある国の代表が、五輪の精神を理解していないということは、その国とってマイナスでしかないのです。

韓国選手に関して申し上げれば、2010年のバンクーバー五輪、フィギュアスケートの金メダリストでありますキム・ヨナ選手が、現役選手でありながら、同年7月にユニセフの親善大使に就任されました。キム選手の社会的活動は、賞賛に値すると思います(ユニセフ親善大使はスポーツ選手の場合、近年、若年化する傾向がありますが、それでも、現役選手とっては大変な仕事でしょう)。同時に同選手は、冬季五輪やユニセフの「平和の顔」となることで、同選手の母国・韓国に多大な貢献をしているのです。

キム・ヨナ選手との対比から考えれば、今回の朴選手の行為は韓国にとってマイナスであったと考えます。国家とは国際的な認知を前提としており、国際的な承認がなければ、存在できないのです。

一見、愛国心に満ちたパフォーマンスであっても、国際的な規範に反してしまう場合、国益を損ねてしまう危険性があり、結果として愛国的行為ではなくなってしまうことがあります。

このことは、日本にも当てはまります。その場凌ぎの「愛国的」なパフォーマンスに惑わされていけないのです(日本人の政治家の個人プレーも、外国の政治家の挑発も同様です)。長期的な視野に立って国際規範を熟知し、何が国益に適うのか、よく考えるべきなのです。

2012年8月19日 04:54

ロンドン五輪は盛り上がっていたのか?(2):スポーツと階層

今回、ロンドン五輪のホスト国である英国は、2008年から2012年において国庫と宝くじの収益を財源にした総額約2億6500万ポンド(約330億円)の強化費を五輪種目に投じました(The Telegraph, 8月13日)。

特に、自転車、ボート、陸上競技、乗馬に多くの予算が割かれました。その結果、金メダルは自転車(7個)、ボート(4個)、陸上競技(4個)、馬術(3個)、ボクシング(3個)となり、獲得した金メダルの総数29個中、21個を上記種目で取っているのです。

この大量のメダル奪取にかかわらず、英国全体としては「盛り上がっている」ようには見えなかったのはなぜでしょうか。

英国の民放テレビ局「チャンネル4」の調査によれば、8月9日の段階において英国のメダリストの38パーセントが私立高校(一部は「パブリックスクール」と称されます)出身者であるとしています(Channel 4 News, "Concerning Grow over Securing Olympic Legacy", 2012年8月9日)。前回の北京五輪では英国が獲得した金メダルの50%以上が私立高出身者によって取られたものだったのですが、私立高出身者は英国全体人口における僅か7%にしか過ぎなく、メダリストの教育におけるバックグラウンドに偏りがあると指摘しています(Ibid)。

所謂「パブリックスクール」は、学問のみならずスポーツに力を入れており、五輪でメダル数を増やそうとしたところ、結果的に「パブリックスクール」出身の多いスポーツ種目に莫大な予算を投下し、強化することになってしまったのです。

特に4個の金メダルを獲得したボートと3個の金メダルを獲得した馬術は富裕層のシンボル的スポーツであり、金メダルが増えても、(もちろん、一部の関係者は盛り上がるのですが)国民全体の関心が高くはならない可能性があるのです。

上記からは英国は未だに階級社会であるために、スポーツが英国では全国民を集約させることにはならないのではないかと思われるかもしれません。しかし、この20年、英国は階級社会から脱し、ミドルクラスを大多数とする社会へ移行してきたのです(「英国暴動の社会的背景:最大多数としての「ミドルクラス」の成立と「社会的排除」問題」『駒沢女子大学研究紀要』2011年12月)。

にもかかわらず、(経済的に階級社会が壊れつつある中で)現段階において、スポーツではまだ旧態依然とした「階層色」(「階級色」)が残っているのです。

そもそも、五輪種目において英国発祥のスポーツは少なくありませんが、スポーツとは富裕層を中心とする極めて個人主義的なものであったと考えるほうが自然なのでしょう。それが、近代五輪が開催されるようになり、徐々に国民を集約させるようになっていったのではないでしょうか。むしろ、スポーツに国民を集約する役割を担わせる方法は、英国に「逆輸入」されたのかもしれません。

英国では現在もスポーツは、特定の種目においては「階層的」(「階級的」)であり、個人主義的な側面が強いことが分かります。故に選手は自分が好きなスポーツを究極に楽しんでいるのです。そして、そのようなライフスタイルは五輪が開催されているにもかかわらず、日常生活やホリディを優先する英国人(必ずしも富裕層に限定されませんが)にも当てはまるのではないでしょうか。

それは旧態依然でありながらも、グローバル化が進展する中で(グローバリゼーションが社会の格差化と多様化をもたらすとすれば)意外に未来の五輪像であるようにも思えるのです。

 1  |  2  |  3  | All 次へ >>

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
カンボジア (27)
スイス (25)
スポーツと社会 (111)
ネパール (15)
国際事情(欧州を除く) (217)
大震災/原発事故と日本 (28)
御挨拶 (13)
日本政治 (116)
日本社会 (252)
映画で観る世界と社会 (266)
欧州事情 (89)
留学生日記 (59)
英国 (94)

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年04月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最新記事
2017英国総選挙(4): 「ニュー」の後の「オールド」の復活
「もしも」ではない今日性: 映画『If もしも....』の反抗とテロ
2017英国総選挙(3): メイ政権のDUP閣外協力が北アイルランドの更なる政治危機を招くのか?
「正しくない」教師の魅力: 映画『ミス・ブロディの青春』が描く、信念と情熱の暴走
2017英国総選挙(2): EU離脱問題は争点ではなくなり、故にスコットランドの独立問題も曖昧に
最新コメント
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
†講談社「週刊現代」...
Posted by 鈴木有介
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草