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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年4月 8日

2012年4月 8日 04:15

EU、大企業役員の40%を女性へ(2): 根拠としての経済的理由

EUは、企業における女性の役員登用の推進(2020年までに40%)の根拠において、人権やフェミニズムよりも経済的な理由を前面に出しています。

例えば、マッキンゼー社の調査において、男女のバランスが良い企業のほうが、男性のみの企業よりも営業利益が56%高いとの結果があるとし、更にアーンスト・アンド・ヤング社による大企業290社を対象にした調査によれば、1人でも女性役員を登用している企業のほうが、そうではない企業よりも収益がはるかに大きい、と言うのです(欧州委員会、2012年3月5日)。

しかし、経営能力において、本来、男女差がないとしても、急な割合制の導入は現時点において、有能な男性が、十分な能力のない女性に取締役の席を譲ることになりかねない、という反対の声も挙がっています(大森剛「欧州が「女性役員4割」へ割当制は本当に有効か?」『日経ビジネスonline』、 2012年3月19日)。

世界で最も女性役員の多い国・ノルウェーでも、女性役員数の増加にはからくりがあり、政府による女性企業幹部育成プログラムを経た人材を社外取締役として採用したに過ぎないとされています(同上)。

いずれにしましても、法制化されますとEU市場でビジネスをする上場企業は女性役員のパーセンテージを上昇させなければならなくなります。

『日経ビジネス』元発行人の酒井綱一郎氏は、このEUの方針は、EU市場で上場している日本企業にも当然、当てはまり、日本企業も近い将来、現地法人の役員の40%を女性にしなければならないだろうと指摘します(TBSラジオ『スタンバイ』3月6日)。酒井氏は、もし、企業が女性役員の大幅なパーセンテージアップを達成できない場合は、それらの企業の株は公的に投資信託から外される可能性もあると予想しています(同上)。

歴史的経緯から、職歴、学歴とも男性に負けない女性の取締役候補者は、年配になる程、少なくなります。ノルウェーのようにEUが女性の企業幹部育成プログラムを創らないとしますと、EU市場において、女性役員の候補者不足が顕著となり、上場する企業は、女性役員の奪い合いになるかもしれません。

それが、女性全体にとって良い方向なのかは分かりません。今後、男性よりも女性のほうが大企業内の昇進にやや有利になることはあっても、女性ならば、誰でも大企業に採用されて、直に役員になれるような状況にはなり得ないからです。飽くまでも、企業経営上、プラスになることがEUの男女平等化の根拠なのですから、根拠が壊れる程、女性の就職と出世が無条件になるとは考えられません。

結局のところ、大企業に勤務する男性が、一部のエリート男性に過ぎないように、大企業の役員の40%を女性にしても、一部の女性に限定される事項になるのではないでしょうか。

以前、言及しました通り、男女平等化が達成されれば、能力のある女性にとって男性と同等に評価される「フェア」な社会がやってくることになります。しかし、概して、女性同士の格差が(男性同士の格差同様)大きくなり、大企業や出世に無縁の女性の生活水準は、相対的に今よりも下がってしまうかもしれません(国家や地域によって状況は違うでしょうが)。

EUは女性全体のために、女性役員の登用を促しているのではないと考えるべきでしょう。むしろ、更なる経済成長のために、男女格差のない「フェアな競争」が必要であるという論調であることを(その効果に関する賛否両論も含めて)忘れてはならないと思います。

もちろん、たとえ、そうであっても、男女平等化は支持すべき政策であることに変わりはありません。
プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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