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グローバル化は足元からやってくる ~国際学で切り取る世界と社会~

2012年2月26日

2012年2月26日 00:00

誰もが大学に学べる夢(2):「一国エリート主義」と「階層的エリート主義」

2010年5月に成立しました英国保守党のディヴィッド・キャメロン政権(自民党との連立)は、前政権の労働党が導入した「チャイルド・トラスト・ファンド」を廃止し、代わりに「ジュニアISA」(Junior Individual Savings Account)という名称の非課税口座制度を導入しました。

英国で生まれた全児童を対象にし、将来の大学等の教育費捻出を念頭においた18歳まで使えない非課税口座である点など、基本的に「チャイルド・トラスト・ファンド」を踏襲していますが、国家からの補助が全くないところが大きな違いです。また、(それ故に)選択制です。

つまり、最初の段階において自己資金があれば、子供の将来のために備えることが可能なのですが、無ければ「口座を開かない選択」を余儀なくされます。この「ジュニアISA」は、必ずしも貧困層の児童救済を目的にしておらず、大幅な進学率の上昇はないように思われます。

このようにして、労働党の「チャイルド・トラスト・ファンド」による若者の「皆大学生」のプロジェクトは頓挫しました。

それでも、貧富の差に関係なく子供たちに大学進学の道を拓こうという試みは着目すべきであります(英国労働党のフェビアン主義的伝統でもあるかもしれませんが)。グローバル化が更に進む今日、大学学部レベルの教育が、かつての中学、高校同様、あらゆる職業に就くために必要な「基礎的な教養」となるという認識は間違っていなかったように思えます。

グローバル化の中で、先進国の一般国民に求められる知識や教養は非常に高くなっています。今や「超/長高学歴社会」となっているのです(日本は例外的に乗り遅れていますが)。問題は、高学歴社会が国内で「格差」を作り出していることです。

その対策として(国民の多くが高学歴化すれば国が豊かになると信じる)国家(政府)が大学進学率を上げて高学歴化に平等性を求めようとすると、それには巨額な予算が必要なのです。周知の通り、先進国は何よりも「ギリシャ化」を避けなければならず、財政赤字を増やせません。

つまり、先進諸国の中でもより豊かで、税収が安定している超先進国だけが、多くの国民に高い教育を提供できることになります(そして、おそらく、その国は国際競争力を増していくのでしょう)。この場合は、国単位では「成功」なのですが、世界的に考察すれば「一国エリート主義」的な問題は残されます。

ある特定の非常に豊かな先進国のみが、国民の全体的な高学歴化(「一国エリート主義」)に成功すると、今度は、その国民と他国(特に途上国)との社会的、経済的「格差」が浮き上がってしまうのではないでしょうか。

しかし、現実的にはそのような豊かな国はそれ程、存在しません。少なくとも英国では、国民の大部分を大学学部に進学させるという計画は財政的に難しかったと言わざるを得ないのです。

結局、財政的な理由によって、国民の一部だけでも(もしくは、貧困層を除いた国民だけでも)高学歴化するという選択になった時、今度は、一国内における「格差社会」が容認され、国内のある層に限られた「階層的エリート主義」となります。

この「階層的エリート主義」は同時に、国家を超えた「国際エリート主義」にもなり得ます。

以前、トロント大学教授のリチャード・フロリダが記しました「クリエイティブ・クラス論」をご紹介しましたが、それぞれの国家(大都市)のエリートは「同質化」するという見方になれば、世界は世界中の大都市に住み、高い教育を受けた1億から1億5千万人のクリエイティブ・クラスが動かしている、というような認識に繋がります(R.フロリダ著『クリエイティブ・クラスの世紀』2007年)。

どちらも「エリート主義」には他なりません(もちろん、オールorナッシングではありませんので、中間的な方向性もあるでしょう)。そして、「一国エリート主義」も「階層的エリート主義」も問題があります。

しかしながら、否定できない出発点としては、グローバル化の中で、世界に溢れる情報を分析する知識、教養が求められており、特に先進国では産業のクリエイティブ化、付加価値化が主張されており、今に生きる人々にとって教育の有無が非常に重要であるという現実です(暫くは安価な労働力で薄利多売ビジネスができる途上国も、いずれは直面しなくてはいけない課題です)。

残念ながら、現代人は、どういう形にせよ学び続けなければならないようです。

プロフィール
安井裕司
安井裕司
エジンバラ大学、バーミンガム大学博士課程に学ぶ。その間、ルーマニア・アカデミー歴史学研究所研究生。国際政治学博士(PhD)。国連大学国際紛争研究所インターン、夏期講習クラスコーディネーター、法政大学国際日本学研究所客員研究員等を経て、現在、早稲田大学エクステンションセンター講師、日本経済大学神戸三宮キャンパス教授。
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