QuonNet(クオンネット) まなぶ・つながる・はじまる・くおん




グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年4月 4日

2012年4月 4日 21:14

「サマータイム」考

3月の最終日曜日(25日)に、ヨーロッパ各国では「サマータイム」が始まりました。スイスの我が家でも、家中の時計の針を1時間進ませなくてはなりませんでした。

「サマータイム」は良く知られています通り、日照時間が長い春から秋にかけての半年間、実際の時間より1時間早めることで明るい時間を長く余暇に使おうというものです。

半年に一度、3月と10月に時間が変わりますので、1時間の人工的な日没の遅れと早まりによって、春と冬の突如の「訪れ」を体感することになります。先週から夕方の7時(本当の時間は6時です)は、十分に明るくなり、夕食後、ちょっと散歩に出かけることもできるようになりました。

社会的には、アフター5の充実や経済活動が盛んになることが利点として挙げられますが、日本では残業時間が延びてしまう可能性や省エネの観点からは逆効果なのではないかという指摘もあります(朝日新聞、2005年3月26日; 2005年4月8日;読売新聞、2008年8月3日)。

いずれにしましても、ヨーロッパの多くの国では3月末から10月末まで1時間の「偽」時間で過ごします。

ヨーロッパの総人口は約7億人ですので、年に2度、時計の針を回す作業を少なくとも数億人がしていることになります。

「サマータイム」を導入している地域とそうではない地域では、おそらく、時間に対する感覚が異なるでしょう。「サマータイム」導入地域では、もしかしましたら、時間を支配するとまでは言えなくとも、時間は人間が主体的にコントロールして使うものであるという認識が広くシェアされているかもしれません。

日本では戦後の占領下を除き「サマータイム」は導入されていませんが、江戸時代まで(正確には1872年11月1日に明治政府によって「太陽暦=グレゴリオ暦」に変更され、1年が365日、1日は24時間に変更されるまで)は、「太陰暦」と「不定時法」が使われており、時折、その「不定時法」に「サマータイム」との共通点があると論じられることがあります(読売新聞、1993年8月9日)。

「不定時法」では、日の出を「明け六つ」、日の入りを「暮れ六つ」として、昼と夜をそれぞれ六等分し、一つ一つを「一刻」としていました。周知の通り、時刻の呼び方は十二支と数が使われます。

当然、季節によりまして日中の長さが異なりますので、六等分しました「一刻」の長さが毎日、微妙に異なることになります。ただし、日没は一年中、「酉の刻」なのです(日本で交わされる「夕方5時でも暗くなって、もう冬だね」等という会話は、ここ140年間に限定されることになります)。

ですから、江戸時代までは日本もある種の「サマータイム」を導入していたと言う声に繫がるのです(日本経済新聞、2011年6月7日)。

しかし、やっぱり違うような気がします。

江戸期までの日本の「不定時法」では、「一刻」の長さは日照時間に合わせて毎日変化していますので、人工的に「時間を変える」という感覚は人々にはなかったのではないでしょうか。「サマータイム」という概念とは反対に、お天道様に従って「一刻」を常に変化させ、一年中の「自然タイム」に合わせて過ごしていたのです。

【明治期における「太陽暦=グレゴリオ暦」導入後、経済的な利点がありながらも、日本が戦後の一時期を除いて「サマータイム」を採用してこなかった理由も、このような「自然感覚」が日本人に残されているからかもしれません。昨年の原発事故後、電力事情から「サマータイム」を導入する企業や自治体が増加しましたが、欧米的な時計の針を進める「サマータイム」ではなく、始業時間を早める形態が主流になっているのは、新聞等で指摘される通り、ある意味で「不定時法」的です。】

一方、「グレゴリオ暦」を採用するヨーロッパでは、「1日=24時間」、「1時間=60分」は不変です(ここまでは日本も同様ですが)。そして、3月に一気に1時間早め、「サマー」を引き寄せるのです。「サマータイム」は自然を人工的に満喫しようとする人々の意思がはっきりしています。

このように考えますと、「グレゴリオ暦」導入後の140年間の日本は、江戸期の「自然タイム」、欧米の「サマータイム」、どちらの時間感覚でもないことになります。江戸時代程、「自然」ではないし、ヨーロッパ程、「人工的」でもありません。

ところが、昨年、企業や官庁が始業時間を早める「サマータイム」の導入に反対する以下のような意見が新聞の投書欄に掲載されていました(朝日新聞、2011年7月26日)。

あまりニュースにならないが、早朝に間に合わせないといけない職業など、やきもきしていた方々もいるはずだ。簡単に制度をいじることは慎重にするべきだと言いたい。

日照時間に合わせて早起きして働く生活はむしろ江戸時代的であり、その「制度」が140年前に変わったばかりなのですが、グレゴリオ暦に則した「サマータイム」抜きの現行「制度」もそれなりに日本人のライフスタイルに馴染んでいるようです。

私は、ここで欧米流の「サマータイム」制、江戸時代までの「不定時法」、昨年以来の始業時間を早める日本型の「サマータイム」のどれがベターなのかを論じたいのではありません(日本人も「1日=24時間」、「1時間=60分」に慣れてしまっておりますので、「不定時法」に戻すのはさすがに厳しいかもしれませんが)。

ただ、時間と人間の関係は、時代によって変化するということは確かであると思います。明治期に「太陽暦」を導入した様に(「革命的」な変化だったと思います)、社会環境やライフスタイルに合わせて日本人は再び時間制度を変更するかもしれません。

逼迫するエネルギー事情も、環境変化の一つでしょう。もしくは、これほど、生活が多様化すれば、日本という括りでは語れなく、地域や職業によって時間との付き合い方が異なる可能性も大きいのです。

つまり、時間制度も個人の時間の使い方も流動的なのです。そのようなことを思いながら、3月25日、我が家にある5つの時計の針を「力づくで」変えました。10日程経ち、すっかり「偽」時間に馴染んでいます。「偽」であることを感じない程に。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
月別アーカイブ
2018年12月
2018年11月
2018年10月
2018年9月
2018年8月
2018年7月
2018年6月
2018年5月
2018年4月
2018年3月
2018年2月
2018年1月
2017年12月
2017年11月
2017年10月
2017年9月
2017年8月
2017年7月
2017年6月
2017年5月
2017年4月
2017年3月
2017年2月
2017年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
2015年2月
2015年1月
2014年12月
2014年11月
2014年10月
2014年9月
2014年8月
2014年7月
2014年6月
2014年5月
2014年4月
2014年3月
2014年2月
2014年1月
2013年12月
2013年11月
2013年10月
2013年9月
2013年8月
2013年7月
2013年6月
2013年5月
2013年4月
2013年3月
2013年2月
2013年1月
2012年12月
2012年11月
2012年10月
2012年9月
2012年8月
2012年7月
2012年6月
2012年5月
2012年4月
2012年3月
2012年2月
2012年1月
2011年12月
2011年11月
2011年10月
2011年9月
2011年8月
2011年7月
2011年6月
2011年5月
2011年4月
2011年3月
カテゴリーアーカイブ
アジア事情 (34)
カンボジア (27)
スイス (27)
スポーツと社会 (141)
ネパール (26)
国際事情(欧州を除く) (237)
大震災/原発事故と日本 (30)
御挨拶 (15)
日本政治 (129)
日本社会 (309)
映画で観る世界と社会 (352)
欧州事情 (100)
留学生日記 (95)
英国 (100)

ページトップへ

カレンダー
<< 2015年04月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
最新記事
誰がハーヴィー・ミルクを殺したのか?: 映画『ミルク』が描く1970年代の米国社会
北方領土2島返還は「国のかたち」を大きく変化させるのでは?
善き市民でさえ、ある日、突然落ちていく: 映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』が社会に問うこと
革新的保守、ブログ、サザン、阪神、尼崎、そして酒
ブログ終了前のご挨拶
最新コメント
武蔵は春田に言います...
Posted by S
はじめまして、書き込...
Posted by たか
あなたもまだお若い。...
Posted by 葵東
青春時代に見て感動し...
Posted by 小林 千三
私は韓国に住んでいま...
Posted by 七色無職
最新トラックバック
この社会での性的魅力
from 哲学はなぜ間違うのか
ひとつ/長渕剛(Cover)
from 今日の天草